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呼気の終わりに肺胞を守れ―超早産児の人工呼吸で「PEEP」が果たす役割

第118回医師国家試験 C問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第118回 C問題 第37問

生後3時間の女児。在胎26週,700gで出生した。生後1時間から呼吸障害のため人工呼吸器で管理されている。人工呼吸器モニター画面の気道内圧(太実線)模式図を示す。  点線で示した①~⑤のうち,肺胞の虚脱を防ぐために有効な指標はどれか。

第118回 C問題 第37問の問題画像
  1. a.①吸気圧
  2. b.②呼気時間
  3. c.③吸気時間
  4. d.④呼気終末陽圧〈PEEP〉
  5. e.⑤吸気圧と呼気終末陽圧〈PEEP〉の差

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、超早産児の人工呼吸器の気道内圧波形を読み解く問題だ。ポイントは2つ。この赤ちゃんの肺で何が起きているのか、そして肺胞は呼吸サイクルの「どのタイミング」でつぶれやすいのか。まず、在胎26週・700gという背景から、どんな病態を考えるかな。
医学生医学生
超早産で超低出生体重児なので、サーファクタント不足による新生児呼吸窮迫症候群でしょうか。
ドクタードクター
その通り。サーファクタントはII型肺胞上皮細胞がつくる物質で、肺胞の内側の表面張力を下げる働きがある。これが足りない早産児では、肺胞がしぼみやすくなるんだ。
医学生医学生
生理学の講義でラプラスの法則を習いました。半径が小さい肺胞ほど、つぶれる方向の圧が大きくなるんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから肺胞が一番つぶれやすいのは、肺が小さくなる「呼気の終わり」なんだ。一度虚脱した肺胞は、次の吸気で広げ直すのに大きな圧が必要になる。しかも虚脱と再開放を繰り返すこと自体が肺を傷つける。では、呼気の終わりに肺胞を開いたままにしておくには、どうすればいいと思う?
医学生医学生
呼気の最後まで、気道に少し圧をかけ続けておけばいい……ということですか。
ドクタードクター
まさにそれ。波形を見ると、呼気のあいだも気道内圧がゼロに戻らず、一定の高さのベースラインが保たれているよね。このベースラインの高さが呼気終末陽圧、PEEPだ。これが正解になる。PEEPは機能的残気量を保ち、虚脱した肺胞を通過する血流、つまりシャントを減らして酸素化を改善する。
医学生医学生
波形の一番高いところの吸気圧を上げれば、肺胞もしっかり膨らむ気がしたんですが、それでは駄目ですか。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。吸気圧は吸気のときに肺を膨らませて換気量を確保するための圧で、呼気に入れば下がってしまう。呼気終末の虚脱を防ぐ指標ではないんだ。むしろ上げすぎると気胸などの圧外傷を招く。
医学生医学生
吸気圧とPEEPの差も、肺を膨らませる圧という意味では関係しそうに見えます。
ドクタードクター
その差は駆動圧と呼ばれる。圧規定換気では、この駆動圧と肺の膨らみやすさで1回換気量が決まるから、主に二酸化炭素の排出にかかわる指標だ。大きすぎれば過伸展による肺傷害につながる。虚脱防止とは役割が違うね。
医学生医学生
吸気時間と呼気時間はどうでしょう。吸気時間を長くすれば肺胞が開いている時間も長くなりそうですが。
ドクタードクター
吸気時間を延ばすと平均気道内圧が上がって酸素化がよくなることはあるけれど、主に換気量や呼吸器との同調性にかかわる設定で、直接の虚脱防止策ではない。呼気時間は短すぎると息を吐ききれずエアトラッピングを起こし、二酸化炭素がたまる。どちらも換気効率の指標と考えよう。
医学生医学生
整理すると、酸素化はFiO2とPEEPと平均気道内圧、換気は1回換気量と呼吸数で調整する、という分け方ですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床ではこの整理がそのまま設定変更の考え方になる。もう一つ発展知識を。RDSの赤ちゃんは、呼気のときに「うーん」とうなるような呻吟を示すことがある。あれは声門を狭めて、自分でPEEPをかけようとしている反応なんだ。
医学生医学生
NICUを見学したとき、小さな赤ちゃんが鼻にプロングを付けていました。あれもPEEPの一種ですか。
ドクタードクター
そう、経鼻的持続陽圧呼吸、n-CPAPだね。挿管せずに持続的な陽圧をかけて肺胞の虚脱を防ぐ方法だ。RDSでは人工肺サーファクタントの気管内投与と、PEEPを伴う呼吸管理が治療の柱になる。予防としては、早産が予想されるときに母体へ副腎皮質ステロイドを投与して胎児の肺成熟を促す。
医学生医学生
早産児では圧や酸素を上げすぎるのも怖いんですよね。
ドクタードクター
その通り。過剰な圧や高濃度酸素は、気胸や慢性肺疾患、未熟児網膜症の原因になる。各設定が何を担っているかを理解したうえで、必要最小限で管理することが大切だ。

まとめ

超早産児ではII型肺胞上皮細胞が未熟でサーファクタントが不足し、新生児呼吸窮迫症候群を起こしやすくなります。表面張力が下げられないため、肺胞は肺が最も小さくなる呼気の終わりに虚脱しやすく、それを防ぐのが呼気中も気道に陽圧を保つPEEPです。PEEPは機能的残気量を保ってシャントを減らし酸素化を改善する一方、吸気圧とPEEPの差である駆動圧は1回換気量、呼吸数や呼気時間は二酸化炭素の排出に主にかかわります。「酸素化はFiO2・PEEP・平均気道内圧、換気は1回換気量・呼吸数」と役割を整理しておくことは、人工サーファクタントやn-CPAPを含む新生児の呼吸管理、さらには成人の人工呼吸管理を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・在胎26週、出生体重700gで、超早産児(在胎28週未満)かつ超低出生体重児(1,000g未満)である。 ・生後まもなく呼吸障害が出現し、生後1時間から人工呼吸管理を受けている。

病態の考え方

この在胎週数では、肺サーファクタント(肺胞表面活性物質)を産生するII型肺胞上皮細胞が未熟で、サーファクタントが不足していることが多い。最も考えやすいのは新生児呼吸窮迫症候群〈RDS: respiratory distress syndrome〉である。サーファクタントは肺胞内面の表面張力を下げる働きをもち、これが不足すると、特に肺が小さくなる呼気の終わりに肺胞がつぶれやすくなる(ラプラスの法則で、半径が小さいほど肺胞をつぶす方向の圧が大きくなる)。虚脱した肺胞は次の吸気で再び広げるのに大きな圧を要し、換気不全・低酸素血症が進行する。また、虚脱と再開放の繰り返しは肺傷害の原因にもなる。

設問への考え方

気道内圧波形は、呼気中も0にならず一定の陽圧が保たれ、吸気時に設定圧まで上昇する形(圧規定換気の模式図)である。肺胞の虚脱は「呼気の終わり」に起こるので、それを防ぐ指標は、呼気終末にも気道内へかけ続けている陽圧、すなわち呼気終末陽圧〈PEEP: positive end-expiratory pressure〉(④)である。他の指標(吸気圧、吸気・呼気時間、吸気圧とPEEPの差)は主に換気量や二酸化炭素の排出、呼吸器との同調性にかかわる設定であり、それぞれの役割を区別して理解することが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①吸気圧

    吸気圧(最高吸気圧)は吸気時に気道へかかる圧の最大値で、波形の上端にあたる。PEEPに上乗せされる形で設定されるため、PEEPを上げたまま吸気圧を調整しないと最高気道内圧が過大となり、圧外傷(気胸など)の危険が増す。吸気圧は肺を膨らませ換気量を確保するための指標であり、呼気終末の肺胞虚脱を防ぐ指標ではない。

  2. ×b.  ②呼気時間

    呼気時間は1回の呼吸サイクルのうち吸気を除いた、ガスが排出される時間である。呼吸数や吸気時間との関係で決まり、短すぎると呼気が出し切れず内因性PEEP(エアトラッピング)を生じ、二酸化炭素の貯留を招く。換気効率に影響する指標であり、肺胞虚脱を防ぐための指標ではない。

  3. ×c.  ③吸気時間

    吸気時間は吸気圧がかかっている時間である。吸気時間を延ばすと平均気道内圧が上がって酸素化が改善することはあるが、主として1回換気量や呼吸器との同調性に影響する設定である。一般に吸気時間:呼気時間(I:E比)は1:2程度とすることが多く、新生児では吸気時間を短め(おおむね0.3〜0.5秒程度)に設定することが多い。肺胞虚脱の防止を直接担う指標ではない。

  4. ○d.  ④呼気終末陽圧〈PEEP〉

    PEEPは呼気の終わりにも気道内に陽圧を保つ設定で、波形では呼気中のベースラインの高さにあたる。呼気終末に肺胞内圧を陽圧に保つことで、サーファクタント不足のために虚脱しやすい肺胞を開いたままにし、機能的残気量を増やして換気血流比の不均衡(シャント)を減らし、酸素化を改善する。虚脱と再開放の繰り返しによる肺傷害を軽減する効果もある。新生児呼吸窮迫症候群の呼吸管理(経鼻的持続陽圧呼吸〈n-CPAP〉を含む)で最も重要な設定の一つである。

  5. ×e.  ⑤吸気圧と呼気終末陽圧〈PEEP〉の差

    吸気圧とPEEPの差は駆動圧〈driving pressure〉と呼ばれ、肺と胸郭を実際に膨らませる圧の大きさを表す。圧規定換気では、この差と肺のコンプライアンス(膨らみやすさ)によって1回換気量が決まり、主に二酸化炭素の排出(換気)にかかわる。駆動圧が大きすぎると肺の過伸展による傷害につながる。肺胞の虚脱を防ぐ指標ではない。

新生児呼吸窮迫症候群(RDS)

・病態: II型肺胞上皮細胞から分泌される肺サーファクタントの不足による肺胞の虚脱(無気肺)。サーファクタントの主成分はリン脂質で、特にジパルミトイルホスファチジルコリン(レシチンの一種)が表面張力低下の中心を担う。 ・危険因子: 早産(在胎週数が短いほど高頻度で、在胎34週未満に多い)、母体糖尿病(高インスリン血症がサーファクタント産生を抑制)、男児、仮死、選択的帝王切開など。 ・症状: 出生直後〜数時間以内に増悪する多呼吸、陥没呼吸、呻吟(呼気時に声門を狭めて自ら呼気終末圧を保とうとする反応)、鼻翼呼吸、チアノーゼ。 ・胸部エックス線: 肺野の網状顆粒状陰影、気管支透亮像、重症ではすりガラス状〜真っ白な肺(white-out)。肺容量は減少する。 ・血液ガス: 低酸素血症、高二酸化炭素血症、呼吸性・代謝性の混合性アシドーシス。 ・診断補助: 胃液や気管吸引液を用いたマイクロバブルテスト(サーファクタントが少ないと安定した微小気泡が少ない)。出生前には羊水のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比)が肺成熟の指標として用いられた。 ・予防: 早産が予想される場合の母体への副腎皮質ステロイド投与(胎児の肺成熟を促進)。 ・治療: 人工肺サーファクタントの気管内投与、PEEPを伴う呼吸管理(n-CPAPや人工呼吸)、適切な酸素投与。

人工呼吸の主な設定と役割

・酸素化(PaO2)に関与: 吸入酸素濃度〈FiO2〉、PEEP、平均気道内圧(吸気時間を延ばすと上がる)。 ・換気(PaCO2)に関与: 1回換気量(圧規定換気では駆動圧=吸気圧−PEEPで決まる)、呼吸数。 ・早産児では過剰な圧・容量や高濃度酸素が、気胸、慢性肺疾患(気管支肺異形成)、未熟児網膜症などの原因となるため、必要最小限の設定を心がける。

POINT

・肺胞の虚脱は呼気終末に起こる → 防ぐのはPEEP(呼気終末陽圧)。 ・PEEPは機能的残気量を保ち、酸素化を改善する。新生児RDSの呼吸管理の要。 ・吸気圧−PEEP=駆動圧で、1回換気量(主にCO2排出)を規定する。 ・酸素化はFiO2・PEEP・平均気道内圧、換気は1回換気量・呼吸数で調整すると整理しておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。