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胃を取ったら「ヘプシジン高値」?―貧血の原因を機序で仕分ける

第108回医師国家試験 C問題 第14問

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第108回 C問題 第14問

全身状態・疾患とそれに伴う貧血の原因の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.妊婦 ―― 葉酸不足
  2. b.肝硬変 ―― 脾機能亢進
  3. c.子宮筋腫 ―― 鉄欠乏
  4. d.慢性腎不全 ―― エリスロポエチン低下
  5. e.胃全摘後5~10年 ―― ヘプシジン高値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、さまざまな全身状態や疾患に伴う貧血について、その原因の組合せが正しいかを判断する問題だ。誤っているものを1つ選ぶ形式だね。コツは、貧血を「なぜ赤血球が足りなくなるのか」という機序で整理しておくこと。材料不足、造血因子の不足、破壊や分布の異常、出血、炎症による鉄利用障害、この5つの引き出しを用意しておこう。
医学生医学生
血液内科の講義で、貧血はまずMCVで小球性・正球性・大球性に分けると習いましたが、機序で分ける考え方もあるんですね。
ドクタードクター
MCVでの分類は検査値から入る方法で、機序の分類は病態から入る方法。両方を行き来できると強いよ。では妊婦から考えよう。妊娠中に貧血が起こりやすいのはなぜかな。
医学生医学生
胎児に栄養を取られるから、鉄が足りなくなるんだと思います。葉酸も関係ありますか。
ドクタードクター
その通り。胎児・胎盤の発育や母体の赤血球量の増加で、鉄も葉酸も需要が大きく増える。葉酸が不足すれば巨赤芽球性貧血になりうるから、「妊婦―葉酸不足」は正しい組合せだ。さらに妊娠中は循環血漿量の増え方が赤血球の増え方を上回るので、血液が薄まって見かけ上Hbが下がる水血症も加わる。
医学生医学生
葉酸は神経管閉鎖障害の予防で妊娠前から飲むように、と産婦人科の実習でも聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。次は肝硬変。消化器内科を回ったとき、肝硬変の患者さんで血小板が低い人が多かったと思うけれど、理由はわかるかな。
医学生医学生
門脈圧が上がって脾臓が腫れて、そこに血球が溜め込まれて壊されるから、ですね。
ドクタードクター
正解。うっ血性脾腫による脾機能亢進症で、赤血球だけでなく白血球・血小板も減り、汎血球減少になりうる。だから「肝硬変―脾機能亢進」も正しい。実際の肝硬変の貧血には、静脈瘤からの出血やアルコールによる葉酸欠乏なども重なることが多いよ。
医学生医学生
子宮筋腫は過多月経で鉄が失われるので、鉄欠乏で問題なさそうです。
ドクタードクター
そうだね。特に粘膜下筋腫は過多月経を起こしやすい。成人女性で鉄欠乏性貧血を見たら、鉄剤を出して終わりにせず、婦人科疾患や消化管出血などの原因検索が大事だ。慢性腎不全はどうだろう。
医学生医学生
腎臓でエリスロポエチンが作られるので、腎機能が落ちるとそれが減って腎性貧血になります。
ドクタードクター
そう。エリスロポエチンは主に腎臓の尿細管周囲の間質細胞で、低酸素に反応して作られる。腎性貧血は正球性正色素性で、治療は赤血球造血刺激因子製剤や、低酸素誘導因子を安定化させて内因性のエリスロポエチン産生を促すHIF-PH阻害薬が使われる。というわけで、残る胃全摘後が誤りになる。
医学生医学生
胃全摘後の貧血はビタミンB12欠乏ですよね。でもヘプシジンが何をするものか、正直あいまいです……。
ドクタードクター
大事なところだから整理しよう。ヘプシジンは肝臓で作られるペプチドホルモンで、細胞から血中へ鉄を送り出す輸送体フェロポルチンに結合して分解させる。その結果、十二指腸からの鉄吸収と、マクロファージからの鉄の放出がどちらも抑えられる。つまり「鉄を体内に入れない、出させない」ブレーキ役だ。
医学生医学生
ということは、鉄が足りないときにはブレーキを緩める、つまりヘプシジンは下がるんですね。
ドクタードクター
その通り。鉄欠乏、造血亢進、低酸素ではヘプシジンは低値になる。逆に高くなるのは鉄過剰と炎症のとき。IL-6などのサイトカインがヘプシジンを増やして、鉄があるのに使えない状態を作るのが、炎症に伴う貧血、いわゆる慢性疾患に伴う貧血だ。
医学生医学生
では胃全摘後には、実際どういう機序で貧血が起こるんでしょうか。
ドクタードクター
2つある。1つは壁細胞から出る内因子がなくなることによるビタミンB12の吸収障害。ビタミンB12は肝臓に数年分蓄えられているから、それが枯渇する術後5~10年ごろに巨赤芽球性貧血として表に出てくる。もう1つは鉄欠乏で、胃酸がなくなって鉄が吸収されやすい2価鉄に還元されにくくなることや、再建法によっては鉄の主な吸収部位である十二指腸を食物が通らなくなることが原因だ。こちらは術後早期から起こりうる。いずれにせよ鉄が足りない状態なので、ヘプシジンはむしろ低くなる。
医学生医学生
鉄欠乏ならヘプシジン低値、炎症ならヘプシジン高値。フェリチンで見分けるという話ともつながりますね。
ドクタードクター
いいつなげ方だ。鉄欠乏性貧血はフェリチン低値・TIBC高値、炎症に伴う貧血は血清鉄は低いのにフェリチンは正常~高値、TIBCは正常~低値になる。臨床でもう一つ注意したいのは、胃切除後にB12欠乏と鉄欠乏が合併すると、大球性と小球性が打ち消し合ってMCVが正常に見えることがある点だ。MCVだけで安心しないこと。
医学生医学生
B12の補充は内服で大丈夫ですか。
ドクタードクター
内因子がないと通常量の内服では吸収されにくいので、筋注での補充が基本だよ。大量の経口投与で補う方法もある。胃切除歴のある人は、長期にわたって定期的に血算をフォローすることが大切だね。

まとめ

貧血は、材料(鉄・ビタミンB12・葉酸)の不足、エリスロポエチンの不足、脾機能亢進などによる破壊・分布異常、出血、炎症による鉄利用障害といった機序で整理すると理解しやすくなります。妊婦は鉄・葉酸の需要増大、肝硬変は門脈圧亢進に伴う脾機能亢進、子宮筋腫は過多月経による鉄欠乏、慢性腎不全はエリスロポエチン産生低下がそれぞれ典型的な原因です。胃全摘後には内因子欠如によるビタミンB12欠乏(術後5~10年で顕在化)と鉄吸収障害による鉄欠乏が起こり、鉄欠乏状態ではヘプシジンはむしろ低値となるため、「ヘプシジン高値」は誤りです。ヘプシジンはフェロポルチンを分解して鉄吸収と鉄放出を抑えるホルモンで、炎症に伴う貧血で高値になる点を押さえておきましょう。鉄代謝の調節を理解しておくことは、鉄欠乏性貧血と炎症に伴う貧血の鑑別や、胃切除後患者の長期フォローに直結します。

解答・解説

正解はeです

本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。貧血はその成り立ちから、①赤血球の材料(鉄、ビタミンB12、葉酸)の不足、②造血を促す因子(エリスロポエチン)の不足、③赤血球の破壊・分布異常(溶血、脾機能亢進)、④出血による喪失、⑤炎症による鉄利用障害などに整理できる。各選択肢の全身状態・疾患が、このうちどの機序で貧血を起こすのかを考えればよい。 妊婦は需要増大による鉄・葉酸不足、肝硬変は門脈圧亢進に伴う脾機能亢進、子宮筋腫は過多月経による鉄欠乏、慢性腎不全はエリスロポエチン産生低下と、いずれも典型的な組合せである。 一方、胃全摘後には内因子の欠如によるビタミンB12吸収障害と、胃酸欠如・十二指腸を食物が通過しない再建法などによる鉄吸収障害が生じる。鉄欠乏状態では鉄の吸収と利用を促すため、鉄調節ホルモンであるヘプシジンの産生はむしろ抑制され低値となる。ヘプシジンが高値となるのは炎症に伴う貧血(慢性疾患に伴う貧血)であり、胃全摘後の貧血の原因として「ヘプシジン高値」を挙げるのは誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  妊婦 ―― 葉酸不足

    正しい組合せである。妊娠中は胎児・胎盤の発育や母体の赤血球量増加により葉酸と鉄の需要が大きく増え、胎児へも移行するため、葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血や鉄欠乏性貧血を起こしやすい。なお妊娠中は循環血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るため、血液が薄まって見かけ上Hbが低下する(生理的な水血症)ことも加わる。葉酸は胎児の神経管閉鎖障害の予防の観点からも、妊娠前からの補充が推奨されている。

  2. ×b.  肝硬変 ―― 脾機能亢進

    正しい組合せである。肝硬変では門脈圧亢進により脾臓がうっ血して腫大し(うっ血性脾腫)、脾臓に血球が過剰に貯留・破壊される脾機能亢進症を生じる。その結果、赤血球だけでなく白血球・血小板も減少し、汎血球減少をきたしうる(特に血小板減少が目立つ)。肝硬変の貧血には、このほか食道・胃静脈瘤や門脈圧亢進症性胃症からの出血による鉄欠乏、アルコールによる葉酸欠乏や大球性変化なども関与する。

  3. ×c.  子宮筋腫 ―― 鉄欠乏

    正しい組合せである。子宮筋腫、特に粘膜下筋腫は子宮内膜の面積を広げ子宮収縮を妨げるため過多月経を起こしやすく、慢性的な失血から鉄欠乏性貧血をきたす。成人女性の鉄欠乏性貧血をみたら、過多月経の原因として子宮筋腫などの婦人科疾患を検索する必要がある。

  4. ×d.  慢性腎不全 ―― エリスロポエチン低下

    正しい組合せである。エリスロポエチン〈EPO〉は主に腎臓の尿細管周囲の間質細胞で、低酸素に反応して産生される造血因子で、骨髄の赤芽球前駆細胞の増殖・分化を促す。慢性腎臓病が進行するとEPO産生が低下し、正球性正色素性の腎性貧血を生じる。治療には赤血球造血刺激因子製剤〈ESA〉や、近年はHIF-PH阻害薬(低酸素誘導因子を安定化させて内因性EPO産生を促す経口薬)が用いられる。尿毒症物質による赤血球寿命の短縮や、透析時の失血による鉄欠乏も貧血を悪化させる。

  5. ○e.  胃全摘後5~10年 ―― ヘプシジン高値

    誤った組合せであり、これが正解である。胃全摘後には、胃の壁細胞から分泌される内因子がなくなるため回腸末端でのビタミンB12吸収ができなくなる。体内(主に肝臓)にはビタミンB12が数年分貯蔵されているため、それが枯渇する術後およそ5~10年で巨赤芽球性貧血が顕在化する。また胃酸の欠如により3価鉄が2価鉄に還元されにくくなることや、再建法によって鉄の主な吸収部位である十二指腸を食物が通らなくなることから、鉄欠乏性貧血も起こる(こちらは術後比較的早期から生じうる)。鉄欠乏状態ではヘプシジンの産生が抑えられて低値となり、腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出が促進される。したがってヘプシジン高値は胃全摘後の貧血の原因ではない。

ヘプシジンによる鉄代謝の調節

ヘプシジンは肝臓で産生されるペプチドホルモンで、全身の鉄の流れを調節する。細胞から鉄を血中へ送り出す唯一の輸送体であるフェロポルチンに結合し、これを細胞内に取り込ませて分解させる。その結果、①十二指腸上皮細胞から血中への鉄の移行(鉄吸収)と、②マクロファージ(網内系)に貯蔵された鉄の血中への放出が抑制され、血清鉄が低下する。 ・ヘプシジンが増える状況:鉄過剰、炎症(IL-6などの炎症性サイトカインが産生を誘導する) ・ヘプシジンが減る状況:鉄欠乏、造血亢進、低酸素

炎症に伴う貧血(慢性疾患に伴う貧血、二次性貧血)

慢性感染症、膠原病、悪性腫瘍などではIL-6によりヘプシジンが増加し、体内に鉄があるのに造血に利用できない状態となる。正球性~小球性の貧血を示し、血清鉄は低値だが、貯蔵鉄を反映するフェリチンは正常~高値、総鉄結合能〈TIBC〉は正常~低値となる点で鉄欠乏性貧血(フェリチン低値、TIBC高値)と区別できる。

胃切除後貧血のまとめ

・鉄欠乏性貧血:小球性。胃酸分泌低下と十二指腸の食物通過の喪失(Billroth II法やRoux-en-Y再建)による鉄吸収障害。術後早期から起こりうる。 ・ビタミンB12欠乏性貧血:大球性(巨赤芽球性)。内因子欠如による吸収障害。貯蔵が枯渇する術後5年前後以降に出現する。ビタミンB12は経口では吸収されにくいため、筋注で補充するのが基本である(大量経口投与で補う方法もある)。両者が合併すると赤血球の大きさが相殺され、平均赤血球容積〈MCV〉が正常にみえることがある。

POINT

・胃全摘後5~10年の貧血は、内因子欠如によるビタミンB12欠乏性(巨赤芽球性)貧血が代表。鉄欠乏も合併する。 ・ヘプシジンはフェロポルチンを分解し鉄吸収・鉄放出を抑える。鉄欠乏で低値、炎症で高値。 ・妊婦:鉄・葉酸不足、肝硬変:脾機能亢進、子宮筋腫:過多月経による鉄欠乏、慢性腎不全:EPO産生低下。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。