意識障害を見たらまず指先から―SU薬内服中の高齢者に潜む低血糖
第108回医師国家試験 C問題 第29問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,28と29の問いに答えよ。 73歳の男性。意識障害のため搬入された。 現病歴:今朝起きてこないので,妻が様子を見に行ったところ反応がなかったため救急車を要請した。昨晩までは特に普段と変わらなかったという。 既往歴:20年来の糖尿病と高血圧症でスルホニル尿素薬とアンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬を服用中。 生活歴:71歳の妻と2人暮らし。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。 家族歴:父親が脳梗塞。 現症:呼びかけに反応なく,痛み刺激に対して開眼や払いのけるような動作はなく,わずかに顔をしかめる。身長165 cm,体重62 kg。体温37.0℃。心拍数98/分,整。血圧102/70 mmHg。呼吸数20/分。SpO2 100%(マスク3 L/分酸素投与下)。瞳孔径は両側3 mmで対光反射は正常である。
まず行うべき検査として適切なのはどれか。
- a.血糖測定
- b.頭部MRI
- c.12誘導心電図
- d.尿ケトン体測定
- e.動脈血ガス分析
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
意識障害の患者では、気道・呼吸・循環の確認と並行して、まず簡易血糖測定を行うのが原則です。低血糖は放置すると不可逆的な脳障害を残す一方、ベッドサイドで1分以内に診断でき、ブドウ糖静注で速やかに治療できるうえ、片麻痺など脳卒中に似た症状を示すこともあるためです。特にSU薬は血糖値に依存せずインスリン分泌を促すため、腎機能が低下し警告症状が乏しい高齢者では夜間から早朝に無自覚のまま重症低血糖に陥りやすく、回復後も遷延・再発に備えて入院での経過観察が必要です。頭部MRI、心電図、尿ケトン体、血液ガスはいずれも原因検索に役立ちますが、低血糖を除外したうえで進める検査であり、高齢2型糖尿病の高血糖緊急症はDKAよりHHSが多い点も押さえておきましょう。「すぐ治せて命に関わるものから除外する」という初療の優先順位の考え方は、救急診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
73歳の男性で、前夜までは普段どおりだったが、朝に反応がない状態で発見された。意識レベルはJCSⅢ-200(痛み刺激で開眼せず、払いのけもなく、顔をしかめるのみ)と高度である。20年来の糖尿病に対してスルホニル尿素薬(SU薬)を、高血圧症に対してACE阻害薬を内服している。 バイタルサインは体温37.0℃、心拍数98/分(整)、血圧102/70 mmHg、呼吸数20/分、SpO2 100%(酸素マスク3 L/分)で、やや頻脈であるがショックや重篤な呼吸不全を示す所見はない。瞳孔は両側3 mmで左右差なく対光反射も正常で、片麻痺などの局所神経徴候の記載もない。
鑑別の考え方
意識障害の原因は、脳卒中などの頭蓋内病変と、代謝・内分泌異常、中毒、循環不全・呼吸不全、感染症などの全身性疾患に大別される。本患者は局所神経徴候がなく瞳孔所見も正常であり、全身性(特に代謝性)の原因がまず疑われる。 そのなかで最も考えやすいのがSU薬による低血糖である。SU薬は膵β細胞からのインスリン分泌を血糖値に関係なく促すため、食事摂取の少ない夜間から早朝に低血糖をきたしやすく、しかも作用が遷延しやすい。高齢者では腎機能の低下により薬物の排泄が遅れること、低血糖の警告症状(発汗・動悸・振戦など)が出にくいことから、気づかれないまま重症化しやすい。さらにACE阻害薬はインスリン感受性を高め、低血糖を助長することがある。
まず行うべきこと
低血糖は、放置すれば不可逆的な脳障害や死亡につながる一方、ブドウ糖投与によって速やかに回復させることができる。また、低血糖は片麻痺などの局所症状を呈して脳卒中と紛らわしいことがある。簡易血糖測定器を用いれば指先の少量の血液で1分以内に結果が得られ、侵襲も小さい。したがって、意識障害の患者では、糖尿病の有無にかかわらず、気道・呼吸・循環(ABC)の確認と並行してまず血糖を測定するのが原則であり、SU薬内服中の本患者ではなおさら最優先となる。
選択肢考察
- ○a. 血糖測定
SU薬を内服中の高齢糖尿病患者が、夜間から早朝にかけて局所神経徴候のない意識障害をきたしており、低血糖性昏睡が最も疑われる。簡易血糖測定はベッドサイドで短時間に結果が出て、低血糖と判明すればただちにブドウ糖静注で治療できる。低血糖は放置すると脳に不可逆的な障害を残すため、意識障害の患者ではまず血糖を確認すべきである。高血糖緊急症(糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態)の手がかりも同時に得られる点でも有用である。
- ×b. 頭部MRI
頭部MRIは急性期脳梗塞(特に拡散強調画像)の検出に優れ、父親に脳梗塞の家族歴があることから脳血管障害も鑑別には挙がる。しかし本患者には瞳孔異常や局所神経徴候がなく、脳血管障害を強く示唆する所見はない。また、MRIは撮像に時間がかかり、意識障害で状態が不安定な患者を検査室へ移動させる負担も大きい。数十秒で結果の出る血糖測定で低血糖を除外してから、必要に応じて行う検査である。
- ×c. 12誘導心電図
長期の糖尿病患者は無痛性心筋梗塞を起こしやすく、不整脈や心筋梗塞による心拍出量低下が意識障害の原因となることもあるため、12誘導心電図は意識障害の初期評価で行うべき検査の一つである。しかし本患者は脈が整で血圧も保たれ、循環不全は明らかでない。血糖測定のほうが短時間で結果が得られ、低血糖であれば即座に治療できるため、優先順位は血糖測定より後になる。
- ×d. 尿ケトン体測定
尿ケトン体は糖尿病ケトアシドーシス(DKA)を疑うときに有用な検査である。DKAはインスリン欠乏が高度な1型糖尿病に多く、SU薬で治療されている2型糖尿病の高齢者では、高血糖緊急症としてはむしろ高浸透圧高血糖状態(HHS)のほうが起こりやすい。また、前夜まで普段どおりで急に意識障害が出現した経過は、口渇・多尿・脱水が数日かけて進む高血糖緊急症よりも低血糖に合う。さらに意識障害の患者では採尿に時間がかかることもあり、まず行う検査ではない。
- ×e. 動脈血ガス分析
動脈血ガス分析は、低酸素血症、高二酸化炭素血症(CO2ナルコーシス)、代謝性アシドーシス(DKA、乳酸アシドーシスなど)の評価に有用で、意識障害の精査では行われることが多い。ただし本患者は酸素3 L/分でSpO2 100%が得られており、重い低酸素血症は考えにくい。動脈穿刺を要する検査であり、最も疑われる低血糖を最短で確認・治療できる血糖測定を優先すべきである。
意識障害患者の初期対応
・まず気道・呼吸・循環(ABC)を確認・安定化し、同時に簡易血糖測定を行う。 ・低血糖が確認されたら、50%ブドウ糖液20〜40 mLを静注する。静脈路が確保できない場合はグルカゴンの筋注などを用いる。 ・アルコール多飲者や低栄養が疑われる患者では、ブドウ糖投与によってWernicke脳症を誘発・増悪させるおそれがあるため、ビタミンB1(チアミン)を併せて投与する。 ・低血糖を除外したうえで、心電図、血液検査(電解質、腎・肝機能、アンモニアなど)、血液ガス、頭部CT/MRIなどで原因検索を進める。
低血糖の症状
・自律神経症状(交感神経刺激による):発汗、動悸、頻脈、振戦、不安感、空腹感など。一般に血糖値がおよそ70 mg/dL未満になると出現しうる。 ・中枢神経症状(脳のブドウ糖不足による):頭痛、集中力低下、異常行動、けいれん、片麻痺、意識障害・昏睡など。一般に血糖値がおよそ50 mg/dL未満で目立つ。 ・高齢者、罹病期間の長い糖尿病患者、自律神経障害のある患者、低血糖を繰り返している患者では自律神経症状が乏しく、前触れなく意識障害に至ることがある(無自覚性低血糖)。β遮断薬の内服も警告症状を隠す。
SU薬による低血糖の特徴
・血糖値に依存せずインスリン分泌を促すため、食事量の低下、腎機能低下、高齢などを背景に遷延性・反復性の低血糖を起こしやすい。 ・ブドウ糖投与でいったん意識が回復しても、薬の作用が続く間は再び低血糖に陥ることがあるため、入院のうえでブドウ糖の持続投与と血糖の頻回測定を行う。
高血糖緊急症との比較
・糖尿病ケトアシドーシス(DKA):インスリンの高度な欠乏による。1型糖尿病に多い。ケトン体増加、代謝性アシドーシス、Kussmaul呼吸を認める。 ・高浸透圧高血糖状態(HHS):高齢の2型糖尿病患者に多い。著しい高血糖と高浸透圧、高度の脱水を呈し、ケトアシドーシスは軽度かみられない。感染症などを契機に数日かけて進行することが多い。
POINT
・意識障害の患者では、ABCの確認と並行してまず血糖を測定する(低血糖は迅速に診断・治療でき、放置すると不可逆的な脳障害を残す)。 ・SU薬内服中の高齢糖尿病患者の夜間〜早朝の意識障害は、低血糖をまず考える。 ・低血糖は片麻痺など脳卒中類似の症状を示すことがある。 ・SU薬による低血糖は遷延・再発しやすく、回復後も入院で経過観察する。 ・2型糖尿病の高齢者の高血糖緊急症はDKAよりHHSが多い。
