白く光る瞳と石灰化―乳幼児の眼に潜む悪性腫瘍、網膜芽細胞腫
第108回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
網膜芽細胞腫について正しいのはどれか。
- a.男児に多い。
- b.良性腫瘍である。
- c.学童期にみられる。
- d.石灰化がみられる。
- e.結膜充血がみられる。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
網膜芽細胞腫は網膜の未熟な神経細胞から発生する小児の眼内悪性腫瘍で、多くは3歳頃までの乳幼児期に診断され、性差や人種差はありません。原因は13q14にある癌抑制遺伝子RB1の両アレルの失活で、Knudsonの2ヒット説に従い、遺伝性例は両眼性・多発性・早期発症となりやすいのが特徴です。初発症状は白色瞳孔が最多で次いで斜視であり、画像では90%以上に石灰化を認め、CTの高吸収域や超音波の音響陰影が診断の手がかりになります。遺伝性例では骨肉腫などの二次がんや三側性網膜芽細胞腫にも注意が必要で、被曝を避けた画像検査の選択や家族への遺伝カウンセリングも重要です。基礎医学の癌抑制遺伝子の概念と臨床像を結びつけて理解することが、乳幼児の白色瞳孔を見逃さない臨床力につながります。
解答・解説
正解はdです
網膜芽細胞腫(retinoblastoma)は、網膜の未熟な神経細胞から発生する悪性腫瘍で、小児の眼内悪性腫瘍として最も多い。出生およそ1.5万〜2万人に1人の頻度で発生し、性差や人種差はない。大部分が5歳未満、特に3歳頃までの乳幼児期に診断される。 原因は、13番染色体長腕(13q14)にある癌抑制遺伝子RB1の両方の対立遺伝子が機能を失うことである(Knudsonの2ヒット説)。生まれつき片方のRB1に変異をもつ遺伝性の例では、両眼性・多発性になりやすく、発症も早い。 症状としては、瞳孔が白く光って見える白色瞳孔(猫眼)が最も多く、次いで斜視が多い。診断には画像検査が重要で、腫瘍内の石灰化をCTや超音波検査で確認することが特徴的な所見となる。 本問は、この疾患の好発年齢・性差・悪性度・画像所見・初発症状という基本事項を確認する問題である。「乳幼児の白色瞳孔と石灰化を伴う眼内腫瘍」というイメージをもっていれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 男児に多い。
網膜芽細胞腫には明らかな性差はなく、男女ほぼ同じ頻度で発生する。人種差もない。原因となるRB1遺伝子は常染色体(13番染色体)上にあり、遺伝性の場合も常染色体優性(顕性)遺伝形式をとるため、性別による偏りは生じない。
- ×b. 良性腫瘍である。
網膜芽細胞腫は悪性腫瘍であり、小児悪性腫瘍全体の約3%を占める。放置すれば硝子体内への播種、視神経を通じた頭蓋内への進展、眼球外(眼窩)への浸潤、血行性の遠隔転移(骨、骨髄など)を起こし、眼球外進展例や転移例の予後は極めて不良である。一方、眼内にとどまる段階で診断・治療されれば、先進国では生命予後は非常に良好である。
- ×c. 学童期にみられる。
網膜芽細胞腫は乳幼児期の疾患であり、多くは3歳頃までに、ほとんどが5歳までに発見される。診断時の月齢は、両眼性で平均8か月前後、片眼性で平均1歳9か月(21か月)前後であり、遺伝性が多い両眼性のほうが早く発症する。学童期での発症はまれである。
- ○d. 石灰化がみられる。
網膜芽細胞腫では、腫瘍内の壊死に伴ってカルシウムが沈着し、90%以上の症例で石灰化を認める。CTでは眼球内の高吸収域として、超音波検査(Bモード)では強い反射エコーとその後方の音響陰影として描出される。乳幼児の眼内腫瘤に石灰化があれば、網膜芽細胞腫を強く疑う重要な所見であり、Coats病などの白色瞳孔をきたす他疾患との鑑別に役立つ。なお、放射線被曝を避けるため、近年はCTよりも超音波検査やMRIが重視される傾向がある。
- ×e. 結膜充血がみられる。
網膜芽細胞腫は眼の奥の網膜に発生する腫瘍であり、通常は結膜充血を伴わない。初発症状として最も多いのは白色瞳孔(約70%)で、次いで斜視(約13%)である。結膜充血は、腫瘍が進行して続発緑内障や眼内の炎症を起こした場合などにみられることがあるが、初発症状としては約5%程度と少なく、本症の特徴的な所見とはいえない。
網膜芽細胞腫の概要
・頻度:出生1.5万〜2万人に1人。性差・人種差なし。 ・好発年齢:乳幼児(多くは3歳頃まで)。 ・片眼性が約3分の2〜4分の3、両眼性が約4分の1〜3分の1。 ・遺伝:全体の約40%が遺伝性(生殖細胞系列のRB1変異)。両眼性はほぼ全例が遺伝性であり、片眼性の一部にも遺伝性が含まれる。
RB1遺伝子と2ヒット説
RB1は細胞周期のG1期からS期への進行を抑制する癌抑制遺伝子である。両方の対立遺伝子が失活して初めて腫瘍が生じる。遺伝性では生まれつき1つ目の変異(第1ヒット)をもつため、網膜のどこかの細胞で第2ヒットが起これば腫瘍化し、両眼性・多発性・早期発症となりやすい。 遺伝性例では、成長後に骨肉腫などの二次がん(特に放射線照射野)が生じやすい。また、両眼性の網膜芽細胞腫に松果体芽腫などの頭蓋内腫瘍を合併したものを三側性網膜芽細胞腫という。
症状
白色瞳孔(最多)、斜視、視力低下、進行すると続発緑内障(眼痛、充血、牛眼)、眼球突出など。
検査
眼底検査(散瞳下で白色隆起性腫瘤)、超音波検査、CT(石灰化)、MRI(視神経浸潤・頭蓋内進展の評価)。生検は腫瘍播種の危険があるため原則として行わない。
治療
腫瘍の大きさや進展度に応じて、眼球摘出、全身化学療法、眼動脈から抗癌薬を注入する選択的眼動脈注入療法、局所療法(レーザー光凝固、冷凍凝固)、放射線治療などを組み合わせる。
予後
先進国では10年生存率は90%以上に達している。現在の治療目標は、生命予後に加えて、眼球の温存、さらには視力の温存へと移っている。
白色瞳孔をきたす主な疾患
網膜芽細胞腫、Coats病、第一次硝子体過形成遺残、未熟児網膜症(瘢痕期)、先天白内障、眼トキソカラ症など。
POINT
・網膜芽細胞腫は乳幼児の眼内悪性腫瘍。性差・人種差なし。 ・原因はRB1遺伝子(13q14)の両アレルの失活(Knudsonの2ヒット説)。両眼性は遺伝性で早期発症。 ・初発症状は白色瞳孔が最多、次いで斜視。 ・画像では90%以上に石灰化(CT高吸収、超音波で音響陰影)。 ・遺伝性例では骨肉腫などの二次がんに注意。
