肺が育つには「場所」と「羊水」が要る―胎児肺低形成の原因を整理する
第108回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
胎児肺低形成を伴うのはどれか。2つ選べ。
- a.食道閉鎖
- b.Potter症候群
- c.十二指腸閉鎖
- d.完全大血管転位症
- e.先天性横隔膜ヘルニア
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児の肺が育つには、胸腔内の十分なスペース、十分な羊水量、胎児の呼吸様運動の3つが必要で、肺低形成の原因もこれに沿って「胸腔内の占拠」「長期の羊水過少」「呼吸様運動の障害」に整理できます。Potter症候群では両側腎無形成により胎児尿がつくられず高度の羊水過少となり、肺低形成に加えPotter顔貌や四肢変形を伴います。先天性横隔膜ヘルニアでは胸腔内に脱出した腹部臓器が肺を圧迫し、出生後に重い呼吸不全と新生児遷延性肺高血圧症をきたします。一方、食道閉鎖や十二指腸閉鎖は羊水の嚥下・吸収が障害されて羊水過多となり、完全大血管転位症は胎内では問題になりにくいため、いずれも肺低形成は伴いません。羊水量の異常から胎児の病態を推論する考え方は、出生前診断や新生児蘇生の判断に直結する重要な視点です。
解答・解説
正解はb, eです
テーマ
胎児の肺が十分に発育しないまま出生する「肺低形成」の原因を問う問題である。肺低形成は出生直後からの重い呼吸不全や肺高血圧の原因となり、新生児の予後を大きく左右する。
胎児の肺が育つための条件
胎児の肺の発育には、主に次の3つが必要である。 1. 胸腔内に肺が広がるための十分なスペースがあること 2. 十分な量の羊水があること(羊水は子宮内で胎児の胸郭が圧迫されるのを防ぎ、また肺胞内の液体〔肺水〕が保たれることで肺は内側から押し広げられて成長する) 3. 胎児の呼吸様運動が行われること したがって肺低形成の原因は、(1) 胸腔内を占拠する病変(先天性横隔膜ヘルニア、大量の胸水など)、(2) 長期にわたる羊水過少(両側腎無形成=Potter症候群、両側多嚢胞性異形成腎、後部尿道弁などの下部尿路閉塞、妊娠早期からの前期破水など)、(3) 呼吸様運動の障害(神経筋疾患など)に大別して考えるとよい。
選択肢の見方
選択肢のうち、羊水過少をきたすのが Potter症候群、胸腔内のスペースを奪うのが先天性横隔膜ヘルニアである。一方、食道閉鎖と十二指腸閉鎖は胎児が羊水を飲み込んで吸収できないため、逆に羊水過多となり、肺低形成の原因にはならない。完全大血管転位症は心臓の構造異常で、肺の発育には影響しない。
選択肢考察
- ×a. 食道閉鎖
胎児は羊水を飲み込み、主に腸管から吸収することで羊水量を調節している。先天性食道閉鎖症では飲み込んだ羊水が胃・腸に届かず吸収されないため、羊水過多となる。羊水が多い状態は肺の発育を妨げないので、肺低形成は伴わない。出生後は口から泡状の唾液があふれる、胃管が食道内で反転する(coil up sign)といった所見が診断の手がかりとなり、下部食道と気管の間に瘻孔をもつGross C型が最も多い。
- ○b. Potter症候群
Potter症候群は両側の腎無形成(腎臓が形成されない状態)によって生じる。妊娠中期以降の羊水の大部分は胎児の尿であるため、腎臓がないと妊娠中期(おおむね妊娠16週以降)から高度の羊水過少となる。羊水が少ないと子宮壁が胎児の胸郭を直接圧迫し、肺内の液体も保たれにくくなるため、肺が育たず重度の肺低形成となる。同じく子宮内での圧迫により、Potter顔貌(両眼の離れた、鼻が扁平で耳介が低い位置にある、しわの多い老人様の顔つき)や内反足などの四肢変形を伴う。肺低形成が生命予後を決め、出生後早期に呼吸不全で死亡することが多い。現在は両側腎無形成に限らず、長期の羊水過少による一連の変化を「Potterシークエンス」と呼ぶことが多い。
- ×c. 十二指腸閉鎖
十二指腸閉鎖も上部消化管の閉塞であり、胎児が飲み込んだ羊水が小腸まで届かず吸収されないため羊水過多をきたす。肺低形成は伴わない。胎児超音波や出生後の腹部X線で、拡張した胃と十二指腸球部が二つの泡のように見える double bubble sign が特徴で、約3割に Down症候群を合併する。出生後は胆汁性嘔吐(閉鎖部位がVater乳頭より肛門側の場合)で発症することが多い。
- ×d. 完全大血管転位症
完全大血管転位症は、大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から起始する先天性心疾患である。胎児期は動脈管と卵円孔を介して血液が混ざり合い、胎盤で酸素化が行われるため、胎内では通常大きな問題を起こさず、肺の発育も障害されない。出生後に動脈管・卵円孔が閉じ始めると体循環と肺循環が並列に分かれた状態となり、生後早期から高度のチアノーゼを呈する。プロスタグランジンE1による動脈管の開存維持やバルーン心房中隔裂開術で血液の混合を確保し、根治術として動脈スイッチ手術(Jatene手術)を行う。
- ○e. 先天性横隔膜ヘルニア
先天性横隔膜ヘルニアは、胎生期に胸腔と腹腔を隔てる胸腹膜管(胸腹膜孔)が閉じきらずに横隔膜に欠損が残り、そこから腸管・胃・脾臓・肝臓などの腹部臓器が胸腔内へ脱出する疾患である。後外側の欠損(Bochdalek孔ヘルニア)が大多数で、左側に多い。胸腔内に入り込んだ臓器が肺を圧迫し続けるため、患側を中心に(しばしば対側にも)肺低形成が生じ、肺の血管床も少ないため出生後に重い呼吸不全と新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)をきたす。予後は肺低形成の程度に左右され、胎児超音波での肺の大きさの評価(肺頭比など)や肝臓の脱出の有無が重症度の指標となる。
肺低形成をきたす主な病態の整理
1. 胸腔内の占拠性病変:先天性横隔膜ヘルニア、胎児胸水(乳び胸など)、先天性嚢胞性肺疾患(大きなもの)、胸郭の小さい骨系統疾患(致死性骨異形成症など) 2. 長期の羊水過少:両側腎無形成(Potter症候群)、両側多嚢胞性異形成腎、常染色体潜性(劣性)多発性嚢胞腎、後部尿道弁などによる下部尿路閉塞(巨大膀胱)、妊娠中期からの前期破水の遷延 3. 胎児の呼吸様運動の障害:先天性ミオパチーなどの神経筋疾患、中枢神経障害
羊水量の異常と原因
羊水は妊娠中期以降、主に胎児尿として産生され、胎児の嚥下と腸管からの吸収、肺からの分泌・吸収などで調節される。 ・羊水過多(産生の増加または嚥下・吸収の障害):食道閉鎖、十二指腸閉鎖などの上部消化管閉鎖、無脳症など嚥下運動の障害、母体糖尿病(胎児の多尿)、双胎間輸血症候群の受血児など ・羊水過少(産生の低下または流出):腎無形成・尿路閉塞、胎盤機能不全による胎児発育不全、破水など 羊水過少は肺低形成のほか、子宮内での圧迫による顔貌異常・四肢拘縮や臍帯圧迫の原因となる。
Potterシークエンス
原因(腎無形成など)→ 羊水過少 → 子宮壁による圧迫 → 肺低形成・Potter顔貌・四肢変形、という一連の連鎖として理解する。一つの原因から二次的に複数の異常が生じる状態を「シークエンス」と呼ぶ。
先天性横隔膜ヘルニアの管理
出生前診断例では、出生直後に気管挿管を行い、バッグ・マスク換気は避ける(腸管に空気が入り胸腔内でさらに肺を圧迫するため)。胃管で消化管の減圧を行い、呼吸・循環を安定させてから待機的に根治術を行う。重症例では一酸化窒素吸入療法や体外式膜型人工肺(ECMO)が用いられる。
POINT
・肺低形成の原因は「胸腔内の占拠」「羊水過少」「呼吸様運動の障害」の3つで整理する ・Potter症候群:両側腎無形成 → 羊水過少 → 肺低形成+Potter顔貌+四肢変形 ・先天性横隔膜ヘルニア:腹部臓器の胸腔内脱出 → 肺圧迫 → 肺低形成・新生児遷延性肺高血圧症 ・食道閉鎖・十二指腸閉鎖は羊水過多をきたし、肺低形成は起こさない ・完全大血管転位症は胎内では問題になりにくく、出生後にチアノーゼで発症する
