StudyMed医師国家試験

「飲めば苦しい」は本人が知ってこそ―アルコール依存症治療の原則を総点検

第108回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第1問

アルコール依存症の治療について適切なのはどれか。

  1. a.断酒会は匿名参加が原則である。
  2. b.断酒より容易な節酒を目標とする。
  3. c.離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する。
  4. d.脳症の予防としてビタミンDを大量に投与する。
  5. e.抗酒薬を患者に知らせず家族に食事に混ぜさせる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はアルコール依存症の治療について、基本原則を幅広く問う問題だ。治療は大きく、離脱症状への対応、断酒に向けた治療目標の設定、合併症の予防、そして再飲酒を防ぐ継続支援の4本柱で整理できる。それぞれの柱で何が正しいかを確認していこう。
医学生医学生
精神科の講義で、依存症は「否認の病」だと習いました。本人がなかなか問題を認めないので、治療の入り口が難しいという話でした。
ドクタードクター
その通り。だからこそ治療では本人の動機づけと同意が何より大切になる。まずは入院直後に問題になる離脱症状から考えよう。アルコールは脳でどんな作用をしているかな。
医学生医学生
GABAA受容体の働きを強めて、中枢神経を抑制するんでしたよね。
ドクタードクター
正解。長く飲み続けると脳はその抑制状態に慣れてしまう。そこで急に飲酒をやめると、ブレーキが急に外れたような相対的な興奮状態になる。これが離脱症状で、手のふるえ、発汗、頻脈、不眠や不安、ときにけいれん発作、さらに振戦せん妄へと進むこともある。
医学生医学生
臨床実習で救急を回ったとき、入院2日目くらいに「虫が壁を這っている」と言い出した患者さんがいました。あれが振戦せん妄だったんですね。
ドクタードクター
小動物幻視は振戦せん妄の典型的な症状だね。早期の離脱症状は最終飲酒から数時間〜2日ほど、振戦せん妄はおおむね2〜4日目に出やすい。この離脱症状の治療の中心になるのがベンゾジアゼピン系薬なんだ。同じGABAA受容体に作用してアルコールと交差耐性があるから、いわばアルコールの代わりを務めさせて症状を抑え、その後ゆっくり減らしていく。けいれんやせん妄の予防にも役立つ。
医学生医学生
だから離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する、が正しい選択肢になるわけですね。肝臓が悪い人でも同じ薬でいいんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。肝障害が強い場合は、肝臓での代謝の影響を受けにくいロラゼパムなどが選ばれることがある。では次に治療目標。断酒より容易な節酒を目標にする、という考え方はどうだろう。
医学生医学生
完全にやめるより少し減らすほうが簡単そうなので、正しいようにも思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが落とし穴。依存症の本質は飲酒量をコントロールできなくなることだから、「ほどほどに飲む」こと自体がむしろ難しい。わが国のガイドラインでも、依存症の治療目標は原則として断酒だ。近年は断酒を受け入れない人や軽症例で、治療からの脱落を防ぐために減酒をまず目標にする選択肢も認められ、飲酒量低減薬のナルメフェンも使われるようになった。ただ、それは個々の状態に応じた柔軟な対応であって、「容易だから節酒」という一律の方針は誤りなんだ。
医学生医学生
なるほど、減酒はあくまで状況に応じたオプションということですね。脳症の予防にビタミンDというのは、さすがにおかしいと気づきました。
ドクタードクター
よく気づいたね。問題になるのはWernicke脳症で、原因はビタミンB1、つまりチアミンの欠乏だ。意識障害、眼球運動障害、小脳失調が古典的三徴で、後遺症としてKorsakoff症候群に移行すると記銘力障害や作話が残る。特に注意してほしいのは、ブドウ糖を含む輸液はビタミンB1を消費して脳症を誘発・悪化させうること。ブドウ糖を入れる前か同時にビタミンB1を補充するのが鉄則だ。
医学生医学生
救急外来で酔って倒れた人にまずブドウ糖、と考えがちですが、順番が大事なんですね。断酒会は匿名参加が原則、というのはどうでしょう。自助グループは名前を出さないイメージがあります。
ドクタードクター
それはAA、つまりAlcoholics Anonymousのほうだね。米国発祥で匿名参加、会費なしが特徴だ。一方の断酒会は日本で生まれた自助グループで、実名参加、会費制、家族も例会に参加できる。名前の「Anonymous」で覚えると取り違えにくい。
医学生医学生
最後の、抗酒薬を本人に知らせず食事に混ぜるというのは、倫理的にまずいと直感しました。
ドクタードクター
その直感は正しい。ジスルフィラムやシアナミドといった抗酒薬はアルデヒド脱水素酵素を阻害し、飲酒するとアセトアルデヒドがたまって顔面紅潮、動悸、嘔吐、血圧低下などを起こす。本人が「飲めば苦しくなる」と自覚しているからこそ断酒の支えになるのであって、知らずに飲酒すれば重篤な反応を起こしかねない。何より本人の同意なく薬を投与するのはインフォームド・コンセントの原則に反する。
医学生医学生
離脱はベンゾジアゼピンで置き換え、目標は原則断酒、脳症にはビタミンB1、断酒会は実名でAAは匿名、抗酒薬は本人の同意のもとで、と整理できました。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を補っておこう。薬物療法には抗酒薬のほか、グルタミン酸神経系に作用して飲酒欲求を抑えるアカンプロサートもある。ただ薬だけで断酒が続くわけではなく、動機づけ面接や認知行動療法、集団療法、自助グループへの参加、家族への支援を組み合わせることが再飲酒防止のカギになる。家族向けにはAl-Anonなどのグループもあるよ。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、飲酒歴を責めずに聞く練習をしました。最初の関わり方が治療につながるかどうかを左右するんですね。
ドクタードクター
まさにそう。依存症は再発しやすい慢性疾患だから、再飲酒を「失敗」と責めるのではなく、治療を続けるきっかけにする姿勢が大切だ。

まとめ

アルコール依存症の治療は、離脱症状への対応、治療目標の設定、合併症の予防、再飲酒防止の継続支援から成り立ちます。離脱症状にはアルコールとGABAA受容体を介した交差耐性をもつベンゾジアゼピン系薬を投与して漸減し、治療目標は原則として断酒で、減酒は患者の状態に応じた選択肢と位置づけられます。Wernicke脳症はビタミンB1欠乏によるため、ブドウ糖投与の前か同時にビタミンB1を補充します。自助グループは実名参加の断酒会と匿名参加のAAを区別し、抗酒薬は本人が自覚・同意したうえで服用することが前提です。本人の動機づけと同意を軸に薬物療法と心理社会的支援を組み合わせる考え方は、依存症診療全般の基本となります。

解答・解説

正解はcです

アルコール依存症の治療は、大きく次の要素から成り立つ。 1.離脱症状への対応(解毒期の治療) 2.飲酒問題への治療(断酒・減酒の目標設定、動機づけ、心理社会的治療、薬物療法) 3.身体・精神合併症の治療と予防(肝障害、膵炎、Wernicke脳症など) 4.再飲酒防止のための継続支援(自助グループ、家族支援など) 本問では、これらそれぞれの基本的な知識が問われている。 ポイントとなるのは、離脱症状の治療薬、治療目標の原則、ビタミン欠乏による脳症の種類、自助グループの特徴、そして治療における患者本人の同意と動機づけの重要性である。 特にアルコール離脱症状は、アルコールと同じくGABAA受容体を介して中枢神経を抑制する薬であるベンゾジアゼピン系薬で置き換えて治療する、という考え方を押さえておけば正解に到達できる。

選択肢考察

  1. ×a.  断酒会は匿名参加が原則である。

    日本で生まれた自助グループである断酒会は、実名での参加を基本とし、会費制で、家族も例会に参加できるのが特徴である。匿名参加を原則とするのは、米国発祥の自助グループであるAA(Alcoholics Anonymous:アルコホーリクス・アノニマス)であり、参加者はニックネームなどで名乗り、会費はとらない。両者を取り違えないようにする。

  2. ×b.  断酒より容易な節酒を目標とする。

    アルコール依存症では飲酒量のコントロールそのものが障害されているため、「ほどほどに飲む」ことはむしろ難しく、節酒が断酒より容易とはいえない。わが国のガイドラインでも、アルコール依存症の治療目標は原則として断酒とされている。ただし近年は、断酒を受け入れない患者や、軽症で重篤な合併症のない患者などでは、治療からの脱落を防ぐために飲酒量低減(減酒)をまず目標とすることも選択肢として認められ、飲酒量低減薬(ナルメフェン)も使用されるようになった。とはいえ、これは個々の状態に応じた柔軟な対応であり、「容易だから節酒を目標とする」という一律の方針は適切でない。

  3. ○c.  離脱症状にベンゾジアゼピン系薬を投与する。

    アルコールは中枢神経の抑制性受容体であるGABAA受容体の作用を増強する。慢性的な飲酒により中枢神経はその抑制状態に適応しているため、急に飲酒を中止すると相対的な興奮状態となり、手指振戦、発汗、頻脈、不眠、不安、けいれん発作、さらには振戦せん妄(離脱せん妄)などの離脱症状が出現する。ベンゾジアゼピン系薬は同じGABAA受容体に作用してアルコールと交差耐性をもつため、アルコールの代わりに投与して離脱症状を抑え、その後漸減する。けいれん発作や振戦せん妄の予防にも有効であり、離脱症状治療の第一選択薬である。肝障害が強い場合は、肝臓での代謝の影響を受けにくいロラゼパムなどが選ばれることがある。

  4. ×d.  脳症の予防としてビタミンDを大量に投与する。

    アルコール依存症で問題となる脳症はWernicke脳症であり、その原因はビタミンB1(チアミン)の欠乏である。予防・治療にはビタミンB1を投与する。ビタミンDは無関係である。特に、ブドウ糖を含む輸液はビタミンB1を消費してWernicke脳症を誘発・増悪させうるため、ブドウ糖投与の前か同時にビタミンB1を投与することが重要である。

  5. ×e.  抗酒薬を患者に知らせず家族に食事に混ぜさせる。

    抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド)はアルデヒド脱水素酵素を阻害し、飲酒時にアセトアルデヒドを蓄積させて顔面紅潮、動悸、悪心・嘔吐、頭痛、血圧低下などの不快な反応を起こさせる薬である。この効果は、服用していることを本人が自覚し、「飲めば苦しくなる」とわかっていることで断酒の支えとなる。本人に知らせずに投与すれば、知らずに飲酒して重篤な反応を起こす危険がある。また、本人の同意なく薬を投与することは、説明と同意(インフォームド・コンセント)の原則に反し、倫理的に許されない。治療は本人の動機づけを高め、本人の意思で服薬するように支援すべきである。

アルコール離脱症状

・早期離脱症状(最終飲酒後、数時間〜48時間程度):手指振戦、発汗、頻脈、血圧上昇、悪心、不眠、不安・焦燥、一過性の幻覚、離脱けいれん発作。 ・後期離脱症状(おおむね48〜96時間):振戦せん妄。意識障害、小動物幻視、精神運動興奮、自律神経症状(発熱、発汗、頻脈)を伴い、重症例では生命に関わる。 ・治療:ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム、ロラゼパムなど)が中心。ビタミンB1の補充、脱水・電解質異常の補正も併せて行う。

アルコール依存症の薬物療法

・抗酒薬(嫌酒薬):ジスルフィラム、シアナミド。本人が同意して服用することが前提。 ・断酒補助薬:アカンプロサート。グルタミン酸神経系に作用し、飲酒欲求を抑える。 ・飲酒量低減薬:ナルメフェン。オピオイド受容体調節薬で、飲酒の1〜2時間前に服用して飲酒量を減らす。

ビタミンB1欠乏と脳症

・Wernicke脳症:意識障害、眼球運動障害(外眼筋麻痺、眼振)、小脳失調(失調性歩行)が古典的三徴。 ・Korsakoff症候群:Wernicke脳症の後遺症などとして生じる、記銘力障害、見当識障害、作話を特徴とする健忘症候群。

自助グループ

・断酒会:日本発祥、実名参加、会費制、家族も参加可能。 ・AA(Alcoholics Anonymous):米国発祥、匿名参加、会費なし、「12のステップ」に基づく。 ・家族向けにはAl-Anon(アラノン)などがある。

心理社会的治療

動機づけ面接、認知行動療法、集団療法などがあり、断酒の継続には自助グループへの参加や家族の協力が重要である。

POINT

・アルコール離脱症状の治療の中心はベンゾジアゼピン系薬(GABAA受容体を介した交差耐性を利用)。 ・アルコール依存症の治療目標は原則として断酒。減酒は状態に応じた選択肢として位置づけられる。 ・Wernicke脳症はビタミンB1欠乏。ブドウ糖投与の前にビタミンB1を補充する。 ・断酒会は実名参加、匿名参加はAA。 ・抗酒薬は本人の同意と自覚のもとで服用させる。無断投与は危険かつ非倫理的。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。