寝ても覚めても口が開いている6歳児―鼻の奥の「見えない扁桃」アデノイドを探せ
第108回医師国家試験 G問題 第41問
国試問題にチャレンジ
6歳の男児。いつも口を開けていることを主訴に母親に連れられて来院した。約半年前から,遊んでいても寝ていても口を開けており心配になって受診した。鼻漏,鼻出血はない。 最も考えられるのはどれか。
- a.鼻茸
- b.慢性扁桃炎
- c.悪性リンパ腫
- d.アデノイド増殖症
- e.若年性鼻咽腔血管線維腫
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
昼夜を問わない持続的な口呼吸は、両側の鼻呼吸が妨げられていることを示し、幼児では上咽頭の咽頭扁桃が肥大するアデノイド増殖症がまず考えられます。咽頭扁桃は4〜6歳に生理的肥大のピークを迎え、両側の後鼻孔を塞いで口呼吸、いびき・睡眠時無呼吸、閉鼻声、アデノイド顔貌をきたし、耳管の障害を介して滲出性中耳炎も合併しやすくなります。診断は上咽頭の内視鏡や側面X線で行い、症状が強ければアデノイド切除術を検討します。鼻漏を伴う鼻茸、咽頭痛・発熱を繰り返す慢性扁桃炎、思春期男子の片側鼻閉と反復性鼻出血を示す若年性鼻咽腔血管線維腫などとは、年齢・片側性か両側性か・随伴症状で鑑別できます。口からは見えない上咽頭を意識して鼻閉の原因を考える姿勢は、小児の睡眠時無呼吸や中耳炎の診療にも直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・6歳の男児 ・約半年前から、遊んでいるときも眠っているときも常に口を開けている → 昼夜を問わず口呼吸をしている状態が慢性的に続いている ・鼻漏(鼻水)や鼻出血はない
診断へのプロセス
人は通常、安静時には鼻で呼吸する。起きている間も寝ている間も口を開けているということは、鼻から咽頭へ抜ける空気の通り道が持続的に塞がれていることを意味する。しかも片側ではなく両側の鼻の通り道が塞がれていなければ、常時の口呼吸にはならない。 両側の鼻呼吸を一度に妨げる場所として重要なのが、左右の鼻腔が合流する後方の上咽頭(鼻咽腔)である。上咽頭の後上壁には咽頭扁桃(アデノイド)というリンパ組織があり、これが肥大すると両側の後鼻孔(鼻腔の後方の出口)がまとめて塞がれる。咽頭扁桃は幼児期に生理的に大きくなり、4〜6歳ごろに最大となるため、本児の年齢はちょうど好発時期に当たる。 一方、鼻漏がないことから副鼻腔炎やそれに伴う鼻茸(鼻ポリープ)は考えにくく、鼻出血がないことから易出血性の腫瘍である若年性鼻咽腔血管線維腫も考えにくい。半年という経過で全身症状や頸部腫瘤の記載もなく、悪性腫瘍を積極的に疑う所見もない。 以上より、アデノイド増殖症が最も考えられる。確定には、内視鏡(ファイバースコープ)による上咽頭の観察や、上咽頭の側面単純X線写真で気道の狭小化を確認する。
選択肢考察
- ×a. 鼻茸
誤り。鼻茸は慢性副鼻腔炎やアレルギー性の炎症を背景に生じる、鼻腔・副鼻腔粘膜の浮腫状のポリープで、成人に多く小児ではまれである。多くは鼻漏や嗅覚障害を伴い、本例のように鼻漏がない点と合わない。小児にみられる例外として上顎洞性後鼻孔ポリープがあるが、通常は片側性であり、両側の鼻閉による常時の口呼吸とは結びつきにくい。
- ×b. 慢性扁桃炎
誤り。慢性扁桃炎は口蓋扁桃に炎症が持続・反復する病態で、咽頭痛や発熱を繰り返すことが主な症状である。口蓋扁桃は口の奥(中咽頭)にあり、鼻腔から咽頭への通り道は塞がないため、鼻閉を起こして常に口を開けているという症状の原因にはならない。なお、口蓋扁桃が著しく肥大すると睡眠時のいびきや無呼吸の原因になりうるが、それは炎症の問題ではなく肥大の問題であり、昼間に遊んでいる間も口を開けているという鼻閉の症状を説明するものではない。
- ×c. 悪性リンパ腫
誤り。頭頸部の悪性リンパ腫は口蓋扁桃などのワルダイエル咽頭輪(咽頭を取り囲むリンパ組織の輪)に好発するが、主に中高年に多く、6歳の小児ではまれである。また片側の扁桃腫大として現れることが多く、発熱・体重減少・頸部リンパ節腫脹などの記載もない本例とは合わない。
- ○d. アデノイド増殖症
正しい。アデノイドとは上咽頭にある咽頭扁桃のことで、幼児期に生理的に肥大し4〜6歳でピークとなる。これが過度に大きくなると両側の後鼻孔が塞がれ、鼻呼吸ができなくなって昼夜を問わず口呼吸となる。6歳という好発年齢、半年に及ぶ持続的な開口・口呼吸、鼻漏や鼻出血を伴わない点が、いずれもアデノイド増殖症に合致する。
- ×e. 若年性鼻咽腔血管線維腫
誤り。若年性鼻咽腔血管線維腫は上咽頭〜鼻腔後部に発生する血管に富む良性腫瘍で、ほぼ思春期の男子(10歳代)に限ってみられる。主な症状は片側性の鼻閉と反復する大量の鼻出血である。6歳という年齢、鼻出血がない点で本例には当てはまらない。血管が豊富なため、生検で大出血を起こす危険がある点も重要である。
アデノイド(咽頭扁桃)とワルダイエル咽頭輪
咽頭の入口を取り囲むリンパ組織をワルダイエル咽頭輪といい、咽頭扁桃(アデノイド、上咽頭後上壁)、耳管扁桃(耳管開口部周囲)、口蓋扁桃(いわゆる扁桃腺、中咽頭側壁)、舌扁桃(舌根部)からなる。これらは幼少期に生理的に大きくなり、咽頭扁桃は4〜6歳、口蓋扁桃は5〜7歳ごろが最大で、その後は徐々に縮小する。
アデノイド増殖症による症状
・鼻閉症状:常時の口呼吸、閉鼻声(鼻がつまったような声)、いびき、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)。睡眠が障害されると、日中の眠気、集中力の低下、夜尿、成長障害などにつながることがある。 ・耳の症状:上咽頭の側壁にある耳管咽頭口が圧迫されたり炎症が及んだりして耳管の機能が悪くなり、滲出性中耳炎を起こす。アデノイドが細菌の温床となって急性中耳炎を繰り返すこともある。 ・アデノイド顔貌:長期間の口呼吸により、口唇が開いたままで上顎が狭く前に出る、鼻唇溝が浅い、ぼんやりした表情などの特徴的な顔つきとなる。 ・副鼻腔炎を合併することもある。
診断
上咽頭の内視鏡(ファイバースコープ)検査、上咽頭側面単純X線写真(アデノイドの陰影と気道の狭小化を評価)。
治療
軽症は年齢とともに自然に縮小するため経過観察とする。睡眠時無呼吸、難治性・反復性の中耳炎(特に滲出性中耳炎)、顎顔面の発育への影響などがある場合にはアデノイド切除術を行う。睡眠時無呼吸では口蓋扁桃摘出術を併せて行うことも多い。
小児の鼻閉・上咽頭病変の鑑別の手がかり
・両側性の鼻閉:アデノイド増殖症、アレルギー性鼻炎 ・片側性の鼻閉:鼻腔異物(悪臭のある片側性鼻漏を伴う)、後鼻孔ポリープ、後鼻孔閉鎖症(片側例) ・思春期男子の片側鼻閉と反復性鼻出血:若年性鼻咽腔血管線維腫
POINT
・アデノイド=咽頭扁桃(上咽頭)で、4〜6歳に生理的肥大のピークを迎える。 ・両側の後鼻孔が塞がれ、常時の口呼吸、いびき・睡眠時無呼吸、閉鼻声、アデノイド顔貌をきたす。 ・耳管の障害を介して滲出性中耳炎を合併しやすい。 ・診断は上咽頭内視鏡と上咽頭側面X線、治療は必要に応じてアデノイド切除術。 ・若年性鼻咽腔血管線維腫は思春期男子の片側鼻閉と反復する鼻出血が特徴。
