StudyMed医師国家試験

酢酸で白く浮かぶ網目模様―コルポスコピィが映し出す子宮頸部上皮内腫瘍

第108回医師国家試験 E問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第108回 E問題 第41問

39歳の女性。子宮頸がん検診の細胞診で異常を指摘されたため来院した。不正性器出血はなかった。初経12歳。月経周期28日,整。腟鏡診で分泌物は白色少量である。酢酸加工後のコルポスコピィの写真を別に示す。  最も考えられるのはどれか。

第108回 E問題 第41問の問題画像
  1. a.子宮頸癌
  2. b.子宮頸管炎
  3. c.トリコモナス腟炎
  4. d.尖圭コンジローマ
  5. e.異形成〈子宮頸部上皮内腫瘍〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子宮頸がん検診の細胞診で異常が出た人の精密検査で、コルポスコピィの所見から病変を読み取る問題だ。注目してほしいのは、酢酸を塗ったあとに何が見えているか、そして症状や帯下の性状が何を否定しているか、の2点だよ。
医学生医学生
検診で引っかかったので、まず子宮頸癌を考えてしまいます。でも、不正性器出血がないのは少し引っかかります。
ドクタードクター
その違和感は大事にしたいね。まず検査の流れを整理しよう。細胞診で異常が拾い上げられたら、次はコルポスコピィで病変の場所と程度を評価し、いちばん所見の強い部位を狙って生検する。最終診断はこの狙い組織診で決まるんだ。
医学生医学生
細胞診、コルポスコピィ、組織診の3段階ですね。病理の講義で、細胞診はあくまでスクリーニングだと強調されていました。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ酢酸を塗るのかわかるかな。
医学生医学生
異常な細胞を目立たせるため、というのは覚えているんですが、仕組みまでは自信がないです。
ドクタードクター
異形成の細胞は核が大きく、核・細胞質比が高い。3〜5%の酢酸で細胞内の蛋白が凝固すると、そこが光を反射して白く見える。これを白色上皮と呼ぶんだ。さらに上皮の中を走る血管が点状に見えれば赤点斑、網目状に区切って見えればモザイクという。今回の写真では、移行帯に境界のはっきりした白色上皮があり、それを敷石のように区切る赤い線、つまりモザイクが見えている。一方、形の不規則な血管は目立たない。
医学生医学生
白色上皮とモザイクは異常所見なんですよね。だとすると、異形成、つまり子宮頸部上皮内腫瘍が最も考えやすいということですか。
ドクタードクター
正解。白色が濃く境界が明瞭なほど、モザイクや赤点斑が粗いほど高度の病変を示唆するから、CIN 2〜3も念頭に置いて組織診で程度を確定することになる。では最初に挙がった子宮頸癌はどう区別する?
医学生医学生
浸潤癌になると、見た目がもっと荒れてくるイメージです。
ドクタードクター
そうだね。浸潤癌のコルポスコピィで特徴的なのは異型血管で、コイル状やコンマ状、途中で途切れるなど不規則な形をとる。表面の凹凸や潰瘍、触れると出血しやすいといった所見も加わり、臨床的には不正性器出血、特に性交後出血が代表的な症状だ。今回は異型血管がなく出血症状もないから、浸潤癌より前癌病変を考える。もちろん浸潤の有無は最終的には組織で判断するよ。
医学生医学生
子宮頸管炎やトリコモナス腟炎は、帯下が白色少量という点で外れそうですね。
ドクタードクター
いい読み方だ。頸管炎はクラミジアや淋菌などで起こり、膿性の帯下が増えて頸管粘膜が赤く腫れる。トリコモナス腟炎は黄緑色で泡沫状の悪臭のある帯下とかゆみが特徴で、子宮腟部に点状出血が散らばるいちご状頸部を見ることもある。どちらも炎症の所見で、白色上皮やモザイクといった腫瘍性変化とは別物だ。
医学生医学生
尖圭コンジローマもHPVが原因なので、紛らわしく感じます。臨床実習の産婦人科外来で、外陰部の病変を見せてもらったことがあります。
ドクタードクター
良い経験だね。尖圭コンジローマは主に低リスク型のHPV 6型・11型による良性の疣贅で、鶏冠状・乳頭状に盛り上がるのが特徴だ。酢酸で白くなることはあるけれど、今回のような平坦な白色上皮とモザイクとは形が違う。同じHPVでも、型によって病変がまったく異なるんだ。
医学生医学生
高リスク型の16型や18型の持続感染が、移行帯にCINを起こすんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。発展として、CINの分類と方針も押さえておこう。異型細胞が上皮の下1/3にとどまるのがCIN 1、2/3までがCIN 2、全層に及ぶのがCIN 3だ。CIN 1は多くが自然に消えるので経過観察が基本、CIN 3は円錐切除術やレーザー蒸散術などの治療対象、CIN 2は症例に応じて選ぶ。
医学生医学生
細胞診の結果がASC-USだったら、HPV検査を組み合わせて精査するかを決めるんですよね。CBTの直前に覚えた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。臨床で注意したいのは、検診で異常が出ても無症状のことが多く、受診を先延ばしにする人がいる点だ。CINは自覚症状がない段階で見つけて治療できるからこそ、検診とその後の精査に意味がある。円錐切除後は妊娠時の早産リスクにも配慮が必要なので、若い人では治療の選び方も大切になるよ。
医学生医学生
白色上皮・赤点斑・モザイクなら異形成、異型血管や潰瘍・出血があれば浸潤癌を疑う、と整理しておきます。

まとめ

子宮頸がん検診の細胞診で異常が出た場合は、コルポスコピィで病変を評価し、最も所見の強い部位の狙い組織診で診断を確定します。酢酸加工で核・細胞質比の高い異形成細胞は白く見え、白色上皮やそれを区切るモザイク・赤点斑は子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を示唆する所見です。異型血管や潰瘍、接触出血、不正性器出血を伴えば浸潤癌を疑い、帯下増加や発赤があれば頸管炎・腟炎、乳頭状の隆起なら低リスク型HPVによる尖圭コンジローマを考えます。CINは高リスク型HPVの持続感染で移行帯に生じ、CIN 1は経過観察、CIN 3は円錐切除などで治療するのが基本です。無症状の前癌病変を見つけて治療につなげる流れを理解することは、子宮頸癌予防の要となります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・39歳の女性。子宮頸がん検診の細胞診で異常を指摘され、精密検査目的で受診した。 ・不正性器出血はない。月経周期は28日で整。 ・腟鏡診で帯下(分泌物)は白色少量であり、帯下の増加・悪臭・泡沫状帯下といった腟炎・頸管炎を示唆する所見はない。 ・酢酸加工後のコルポスコピィ(腟拡大鏡診)では、子宮腟部の移行帯に明瞭な白色上皮と、それを敷石状に区切る赤い線状の血管像(モザイク)がみられる。一方、太さや走行が不規則な異型血管は目立たない。

診断へのプロセス

細胞診で異常が出た場合、次に行うのはコルポスコピィと、その所見に基づく狙い組織診(生検)である。コルポスコピィでは3〜5%酢酸を塗布して観察する。異形成細胞は核が大きく核・細胞質比が高いため、酢酸によって細胞内の蛋白が凝固すると光を反射して白く見える(白色上皮〈acetowhite epithelium〉)。さらに上皮内の血管が点状に見えれば赤点斑(点状血管、punctation)、網目状に見えればモザイクと呼ぶ。これらは異常所見であり、白色が濃く境界が明瞭なほど、また赤点斑・モザイクが粗大なほど、高度の病変を示唆する。 浸潤癌に進むと、コイル状・コンマ状・途切れるなど不規則な形の異型血管や、表面の不整・潰瘍・易出血性がみられ、不正性器出血(特に性交後出血)を伴いやすい。本例は白色上皮とモザイクが主体で異型血管を欠き、出血の症状もないため、浸潤癌よりも異形成〈子宮頸部上皮内腫瘍〉を最も考える。 感染症・炎症(頸管炎、トリコモナス腟炎)は帯下の増加や発赤を伴うはずで本例に合わず、尖圭コンジローマは外向性の乳頭状腫瘤を形成する点で本例の平坦な病変とは異なる。 最終診断(CINの程度)は、コルポスコピィで最も所見の強い部位から採取した組織診で確定する。

選択肢考察

  1. ×a.  子宮頸癌

    浸潤癌のコルポスコピィ所見の特徴は異型血管(不規則に拡張・蛇行・途絶する血管)であり、表面の凹凸や潰瘍、接触出血を伴うことも多い。臨床的には不正性器出血、特に性交後出血が代表的な症状である。本例は白色上皮とモザイクが主体で異型血管がなく、出血症状もないため、浸潤癌よりも前癌病変である異形成を最も考える。ただし、最終的に浸潤の有無は組織診で判断する。

  2. ×b.  子宮頸管炎

    子宮頸管炎はクラミジアや淋菌などの感染で起こり、膿性・粘液膿性の帯下の増加、頸管粘膜の発赤・浮腫、易出血性などを示す。本例は帯下が白色少量で炎症所見を欠き、また頸管炎では酢酸加工で明瞭な白色上皮やモザイクといった腫瘍性変化を示す所見は生じない。

  3. ×c.  トリコモナス腟炎

    腟トリコモナス(原虫)による腟炎では、黄緑色で泡沫状の悪臭のある帯下が増え、外陰部のかゆみや灼熱感を伴う。腟壁や子宮腟部に点状の出血斑が散在する「いちご状頸部」がみられることがあるが、白色上皮やモザイクはみられない。本例は症状がなく帯下も白色少量で合致しない。

  4. ×d.  尖圭コンジローマ

    尖圭コンジローマは主にHPV〈ヒトパピローマウイルス〉6型・11型(低リスク型)の感染で生じる良性の疣贅で、外陰・肛門周囲・腟・子宮腟部に鶏冠状・乳頭状に隆起する腫瘤を形成する。酢酸で白色化することはあるが外向性に隆起するのが特徴であり、本例のような平坦な白色上皮とモザイクの像とは異なる。

  5. ○e.  異形成〈子宮頸部上皮内腫瘍〉

    細胞診異常を契機に受診し、酢酸加工後のコルポスコピィで境界明瞭な白色上皮とモザイクを認め、異型血管は目立たない。これは上皮内にとどまる異型細胞の増生、すなわち異形成〈CIN: cervical intraepithelial neoplasia〉を示す典型的な所見である。白色上皮とモザイクが明瞭であることから、高度の病変(CIN 2〜3)も念頭に狙い組織診で程度を確定する。

子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉

・高リスク型HPV(16型・18型など)の持続感染により、扁平円柱上皮境界(SCJ)付近の移行帯に発生する前癌病変である。 ・異型細胞が上皮の下1/3にとどまるものをCIN 1(軽度異形成)、2/3までをCIN 2(中等度異形成)、全層に及ぶものをCIN 3(高度異形成・上皮内癌)とする。現在の組織分類ではCIN 1をLSIL(軽度扁平上皮内病変)、CIN 2・3をHSIL(高度扁平上皮内病変)とまとめる考え方も用いられる。 ・CIN 1は多くが自然消退するため経過観察が基本である。CIN 3は治療対象で、子宮頸部円錐切除術やレーザー蒸散術などを行う。CIN 2は経過観察または治療を症例に応じて選ぶ。

子宮頸がん検診から確定診断までの流れ

・細胞診(ベセスダシステムで報告:NILM、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCCなど)で異常を拾い上げる。ASC-USではHPV検査を併用して精査の要否を決める。 ・コルポスコピィで病変の部位と程度を評価し、最も所見の強い部位を狙って生検(狙い組織診)を行う。 ・組織診でCINの程度や浸潤の有無を確定する。

コルポスコピィの主な異常所見

・白色上皮:酢酸加工で白くなる上皮。濃く厚いほど高度病変を示唆する。 ・赤点斑(punctation):白色上皮内に点状に見える血管。 ・モザイク:白色上皮を網目状に区切る血管。 ・異型血管:不規則な形の血管で、浸潤癌を強く疑う所見である。

POINT

・細胞診異常 → コルポスコピィ → 狙い組織診で確定、という流れを押さえる。 ・酢酸加工で白色上皮・赤点斑・モザイクがみられれば異形成(CIN)を考える。 ・異型血管、潰瘍、接触出血、不正性器出血がみられれば浸潤癌を疑う。 ・CINは高リスク型HPVの持続感染によって移行帯に生じる。 ・尖圭コンジローマは低リスク型HPV(6・11型)による隆起性・乳頭状病変である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。