デコボコの肝臓と大きな脾臓―肝硬変で「下がる値」と「上がる値」を仕分ける
第108回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
腹部造影CTを別に示す。 この患者の血液検査項目で低値と予想されるのはどれか。2つ選べ。

- a.アルブミン
- b.アンモニア
- c.γ-グロブリン
- d.血小板
- e.総ビリルビン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
肝表面の凹凸不整、脾腫、腹水は、門脈圧亢進症を伴う肝硬変を示す代表的な画像所見です。肝硬変の検査値は「合成能低下(アルブミン、コリンエステラーゼ、凝固因子が低下)」「解毒・代謝能低下と門脈-大循環短絡(アンモニア、ビリルビンが上昇)」「門脈圧亢進と慢性炎症(脾機能亢進とトロンボポエチン産生低下で血小板減少、γ-グロブリンはポリクローナルに増加)」の3つの枠で整理すると混乱しません。したがって低値となるのはアルブミンと血小板で、アンモニア、総ビリルビン、γ-グロブリンはいずれも上昇します。これらの多くはChild-Pugh分類による肝予備能評価に直結し、肝細胞癌の合併検索とあわせて肝硬変診療の基本となります。
解答・解説
正解はa, dです
画像所見の整理
腹部造影CT(肝門部レベルの横断像)では次の所見が読み取れる。 ・肝臓の辺縁が凹凸不整で、表面が結節状になっている。肝右葉は相対的に萎縮し、形態が変形している。 ・脾臓が腫大している(脾腫)。 ・肝臓と脾臓の周囲を低吸収(水に近い濃度)の液体が取り囲んでおり、腹水が貯留している。 ・肝左葉には周囲と吸収値の異なる結節状の領域があり、肝細胞癌などの合併にも注意を要する。
診断
肝表面の不整・変形、脾腫、腹水の組み合わせから、門脈圧亢進症を伴う肝硬変(非代償期を示唆)と診断できる。
設問の考え方
肝硬変で変動する検査値は、次の3つの枠組みで整理すると漏れがない。 1) 合成能の低下:肝臓で作られる物質が減る → アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロール、凝固因子(プロトロンビン時間延長)、トロンボポエチンが低下する。 2) 代謝・解毒能の低下と門脈-大循環短絡:肝臓で処理されるべき物質が増える → アンモニア、ビリルビンが上昇する。 3) 門脈圧亢進と慢性炎症:脾腫による脾機能亢進 → 血小板をはじめ血球が減少する。腸管由来抗原の処理低下などにより免疫グロブリン(γ-グロブリン)がポリクローナルに増加する。 このうち「低値」となるのはアルブミンと血小板である。
選択肢考察
- ○a. アルブミン
アルブミンは肝細胞でのみ合成される血漿蛋白であり、肝細胞数の減少と機能低下によって合成が低下し、低アルブミン血症となる(基準値はおおむね4.0g/dL前後以上)。血漿膠質浸透圧が下がるため、門脈圧亢進とあわせて腹水や下腿浮腫の一因となる。本例の腹水貯留とも整合する。Child-Pugh分類の評価項目の一つでもある。
- ×b. アンモニア
腸管で細菌により産生されたアンモニアは、門脈を経て肝臓の尿素回路で尿素に変換され解毒される。肝硬変では肝細胞の処理能力が落ちるうえ、門脈-大循環短絡(側副血行路)により門脈血が肝臓を通らずに体循環へ流入するため、血中アンモニアは上昇する。高アンモニア血症は肝性脳症の主要な原因となる。
- ×c. γ-グロブリン
肝硬変では慢性炎症の持続や、肝臓のKupffer細胞による腸管由来抗原の処理能低下(抗原が体循環に入り免疫系を刺激する)などにより、免疫グロブリンがポリクローナルに増加し、γ-グロブリンは高値となる。血清蛋白電気泳動では、アルブミン分画の低下とγ分画の増加に加え、β分画とγ分画の間の谷が消失して連続する「β-γ bridging」がみられるのが特徴である。したがって低値にはならない。
- ○d. 血小板
肝硬変では血小板が減少する。機序は主に2つある。第一に、門脈圧亢進によって脾臓がうっ血・腫大し(本例でも脾腫を認める)、脾臓での血小板の貯留・破壊が増える(脾機能亢進症)。第二に、血小板産生を促すトロンボポエチンは主に肝臓で産生されるため、肝機能低下により産生が減る。血小板数は肝線維化の進行度と相関し、C型慢性肝炎ではおおむね10万/μL未満で肝硬変を強く疑う目安とされる。
- ×e. 総ビリルビン
ビリルビンは肝細胞に取り込まれてグルクロン酸抱合を受け、胆汁中に排泄される。肝硬変では肝細胞の取り込み・抱合・排泄能が低下するため、総ビリルビンは正常から上昇を示し、非代償期では黄疸を伴うことが多い。脾機能亢進による溶血傾向も上昇に寄与しうる。低値とはならない。Child-Pugh分類の評価項目の一つである。
肝硬変の画像所見
・肝の形態変化:表面の凹凸不整(結節状)、辺縁の鈍化、右葉の萎縮と尾状葉・左葉外側区の相対的腫大 ・門脈圧亢進の所見:脾腫、腹水、側副血行路(食道・胃静脈瘤、傍臍静脈の拡張、脾腎短絡など) ・合併症の検索:肝細胞癌は動脈相で濃染し、門脈相〜平衡相で周囲より低吸収となる(washout)のが典型である。
肝硬変の主な検査値の変化
・低下:アルブミン、コリンエステラーゼ、総コレステロール、凝固因子(プロトロンビン時間延長・PT-INR上昇)、血小板、白血球(汎血球減少)、BCAA/AAA比(Fischer比:分岐鎖アミノ酸と芳香族アミノ酸の比) ・上昇:アンモニア、ビリルビン、γ-グロブリン(IgGなど)、線維化マーカー(ヒアルロン酸、IV型コラーゲン7S、M2BPGiなど)、AST/ALT比(AST優位になりやすい) ・AST・ALTは肝細胞の壊死を反映するため、線維化が進み残存肝細胞が少ない肝硬変では必ずしも高値とはならない。
Child-Pugh分類
肝予備能の評価に用いられ、脳症、腹水、血清ビリルビン、血清アルブミン、プロトロンビン時間の5項目をそれぞれ1〜3点で採点し、合計5〜6点をA、7〜9点をB、10〜15点をCとする。
POINT
・肝表面の不整、脾腫、腹水 → 門脈圧亢進を伴う肝硬変。 ・合成能低下で下がるもの:アルブミン、コリンエステラーゼ、コレステロール、凝固因子(PT延長)。 ・血小板減少は脾機能亢進とトロンボポエチン産生低下による。 ・上がるもの:アンモニア、ビリルビン、γ-グロブリン(β-γ bridging)。
