倫理審査は「計画」を審査する―介入研究で承認前に済ませておくべきこと
第117回医師国家試験 E問題 第16問
国試問題にチャレンジ
人を対象とした介入を伴う医学研究を実施するにあたり,倫理審査前に行わなければならないのはどれか。
- a.インフォームドコンセントの取得
- b.研究参加希望者の適格性の判定
- c.データの収集・解析方法の計画
- d.研究協力者への謝金の支払い
- e.治験薬剤の投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
人を対象とする介入研究では、研究者がまず研究計画書を作成し、倫理審査委員会(治験では治験審査委員会)の審査・承認と研究機関の長の許可を得てから研究を開始します。倫理審査は「これから行う研究の計画」を審査するものなので、データの収集・管理方法や統計解析方法、選択・除外基準、説明文書、謝金の設定などは審査前に定めて計画書に記載しておく必要があります。一方、インフォームドコンセントの取得、適格性の判定、薬剤の投与、謝金の支払いといった実際に人と関わる研究行為は、すべて承認後に行います。科学的に妥当な設計であることは参加者に負担を求めるための倫理的条件でもあり、解析方法の事前規定は研究の信頼性を担保します。「決めておくのは審査前、実行するのは審査後」という区別は、ヘルシンキ宣言や国内の倫理指針、臨床研究法、GCPに共通する考え方で、将来臨床研究に携わる際の基本となります。
解答・解説
正解はcです
人を対象とする介入研究を始めるまでの手続きの順序を問う一般問題である。
基本的な流れ
介入研究(研究目的で薬剤投与などの介入を行う研究)は、次の順で進む。 1. 研究者が研究計画書(プロトコル)を作成する。研究の目的・背景、対象者の選択基準・除外基準、介入の方法、評価項目、目標症例数とその根拠、データの収集・管理方法、統計解析方法、予測される利益と不利益、インフォームドコンセントの手続きと説明文書、個人情報の保護、謝礼や補償の有無などを記載する。 2. 研究計画書を倫理審査委員会(治験では治験審査委員会〈IRB〉)に提出し、倫理的・科学的妥当性の審査を受ける。 3. 承認された後(研究機関の長の許可を得て)、対象者の募集、説明と同意の取得、適格性の確認、登録、介入、データ収集・解析へと進む。
考え方
倫理審査は「これから行う研究の計画」を審査するものである。したがって、審査の対象となる計画そのもの(データの収集・解析方法を含む)は審査前に定めておかなければならない。一方、対象者への説明と同意取得、適格性の判定、謝金の支払い、薬剤の投与など、実際に人と関わる研究行為は、計画が承認されてから行う。承認前にこれらを行うことは、研究対象者の保護という倫理審査の目的に反する。
選択肢考察
- ×a. インフォームドコンセントの取得
誤り。インフォームドコンセントの手続き(どのように説明し、どのような説明文書・同意書を用いるか)は研究計画の一部として審査を受ける。審査で説明内容の修正を求められることもあり、研究内容が承認によって確定する前に同意を得ても、その同意は確定した研究に対する有効な同意とはいえない。実際の同意取得は承認後に、承認された説明文書を用いて行う。
- ×b. 研究参加希望者の適格性の判定
誤り。審査前に定めるのは選択基準・除外基準という「判定の基準」であり、個々の参加希望者がその基準を満たすかを判定するのは、承認後に募集を開始し、本人の同意を得てからである。審査の過程で基準が変更される可能性もあるため、審査前に個人の適格性を判定することはできない。
- ○c. データの収集・解析方法の計画
正しい。データの収集方法(何をいつどのように測定・記録するか、データの管理方法)や統計解析方法(主要評価項目の解析手法、必要症例数の算出根拠など)は研究計画書の中核をなす記載事項である。倫理審査委員会は、科学的に妥当な結論が得られる設計でなければ参加者に負担やリスクを負わせることは正当化されないという観点からも計画を審査するため、これらは審査前に定めて計画書に記載し、提出しなければならない。解析方法を事前に決めておくことは、結果を見てから都合のよい解析を選ぶことを防ぎ、研究の信頼性を担保する意味もある。
- ×d. 研究協力者への謝金の支払い
誤り。謝金(負担軽減費)の有無や金額は、参加を不当に誘導しないかという観点から研究計画の一部として審査を受ける事項である。研究への参加者や協力者は承認後に募集・決定されるため、謝金の支払いも当然承認後、実際に協力を得た後に行う。
- ×e. 治験薬剤の投与
誤り。薬剤の投与は介入そのものであり、参加者に直接リスクを及ぼす行為である。倫理審査(治験では治験審査委員会〈IRB〉の審査)で安全性・倫理性・科学性が確認され、承認を得て、さらに本人の文書による同意を得た後でなければ実施できない。審査前の投与は許されない。
研究倫理の枠組み
・ヘルシンキ宣言:世界医師会による人を対象とする医学研究の倫理原則。研究計画は研究開始前に独立した研究倫理委員会に提出し、審査・承認を受けなければならないとしている。 ・人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針:わが国で一般的な医学系研究に適用される指針。研究責任者は研究計画書を作成して倫理審査委員会の意見を聴き、研究機関の長の許可を得てから研究を開始する。介入研究では、公開データベースへの事前登録や、モニタリングなどが求められる。 ・臨床研究法:医薬品等を人に用いてその有効性・安全性を明らかにする研究のうち、未承認・適応外の医薬品等を用いるものや、製薬企業等から資金提供を受けるものを「特定臨床研究」とし、認定臨床研究審査委員会の審査や公開データベース(jRCT)への登録などを義務付けている。 ・GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準):医薬品医療機器等法に基づく省令で、承認申請のための臨床試験(治験)に適用される。治験審査委員会〈IRB〉による審査、治験責任医師の設置、文書による説明と同意(いつでも参加を取りやめられることの説明を含む)、モニタリング・監査への協力、健康被害の補償などを求めている。
研究計画書に記載する主な事項
研究の名称、目的と意義、方法と期間、対象者の選定方針(選択・除外基準)、介入の内容、評価項目、症例数とその設定根拠、データの収集・管理方法、統計解析方法、インフォームドコンセントの手続き、個人情報の取扱い、予測される利益と負担・リスク、謝礼・補償、利益相反、試料・情報の保管と廃棄などである。
倫理審査前と後の区別
・審査前:研究計画書・説明文書の作成(データ収集・解析計画、選択基準、謝金の設定などを含む)。 ・審査・承認後:参加者の募集、説明と同意の取得、適格性の判定、登録、介入(薬剤投与など)、データ収集、謝金の支払い。
POINT
・倫理審査は研究「計画」の審査であり、データの収集・解析方法を含む研究計画書は審査前に完成させる。 ・同意取得、適格性判定、介入(薬剤投与)、謝金支払いなど、人と関わる研究行為はすべて承認後に行う。 ・選択基準や謝金の額など「決めておく」ことは審査前、それを「実行する」ことは審査後と区別する。 ・治験はGCPに基づき治験審査委員会〈IRB〉の審査を受け、文書による同意を得て行う。
