痛くない耳だれと穴のあいた鼓膜―慢性中耳炎は「気導骨導差」で語られる
第108回医師国家試験 E問題 第47問
国試問題にチャレンジ
47歳の女性。右耳漏を主訴に来院した。5年前から右耳の難聴を自覚しており,3か月前から時々耳漏が出るようになった。耳痛はない。右鼓膜の写真を別に示す。 検査所見として最も考えられるのはどれか。

- a.垂直性眼振
- b.右あぶみ骨筋反射陽性
- c.右ティンパノグラムC型
- d.温度眼振検査で右半規管麻痺
- e.純音聴力検査で右耳に気導骨導差あり
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
長期の難聴、痛みのない反復性の耳漏、鼓膜緊張部の穿孔がそろえば慢性化膿性中耳炎を考えます。鼓膜穿孔や耳小骨障害で中耳の音圧増幅(約27.5 dB)が損なわれるため、純音聴力検査では骨導が保たれ気導が低下する伝音難聴、すなわち気導骨導差を認めます。穿孔耳ではティンパノグラムは容積の大きい平坦なB型となり、あぶみ骨筋反射は記録できず、C型は鼓膜が保たれた耳管狭窄などの所見です。めまいがなければ半規管麻痺は考えにくく、垂直性眼振はむしろ中枢性病変を示唆します。病態から検査結果を予測する考え方は、聴覚・平衡機能検査全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・47歳の女性。5年前から右耳の難聴を自覚しており、長期間続く一側性の難聴である。 ・3か月前から時々耳漏が出るが、耳痛はない:痛みを伴わない間欠的な耳漏は、急性中耳炎(強い耳痛・発熱を伴う)ではなく、慢性の中耳炎症を示唆する。 ・めまいの訴えはない。 ・右鼓膜の写真では、鼓膜緊張部に穿孔を認める。
診断
長期の難聴、痛みのない反復性の耳漏、鼓膜緊張部の穿孔から、右慢性化膿性中耳炎と診断できる。
設問の考え方
慢性中耳炎では、鼓膜穿孔や耳小骨の障害によって、音を内耳へ伝える経路(伝音系)が損なわれる。したがって純音聴力検査では、骨導聴力(内耳の機能を反映)は比較的保たれ、気導聴力が低下する伝音難聴となり、両者の間に差(気導骨導差、air-bone gap)が生じる。 また、鼓膜に穴が開いていると、外耳道を密閉して圧を変化させるインピーダンスオージオメトリー(ティンパノメトリー、あぶみ骨筋反射検査)は正常な形では記録できない。さらに、めまいがなく内耳への炎症波及を示す所見もないため、眼振や半規管麻痺を想定する根拠はない。以上から、最も考えられる検査所見は「右耳の気導骨導差」である。
選択肢考察
- ×a. 垂直性眼振
垂直性眼振(上眼瞼向き・下眼瞼向き眼振)は、脳幹や小脳などの中枢性病変を示唆する所見であり、末梢性(内耳性)の障害ではほとんどみられない。本例はめまいの訴えもない。なお、慢性中耳炎の炎症が内耳に波及して内耳炎を起こした場合にはめまいと眼振が生じうるが、その場合の眼振は末梢性の特徴である水平性あるいは水平回旋混合性眼振であり、垂直性眼振ではない。
- ×b. 右あぶみ骨筋反射陽性
あぶみ骨筋反射は、大きな音刺激によってあぶみ骨筋が収縮し、鼓膜・耳小骨の動きやすさ(コンプライアンス)がわずかに変化するのを外耳道側から測定する検査である。測定には外耳道を密閉して鼓膜の動きを捉える必要があるため、鼓膜穿孔があると反射を記録できない(陽性とはならない)。また、中耳の伝音障害自体も反射の検出を妨げる。したがって、右あぶみ骨筋反射陽性は考えにくい。
- ×c. 右ティンパノグラムC型
ティンパノメトリーは外耳道の圧を変化させながら鼓膜の動きやすさを測定する検査で、C型はピークが陰圧側にずれた波形であり、鼓膜は保たれたまま中耳腔が陰圧になっている状態(耳管狭窄症など)を示す。本例のように鼓膜に穿孔があると、外耳道と中耳腔がつながって鼓膜のコンプライアンス変化を捉えられないため、ピークのない平坦な波形(B型)となり、外耳道と中耳腔を合わせた大きな容積が測定される。穿孔が大きい場合は外耳道の加圧自体が困難で、有効な測定ができないこともある。いずれにしてもC型にはならない。
- ×d. 温度眼振検査で右半規管麻痺
半規管麻痺(CP:canal paresis)は、温度刺激に対する外側半規管の反応が低下・消失した状態で、前庭神経炎や内耳炎、聴神経腫瘍などでみられる。慢性中耳炎でも炎症が内耳に強く波及すれば起こりうるが、その場合はめまいを伴い、聴力も高度の感音難聴あるいは聾に至ることが多い。本例はめまいの訴えがなく、内耳障害を示す所見もないため、半規管麻痺は考えにくい。なお、鼓膜穿孔がある耳では、水を用いた温度刺激検査は感染やめまいを誘発するおそれがあるため、空気刺激などで代用する。
- ○e. 純音聴力検査で右耳に気導骨導差あり
中耳の伝音系は、鼓膜の面積があぶみ骨底板(前庭窓)よりはるかに大きいことによる面積比の効果(約25 dB)と、耳小骨のてこ作用(約2.5 dB)によって、合計約27.5 dBの音圧増幅を行っている。鼓膜に穿孔があると、音を受ける有効面積が減り、また音が中耳腔へ直接入り込んで正円窓にも同時に届くことで、内耳への音の伝達効率が低下する。さらに慢性の炎症では耳小骨の連鎖が破壊・固着することもある。これらにより気導聴力が低下する一方、骨導聴力は内耳が保たれていれば正常に近いため、純音聴力検査で右耳に気導骨導差を認める伝音難聴となる。炎症が内耳に波及すると骨導閾値も上昇し、感音成分が加わった混合難聴となることがある。
慢性化膿性中耳炎の概要
・急性中耳炎の反復や遷延などを背景に、鼓膜穿孔が残り、中耳の炎症が慢性化した状態である。 ・症状:反復する耳漏(感染・上気道炎の際に増悪)、伝音難聴。耳痛は通常みられない。 ・鼓膜所見:主に緊張部の穿孔。弛緩部の陥凹や角化物(デブリ)の堆積がある場合は真珠腫性中耳炎を考える。 ・合併症:内耳炎(めまい、感音難聴)、顔面神経麻痺、頭蓋内合併症(髄膜炎、脳膿瘍など)。これらは真珠腫性中耳炎でより起こりやすい。 ・治療:耳漏に対しては耳洗浄や抗菌薬点耳などで消炎を図り、根治的には鼓膜形成術や鼓室形成術で穿孔の閉鎖と伝音系の再建を行う。
難聴の種類と純音聴力検査
・伝音難聴:外耳・中耳の障害。気導閾値は上昇、骨導閾値は正常で、気導骨導差がある。例:耳垢栓塞、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、耳硬化症。 ・感音難聴:内耳・後迷路(聴神経・中枢)の障害。気導・骨導閾値がともに上昇し、気導骨導差はない。 ・混合難聴:両者の合併で、骨導閾値が上昇し、さらに気導骨導差もある。
ティンパノグラムの型
・A型:ピークが0 daPa付近にある正常型。 ・As型:ピークが低い(鼓膜・耳小骨の動きが悪い)。耳硬化症など。 ・Ad型:ピークが高い(動きすぎる)。耳小骨離断、鼓膜の菲薄化など。 ・B型:ピークのない平坦型。滲出性中耳炎(中耳腔の液体貯留)や鼓膜穿孔(この場合は測定容積が大きい)。 ・C型:ピークが陰圧側にずれる。耳管狭窄症、滲出性中耳炎の初期・回復期など。
あぶみ骨筋反射
音刺激に対して顔面神経支配のあぶみ骨筋が収縮する反射で、内耳から顔面神経に至る反射弓を反映する。顔面神経麻痺の障害部位診断、耳硬化症(反射消失)、内耳性難聴の補充現象の評価などに用いられる。鼓膜穿孔や伝音難聴があると記録できない。
眼振の性状
・末梢性(内耳性):水平性あるいは水平回旋混合性で、方向は一定(方向固定性)。固視により抑制される。 ・中枢性:垂直性眼振、純回旋性眼振、注視方向によって向きが変わる眼振などがみられ、固視による抑制を受けにくい。
POINT
・痛みのない反復性耳漏+長期の難聴+鼓膜緊張部穿孔 → 慢性化膿性中耳炎。 ・鼓膜穿孔では伝音難聴となり、純音聴力検査で気導骨導差(air-bone gap)を認める。 ・中耳の音圧増幅は約27.5 dBで、そのうち鼓膜と前庭窓の面積比による効果(約25 dB)が大部分を占める。 ・鼓膜穿孔があると、ティンパノグラムは平坦(B型、測定容積大)となり、あぶみ骨筋反射は記録できない。 ・C型ティンパノグラムは耳管狭窄など中耳腔の陰圧を示す。 ・垂直性眼振は中枢性病変を示唆し、内耳性の眼振は水平性・水平回旋混合性である。 ・炎症が内耳に波及すると、感音成分が加わり混合難聴、めまいが生じる。
