青カビが変えた医学の歴史―ペニシリンとFlemingから始める「人物×業績」の整理術
第108回医師国家試験 H問題 第11問
国試問題にチャレンジ
医学の歴史的発見と発見者名の組合せで正しいのはどれか。
- a.通仙散 ―― 貝原益軒
- b.体外受精 ―― Edward Jenner
- c.ワクチン ―― Barry Marshall
- d.ペニシリン ―― Alexander Fleming
- e.Helicobacter pylori ―― Robert Edwards
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ペニシリンは1928年にAlexander Flemingが青カビから発見した最初の抗生物質で、のちにFloreyとChainが精製・実用化し、3人は1945年にノーベル賞を受賞しました。本問では、種痘(ワクチン)のEdward Jenner、Helicobacter pyloriのBarry MarshallとRobin Warren、体外受精のRobert Edwardsの業績が入れ替えられており、通仙散も貝原益軒(『養生訓』)ではなく華岡青洲の業績です。北里柴三郎、志賀潔、秦佐八郎など日本人の業績も含め、人物と代表的業績を一対一で確実に結びつけておくことが、組合せ問題で迷わないコツです。医学史を知ることは、現在の感染症診療や予防医学がどのような発見の積み重ねで成り立っているかを理解する助けにもなります。
解答・解説
正解はdです
医学史上の重要な発見と、その発見者を正しく結びつけられるかを問う問題である。選択肢に登場する人物と業績を整理すると、次のようになる。 通仙散(全身麻酔薬):華岡青洲 体外受精:Robert Edwards(Patrick Steptoeとともに成功) ワクチン(種痘):Edward Jenner ペニシリン:Alexander Fleming Helicobacter pylori:Barry MarshallとRobin Warren 貝原益軒:『養生訓』の著者 選択肢b、c、eは、Jenner、Marshall、Edwardsの3人の業績をずらして組み合わせたもので、人物名そのものは本来の業績を持つ人物である。各人物の代表的な業績を一つずつ確実に覚えておけば、組合せの入れ替えに惑わされずに正解を選べる。正しい組合せはペニシリンとFlemingである。
選択肢考察
- ×a. 通仙散 ―― 貝原益軒
通仙散(別名:麻沸散)は、江戸時代後期の外科医である華岡青洲が開発した経口の全身麻酔薬である。チョウセンアサガオ(曼陀羅華)を主成分とし、トリカブトなどを配合したもので、青洲は1804年にこれを用いて乳癌の摘出手術に成功した。これは記録に残る全身麻酔下の手術として世界的にも早い例である。貝原益軒は江戸時代前期の儒学者・本草学者で、健康を保つ生活の心得を説いた『養生訓』や、動植物・鉱物を解説した『大和本草』の著者であり、通仙散とは関係がない。
- ×b. 体外受精 ―― Edward Jenner
体外受精(IVF:in vitro fertilization)で初めて子どもを誕生させたのは、英国の生理学者Robert Edwardsと産婦人科医Patrick Steptoeである。1978年に世界初の体外受精児ルイーズ・ブラウンが誕生し、Edwardsはこの業績で2010年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。Edward Jennerは18世紀末に牛痘接種による天然痘予防法(種痘)を確立した英国の医師であり、体外受精とは無関係である。
- ×c. ワクチン ―― Barry Marshall
ワクチンの始まりは、Edward Jennerが1796年に行った牛痘接種による天然痘の予防(種痘)である。牛痘にかかった人は天然痘にかからないという言い伝えに注目し、少年に牛痘を接種した後に天然痘を接種しても発症しないことを示した。「ワクチン」という名称は、後にPasteurがJennerの業績をたたえ、ラテン語で雌牛を意味するvaccaにちなんで名づけたものである。Barry Marshallは、Helicobacter pyloriの発見者の一人であり、ワクチンとは関係がない。
- ○d. ペニシリン ―― Alexander Fleming
英国の細菌学者Alexander Flemingは、1928年、ブドウ球菌を培養していた寒天培地に青カビ(Penicillium属)が混入し、その周囲で菌の発育が抑えられていることに気づいた。カビが産生する抗菌物質をペニシリンと名づけ、これが微生物由来の抗菌物質、すなわち抗生物質の最初の発見となった。その後、Howard FloreyとErnst Chainがペニシリンの精製と大量生産、臨床応用に成功し、第二次世界大戦中に多くの感染症患者の命を救った。3人は1945年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞している。組合せとして正しい。
- ×e. Helicobacter pylori ―― Robert Edwards
胃の中にらせん状の細菌が存在することは19世紀から報告されていたが、胃酸の強い環境で細菌は生存できないと考えられ、重視されていなかった。オーストラリアの病理医Robin Warrenと内科医Barry Marshallは、1982年にこの菌の分離培養に成功し、胃炎や消化性潰瘍の原因となることを示した。Marshallは自ら菌を飲んで急性胃炎を起こすことで病原性を証明したことでも知られる。2人は2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。Robert Edwardsは体外受精の開発者であり、Helicobacter pyloriとは関係がない。
海外の主な医学史上の業績
Edward Jenner:種痘(1796年) Louis Pasteur:狂犬病ワクチン、低温殺菌法 Robert Koch:結核菌(1882年)・コレラ菌の発見、Kochの4原則 Wilhelm Röntgen:X線の発見(1895年) Alexander Fleming:ペニシリン(1928年) Selman Waksman:ストレプトマイシン(結核治療に有効な最初の抗生物質) James WatsonとFrancis Crick:DNAの二重らせん構造(1953年) Robert Edwards:体外受精(1978年に初の体外受精児誕生) Barry MarshallとRobin Warren:Helicobacter pylori(1982年に分離培養)
日本の主な医学史上の業績
貝原益軒:『養生訓』 杉田玄白・前野良沢:『解体新書』(1774年、オランダ語の解剖書を翻訳) 華岡青洲:通仙散による全身麻酔下の乳癌手術(1804年) 北里柴三郎:破傷風菌の純粋培養、血清療法(Behringと共同) 志賀潔:赤痢菌の発見 秦佐八郎:サルバルサン(梅毒治療薬、Ehrlichと共同) 野口英世:進行麻痺患者の脳から梅毒トレポネーマを証明 山極勝三郎:コールタールによる人工癌の作製
抗生物質と合成抗菌薬
抗生物質は本来、微生物が産生し他の微生物の発育を抑える物質を指す。ペニシリンはその最初の例である。一方、サルファ剤(Domagkによるプロントジル)やキノロン系薬は化学合成された抗菌薬であり、狭義の抗生物質とは区別される。
POINT
・ペニシリン=Alexander Fleming(1928年、青カビから発見)、実用化はFloreyとChain。 ・ワクチン(種痘)=Edward Jenner、体外受精=Robert Edwards、Helicobacter pylori=Barry MarshallとRobin Warren。 ・通仙散=華岡青洲(1804年の全身麻酔下乳癌手術)、貝原益軒=『養生訓』。
