「結果」から過去をさかのぼる研究―症例対照研究で求められないもの
第108回医師国家試験 G問題 第5問
国試問題にチャレンジ
症例対照研究について誤っているのはどれか。
- a.オッズ比が計算できる。
- b.観察研究に分類される。
- c.交絡因子を補正できる。
- d.想起バイアスの影響を受けやすい。
- e.罹患率を推計できる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
症例対照研究は、疾患の有無で症例群と対照群を設定し、過去の曝露状況を比較する後ろ向きの観察研究です。両群の人数を研究者が決め、集団を追跡もしないため罹患率は推計できず、相対危険度や寄与危険度も直接は求められません。関連の指標にはオッズ比(ad/bc)を用い、まれな疾患では相対危険度の近似となります。想起バイアスや選択バイアスを受けやすい一方、マッチングや層別解析・多変量解析で測定済みの交絡因子は補正でき、まれな疾患や潜伏期の長い疾患を短期間・低コストで調べられるのが利点です。コホート研究との対比で各デザインの得意・不得意を理解しておくことは、試験対策だけでなく臨床研究を批判的に読む力の土台になります。
解答・解説
正解はeです
症例対照研究(case-control study)は、ある疾患に罹患した人(症例群)と、罹患していない人(対照群)をまず選び、両群で過去の要因への曝露状況を比較して、要因と疾患との関連を調べる研究デザインである。「結果(疾患の有無)から出発して原因(曝露)を振り返る」ため、後ろ向き研究の代表とされる。研究者は曝露を割り付けないので、観察研究に分類される。 このデザインの長所と限界は、「症例群と対照群の人数を研究者が決めている」ことと「曝露情報を過去にさかのぼって集める」ことの2点から導ける。 ・人数を研究者が決めるため、研究対象集団における患者の割合は実際の集団の有病・罹患の状況を反映しない。そのため罹患率(一定期間内に新たに発症する割合)や、それに基づく相対危険度・寄与危険度は直接求められない。代わりに曝露のオッズの比(オッズ比)を関連の指標として用いる。 ・曝露情報を過去にさかのぼって集めるため、記憶の不正確さによる想起バイアスなどの情報バイアスが入りやすい。 一方、まれな疾患や潜伏期の長い疾患でも少ない対象者・短い期間・低い費用で実施できる点は大きな利点である。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であり、症例対照研究の性質として成り立たない記述を探せばよい。
選択肢考察
- ×a. オッズ比が計算できる。
正しい記述である。症例群と対照群それぞれについて「曝露あり/曝露なし」のオッズを求め、その比をとったものがオッズ比である。2×2表で症例群の曝露あり a・なし c、対照群の曝露あり b・なし d とすると、オッズ比=(a/c)÷(b/d)=ad/bc となる。疾患がまれな場合(罹患率が低い場合)には、オッズ比は相対危険度のよい近似値となる。
- ×b. 観察研究に分類される。
正しい記述である。研究者が曝露(治療・予防法など)を人為的に割り付ける研究が介入研究(ランダム化比較試験など)であり、既に存在する曝露と疾患の関係をありのままに調べるのが観察研究である。症例対照研究はコホート研究・横断研究と同様、介入を行わない分析疫学的な観察研究である。
- ×c. 交絡因子を補正できる。
正しい記述である。交絡因子とは、曝露と疾患の両方に関連し、見かけの関連を生じさせたり隠したりする第三の因子である(例:飲酒と肺癌の関連における喫煙)。症例対照研究はランダム化を行わないため交絡の影響を受けやすいが、デザイン段階でのマッチング(性・年齢などをそろえて対照を選ぶ)や制限、解析段階での層別解析(Mantel-Haenszel法など)や多変量解析(ロジスティック回帰分析)によって、測定されている交絡因子の影響を補正できる。ただし未測定の交絡因子は補正できない。
- ×d. 想起バイアスの影響を受けやすい。
正しい記述である。症例対照研究では、曝露の有無を面接や質問票で本人(あるいは家族)の記憶に頼って過去にさかのぼって調べることが多い。疾患に罹患した人は原因を探そうとして過去の出来事をよく思い出したり過大に報告したりする傾向がある一方、健康な対照群はそうした動機が乏しい。このように両群で記憶の正確さが系統的に異なることで生じる偏りを想起バイアス(思い出しバイアス)という。
- ○e. 罹患率を推計できる。
誤った記述であり、本問の正解である。症例対照研究では、症例群と対照群を研究者が任意の人数比(例えば1:2)で集めるため、研究内の患者の割合は母集団での発生頻度とは無関係に決まる。また、ある集団を時間を追って追跡するわけではないので、一定期間内の新規発症者数とその分母(観察人数・人年)も得られない。したがって罹患率は推計できず、罹患率の比である相対危険度や差である寄与危険度も直接は算出できない。罹患率を求めるには、曝露群・非曝露群を追跡するコホート研究が必要である。
症例対照研究とコホート研究の比較
・出発点:症例対照研究は「疾患の有無」、コホート研究は「曝露の有無」。 ・時間の方向:症例対照研究は過去にさかのぼる(後ろ向き)。コホート研究は通常、未来に向かって追跡する(前向き)。過去の記録を用いる後ろ向きコホート研究もある。 ・関連の指標:症例対照研究はオッズ比。コホート研究は罹患率を求められるため相対危険度(曝露群の罹患率÷非曝露群の罹患率)、寄与危険度(両者の差)を算出できる。 ・向いている疾患:症例対照研究はまれな疾患・潜伏期の長い疾患。コホート研究はまれな曝露の影響や、一つの曝露による複数の疾患の評価。 ・費用・期間:症例対照研究は安価・短期間。コホート研究は大規模・長期間になりやすく、追跡からの脱落も問題になる。 ・主なバイアス:症例対照研究は想起バイアス、対照の選び方による選択バイアス。コホート研究は追跡不能(脱落)によるバイアス。
オッズ比と相対危険度の関係
疾患の頻度が低い(おおむね10%未満)とき、2×2表の「曝露あり・発症なし」「曝露なし・発症なし」の数は各群の総数とほぼ等しくなるため、オッズ比は相対危険度に近似する。症例対照研究でオッズ比が重視されるのはこのためである。
エビデンスレベル
一般に、ランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタアナリシス>ランダム化比較試験>非ランダム化比較試験>コホート研究>症例対照研究>横断研究・症例報告の順に、因果関係を示すエビデンスとしての強さが高いとされる。
POINT
・症例対照研究は、疾患の有無で群を分けて過去の曝露を比較する後ろ向きの観察研究である。 ・関連の指標はオッズ比(ad/bc)。まれな疾患では相対危険度の近似値となる。 ・症例と対照の人数を研究者が決めるため、罹患率・相対危険度・寄与危険度は直接求められない。 ・想起バイアスや選択バイアスを受けやすい。交絡はマッチング・層別解析・多変量解析で補正できる。 ・まれな疾患、潜伏期の長い疾患の研究に適し、短期間・低コストで実施可能。
