StudyMed医師国家試験

肺が育つには「場所」と「羊水」が要る―胎児肺低形成の原因を整理する

第108回医師国家試験 D問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第15問

胎児肺低形成を伴うのはどれか。2つ選べ。

  1. a.食道閉鎖
  2. b.Potter症候群
  3. c.十二指腸閉鎖
  4. d.完全大血管転位症
  5. e.先天性横隔膜ヘルニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児の肺が十分に育たないまま生まれてくる「肺低形成」の原因を選ぶ問題だ。疾患名を丸暗記するより、胎児の肺が育つために何が必要かを考えると自然に答えが出る。どんな条件が必要だと思う?
医学生医学生
成長するには、まず肺が広がるスペースが必要だと思います。
ドクタードクター
その通り。ひとつ目は胸腔内に十分なスペースがあること。ふたつ目は十分な量の羊水があること。三つ目は胎児が子宮内で呼吸様運動をしていることだ。羊水は胎児の胸郭が子宮壁に圧迫されるのを防ぎ、肺の中の液体が保たれることで肺は内側から押し広げられて育っていく。
医学生医学生
肺の中に液体が入っているというのは、発生学の講義で聞いた覚えがあります。だから原因も「場所がない」「羊水が少ない」「呼吸様運動ができない」の3つに分けて考えればいいんですね。
ドクタードクター
そう、この3分類が今回の軸だ。では選択肢を見ていこう。Potter症候群はどれに当たるかな。
医学生医学生
Potter症候群は両側の腎無形成ですよね。腎臓と肺は離れているので、関係なさそうにも思えるのですが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。妊娠中期以降、羊水の大部分は胎児の尿なんだ。腎臓がなければ尿がつくられず、おおむね妊娠16週以降から高度の羊水過少になる。すると子宮壁が胸郭を直接圧迫し、肺内の液体も保たれにくくなって、重い肺低形成が起こる。
医学生医学生
なるほど、腎臓が原因で羊水を介して肺に影響するんですね。Potter顔貌もその圧迫で起こるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。両眼が離れ、鼻が扁平で、耳介の位置が低い、しわの多い顔つきになる。内反足などの四肢変形も同じ圧迫が原因だ。一つの原因から連鎖的に複数の異常が生じるので、今は「Potterシークエンス」と呼ぶことが多い。生命予後を決めるのは肺低形成で、出生後早期に呼吸不全で亡くなることが多い。
医学生医学生
先天性横隔膜ヘルニアは、胸腔のスペースが奪われるパターンですね。
ドクタードクター
正解。横隔膜の欠損、多くは後外側のBochdalek孔から、腸管や胃、肝臓などが胸腔に入り込み、肺を圧迫し続ける。左側に多く、患側だけでなく対側の肺にも低形成が及ぶことがある。肺の血管床も少ないので、出生後には重い呼吸不全と新生児遷延性肺高血圧症をきたすんだ。
医学生医学生
食道閉鎖と十二指腸閉鎖は消化管の病気なので、肺には関係ないということでしょうか。
ドクタードクター
羊水との関係で考えるともっとはっきりするよ。胎児は羊水を飲み込んで腸管から吸収することで羊水量を調節している。上部消化管が閉じていると飲んだ羊水が吸収されず、むしろ羊水過多になる。羊水が多くても肺の発育は妨げられないから、肺低形成は起こらない。
医学生医学生
羊水過多と羊水過少で、ちょうど逆なんですね。産婦人科の実習で、羊水過多を見たら上部消化管閉鎖を探せと言われました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。十二指腸閉鎖ではdouble bubble signが有名で、Down症候群を合併しやすい。食道閉鎖では出生後に泡沫状の唾液があふれ、胃管が食道内で反転するcoil up signが手がかりになる。
医学生医学生
完全大血管転位症は、チアノーゼ性心疾患なので肺にも影響がありそうな気がしますが。
ドクタードクター
胎内では動脈管と卵円孔を介して血液が混ざり、酸素化は胎盤が担っているから、通常は大きな問題にならず肺の発育も障害されない。問題が表に出るのは出生後、動脈管や卵円孔が閉じ始めて体循環と肺循環が並列に分かれたときだ。生後早期から高度のチアノーゼを呈するので、プロスタグランジンE1で動脈管を開いておき、根治術として動脈スイッチ手術を行う。
医学生医学生
臨床で先天性横隔膜ヘルニアの赤ちゃんが生まれたら、どんなことに注意すればいいですか。
ドクタードクター
出生前に診断されていれば、生まれたらすぐに気管挿管して、バッグ・マスク換気は避けるのが鉄則だ。マスクで送った空気が胃や腸に入ると、胸腔内でさらに肺を圧迫してしまうからね。胃管で減圧し、呼吸と循環を安定させてから待機的に手術する。重症例では一酸化窒素吸入療法やECMOが使われることもある。胎児超音波で肺の大きさや肝臓の脱出の有無を評価し、重症度を予測しておくことも大切だよ。
医学生医学生
ほかにも羊水過少を起こす後部尿道弁や前期破水、胸水のような占拠性病変も、同じ理屈で肺低形成につながるということですね。
ドクタードクター
その通り。3つの条件に当てはめれば、初めて見る疾患でも肺低形成を起こすかどうか推測できる。羊水量の異常から胎児の病態を逆算する視点は、周産期医療の基本だよ。

まとめ

胎児の肺が育つには、胸腔内の十分なスペース、十分な羊水量、胎児の呼吸様運動の3つが必要で、肺低形成の原因もこれに沿って「胸腔内の占拠」「長期の羊水過少」「呼吸様運動の障害」に整理できます。Potter症候群では両側腎無形成により胎児尿がつくられず高度の羊水過少となり、肺低形成に加えPotter顔貌や四肢変形を伴います。先天性横隔膜ヘルニアでは胸腔内に脱出した腹部臓器が肺を圧迫し、出生後に重い呼吸不全と新生児遷延性肺高血圧症をきたします。一方、食道閉鎖や十二指腸閉鎖は羊水の嚥下・吸収が障害されて羊水過多となり、完全大血管転位症は胎内では問題になりにくいため、いずれも肺低形成は伴いません。羊水量の異常から胎児の病態を推論する考え方は、出生前診断や新生児蘇生の判断に直結する重要な視点です。

解答・解説

正解はb, eです

テーマ

胎児の肺が十分に発育しないまま出生する「肺低形成」の原因を問う問題である。肺低形成は出生直後からの重い呼吸不全や肺高血圧の原因となり、新生児の予後を大きく左右する。

胎児の肺が育つための条件

胎児の肺の発育には、主に次の3つが必要である。 1. 胸腔内に肺が広がるための十分なスペースがあること 2. 十分な量の羊水があること(羊水は子宮内で胎児の胸郭が圧迫されるのを防ぎ、また肺胞内の液体〔肺水〕が保たれることで肺は内側から押し広げられて成長する) 3. 胎児の呼吸様運動が行われること したがって肺低形成の原因は、(1) 胸腔内を占拠する病変(先天性横隔膜ヘルニア、大量の胸水など)、(2) 長期にわたる羊水過少(両側腎無形成=Potter症候群、両側多嚢胞性異形成腎、後部尿道弁などの下部尿路閉塞、妊娠早期からの前期破水など)、(3) 呼吸様運動の障害(神経筋疾患など)に大別して考えるとよい。

選択肢の見方

選択肢のうち、羊水過少をきたすのが Potter症候群、胸腔内のスペースを奪うのが先天性横隔膜ヘルニアである。一方、食道閉鎖と十二指腸閉鎖は胎児が羊水を飲み込んで吸収できないため、逆に羊水過多となり、肺低形成の原因にはならない。完全大血管転位症は心臓の構造異常で、肺の発育には影響しない。

選択肢考察

  1. ×a.  食道閉鎖

    胎児は羊水を飲み込み、主に腸管から吸収することで羊水量を調節している。先天性食道閉鎖症では飲み込んだ羊水が胃・腸に届かず吸収されないため、羊水過多となる。羊水が多い状態は肺の発育を妨げないので、肺低形成は伴わない。出生後は口から泡状の唾液があふれる、胃管が食道内で反転する(coil up sign)といった所見が診断の手がかりとなり、下部食道と気管の間に瘻孔をもつGross C型が最も多い。

  2. ○b.  Potter症候群

    Potter症候群は両側の腎無形成(腎臓が形成されない状態)によって生じる。妊娠中期以降の羊水の大部分は胎児の尿であるため、腎臓がないと妊娠中期(おおむね妊娠16週以降)から高度の羊水過少となる。羊水が少ないと子宮壁が胎児の胸郭を直接圧迫し、肺内の液体も保たれにくくなるため、肺が育たず重度の肺低形成となる。同じく子宮内での圧迫により、Potter顔貌(両眼の離れた、鼻が扁平で耳介が低い位置にある、しわの多い老人様の顔つき)や内反足などの四肢変形を伴う。肺低形成が生命予後を決め、出生後早期に呼吸不全で死亡することが多い。現在は両側腎無形成に限らず、長期の羊水過少による一連の変化を「Potterシークエンス」と呼ぶことが多い。

  3. ×c.  十二指腸閉鎖

    十二指腸閉鎖も上部消化管の閉塞であり、胎児が飲み込んだ羊水が小腸まで届かず吸収されないため羊水過多をきたす。肺低形成は伴わない。胎児超音波や出生後の腹部X線で、拡張した胃と十二指腸球部が二つの泡のように見える double bubble sign が特徴で、約3割に Down症候群を合併する。出生後は胆汁性嘔吐(閉鎖部位がVater乳頭より肛門側の場合)で発症することが多い。

  4. ×d.  完全大血管転位症

    完全大血管転位症は、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から起始する先天性心疾患である。胎児期は動脈管と卵円孔を介して血液が混ざり合い、胎盤で酸素化が行われるため、胎内では通常大きな問題を起こさず、肺の発育も障害されない。出生後に動脈管・卵円孔が閉じ始めると体循環と肺循環が並列に分かれた状態となり、生後早期から高度のチアノーゼを呈する。プロスタグランジンE1による動脈管の開存維持やバルーン心房中隔裂開術で血液の混合を確保し、根治術として動脈スイッチ手術(Jatene手術)を行う。

  5. ○e.  先天性横隔膜ヘルニア

    先天性横隔膜ヘルニアは、胎生期に胸腔と腹腔を隔てる胸腹膜管(胸腹膜孔)が閉じきらずに横隔膜に欠損が残り、そこから腸管・胃・脾臓・肝臓などの腹部臓器が胸腔内へ脱出する疾患である。後外側の欠損(Bochdalek孔ヘルニア)が大多数で、左側に多い。胸腔内に入り込んだ臓器が肺を圧迫し続けるため、患側を中心に(しばしば対側にも)肺低形成が生じ、肺の血管床も少ないため出生後に重い呼吸不全と新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)をきたす。予後は肺低形成の程度に左右され、胎児超音波での肺の大きさの評価(肺頭比など)や肝臓の脱出の有無が重症度の指標となる。

肺低形成をきたす主な病態の整理

1. 胸腔内の占拠性病変:先天性横隔膜ヘルニア、胎児胸水(乳び胸など)、先天性嚢胞性肺疾患(大きなもの)、胸郭の小さい骨系統疾患(致死性骨異形成症など) 2. 長期の羊水過少:両側腎無形成(Potter症候群)、両側多嚢胞性異形成腎、常染色体潜性(劣性)多発性嚢胞腎、後部尿道弁などによる下部尿路閉塞(巨大膀胱)、妊娠中期からの前期破水の遷延 3. 胎児の呼吸様運動の障害:先天性ミオパチーなどの神経筋疾患、中枢神経障害

羊水量の異常と原因

羊水は妊娠中期以降、主に胎児尿として産生され、胎児の嚥下と腸管からの吸収、肺からの分泌・吸収などで調節される。 ・羊水過多(産生の増加または嚥下・吸収の障害):食道閉鎖、十二指腸閉鎖などの上部消化管閉鎖、無脳症など嚥下運動の障害、母体糖尿病(胎児の多尿)、双胎間輸血症候群の受血児など ・羊水過少(産生の低下または流出):腎無形成・尿路閉塞、胎盤機能不全による胎児発育不全、破水など 羊水過少は肺低形成のほか、子宮内での圧迫による顔貌異常・四肢拘縮や臍帯圧迫の原因となる。

Potterシークエンス

原因(腎無形成など)→ 羊水過少 → 子宮壁による圧迫 → 肺低形成・Potter顔貌・四肢変形、という一連の連鎖として理解する。一つの原因から二次的に複数の異常が生じる状態を「シークエンス」と呼ぶ。

先天性横隔膜ヘルニアの管理

出生前診断例では、出生直後に気管挿管を行い、バッグ・マスク換気は避ける(腸管に空気が入り胸腔内でさらに肺を圧迫するため)。胃管で消化管の減圧を行い、呼吸・循環を安定させてから待機的に根治術を行う。重症例では一酸化窒素吸入療法や体外式膜型人工肺(ECMO)が用いられる。

POINT

・肺低形成の原因は「胸腔内の占拠」「羊水過少」「呼吸様運動の障害」の3つで整理する ・Potter症候群:両側腎無形成 → 羊水過少 → 肺低形成+Potter顔貌+四肢変形 ・先天性横隔膜ヘルニア:腹部臓器の胸腔内脱出 → 肺圧迫 → 肺低形成・新生児遷延性肺高血圧症 ・食道閉鎖・十二指腸閉鎖は羊水過多をきたし、肺低形成は起こさない ・完全大血管転位症は胎内では問題になりにくく、出生後にチアノーゼで発症する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。