ヘリは1機、傷病者は5人―「時間で救える命」を見極める多数傷病者トリアージ
第108回医師国家試験 G問題 第42問
国試問題にチャレンジ
乗用車とトラックとが衝突し5人が受傷した。搬送にはドクターヘリ1機,救急車1台,警察車両1台しか使えず,それぞれ現場で待機している。近くの救急医療機関は陸路で40分の距離にある。 ドクターヘリで搬送すべき患者はどれか。
- a.10歳の男児。前額部から出血があり大声で泣いている。
- b.20歳の女性。骨盤骨折がありショック状態で顔面蒼白である。
- c.30歳の男性。開放創はなく泥酔状態で暴れ抑え切れない。
- d.40歳の女性。右大腿骨骨折で痛がり手術が必要である。
- e.50歳の男性。頸部轢断で頭部が体幹から分離している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
傷病者の数に対して搬送手段や医療資源が足りない現場では、トリアージで優先順位を決め、限られた資源を「早く治療すれば救命できる最重症者」に集中させます。医師が同乗し搬送時間を大幅に短縮できるドクターヘリは、赤(最優先治療群)の傷病者に用いるのが原則で、ショックを伴う骨盤骨折は後腹膜への大量出血による出血性ショックのため最優先となります。大声で泣ける・激しく暴れられるのは気道・呼吸・循環・意識が保たれているサインであり、バイタルが安定した長管骨骨折は黄、頭部離断など明らかな死亡は黒と判断し、不穏で抑制できない傷病者はヘリ搬送に適しません。数値がなくても記載から生理学的な異常と救命可能性を読み取る力は、災害医療や救急外来での判断の基礎となります。
解答・解説
正解はbです
状況の整理
交通事故で5人が同時に受傷し、搬送手段はドクターヘリ1機、救急車1台、警察車両1台の3つに限られている。最寄りの救急医療機関までは陸路で40分かかる。傷病者の数に対して医療資源(人手・車両・病院の受け入れ能力)が足りない状況であり、限られた資源を最大限に生かすため、治療や搬送の優先順位を決めるトリアージが必要となる。
ドクターヘリの位置づけ
ドクターヘリは救急医と看護師が同乗する救急専用ヘリコプターで、現場で医師が診療を始められること、陸路より大幅に搬送時間を短縮できることが最大の利点である。したがって、1機しかないドクターヘリには「時間が生死を分け、早く根本的治療(手術や止血処置など)に到達すれば救命できる」傷病者、すなわちトリアージで赤(最優先治療群)に当たる傷病者を乗せるべきである。
各傷病者の評価の考え方
本問では歩行の可否や呼吸数・脈拍などの具体的な数値が示されていないため、START法(歩行・呼吸・循環・意識を順に確認する一次トリアージ法)をそのまま当てはめることはできない。そこで、記載された情報から「生命に直結する異常(気道・呼吸・循環・意識の異常)があるか」「救命の可能性があるか」を読み取って判断する。 ・大声で泣ける、激しく暴れられる → 気道は開通し、呼吸・循環・意識も保たれていると推定でき、直ちに生命の危険が迫っている状態ではない。 ・骨盤骨折でショック状態・顔面蒼白 → 大量出血による出血性ショックが強く疑われ、数十分の遅れが命取りになりうる。最優先の赤である。 ・頸部轢断で頭部が体幹から分離 → 明らかな死亡であり、救命の可能性はない(黒)。 以上より、ドクターヘリで搬送すべきはショック状態の骨盤骨折の女性である。
選択肢考察
- ×a. 10歳の男児。前額部から出血があり大声で泣いている。
誤り。大声で泣けるということは、気道が開通して呼吸が十分にでき、意識も保たれていることを示す。前額部(おでこ)は血流が豊富なため出血が目立ちやすいが、圧迫で止血できることが多い。頭部外傷として経過観察は必要だが、現時点で生命の危機が迫っているとはいえず、トリアージは緑〜黄に相当する。救急車など陸路での搬送で対応可能である。
- ○b. 20歳の女性。骨盤骨折がありショック状態で顔面蒼白である。
正しい。骨盤は血流の豊富な骨で、周囲に静脈叢や内腸骨動脈の枝が走るため、不安定型の骨盤骨折では後腹膜腔に大量の出血が起こり、出血性ショックに陥りやすい。顔面蒼白でショック状態にあることは、すでに循環血液量が大きく失われていることを示し、一刻も早く輸血や止血(経カテーテル動脈塞栓術〈TAE〉、創外固定、骨盤パッキングなど)を行わなければ救命できない。トリアージは赤(最優先治療群)であり、陸路40分を大幅に短縮でき、医師が機内で輸液などの処置を継続できるドクターヘリで搬送すべきである。
- ×c. 30歳の男性。開放創はなく泥酔状態で暴れ抑え切れない。
誤り。開放創がなく、抑え切れないほど激しく暴れられることから、気道・呼吸・循環は保たれ、四肢の麻痺もないと推定される。泥酔しているため頭部外傷などの見逃しには注意が必要だが、現時点で緊急度は高くない。さらに、暴れて制御できない傷病者は狭いヘリコプターの機内で安全を確保できず、飛行の安全を脅かすため、ドクターヘリでの搬送自体が適さない。
- ×d. 40歳の女性。右大腿骨骨折で痛がり手術が必要である。
誤り。大腿骨骨折は手術を要する重い外傷であり、骨折部から1L前後の出血を起こしうるため注意は必要である。しかし本例ではショックの記載がなく、痛みを訴えられることから意識や循環も保たれていると考えられる。バイタルサインが安定していれば数時間の待機が可能であり、トリアージは黄(待機的治療群)に当たる。ショック状態のbより優先度は低く、救急車での搬送が妥当である。
- ×e. 50歳の男性。頸部轢断で頭部が体幹から分離している。
誤り。頭部が体幹から完全に離断している状態は、明らかに死亡していると判断できる所見であり、救命の可能性はまったくない。トリアージは黒(死亡・救命不能群)であり、限られた搬送手段や医療資源を割り当てる対象にはならない。原則として現場から医療機関への搬送は行わない。
トリアージ区分(トリアージタッグの色)
・赤(区分Ⅰ、最優先治療群):生命に危険が迫っており、直ちに処置・搬送が必要な群。気道閉塞、呼吸困難、ショック、意識障害などを伴うもの。例として、大血管損傷、頭蓋内出血、頸髄損傷、血気胸、心タンポナーデ、フレイルチェスト(多発肋骨骨折)、胸部開放創、腹腔内出血、骨盤骨折、多発外傷、広範囲熱傷、気道熱傷、クラッシュ症候群(挫滅症候群)など。 ・黄(区分Ⅱ、待機的治療群):バイタルサインは安定しており、数時間の待機や処置の遅れが生命に影響しない群。胸髄以下の脊髄損傷、長管骨骨折、脱臼、中等度の熱傷など。 ・緑(区分Ⅲ、保留群):歩行可能な軽症者。専門医の治療を必要としない打撲、挫創、小さな骨折など。 ・黒(区分0、死亡・救命不能群):すでに死亡している、または現状では救命が不可能な群。気道を確保しても呼吸がないもの、頭部離断、脳脱出など。
START法(Simple Triage And Rapid Treatment)
多数傷病者の現場で、1人あたり短時間で行う一次トリアージ法である。 1. 歩ける → 緑 2. 呼吸がない → 気道を確保しても呼吸がなければ黒、呼吸が出現すれば赤 3. 呼吸数の著しい異常(おおむね30回/分以上の頻呼吸など)→ 赤 4. 橈骨動脈を触知しない、または毛細血管再充満時間(CRT:爪床を圧迫して離した後、色が戻るまでの時間)が2秒を超える → 赤 5. 簡単な指示に従えない → 赤 6. 上記いずれにも当てはまらない → 黄
ドクターヘリ
医師・看護師が搭乗し、現場や搬送途中から救命処置を開始できる。重症外傷、脳卒中、急性冠症候群など、治療開始までの時間が予後を左右する疾患で特に有効である。機内は狭く、処置や安全管理に制約があるため、不穏で制御できない傷病者の搬送には向かない。
骨盤骨折と出血性ショック
不安定型骨盤骨折では後腹膜腔に数リットル規模の出血が起こりうる。初期対応として輸液・輸血、シーツや骨盤固定具(ペルビックバインダー)による骨盤の簡易固定を行い、根本的止血として経カテーテル動脈塞栓術(TAE)、創外固定、後腹膜パッキングなどを行う。
POINT
・多数傷病者の現場では、トリアージで優先順位を決め、限られた資源を「救命可能な最重症者」に集中させる。 ・ドクターヘリは赤(最優先治療群)の傷病者に用いる。 ・骨盤骨折は後腹膜出血による出血性ショックを起こしやすく、ショックを伴えば赤。 ・大声で泣ける・激しく暴れられる → 気道・呼吸・循環・意識が保たれている。 ・バイタルが安定した長管骨骨折は黄、頭部離断など明らかな死亡は黒。 ・不穏で抑制できない傷病者はヘリ搬送に適さない。
