数え方と動き方で読み解く好中球―ステロイドで増え、薬で減る白血球の素顔
第117回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
末梢血好中球について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.減少症の原因として薬剤性が最も多い。
- b.副腎皮質ステロイドの投与で増加する。
- c.成人の末梢血多核白血球の約60%を占める。
- d.発熱性好中球減少症での基準は1,500/μL以下である。
- e.急性細菌感染症では桿状核に比し分葉核の割合が増加する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
末梢血の好中球は循環プールと辺縁プールにほぼ半分ずつ存在し、血算で数えられるのは循環プールのみであるため、副腎皮質ステロイドは脱辺縁化や骨髄からの放出促進などにより好中球を増加させます。好中球減少症の原因は抗がん薬を含む薬剤性が最も多く、抗甲状腺薬などでは無顆粒球症を起こすことがあります。好中球は白血球全体の約60%ですが多核白血球の90%以上を占め、発熱性好中球減少症の基準は500/μL未満(または1,000/μL未満で500/μL未満への減少が予想される場合)、急性細菌感染症では桿状核球が増える左方移動がみられます。好中球の産生・分布・動員の仕組みを理解しておくと、数値の変化を暗記ではなく病態として読み解け、発熱性好中球減少症のような緊急事態への迅速な対応にもつながります。
解答・解説
正解はa, bです
本問は、末梢血中の好中球について、その割合、増減の原因、成熟段階の変化、発熱性好中球減少症の基準といった基本事項をまとめて問う問題である。 好中球は骨髄で骨髄芽球→前骨髄球→骨髄球→後骨髄球→桿状核球→分葉核球の順に成熟し、末梢血に出る。末梢血に出た好中球は、血流に乗って流れている「循環プール」と、血管内皮に緩く接着して留まっている「辺縁プール」にほぼ半分ずつ分かれて存在する。通常の血算で数えられるのは循環プールのみである。このため、好中球数は①骨髄での産生、②骨髄からの放出、③辺縁プールと循環プールの間の移動、④組織への遊走や破壊によって変化する。 各選択肢を判断するための要点は次のとおりである。 ・好中球減少症の原因: 抗がん薬を含む薬剤によるものが最も多い。 ・副腎皮質ステロイド: 辺縁プールから循環プールへの移動、骨髄からの放出促進、組織への遊走抑制によって末梢血好中球が増える。 ・割合: 好中球は白血球全体の約40〜70%(おおよそ60%)を占め、多核(多形核)白血球に限れば大部分(90%以上)を占める。 ・発熱性好中球減少症の好中球数の基準: 500/μL未満、または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予想される場合。 ・急性細菌感染症: 幼若な桿状核球の割合が増える(核の左方移動)。 これらから、正しいのは薬剤性が最多とする記述とステロイドで増加するという記述の2つである。
選択肢考察
- ○a. 減少症の原因として薬剤性が最も多い。
正しい。好中球減少症(一般に好中球1,500/μL未満)の原因として最も多いのは薬剤である。機序は大きく2つあり、一つは抗がん薬(殺細胞性薬)のように骨髄の顆粒球系前駆細胞のDNA合成や細胞分裂を直接障害して産生を低下させるもの、もう一つは抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)、抗菌薬(ST合剤、βラクタム系など)、抗てんかん薬、クロザピンなどで、成熟好中球や前駆細胞に対する抗体などの免疫学的機序や特異体質的な機序によって起こるものである。後者では好中球がほぼ消失する無顆粒球症(好中球500/μL未満)に至ることがあり、原因薬の中止が治療の第一歩となる。薬剤以外の原因としては、ウイルス感染症、重症敗血症、自己免疫疾患、脾機能亢進症、ビタミンB12・葉酸欠乏、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの造血器疾患がある。
- ○b. 副腎皮質ステロイドの投与で増加する。
正しい。副腎皮質ステロイドを投与すると末梢血好中球数は増加する。主な機序は、①血管内皮への接着分子の発現を抑えることで、辺縁プールの好中球が循環プールへ移る(脱辺縁化)、②骨髄の貯蔵プールから末梢血への放出が促進される、③好中球が血管外の組織へ遊走しにくくなり血中に留まる、の3つである。好中球の数は増えても遊走能などの機能は低下するため、感染防御が強まるわけではない点に注意する。一方、ステロイドによりリンパ球・好酸球・単球は減少する。
- ×c. 成人の末梢血多核白血球の約60%を占める。
誤り。約60%というのは白血球全体に占める好中球の割合(基準はおおむね40〜70%)である。多核白血球(多形核白血球、核が分葉している顆粒球を指す)は好中球・好酸球・好塩基球からなり、リンパ球や単球は含まれない。好酸球は白血球の数%、好塩基球は1%前後にすぎないため、多核白血球の90%以上は好中球が占める。分母を白血球全体と取り違えないことがポイントである。
- ×d. 発熱性好中球減少症での基準は1,500/μL以下である。
誤り。発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)は、主に抗がん薬治療中の患者で、好中球数が500/μL未満、または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予想される状態で、発熱(日本の診療ガイドラインでは腋窩温37.5℃以上、口腔温では38℃以上)を伴うものと定義される。1,500/μL未満は好中球減少症そのものの一般的な目安であり、FNの基準ではない。FNは重症感染症に急速に進行しうる緊急事態である。
- ×e. 急性細菌感染症では桿状核に比し分葉核の割合が増加する。
誤り。急性細菌感染症では、炎症性サイトカインやG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の働きで骨髄から好中球が大量に動員され、成熟しきる前の桿状核球(さらに重症では後骨髄球など)が末梢血に出てくる。そのため分葉核球に比べて桿状核球の割合が増える。これを核の左方移動という(成熟段階を左から右へ並べたときに、幼若な左側へ分布がずれることに由来する)。逆に分葉核球の分葉数が増える変化は右方移動と呼ばれ、ビタミンB12・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血で過分葉好中球としてみられる。
白血球分画の基準値(成人のおおよその目安)
・好中球: 40〜70%(桿状核球は数%、大部分は分葉核球) ・リンパ球: 20〜45% ・単球: 3〜10% ・好酸球: 1〜5% ・好塩基球: 0〜1% 好中球の絶対数は、白血球数×好中球比率(桿状核球+分葉核球)で求める。
好中球減少症の重症度の目安
・軽度: 1,000〜1,500/μL ・中等度: 500〜1,000/μL ・高度: 500/μL未満(感染リスクが著明に高まる。薬剤による高度の減少を無顆粒球症と呼ぶ)
好中球が増加する主な原因
細菌感染症、組織の損傷・炎症(心筋梗塞、熱傷、手術後など)、副腎皮質ステロイド、G-CSF製剤、喫煙、ストレスや激しい運動、慢性骨髄性白血病などの骨髄増殖性腫瘍。運動・ストレス・アドレナリンによる増加も辺縁プールから循環プールへの移動によるものである。
発熱性好中球減少症への対応
FNは急速に重症化しうるため、直ちに血液培養を2セット採取し、起因菌の同定を待たずに緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に有効な広域抗菌薬(抗緑膿菌作用をもつβラクタム系薬など)を経験的に投与する。MASCCスコアなどで重症化リスクを評価し、高リスクでは入院のうえ静注抗菌薬で治療する。状況に応じてG-CSF投与も検討される。
核の左方移動と右方移動
・左方移動: 桿状核球など幼若な好中球の増加。重症細菌感染症で典型的にみられる。 ・右方移動: 5分葉以上の過分葉好中球の増加。巨赤芽球性貧血でみられる。
POINT
・好中球減少症の原因は薬剤性が最多(抗がん薬による産生低下と、抗甲状腺薬などによる免疫学的機序)。 ・副腎皮質ステロイドは辺縁プールから循環プールへの移動などにより好中球を増加させ、リンパ球・好酸球は減少させる。 ・好中球は白血球全体の約60%、多核白血球の90%以上を占める。 ・発熱性好中球減少症の好中球基準は500/μL未満(または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満が予想される)。 ・急性細菌感染症では桿状核球が増える(核の左方移動)。
