StudyMed医師国家試験

青カビが変えた医学の歴史―ペニシリンとFlemingから始める「人物×業績」の整理術

第108回医師国家試験 H問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第11問

医学の歴史的発見と発見者名の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.通仙散 ―― 貝原益軒
  2. b.体外受精 ―― Edward Jenner
  3. c.ワクチン ―― Barry Marshall
  4. d.ペニシリン ―― Alexander Fleming
  5. e.Helicobacter pylori ―― Robert Edwards

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医学史の問題だ。人物名も業績も、それぞれは有名なものばかり。ただし組合せが巧妙に入れ替えられているから、「この人といえばこれ」という対応を一つずつ確実に押さえているかが試されるよ。
医学生医学生
正直、医学史は医学概論の講義で一度聞いたきりで、名前は知っていてもあやふやです……。
ドクタードクター
大丈夫、ここで整理しよう。まずは日本の人物から。通仙散と聞いて何を思い浮かべる?
医学生医学生
全身麻酔薬ですよね。開発したのは……貝原益軒ではなかった気がします。
ドクタードクター
その通り。通仙散、別名麻沸散を開発したのは江戸時代後期の外科医、華岡青洲だ。チョウセンアサガオを主成分にした経口の全身麻酔薬で、1804年にこれを用いて乳癌の摘出手術に成功した。記録に残る全身麻酔下の手術としては世界的にも早い例なんだ。
医学生医学生
では貝原益軒は何をした人でしたっけ。
ドクタードクター
江戸時代前期の儒学者・本草学者で、健康に暮らすための心得を説いた『養生訓』の著者だよ。麻酔とは関係がない。次に海外の人物を見ていこう。Edward Jennerは?
医学生医学生
種痘ですね。微生物学の講義で、牛痘を接種して天然痘を予防したと習いました。だから体外受精とは結びつきません。
ドクタードクター
よく覚えているね。1796年、牛痘にかかった人は天然痘にかからないという言い伝えに着目して、牛痘接種で天然痘を防げることを示した。これがワクチンの始まりで、のちにPasteurがJennerをたたえ、ラテン語で雌牛を意味するvaccaにちなんでワクチンと名づけたんだ。
医学生医学生
つまりワクチンの人はJennerであって、Barry Marshallではないということですね。Marshallは確かピロリ菌の……。
ドクタードクター
そう。Barry MarshallはRobin Warrenとともに、1982年にHelicobacter pyloriの分離培養に成功し、胃炎や消化性潰瘍の原因であることを示した。当時は胃酸の中で細菌は生きられないと考えられていたから、画期的な発見だった。Marshallが自分で菌を飲んで急性胃炎を起こし、病原性を証明した話は有名だよ。2005年にノーベル賞を受けている。
医学生医学生
消化器内科の実習で、除菌療法の説明のときに指導医の先生がその話をしてくれました。そうすると、Robert Edwardsがピロリ菌というのも入れ替えですね。
ドクタードクター
その通り。Robert Edwardsは産婦人科医Patrick Steptoeと協力して体外受精を実現し、1978年に世界初の体外受精児が誕生した。この業績で2010年にノーベル賞を受けている。こうして見ると、Jenner、Marshall、Edwardsの3人の業績がぐるっとずらされているのがわかるね。
医学生医学生
なるほど。そうすると残ったペニシリンとAlexander Flemingが正しい組合せですね。
ドクタードクター
正解。1928年、Flemingはブドウ球菌の培養皿に青カビが混入し、その周囲だけ菌が育っていないことに気づいた。カビが出す抗菌物質をペニシリンと名づけ、これが最初の抗生物質の発見になった。
医学生医学生
偶然の発見だったんですね。でも、Flemingがそのまま薬として使えるようにしたんですか。
ドクタードクター
そこは押さえておきたいポイントだ。実際に精製・大量生産して臨床応用に結びつけたのはHoward FloreyとErnst Chainで、第二次世界大戦中に多くの命を救った。3人は1945年にノーベル賞を共同受賞している。発見と実用化は別の人の力が必要だったわけだ。
医学生医学生
抗生物質と抗菌薬って同じ意味で使っていましたが、違いはありますか。
ドクタードクター
厳密には、抗生物質は微生物が産生して他の微生物の発育を抑える物質のことで、ペニシリンがその代表だ。Domagkのプロントジルに始まるサルファ剤やキノロン系薬のような化学合成品は、狭義の抗生物質とは区別される。ついでに日本人の業績も整理しておくと、北里柴三郎の破傷風菌純粋培養と血清療法、志賀潔の赤痢菌、秦佐八郎のサルバルサン、杉田玄白・前野良沢の『解体新書』あたりは頻出だね。
医学生医学生
人物ごとに代表的な業績を一つずつセットで覚えておけば、入れ替えにも惑わされないということですね。
ドクタードクター
そういうこと。医学史は単なる暗記に見えるけれど、感染症の原因が一つずつ解き明かされ、治療や予防の手段が生まれてきた流れを知ると、今の診療がどんな積み重ねの上にあるかが実感できる。臨床でペニシリンを処方するときにも、少し思い出してみてほしい。

まとめ

ペニシリンは1928年にAlexander Flemingが青カビから発見した最初の抗生物質で、のちにFloreyとChainが精製・実用化し、3人は1945年にノーベル賞を受賞しました。本問では、種痘(ワクチン)のEdward Jenner、Helicobacter pyloriのBarry MarshallとRobin Warren、体外受精のRobert Edwardsの業績が入れ替えられており、通仙散も貝原益軒(『養生訓』)ではなく華岡青洲の業績です。北里柴三郎、志賀潔、秦佐八郎など日本人の業績も含め、人物と代表的業績を一対一で確実に結びつけておくことが、組合せ問題で迷わないコツです。医学史を知ることは、現在の感染症診療や予防医学がどのような発見の積み重ねで成り立っているかを理解する助けにもなります。

解答・解説

正解はdです

医学史上の重要な発見と、その発見者を正しく結びつけられるかを問う問題である。選択肢に登場する人物と業績を整理すると、次のようになる。 通仙散(全身麻酔薬):華岡青洲 体外受精:Robert Edwards(Patrick Steptoeとともに成功) ワクチン(種痘):Edward Jenner ペニシリン:Alexander Fleming Helicobacter pylori:Barry MarshallとRobin Warren 貝原益軒:『養生訓』の著者 選択肢b、c、eは、Jenner、Marshall、Edwardsの3人の業績をずらして組み合わせたもので、人物名そのものは本来の業績を持つ人物である。各人物の代表的な業績を一つずつ確実に覚えておけば、組合せの入れ替えに惑わされずに正解を選べる。正しい組合せはペニシリンとFlemingである。

選択肢考察

  1. ×a.  通仙散 ―― 貝原益軒

    通仙散(別名:麻沸散)は、江戸時代後期の外科医である華岡青洲が開発した経口の全身麻酔薬である。チョウセンアサガオ(曼陀羅華)を主成分とし、トリカブトなどを配合したもので、青洲は1804年にこれを用いて乳癌の摘出手術に成功した。これは記録に残る全身麻酔下の手術として世界的にも早い例である。貝原益軒は江戸時代前期の儒学者・本草学者で、健康を保つ生活の心得を説いた『養生訓』や、動植物・鉱物を解説した『大和本草』の著者であり、通仙散とは関係がない。

  2. ×b.  体外受精 ―― Edward Jenner

    体外受精(IVF:in vitro fertilization)で初めて子どもを誕生させたのは、英国の生理学者Robert Edwardsと産婦人科医Patrick Steptoeである。1978年に世界初の体外受精児ルイーズ・ブラウンが誕生し、Edwardsはこの業績で2010年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。Edward Jennerは18世紀末に牛痘接種による天然痘予防法(種痘)を確立した英国の医師であり、体外受精とは無関係である。

  3. ×c.  ワクチン ―― Barry Marshall

    ワクチンの始まりは、Edward Jennerが1796年に行った牛痘接種による天然痘の予防(種痘)である。牛痘にかかった人は天然痘にかからないという言い伝えに注目し、少年に牛痘を接種した後に天然痘を接種しても発症しないことを示した。「ワクチン」という名称は、後にPasteurがJennerの業績をたたえ、ラテン語で雌牛を意味するvaccaにちなんで名づけたものである。Barry Marshallは、Helicobacter pyloriの発見者の一人であり、ワクチンとは関係がない。

  4. ○d.  ペニシリン ―― Alexander Fleming

    英国の細菌学者Alexander Flemingは、1928年、ブドウ球菌を培養していた寒天培地に青カビ(Penicillium属)が混入し、その周囲で菌の発育が抑えられていることに気づいた。カビが産生する抗菌物質をペニシリンと名づけ、これが微生物由来の抗菌物質、すなわち抗生物質の最初の発見となった。その後、Howard FloreyとErnst Chainがペニシリンの精製と大量生産、臨床応用に成功し、第二次世界大戦中に多くの感染症患者の命を救った。3人は1945年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞している。組合せとして正しい。

  5. ×e.  Helicobacter pylori ―― Robert Edwards

    胃の中にらせん状の細菌が存在することは19世紀から報告されていたが、胃酸の強い環境で細菌は生存できないと考えられ、重視されていなかった。オーストラリアの病理医Robin Warrenと内科医Barry Marshallは、1982年にこの菌の分離培養に成功し、胃炎や消化性潰瘍の原因となることを示した。Marshallは自ら菌を飲んで急性胃炎を起こすことで病原性を証明したことでも知られる。2人は2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。Robert Edwardsは体外受精の開発者であり、Helicobacter pyloriとは関係がない。

海外の主な医学史上の業績

Edward Jenner:種痘(1796年) Louis Pasteur:狂犬病ワクチン、低温殺菌法 Robert Koch:結核菌(1882年)・コレラ菌の発見、Kochの4原則 Wilhelm Röntgen:X線の発見(1895年) Alexander Fleming:ペニシリン(1928年) Selman Waksman:ストレプトマイシン(結核治療に有効な最初の抗生物質) James WatsonとFrancis Crick:DNAの二重らせん構造(1953年) Robert Edwards:体外受精(1978年に初の体外受精児誕生) Barry MarshallとRobin Warren:Helicobacter pylori(1982年に分離培養)

日本の主な医学史上の業績

貝原益軒:『養生訓』 杉田玄白・前野良沢:『解体新書』(1774年、オランダ語の解剖書を翻訳) 華岡青洲:通仙散による全身麻酔下の乳癌手術(1804年) 北里柴三郎:破傷風菌の純粋培養、血清療法(Behringと共同) 志賀潔:赤痢菌の発見 秦佐八郎:サルバルサン(梅毒治療薬、Ehrlichと共同) 野口英世:進行麻痺患者の脳から梅毒トレポネーマを証明 山極勝三郎:コールタールによる人工癌の作製

抗生物質と合成抗菌薬

抗生物質は本来、微生物が産生し他の微生物の発育を抑える物質を指す。ペニシリンはその最初の例である。一方、サルファ剤(Domagkによるプロントジル)やキノロン系薬は化学合成された抗菌薬であり、狭義の抗生物質とは区別される。

POINT

・ペニシリン=Alexander Fleming(1928年、青カビから発見)、実用化はFloreyとChain。 ・ワクチン(種痘)=Edward Jenner、体外受精=Robert Edwards、Helicobacter pylori=Barry MarshallとRobin Warren。 ・通仙散=華岡青洲(1804年の全身麻酔下乳癌手術)、貝原益軒=『養生訓』。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。