StudyMed医師国家試験

「軽い肥満だから大丈夫」は大間違い―安全で続けられる運動指導の基本

第108回医師国家試験 G問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第108回 G問題 第6問

会社の健康診断で軽度の肥満を指摘された男性会社員に対する運動指導として適切なのはどれか。

  1. a.「十分なウォームアップをしましょう」
  2. b.「肥満が軽度なので運動は必要ないでしょう」
  3. c.「運動時の脈拍が80/分を超えないようにしてください」
  4. d.「運動時に気分が悪くなっても休憩しないで継続してください」
  5. e.「家事など日常生活活動は肥満の改善にそれほど重要ではありません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健康診断で軽い肥満を指摘された会社員への運動指導の問題だ。合併症や運動を制限すべき事情は書かれていないから、特別なリスクのない成人に一般的な運動指導をするとしたら、という視点で考えればいい。ポイントは「運動を勧めるべきか」と「どうすれば安全に続けられるか」の2つだ。
医学生医学生
軽度の肥満なら、まずは食事だけで様子を見てもいい気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、肥満の改善は食事で摂取エネルギーを調整し、身体活動で消費エネルギーを増やす、その組み合わせが基本なんだ。運動には減量効果を高めるだけでなく、減量中に落ちやすい筋肉量を保ち、インスリン抵抗性や血圧、脂質を改善する効果もある。
医学生医学生
なるほど。軽度のうちに放っておくと、内臓脂肪がたまってメタボリックシンドロームに進むかもしれないですね。
ドクタードクター
その通り。軽度の段階こそ生活習慣を見直す好機だ。だから「軽度なので運動は必要ない」という指導は不適切になる。では、適切な指導はどれだと思う?
医学生医学生
十分なウォームアップをしましょう、が正解だと思います。部活でも準備運動は必ずやらされました。
ドクタードクター
正解だ。ウォームアップで体温や筋温を上げ、筋・腱・関節の柔軟性を高めると、肉離れや捻挫を防ぎやすくなる。心拍数や血圧を段階的に上げることで、急な負荷による心血管系への負担も減らせる。普段運動していない肥満の人は膝や腰を痛めやすいから、特に大切なんだ。運動後のクールダウンもセットで勧めよう。
医学生医学生
脈拍を80/分以下に抑える、というのはかなり慎重な指導に見えますが、ダメなんですか。
ドクタードクター
80/分は安静時とほとんど変わらない値だから、それを守ると運動にならない。心疾患などのリスクがなければ、こんなに厳しく制限する必要はないんだ。脈拍を目安にするなら、推定最大心拍数(220−年齢)の60〜70%程度が中等度の運動の目安とされる。40歳なら110〜120/分前後だね。
医学生医学生
生理学の実習で運動負荷をかけたとき、軽く走るだけで心拍が120を超えたのを思い出しました。
ドクタードクター
良い実体験だ。ちなみにβ遮断薬を飲んでいる人は心拍数が上がりにくいので、心拍数での強度設定は当てにならない。その場合は「ややきつい」「会話ができる程度」といった自覚的な強度を目安にする。
医学生医学生
気分が悪くても休まず続ける、というのは明らかに危ないですよね。
ドクタードクター
そう。運動中の気分不良、胸痛、強い息切れ、めまい、冷汗、動悸は、狭心症や不整脈、熱中症、低血糖などの徴候かもしれない。すぐに中止して休み、改善しなければ受診するよう伝えるのが原則だ。体調の悪い日は最初から運動しないことも大切だね。
医学生医学生
家事は運動じゃないから、あまり減量には関係ないと思っていました。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところだ。1日のエネルギー消費には、家事や通勤時の歩行、階段昇降、立ち仕事などの生活活動がかなりの割合を占める。国の指針でも、運動と生活活動を合わせた身体活動量全体を増やし、座りっぱなしの時間を減らすことが勧められている。まとまった運動時間を取りにくい会社員には、特に現実的なアプローチだよ。
医学生医学生
エレベーターを階段に変えたり、一駅歩いたりするのも立派な対策なんですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識も押さえておこう。厚生労働省は以前「健康づくりのための身体活動基準2013」と「今より10分多く体を動かそう」を掲げたアクティブガイドを示していて、現在はそれを改訂した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」がある。成人では歩行かそれ以上の強度の身体活動を1日60分以上、息が弾む程度の運動を週60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日が目安とされている。
医学生医学生
メッツという単位もそこで使われていましたね。普通歩行が約3メッツでした。
ドクタードクター
よく覚えているね。臨床で指導するときは、数字を押しつけるより、その人の生活の中で続けられる工夫を一緒に考えることが大切だ。また、心疾患や重い合併症が疑われる人には、運動を始める前にメディカルチェックを行うことも忘れないようにしよう。

まとめ

軽度の肥満であっても、放置すれば内臓脂肪の蓄積から2型糖尿病や高血圧、脂質異常症へ進む可能性があるため、食事調整とあわせて身体活動を増やすよう積極的に勧めます。安全に続けるための基本は、運動前のウォームアップと運動後のクールダウン、そして気分不良や胸痛などの異常があれば直ちに中止することです。特別なリスクがなければ脈拍を80/分以下に抑える必要はなく、推定最大心拍数(220−年齢)の60〜70%程度や「ややきつい」と感じる程度が中等度運動の目安になります。また、家事や通勤などの生活活動も含めた身体活動量全体を増やし、座位時間を減らすことが国の指針でも重視されています。こうした原則を理解しておくことは、健診後の保健指導や外来での生活習慣病予防の実践に直結します。

解答・解説

正解はaです

対象は、職場の定期健康診断で「軽度の肥満」を指摘された男性会社員である。問題文には高血圧・糖尿病・心疾患などの合併症や運動を制限すべき事情は書かれていないため、特別なリスクのない成人に対する一般的な運動指導を考えればよい。 肥満の改善には、食事による摂取エネルギーの調整と、身体活動による消費エネルギーの増加を組み合わせることが基本である。運動には、減量効果を高める、減量時に起こりやすい筋肉量の減少を防ぐ、インスリン抵抗性・血圧・脂質異常を改善するといった利点がある。軽度の肥満の段階こそ生活習慣を見直す好機であり、運動をためらわせる理由はない。 安全面では、運動の前後にウォームアップとクールダウンを行うこと、体調不良時には無理をせず中止することが原則である。また、スポーツとしての運動だけでなく、通勤時の歩行、階段の利用、家事などの日常生活活動を含めた「身体活動量全体」を増やすことが重視されている。これらの原則に照らし、各選択肢の指導内容が適切かを判断する。

選択肢考察

  1. ○a.  「十分なウォームアップをしましょう」

    適切な指導である。ウォームアップ(準備運動)は、軽い有酸素運動やストレッチで体温と筋温を上げ、筋・腱・関節の柔軟性を高めるとともに、心拍数や血圧を段階的に上昇させる。これにより肉離れ・捻挫などの運動器の障害や、急な負荷による心血管系への負担を減らすことができる。特に普段運動習慣のない肥満者は、膝や腰に負担がかかりやすいため重要である。運動後には同様にクールダウン(整理運動)を行うことも勧められる。

  2. ×b.  「肥満が軽度なので運動は必要ないでしょう」

    不適切である。肥満は軽度であっても、放置すれば内臓脂肪の蓄積が進み、2型糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病やメタボリックシンドロームにつながる。軽度の段階から身体活動を増やすことで、減量効果の増強、減量に伴う筋肉量低下の予防、代謝指標の改善が期待でき、むしろ積極的に運動を勧めるべきである。

  3. ×c.  「運動時の脈拍が80/分を超えないようにしてください」

    不適切である。80/分は安静時心拍数とほぼ同程度であり、この制限を守ると有効な運動強度がほとんど得られない。心疾患や重い高血圧など特別なリスクがない人では、運動時の脈拍をこのように厳しく制限する必要はない。脈拍で運動強度を目安にする場合、年齢から推定した最大心拍数(220−年齢)の60〜70%程度が中等度の運動の目安とされ、例えば40歳なら約108〜126/分、70歳でも約90〜105/分となり、80/分を大きく上回る。

  4. ×d.  「運動時に気分が悪くなっても休憩しないで継続してください」

    不適切である。運動中の気分不良、胸痛・胸部圧迫感、強い息切れ、めまい、冷汗、動悸などは、狭心症・不整脈・熱中症・低血糖などの危険な状態の徴候である可能性がある。このような場合は直ちに運動を中止して休憩し、症状が改善しなければ医療機関を受診するよう指導するのが原則である。体調の悪い日は無理に運動しないことも併せて伝える。

  5. ×e.  「家事など日常生活活動は肥満の改善にそれほど重要ではありません」

    不適切である。エネルギー消費は意図的な運動だけでなく、家事、通勤時の歩行、階段昇降、立ち仕事などの日常生活活動によっても生じ、1日の総消費量に占める割合は大きい。国の身体活動指針でも、運動と日常生活活動を合わせた身体活動量全体を増やし、座りっぱなしの時間を減らすことが勧められている。まとまった運動時間を確保しにくい会社員にとって、日常生活活動を増やす工夫は特に重要である。

肥満の判定

日本肥満学会の基準では、BMI(体重kg÷身長mの2乗)25以上を肥満とし、25以上30未満を肥満1度、30以上35未満を肥満2度、35以上40未満を肥満3度、40以上を肥満4度とする。肥満に起因・関連する健康障害を合併するか、内臓脂肪の蓄積がある場合は「肥満症」として医学的な減量治療の対象となる。

身体活動に関する用語

・身体活動:安静時より多くのエネルギーを消費する骨格筋の活動全般。日常生活における労働・家事・通勤などの「生活活動」と、体力の維持・向上を目的に計画的・継続的に行う「運動」に分けられる。 ・メッツ(METs):活動時のエネルギー消費が安静座位時の何倍かを示す強度の単位。普通歩行は約3メッツ。「メッツ・時」はメッツに実施時間(時間)を掛けた身体活動量の単位である。

国の身体活動指針

厚生労働省は「健康づくりのための身体活動基準2013」とその普及用の「アクティブガイド」(「+10(プラス・テン):今より10分多く体を動かそう」)を示してきた。現在はこれを改訂した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が示されており、成人では、歩行またはそれと同等以上の強度の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当、週23メッツ・時以上)、息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上(週4メッツ・時以上)行うこと、筋力トレーニングを週2〜3日取り入れること、座りっぱなしの時間が長くなりすぎないようにすることが推奨されている。いずれも運動だけでなく生活活動を含めた身体活動全体として評価する点が特徴である。

運動強度の目安

・心拍数:推定最大心拍数(220−年齢)の60〜70%程度、あるいはKarvonen法(目標心拍数=(最大心拍数−安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数)で算出する。 ・自覚的運動強度:「ややきつい」と感じる程度、会話ができる程度の有酸素運動が、減量や生活習慣病予防の目安となる。 ・β遮断薬を内服している人では心拍数が上がりにくく、心拍数による強度設定は当てにならない。

運動指導の安全上の注意

・運動前後のウォームアップ・クールダウン ・体調不良時は運動しない、運動中に異常を感じたら中止する ・夏季の水分補給と熱中症予防、適切な靴・服装 ・心疾患や重い合併症が疑われる場合は、運動開始前にメディカルチェックを行う

POINT

・軽度肥満でも生活習慣病予防のため運動・身体活動の増加を積極的に勧める。 ・運動前のウォームアップ、運動後のクールダウンで障害を予防する。 ・体調不良時・運動中の異常時は直ちに中止する。 ・特別なリスクのない人で脈拍を80/分以下に制限する必要はない(中等度強度の目安は最大心拍数(220−年齢)の60〜70%)。 ・家事・通勤などの生活活動を含めた身体活動量全体を増やし、座位時間を減らすことが重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。