止まった酵素の手前と先を読む―21-水酸化酵素欠損症・塩喪失型の検査所見
第108回医師国家試験 D問題 第17問
国試問題にチャレンジ
先天性副腎皮質過形成(21α-hydroxylase欠損症:塩喪失型)の検査所見として考えられるのはどれか。2つ選べ。
- a.ACTH高値
- b.低カリウム血症
- c.低カルシウム血症
- d.低ナトリウム血症
- e.代謝性アルカローシス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
21-水酸化酵素はコルチゾールとアルドステロンの両方の合成に必要で、アンドロゲン合成には関与しません。コルチゾール低下により負のフィードバックが外れてACTHが高値となり、副腎過形成と17-OHPの蓄積、アンドロゲン過剰が生じます。塩喪失型ではアルドステロン欠乏により低ナトリウム血症、高カリウム血症、代謝性アシドーシス、脱水を来し、新生児期に副腎クリーゼに至ることがあります。低カリウム血症や代謝性アルカローシス、高血圧はアルドステロン過剰や11β・17α-水酸化酵素欠損症でみられる所見で、正反対の像として対比すると理解しやすくなります。合成経路のどこが止まるかから所見を組み立てる考え方は、先天性副腎皮質過形成の全病型の鑑別と、新生児の早期診断・治療につながります。
解答・解説
正解はa, dです
【テーマ】21-水酸化酵素(21α-hydroxylase)欠損症・塩喪失型の検査所見を、ステロイド合成経路から論理的に導けるかを問う問題である。
ステロイド合成経路の中での21-水酸化酵素の位置
副腎皮質ではコレステロールからプレグネノロン、プロゲステロンを経て、次の3系統のホルモンが作られる。 ・鉱質コルチコイド(電解質コルチコイド)系:プロゲステロン →(21-水酸化)→ 11-デオキシコルチコステロン → コルチコステロン → アルドステロン ・糖質コルチコイド系:17α-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)→(21-水酸化)→ 11-デオキシコルチゾール → コルチゾール ・副腎アンドロゲン系:17-OHPなど → デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、アンドロステンジオン → テストステロン 21-水酸化酵素(遺伝子CYP21A2)はアルドステロン系とコルチゾール系の両方に必要であるが、アンドロゲン系には関与しない。
病態の組み立て
1) コルチゾールが作れない → 下垂体への負のフィードバックが外れ、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰に分泌される。 2) 過剰なACTHが副腎を持続的に刺激 → 副腎皮質が過形成となり、ブロックの手前の前駆体(特に17-OHP)が蓄積する。 3) 蓄積した前駆体は、酵素が保たれているアンドロゲン系へ流れ込む → 副腎アンドロゲン過剰(女児の外性器男性化、男女とも成長加速・骨年齢促進など)。 4) 酵素活性がほぼ失われた重症型(塩喪失型)ではアルドステロンも作れない → 腎の集合管(遠位ネフロン)でのNa再吸収とK⁺・H⁺排泄が障害され、低ナトリウム血症・高カリウム血症・代謝性アシドーシス・脱水(循環血液量減少)が起こる。コルチゾール欠乏も低ナトリウム血症や低血糖、ショックを助長する。 したがって検査所見として合致するのは、ACTH高値と低ナトリウム血症の2つである。カリウムや酸塩基平衡については、アルドステロン過剰症(原発性アルドステロン症など)の所見と正反対になることを意識すると誤りに気づきやすい。
選択肢考察
- ○a. ACTH高値
コルチゾールの合成が21-水酸化の段階で止まるため、血中コルチゾールが低下する。視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)と下垂体ACTHはコルチゾールによる負のフィードバックを受けているので、その抑制が外れACTHは高値となる。先天性副腎皮質過形成に属する疾患はいずれもコルチゾール合成障害を本態とし、過剰なACTHの刺激が副腎の過形成とアンドロゲン過剰を生む。病名の「過形成」はこのACTH高値の結果である。
- ×b. 低カリウム血症
塩喪失型ではアルドステロンが欠乏する。アルドステロンは集合管の主細胞でNa⁺の再吸収とK⁺の分泌を促すホルモンであり、欠乏するとK⁺を尿中へ排泄できなくなるため、低カリウム血症ではなく高カリウム血症となる。新生児期の高カリウム血症は不整脈の原因となり得るため重要な所見である。
- ×c. 低カルシウム血症
21-水酸化酵素欠損症はカルシウム代謝を直接調節するホルモン(副甲状腺ホルモン、活性型ビタミンD)には影響しないため、低カルシウム血症は特徴的所見ではない。むしろ副腎不全(コルチゾール欠乏)では、脱水による血液濃縮や腎での再吸収亢進などにより、軽度の高カルシウム血症を呈することがある。
- ○d. 低ナトリウム血症
アルドステロン欠乏により集合管でのNa⁺再吸収が低下し、尿中へNaが失われる(塩喪失)。水もNaとともに失われて脱水となるが、Na喪失が優位であり低ナトリウム血症となる。さらにコルチゾール欠乏も、自由水排泄の障害(抗利尿ホルモン分泌の抑制が外れる)などを介して低ナトリウム血症を助長する。典型的には生後1〜2週頃から哺乳不良、体重増加不良、嘔吐、脱水で発症し、放置すると副腎クリーゼ(ショック)に至る。
- ×e. 代謝性アルカローシス
アルドステロンは集合管の間在細胞でのH⁺分泌も促進している。塩喪失型ではアルドステロン欠乏のためH⁺の尿中排泄が障害され、高カリウム血症を伴う代謝性アシドーシス(4型尿細管性アシドーシスに類似した病態)を呈する。代謝性アルカローシスはアルドステロン過剰(原発性アルドステロン症など)や、11β-水酸化酵素欠損症・17α-水酸化酵素欠損症のような鉱質コルチコイド作用をもつ前駆体が増える病型でみられる所見である。
先天性副腎皮質過形成(CAH)の概要
副腎皮質ステロイド合成酵素の先天的欠損により、コルチゾール合成が障害される常染色体劣性遺伝性疾患群である。約90%が21-水酸化酵素欠損症であり、日本では新生児マススクリーニング(血中17-OHP測定)の対象疾患となっている。
21-水酸化酵素欠損症の病型
・古典型・塩喪失型:酵素活性がほぼ消失。コルチゾールとアルドステロンがともに欠乏し、新生児期に低Na血症・高K血症・脱水・ショックを来す。女児では外性器の男性化(陰核肥大、陰唇癒合)がみられる。 ・古典型・単純男性化型:わずかに酵素活性が残る。アルドステロンは生理的必要量がコルチゾールよりはるかに少ないため、残存活性で必要量をほぼ賄え、明らかな塩喪失症状は出ない。アンドロゲン過剰症状が主体となる。 ・非古典型:軽症で、思春期以降の多毛、月経異常、早発陰毛などで気づかれる。
主要病型の比較(鉱質コルチコイド作用・アンドロゲン・血圧)
・21-水酸化酵素欠損症:アルドステロン低下(塩喪失型)/アンドロゲン過剰/低血圧傾向、高K、低Na ・11β-水酸化酵素欠損症:11-デオキシコルチコステロン(DOC)増加による鉱質コルチコイド作用過剰/アンドロゲン過剰/高血圧、低K ・17α-水酸化酵素欠損症:DOC・コルチコステロン増加/アンドロゲン・エストロゲン低下(性腺にも障害)/高血圧、低K、性腺機能低下 ・リポイド過形成症(StAR蛋白異常):全ステロイド低下/塩喪失、外性器は女性型
検査と治療
診断には血中17-OHP著明高値、尿中プレグナントリオール高値、ACTH・血漿レニン活性高値などが用いられる。治療はヒドロコルチゾンによる糖質コルチコイド補充(ACTH抑制によりアンドロゲン過剰も是正される)と、塩喪失型ではフルドロコルチゾンによる鉱質コルチコイド補充・食塩補充を行う。発熱・手術などのストレス時には糖質コルチコイドを増量する。
POINT
・21-水酸化酵素はコルチゾールとアルドステロン両方の合成に必要で、アンドロゲン合成には不要。 ・コルチゾール低下 → ACTH高値 → 副腎過形成・17-OHP蓄積・アンドロゲン過剰。 ・塩喪失型ではアルドステロン欠乏 → 低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシス、脱水、血漿レニン活性高値。 ・高血圧・低K血症を呈するのは11β-水酸化酵素欠損症と17α-水酸化酵素欠損症。 ・新生児マススクリーニングでは17-OHPを測定する。
