横向きで脚を上げたら誰の出番?―徒手筋力テストの図を読み解く
第108回医師国家試験 C問題 第15問
国試問題にチャレンジ
徒手筋力テストの図を別に示す。 主にどの筋肉の筋力を測定しているか。

- a.中殿筋
- b.腸腰筋
- c.長内転筋
- d.大腿四頭筋
- e.大腿二頭筋
対話形式の解説
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ドクターまとめ
徒手筋力テスト(MMT)の図は、被検者の体位、動かしている関節と方向、検者の抵抗の向きを確認し、抵抗に抗して働く筋を考えることで読み解けます。側臥位で上側の下肢を外転位に保たせ、大腿外側から床方向(内転方向)へ抵抗を加え、骨盤を固定して代償運動を防ぐ肢位は、股関節外転の主動作筋である中殿筋(上殿神経支配)の検査です。腸腰筋は股関節屈曲、長内転筋は股関節内転、大腿四頭筋は膝伸展、大腿二頭筋は膝屈曲の主動作筋で、それぞれ検査肢位や抵抗の方向が異なります。中殿筋の筋力低下は片脚立ちで反対側の骨盤が下がるTrendelenburg徴候として現れるため、MMTと歩行観察を結びつけて理解することが神経・運動器診察の基本となります。
解答・解説
正解はaです
徒手筋力テスト〈MMT:manual muscle testing〉は、検者が手で抵抗を加え、被検者がそれに抗して関節を動かせるか・保持できるかによって、個々の筋(筋群)の筋力を0~5の6段階で評価する方法である。図を読むときは、①被検者の体位、②どの関節がどの方向に動かされて(保持されて)いるか、③検者が抵抗を加える方向、の3点に注目し、「抵抗の向きと反対方向に働く筋」を答えればよい。 図では、被検者は側臥位(横向きに寝た姿勢)で、上側の下肢を膝を伸ばしたまま天井方向へ持ち上げている。すなわち股関節の外転位である。検者は一方の手で骨盤(腸骨部)を押さえて体幹が後ろへ倒れたり骨盤が引き上げられたりする代償運動を防ぎ、もう一方の手(矢印)で大腿の外側遠位部を床方向、すなわち内転方向へ押し下げている。被検者はこの力に抗して股関節の外転を保っているので、測定しているのは股関節外転筋の筋力である。股関節外転の主動作筋は中殿筋であり、これが答えとなる。 これは MMT における股関節外転の標準的な検査肢位(側臥位、下側の下肢は膝・股関節を曲げて体を安定させ、上側の下肢をやや伸展位で外転させ、膝の近位に抵抗を加える)である。
選択肢考察
- ○a. 中殿筋
中殿筋は腸骨の外面から起こり大腿骨の大転子に停止する筋で、股関節外転の主動作筋である(小殿筋、大腿筋膜張筋が補助する)。上殿神経(L4~S1)に支配される。図は側臥位で股関節を外転させた下肢に内転方向の抵抗を加えており、中殿筋の筋力を評価する肢位そのものである。なお、中殿筋は片脚立ちの際に骨盤を水平に保つ役割も担い、筋力が低下すると立脚側と反対の骨盤が下がるTrendelenburg徴候がみられる。
- ×b. 腸腰筋
腸腰筋(腸骨筋と大腰筋)は股関節屈曲の主動作筋である。MMTでは座位で膝を垂らし、大腿を持ち上げる(股関節を屈曲させる)運動に対して大腿遠位部の前面から床方向へ抵抗を加えて評価する。図は股関節の外転を検査しており、腸腰筋の検査ではない。
- ×c. 長内転筋
長内転筋は大内転筋・短内転筋・薄筋などとともに股関節内転に働く筋で、主に閉鎖神経に支配される。MMTでは、検査する下肢を下側にした側臥位で、下側の下肢を床から持ち上げる(内転させる)運動に抵抗を加えて評価する。図では上側の下肢を外転位で保持させ内転方向へ押しているので、むしろ内転筋群とは反対の働きを調べている。
- ×d. 大腿四頭筋
大腿四頭筋(大腿直筋・外側広筋・内側広筋・中間広筋)は膝関節伸展の主動作筋で、大腿神経に支配される。MMTでは座位で下腿を垂らし、膝を伸ばす運動に対して下腿遠位部の前面から屈曲方向へ抵抗を加えて評価する。図の被検者の膝は伸展位だが、検者の抵抗は大腿に対して股関節を内転させる方向に加わっており、膝の伸展力を調べるものではない。
- ×e. 大腿二頭筋
大腿二頭筋は半腱様筋・半膜様筋とともにハムストリングスを構成し、膝関節屈曲の主動作筋である(長頭は股関節伸展にも働く)。坐骨神経に支配される。MMTでは腹臥位で膝を曲げる運動に対し、下腿遠位部の後面から伸展方向へ抵抗を加えて評価する。図の肢位・抵抗方向とは合わない。
MMTの段階づけ(Daniels法)
5(Normal):最大の抵抗に抗して全可動域を動かせる 4(Good):ある程度の抵抗に抗して全可動域を動かせる 3(Fair):重力に抗して全可動域を動かせるが、抵抗は加えられない 2(Poor):重力を除いた肢位なら全可動域を動かせる 1(Trace):筋収縮は触知・視認できるが関節運動は起こらない 0(Zero):筋収縮がまったくない 段階3以上は重力に抗する肢位で、段階2以下は重力の影響を除いた肢位(股関節外転なら背臥位で下肢を横に滑らせる)で検査する。
下肢の主な運動と主動作筋・支配神経
・股関節屈曲:腸腰筋(大腿神経・腰神経叢) ・股関節伸展:大殿筋(下殿神経) ・股関節外転:中殿筋(上殿神経) ・股関節内転:大内転筋・長内転筋など(閉鎖神経) ・膝関節伸展:大腿四頭筋(大腿神経) ・膝関節屈曲:ハムストリングス(坐骨神経) ・足関節背屈:前脛骨筋(深腓骨神経) ・足関節底屈:下腿三頭筋(脛骨神経)
代償運動に注意
股関節外転の検査では、筋力が弱いと体幹を後方へ倒して股関節を屈曲させ、腸腰筋や大腿筋膜張筋で代償しようとしたり、腰方形筋で骨盤を引き上げて外転しているように見せたりすることがある。そのため検者は骨盤を固定し、下肢をやや伸展位に保たせて検査する。
POINT
・MMTの図は「体位」「動かしている関節と方向」「抵抗の向き」から、抵抗に抗して働く筋を考える。 ・側臥位で上側の下肢を外転させ、大腿外側から床方向に抵抗を加える → 股関節外転 → 中殿筋。 ・中殿筋は上殿神経支配。筋力低下でTrendelenburg徴候。
