白血病への距離を測る物差し―骨髄異形成症候群の予後を決める「芽球」と「染色体」
第108回医師国家試験 D問題 第16問
国試問題にチャレンジ
骨髄異形成症候群の予後の指標となるのはどれか。2つ選べ。
- a.血清LD値
- b.染色体異常
- c.血球形態異常
- d.骨髄芽球比率
- e.網状赤血球数
対話形式の解説
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ドクターまとめ
骨髄異形成症候群は経過の幅が広いため、IPSSやIPSS-Rで予後を予測して治療方針を決めます。評価項目は骨髄芽球比率、染色体(核型)異常、血球減少(ヘモグロビン・好中球数・血小板数)であり、とくに芽球比率と核型の重みが大きく、del(5q)や-Yなどは予後良好、7番染色体異常や複雑核型は予後不良です。血清LD値、血球形態異常、網状赤血球数はMDSでみられる所見ですが、形態異常は診断のための所見であり、いずれも標準的な予後スコアの項目には含まれません。低リスク群では輸血や造血因子、del(5q)にはレナリドミド、高リスク群では脱メチル化薬や同種造血幹細胞移植が検討されます。診断の所見と予後の所見を区別して理解することが、MDS診療の方針決定の土台になります。
解答・解説
正解はb, dです
テーマ
骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)は、造血幹細胞に遺伝子異常が生じてできた異常なクローンが骨髄を占める疾患である。骨髄は細胞で満ちている(正〜過形成)のに、血球が成熟途中で壊れてしまう「無効造血」のため末梢血では血球が減り、さらに一部は急性骨髄性白血病(AML)へ移行する。病状の幅がきわめて広く、輸血だけで長く安定する例から短期間で白血病化する例まであるため、治療方針(経過観察・支持療法か、脱メチル化薬や同種造血幹細胞移植か)を決めるには予後の予測が欠かせない。
予後予測の考え方
MDSの予後予測には国際予後スコアリングシステム(International Prognostic Scoring System:IPSS)と、その改訂版である IPSS-R が広く用いられている。いずれも 1. 骨髄中の芽球(未熟な血球)の割合 2. 染色体(核型)異常の種類 3. 血球減少の程度(ヘモグロビン値、好中球数、血小板数) の3つを点数化して合計し、リスク群に分類する。芽球が多いほど白血病に近い状態であり、核型は腫瘍細胞の遺伝学的な性質を反映するため、この2つは特に重みが大きい。 したがって選択肢のうち予後の指標となるのは、染色体異常と骨髄芽球比率である。血清LD値、血球の形態異常、網状赤血球数はMDSでよくみられる所見だが、これらの予後スコアの項目には含まれない。
選択肢考察
- ×a. 血清LD値
MDSでは無効造血によって骨髄内で血球(特に赤芽球)が壊れる「骨髄内溶血」が起こるため、血清LD(乳酸脱水素酵素)が上昇することがある。しかしLD値は無効造血の程度を反映する非特異的な所見であり、IPSSやIPSS-Rの評価項目には含まれない。標準的な予後指標とはされない。
- ○b. 染色体異常
MDSの約半数に染色体異常がみられ、その種類によって予後が大きく異なる。IPSSでは、正常核型、-Y(Y染色体の欠失)、del(5q)(5番染色体長腕の部分欠失)、del(20q) の単独異常は予後良好群、7番染色体の異常(-7、del(7q))や3つ以上の異常が重なる複雑核型は予後不良群、それ以外は中間群とされる。IPSS-Rではこれをさらに5段階(very good〜very poor)に細分化し、予後を左右する最も重要な因子の一つとして大きな配点を与えている。
- ×c. 血球形態異常
血球の形態異常(異形成)は、MDSを診断するための必須の所見である。例として、好中球の顆粒の減少や核の分葉の少なさ(偽Pelger核異常)、赤芽球の多核や環状鉄芽球、微小巨核球などがある。これらは「MDSであるかどうか」を判断する根拠であり、IPSSやIPSS-Rの予後スコアの項目には含まれない。
- ○d. 骨髄芽球比率
骨髄中の芽球の割合は、MDSが白血病にどれだけ近いかを示す指標であり、比率が高いほどAMLへの移行が早く、生存期間も短い。IPSSでは5%未満、5〜10%、11〜20%、21〜30%の区分で点数が上がり、IPSS-Rでは2%以下、2%超5%未満、5〜10%、10%超と、より低い範囲も細かく区分される。なお現在のWHO分類では骨髄芽球20%以上はAMLと定義されるため、MDSとして扱うのは20%未満の範囲である。
- ×e. 網状赤血球数
網状赤血球は骨髄から出たばかりの若い赤血球で、その数は骨髄の赤血球産生能を反映する。MDSでは無効造血のため貧血の程度に比べて網状赤血球が増えず、低値〜正常にとどまることが多い。しかしこれは診断上の参考所見であり、IPSSやIPSS-Rの予後スコアの項目には含まれない。予後スコアで評価される血球減少はヘモグロビン値、好中球数、血小板数である。
骨髄異形成症候群(MDS)の概要
高齢者に多く、先行する化学療法や放射線治療の後に発症するもの(治療関連骨髄性腫瘍)もある。主な症状は血球減少による貧血症状、感染、出血である。診断は、末梢血の血球減少、骨髄の異形成(通常いずれかの血球系で10%以上の細胞に形態異常)、芽球増加、染色体異常などを組み合わせて行い、ビタミンB12・葉酸欠乏や再生不良性貧血など他の原因を除外する。
IPSS(1997年)の評価項目
・骨髄芽球比率:5%未満/5〜10%/11〜20%/21〜30% ・核型:良好(正常、-Y、del(5q)、del(20q))/中間(その他)/不良(複雑核型〔3つ以上〕、7番染色体異常) ・血球減少の系統数:ヘモグロビン10 g/dL未満、好中球1,800/μL未満、血小板10万/μL未満のうち該当数(0〜1系統/2〜3系統) 合計点で Low、Intermediate-1、Intermediate-2、High の4群に分ける。Low と Int-1 を低リスク群、Int-2 と High を高リスク群として治療方針を考えることが多い。
IPSS-R(2012年)
骨髄芽球比率、核型(5段階)、ヘモグロビン、血小板数、好中球数をそれぞれ点数化し、Very low〜Very high の5群に分類する。IPSSより細かく予後を予測できる。さらに近年は、SF3B1 や TP53 などの遺伝子変異の情報を加えた IPSS-M(分子国際予後スコアリングシステム)も提唱されている。
リスクに応じた治療の大枠
・低リスク群:血球減少の改善と生活の質の維持が目標。輸血、造血因子(エリスロポエチン製剤など)、del(5q)を伴うMDSにはレナリドミドが用いられる。輸血を繰り返す場合は鉄過剰症に対して鉄キレート療法を考慮する。 ・高リスク群:白血病への移行を遅らせ生存を延ばすことが目標。アザシチジンなどの脱メチル化薬が用いられ、適応があれば唯一の治癒的治療である同種造血幹細胞移植を検討する。
del(5q)を伴うMDS
5番染色体長腕の欠失を単独でもつMDSは、中高年女性に多く、大球性貧血、血小板数正常〜増加、小型で分葉の少ない巨核球を特徴とする。予後は比較的良好で、レナリドミドがよく効く。
POINT
・MDSの予後予測は IPSS/IPSS-R による ・評価項目:骨髄芽球比率、染色体異常(核型)、血球減少(Hb・好中球・血小板) ・予後良好な核型:正常、-Y、del(5q)、del(20q) ・予後不良な核型:7番染色体異常、複雑核型(3つ以上の異常) ・芽球比率が高いほど白血病化しやすく予後不良(骨髄芽球20%以上はAML) ・LD値、形態異常、網状赤血球数はスコアの項目に含まれない
