途上国が本当に必要としたもの―ミレニアム開発目標に「高度医療」がない理由
第108回医師国家試験 G問題 第4問
国試問題にチャレンジ
国連ミレニアム開発目標〈MDG〉に含まれないのはどれか。
- a.初等教育の普及
- b.高度医療の推進
- c.極度の貧困の撲滅
- d.乳幼児死亡率の削減
- e.HIV/エイズの蔓延防止
対話形式の解説
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ドクターまとめ
国連ミレニアム開発目標(MDGs)は、2000年の国連ミレニアム・サミットを契機に策定された2015年期限の8つの目標で、主に開発途上国の貧困と基本的ニーズの充足を目的としていました。極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の普及、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康改善、HIV/エイズ・マラリアなどの蔓延防止などが含まれますが、高度医療の推進は含まれません。基礎的な保健サービスが届かない地域では、予防接種や母子保健、感染症対策といったプライマリ・ヘルス・ケアが優先されるためです。MDGsは2015年に終了し、すべての国を対象に「誰一人取り残さない」を掲げるSDGs(17目標、2030年期限)へ引き継がれ、保健分野は目標3としてユニバーサル・ヘルス・カバレッジなども含むようになりました。国際保健の目標が何を優先してきたかを理解することは、限られた資源で健康を守る公衆衛生の考え方を身につけることにつながります。
解答・解説
正解はbです
国連ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)は、2000年9月にニューヨークで開かれた国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」と、1990年代の主要な国際会議・サミットで合意された開発目標とを一つの枠組みにまとめたものである。2015年を達成期限とし、8つの目標(ゴール)と、その下に具体的な数値ターゲットが設定された。 MDGsの性格を一言でいえば「開発途上国の貧困とそれに伴う基本的な人間のニーズ(食料・教育・母子の命・感染症対策・安全な水など)を満たすための目標」である。したがって、選択肢を判断する際は「途上国の最低限の生活・健康水準を底上げする内容か」という観点で見るとよい。初等教育、貧困・飢餓、子どもの死亡、HIV/エイズなどの感染症はいずれもこの観点に合致する。一方、先端的・高額な医療技術の普及は、基礎的な保健サービスすら行き届かない地域での優先課題ではなく、MDGsの目標には入っていない。 なお、MDGsは2015年で期限を迎え、同年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」(17目標・169ターゲット、2016〜2030年)に引き継がれている。現在の出題ではSDGsの内容が問われることが多いため、MDGsはSDGsの前身として位置づけを理解しておけば十分である。
選択肢考察
- ×a. 初等教育の普及
MDGsの目標2は「普遍的初等教育の達成」であり、2015年までにすべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにすることがターゲットとされた。教育は貧困からの脱出や保健知識の普及の基盤となるため、目標に含まれている。
- ○b. 高度医療の推進
MDGsの8目標のいずれにも該当しない。MDGsは途上国の極度の貧困や基本的な保健課題(子どもと妊産婦の死亡、主要感染症)への対策を柱としており、保健分野の目標も予防接種、母子保健、感染症対策といったプライマリ・ヘルス・ケアに近い基礎的な内容である。先端医療技術の推進は途上国支援として最初に取り組むべき課題とはいえず、目標には掲げられていない。したがって本肢が「含まれないもの」として正解である。
- ×c. 極度の貧困の撲滅
目標1は「極度の貧困と飢餓の撲滅」であり、MDGsの中心となる目標である。1990年から2015年までに、1日1ドル未満で生活する人の割合、および飢餓に苦しむ人の割合をそれぞれ半減させることがターゲットとされた。
- ×d. 乳幼児死亡率の削減
目標4は「幼児(乳幼児)死亡率の削減」であり、1990年から2015年までに5歳未満児死亡率を3分の2減少させることがターゲットとされた。麻疹予防接種の普及なども指標に含まれていた。
- ×e. HIV/エイズの蔓延防止
目標6は「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止」であり、2015年までにHIV/エイズの蔓延を阻止し、その後減少させることなどがターゲットとされた。三大感染症(HIV/エイズ、結核、マラリア)対策はMDGsの保健分野の柱の一つである。
MDGsの8つの目標
1. 極度の貧困と飢餓の撲滅 2. 普遍的初等教育の達成 3. ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 4. 幼児死亡率の削減 5. 妊産婦の健康の改善(妊産婦死亡率を1990〜2015年で4分の3減少) 6. HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 7. 環境の持続可能性の確保(安全な飲料水と基礎的な衛生施設を利用できない人の割合の半減など) 8. 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進 8目標のうち、保健に直接関わるのは目標4・5・6の3つであり、目標1(飢餓による栄養不良)や目標7(安全な水・衛生)も健康と深く関係する。
MDGsを受けた国際保健の動き
・2002年:世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が設立され、三大感染症対策の資金を担うようになった。 ・日本は2010年に、母子保健、三大感染症対策、公衆衛生上の緊急事態への対応を3本柱とする「国際保健政策2011-2015」を策定した。
SDGsへの移行
MDGsは一定の成果(極度の貧困人口の割合の半減など)を挙げた一方、妊産婦死亡の削減などは未達成であり、地域間格差も残った。これを受け、2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、SDGs(17目標・169ターゲット)が設定された。MDGsが主に途上国を対象としたのに対し、SDGsは先進国を含むすべての国を対象とし、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を理念とする。保健分野は目標3「すべての人に健康と福祉を」にまとめられ、妊産婦死亡・新生児死亡・5歳未満児死亡の削減、感染症対策、非感染性疾患対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:すべての人が必要な保健医療サービスを経済的困難なく受けられる状態)の達成などが含まれる。
POINT
・MDGsは2000年の国連ミレニアム・サミットを契機に策定された、2015年を期限とする8つの開発目標で、主に途上国の貧困対策を目的とする。 ・保健関連の目標は、幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ・マラリアなどの蔓延防止の3つ。 ・「高度医療の推進」は含まれない(途上国支援の基本は基礎的保健サービスの普及)。 ・MDGsは2015年に終了し、SDGs(17目標、2030年期限、全ての国が対象)に引き継がれた。
