StudyMed医師国家試験

カルシウムを「預かる」抗凝固剤―凝固検査にクエン酸ナトリウムが選ばれる理由

第117回医師国家試験 E問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第17問

プロトロンビン時間の測定を行う血液検体に最も適した抗凝固剤はどれか。

  1. a.EDTA
  2. b.ヘパリン
  3. c.ワルファリン
  4. d.フッ化ナトリウム
  5. e.クエン酸ナトリウム

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、検査の目的に応じて採血管の抗凝固剤を使い分ける問題だ。考えるべきは「プロトロンビン時間はどうやって測る検査か」という点。測定原理が分かれば、どんな抗凝固剤なら邪魔にならないかが見えてくるよ。
医学生医学生
PTは外因系の凝固を見る検査で、ワルファリンのモニタリングにPT-INRを使う、というところまでは覚えています。
ドクタードクター
いいね。具体的には、血漿に組織因子つまりトロンボプラスチンとカルシウムイオンを加えて、フィブリンが析出するまでの時間を測る。第VII、X、V、II因子とフィブリノゲンの働きを反映するんだ。ここで質問。採血管の中では凝固を止めておきたいけれど、測定するときには凝固してもらわないと困る。抗凝固剤にはどんな性質が必要だと思う?
医学生医学生
止めた凝固を、測定のときに元に戻せる必要がありますね。それと、凝固因子そのものを壊してしまうものはだめそうです。
ドクタードクター
その通り。採血管内では確実に凝固を止め、測定時にカルシウムを加えれば凝固能を元どおり再現でき、凝固因子を阻害したり失活させたりしない。この3条件を満たすのがクエン酸ナトリウムで、これが正解だ。
医学生医学生
クエン酸はカルシウムと結合して凝固を止めるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。カルシウムと可溶性の錯体をつくって遊離カルシウムを減らす。結合が比較的弱いので、測定時にカルシウムを補えば凝固反応が正常に進む。いわばカルシウムを一時的に預かっておく感じだね。3.2%クエン酸ナトリウムと血液を1対9で混和して使い、PTのほかAPTT、フィブリノゲン、Dダイマーなど凝固・線溶系検査の標準になっている。
医学生医学生
でもEDTAもカルシウムをキレートしますよね。同じ仕組みならEDTAでもよさそうに思えます。
ドクタードクター
よく出る誤解だね。EDTAはキレートが強力すぎて、測定時にカルシウムを足しても凝固能を正しく回復させにくい。さらに第V因子や第VIII因子が不安定になって失活しやすい。だから凝固検査には向かないんだ。一方で血球の形態をよく保つので、血算や血液塗抹標本、HbA1cなどに使われる。
医学生医学生
臨床実習で採血したとき、紫のふたの採血管は血算用だと教わりました。ヘパリンはどうでしょう。抗凝固薬として一番有名な気がします。
ドクタードクター
ヘパリンはアンチトロンビンの作用を著しく増強して、トロンビンや活性化第X因子を阻害する。カルシウムを除くのではなく凝固反応そのものを止めてしまうから、カルシウムを加えても凝固能は戻らず、PTやAPTTは延長してしまう。採血管としては血液ガス分析や一部の生化学検査、染色体検査などに使われるよ。
医学生医学生
ヘパリン投与中のラインから採血すると凝固時間が延びてしまう、というのも同じ理屈ですね。
ドクタードクター
その通り、病棟でよくある落とし穴だ。ではワルファリンはどうかな。
医学生医学生
ワルファリンは内服薬なので、そもそも採血管に入れるものではないですよね。薬理学の講義で、ビタミンK依存性凝固因子の合成を阻害すると習いました。
ドクタードクター
正解。第II、VII、IX、X因子の肝臓での生合成を抑える薬だから、採血後の試験管内ではすでにある凝固因子には作用しない。PT-INRで「モニタリングされる側」の薬だと押さえておこう。最後にフッ化ナトリウムは?
医学生医学生
血糖用の採血管に入っていたと思います。解糖を止めるためでしたっけ。
ドクタードクター
そう。解糖系酵素のエノラーゼを阻害して、採血後に血球がブドウ糖を消費して血糖値が下がるのを防ぐ。通常はEDTAやヘパリンなどと組み合わせて添加されていて、凝固検査には使わない。
医学生医学生
整理すると、凝固検査はクエン酸、血算はEDTA、血液ガスはヘパリン、血糖はフッ化ナトリウム、という対応ですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も加えておこう。凝固検査では採血量を守ることがとても重要で、量が足りないとクエン酸が相対的に過剰になり、測定時に加えたカルシウムの一部がクエン酸に取られて凝固時間、特にAPTTが延長する。多血症でも血漿が少ない分クエン酸が過剰になって延長するので、ヘマトクリットが著しく高いときはクエン酸量を補正する。逆に採血に手間取ったり組織液が混入したりすると凝固が活性化して、時間が短縮したり検体が部分的に固まったりする。
医学生医学生
OSCEの採血練習では手技ばかり気にしていましたが、採血管の規定量まできちんと採ることも結果に直結するんですね。赤沈もクエン酸でしたよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。赤沈もクエン酸ナトリウムを使うけれど、比率は1対4で凝固検査とは違う。もう一つ、PTは試薬の感度で値が変わるから、国際感度指数を用いたINRで表して施設間で比較できるようにしている。検査値の異常を見たら、病態だけでなく採血条件も疑う習慣をつけよう。

まとめ

プロトロンビン時間は、血漿に組織因子とカルシウムイオンを加えて凝固までの時間を測る検査なので、採血管の抗凝固剤には凝固を可逆的に止め、凝固因子を傷めない性質が求められます。クエン酸ナトリウムはカルシウムと弱く結合して凝固を止め、測定時にカルシウムを補えば凝固能が再現されるため、3.2%溶液と血液1対9でPT・APTTなど凝固・線溶系検査の標準として用いられます。EDTAはキレートが強く第V・VIII因子が不安定になるため血算用、ヘパリンは凝固反応自体を阻害するため血液ガスなど用、フッ化ナトリウムは解糖阻止のため血糖用であり、ワルファリンは内服薬で採血管には用いません。採血量不足や多血症ではクエン酸が相対的に過剰となって凝固時間が延長し、ヘパリンラインからの採血も偽の延長を招きます。採血管の選択と採血手技が検査結果を左右することを理解しておくことは、日常診療で検査値を正しく解釈するための基本です。

解答・解説

正解はeです

検査の目的ごとに採血管の抗凝固剤を使い分ける知識を問う一般問題である。

プロトロンビン時間とは

プロトロンビン時間(PT)は、血漿に組織因子(トロンボプラスチン)とカルシウムイオン(Ca2+)を加えてから、フィブリンが析出して凝固するまでの時間を測定する検査で、外因系と共通系(第VII、X、V、II因子、フィブリノゲン)の働きを反映する。ワルファリン療法のモニタリングや肝機能(合成能)の評価に用いられ、国際標準比(PT-INR)として報告されることが多い。

凝固検査に求められる抗凝固剤の条件

1. 採血管内では確実に凝固を止められること。 2. 測定時には一定量のCa2+を加えることで、凝固能を元どおり再現できること(可逆性)。 3. 凝固因子そのものを阻害したり、失活させたりしないこと。 クエン酸ナトリウムはCa2+と結合して可溶性の錯体をつくり、血中の遊離Ca2+を減らすことで凝固を防ぐ。結合は比較的弱く、測定時にCa2+を補えば凝固反応が正常に進むため、上記の条件をすべて満たす。PT、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲン、Dダイマーなど凝固・線溶系検査の標準的な抗凝固剤であり、3.2%クエン酸ナトリウム溶液と血液を1:9の比率で混和して用いる。 なお、ワルファリンは患者が内服する経口抗凝固薬であり、採血管に入れる抗凝固剤ではない点に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  EDTA

    不適切。EDTA(エチレンジアミン四酢酸)はCa2+を強力にキレートして凝固を防ぐ。血球の形態を良好に保つため、血算(血球計数)や血液塗抹標本、HbA1cなどの検査に用いられる。しかし凝固検査には適さない。キレートが強いため測定時のCa2+添加で凝固能を正しく回復させにくく、また第V因子や第VIII因子などの凝固因子が不安定となって失活しやすいためである。クエン酸採血管にEDTAが混入すると凝固時間は延長する。

  2. ×b.  ヘパリン

    不適切。ヘパリンはアンチトロンビンと結合してその作用を著しく増強し、トロンビンや活性化第X因子(Xa)などを阻害することで凝固を防ぐ。Ca2+を除去するのではなく凝固反応そのものを阻害するため、Ca2+を加えても凝固能は回復せず、PTやAPTTは延長してしまう。ヘパリン採血は動脈血ガス分析、一部の生化学検査(血漿での電解質測定など)、染色体検査などに用いられる。ヘパリン投与中のラインから採血すると凝固時間が偽って延長するので注意が必要である。

  3. ×c.  ワルファリン

    不適切。ワルファリンは肝臓でのビタミンK依存性凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の生合成を阻害する内服薬である。合成を抑える薬であるため、採血後の試験管内ではすでに存在する凝固因子に作用せず、抗凝固剤として機能しない。人工弁置換術後や心房細動に伴う血栓塞栓症の予防などに用いられ、その効果判定にPT-INRが用いられるという関係にある。

  4. ×d.  フッ化ナトリウム

    不適切。フッ化ナトリウムは解糖系酵素のエノラーゼを阻害して、採血後に血球がブドウ糖を消費して血糖値が低下するのを防ぐ。そのため血糖測定用の採血管に用いられ、通常はEDTAやヘパリンなどの抗凝固剤と組み合わせて添加される。凝固検査には用いない。

  5. ○e.  クエン酸ナトリウム

    最も適している。クエン酸ナトリウムはCa2+と錯体を形成して遊離Ca2+を除き、凝固を可逆的に止める。測定時に一定量のCa2+を加えると凝固反応が再開するため、凝固時間を正確に測定できる。凝固因子への直接の影響も少なく、PT、APTT、フィブリノゲンなど凝固・線溶系検査の標準的な抗凝固剤である。3.2%クエン酸ナトリウムと血液を1:9で混和し、規定量どおりに採血することが重要である。なお、赤血球沈降速度(赤沈)にもクエン酸ナトリウムを用いるが、比率は1:4である。

主な採血管の抗凝固剤と用途

・クエン酸ナトリウム(1:9):凝固・線溶系検査(PT、APTT、フィブリノゲン、Dダイマーなど)。 ・クエン酸ナトリウム(1:4):赤沈。 ・EDTA塩:血算、血液像、HbA1c、血中濃度測定の一部など。 ・ヘパリン:血液ガス分析、一部の生化学検査、染色体検査、リンパ球培養など。 ・フッ化ナトリウム(+抗凝固剤):血糖。 ・抗凝固剤なし(凝固促進剤・分離剤入り):血清を用いる生化学・免疫検査。

凝固検査の採血で注意すべき点

・採血量の厳守:クエン酸と血液の比率(1:9)が崩れると結果が変わる。採血量が不足するとクエン酸が相対的に過剰となり、測定時に加えたCa2+の一部がクエン酸に結合して凝固時間(特にAPTT)が延長する。 ・ヘマトクリットの影響:多血症では血漿量が少ないため血漿あたりのクエン酸が過剰となって凝固時間が延長し、高度の貧血では逆に不足して短縮傾向となる。ヘマトクリットが著しく高い場合はクエン酸量を補正する。 ・採血手技:組織液が混入したり採血に手間取ったりすると、凝固が活性化して凝固時間が短縮したり、検体が部分的に凝固したりする。 ・コンタミネーション:ヘパリン投与ラインからの採血や、EDTA管の内容物混入は凝固時間を延長させる。複数の採血管に分注する場合の順序にも配慮する。 ・速やかな混和と、規定時間内の測定を行う。

PT-INR

PTは試薬(トロンボプラスチン)の感度によって値が異なるため、患者PT÷正常対照PTを国際感度指数(ISI)乗したINRで表し、施設間の比較を可能にしている。ワルファリン療法の管理の指標として用いられる。

POINT

・凝固検査(PT、APTTなど)の抗凝固剤は3.2%クエン酸ナトリウム、血液との比率は1:9(赤沈は1:4)。 ・クエン酸はCa2+を可逆的に除去するため、測定時にCa2+を加えて凝固能を再現できる。 ・EDTAは血算、ヘパリンは血液ガス、フッ化ナトリウムは血糖と使い分ける。 ・ワルファリンは内服薬であり採血管の抗凝固剤ではない(PT-INRでモニタリングされる側)。 ・採血量不足・多血症・ヘパリン混入は凝固時間を延長させる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。