StudyMed医師国家試験

「お金が心配です」と言われたら―退院支援で医療ソーシャルワーカーにつなぐ判断力

第108回医師国家試験 C問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第16問

80歳の女性。肺炎のため入院中である。症状が改善したため退院を計画している。75歳で脳梗塞により左不全麻痺となったが,リハビリテーションにより屋内杖歩行が可能である。排泄や食事も自立している。主な介護者である夫は,自宅療養にあたって経済的な不安を訴えている。  担当医が夫に勧める相談者として最も適切なのはどれか。

  1. a.薬剤師
  2. b.管理栄養士
  3. c.作業療法士
  4. d.理学療法士
  5. e.医療ソーシャルワーカー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、退院を控えた患者さんの家族から出た「困りごと」を、どの専門職につなぐかを考える問題だ。着眼点はひとつ。家族が何に困っているのか、その中身を正確に見極めることだよ。
医学生医学生
脳梗塞後の麻痺がある高齢の方なので、リハビリの専門職かなと最初は思いました。
ドクタードクター
病歴に引っ張られると、そう考えたくなるよね。でも身体面を整理してみよう。屋内は杖で歩けて、排泄や食事も自立している。つまり日常生活動作は比較的保たれていて、退院に向けて身体機能で大きな新しい介入が必要な状況ではないんだ。
医学生医学生
確かに、夫が訴えているのは体のことじゃなくて「経済的な不安」でしたね。
ドクタードクター
そう、そこが核心。本問の課題は医学的な治療ではなく、療養生活を支える費用や制度の問題、つまり社会的・経済的な問題なんだ。こういう問題には、使える公的制度や社会資源を調べて紹介し、手続きを手伝える職種につなぐ必要がある。病院でその役割を担うのが医療ソーシャルワーカー、MSWだよ。
医学生医学生
臨床実習で総合診療科を回ったとき、退院前カンファレンスにMSWさんが参加していました。でも具体的に何をしているのか、よく分かっていなかったです。
ドクタードクター
いい機会だから押さえておこう。MSWは医療機関で患者さんや家族の経済的・心理的・社会的な問題の相談に応じ、解決や調整を支援する専門職だ。多くは社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持っている。経済面なら、高額療養費制度などの医療費の負担を軽くする制度、介護保険の要介護認定の申請とサービス利用、身体障害者手帳とそれに伴う福祉サービス、生活保護などを紹介して、手続きを援助するんだ。
医学生医学生
介護保険って、脳梗塞の後遺症でも使えるんでしょうか。
ドクタードクター
この方は80歳だから第1号被保険者で、原因を問わず要介護・要支援の認定を受ければ使える。訪問介護や通所サービス、福祉用具の貸与、住宅改修費の支給などを、所得に応じた自己負担で利用できるよ。どの区分に認定されるかは認知機能や介護の手間なども含めて判定されるから、問題文だけからは言えないけどね。
医学生医学生
ほかの選択肢も一応確認したいです。薬剤師さんならジェネリックへの切り替えで薬代を減らせるので、経済面の相談にも乗れるのでは?
ドクタードクター
鋭いね。たしかに薬剤師は多剤併用の見直しや後発医薬品への切り替えで薬剤費を抑える提案ができる。でもそれは経済的な問題のごく一部にすぎない。本来の役割は調剤や服薬指導、副作用や相互作用の確認で、自宅療養全般の経済的不安に制度を総合的に案内する立場ではないんだ。
医学生医学生
管理栄養士さんは栄養評価や食事指導の専門家なので、食事が自立していて訴えも食事のことではない今回は違いますね。
ドクタードクター
その通り。では理学療法士と作業療法士の違いは説明できるかな。
医学生医学生
OSCE前に整理しました。理学療法士は起き上がりや立位、歩行などの基本動作、作業療法士は食事や更衣、家事などの応用的な動作や高次脳機能のリハビリですよね。
ドクタードクター
完璧だ。作業療法士は自助具の選定や住環境の調整も助言できるし、理学療法士は退院後の転倒予防や歩行補助具の相談に向いている。ただ今回はどちらも、夫の経済的不安に応える職種ではない。
医学生医学生
訴えの中身が「体」なのか「栄養」なのか「薬」なのか「お金や制度」なのかで、つなぐ先が変わるんですね。
ドクタードクター
まさにそれが多職種連携の基本だよ。発展として覚えておきたいのは、MSWが地域ともつながっていること。退院に向けてケアマネジャーや地域包括支援センター、行政と連携し、在宅療養の体制を整えてくれる。今回のように高齢の夫婦だけの世帯、いわゆる老老介護になりそうなケースでは、介護者の負担や孤立にも目を向けたい。
医学生医学生
医師が経済的な話まで踏み込むのは少し気が引けていましたが、聞いたうえで適切な人に橋渡しするのが大事なんですね。
ドクタードクター
そう。医師が制度の細部まで全部答える必要はないけれど、生活上や経済上の困りごとに気づいて拾い上げることは医師の大切な役割だ。お金の不安は退院後の受診中断や服薬中断にもつながりうるから、早めにMSWへつなぐ意識を持っておこう。

まとめ

退院支援では、医学的な問題だけでなく、患者・家族が抱える生活上・経済上の困りごとを把握し、内容に応じて適切な専門職へつなぐことが求められます。経済的な不安や公的制度・社会資源の利用に関する相談は医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割で、高額療養費制度、介護保険、身体障害者手帳、生活保護などを紹介して手続きを支援し、ケアマネジャーや地域包括支援センターとも連携して在宅療養の体制を整えます。薬剤師は服薬指導や薬剤管理、管理栄養士は栄養評価と食事指導、理学療法士は基本動作や歩行、作業療法士は日常生活動作や応用動作の訓練を担い、それぞれ専門領域が異なります。「誰に相談するのが最も適切か」を訴えの中身から判断する視点は、チーム医療の一員として働くうえでの基本となります。

解答・解説

正解はeです

状況の整理

・80歳女性。肺炎は改善し、退院を計画している段階である。 ・75歳時の脳梗塞による左不全麻痺があるが、リハビリテーションにより屋内は杖歩行が可能で、排泄・食事も自立している。つまり日常生活動作〈ADL〉は比較的保たれており、身体機能面で新たに大きな介入を要する状況ではない。 ・主な介護者は夫であり、高齢の夫婦のみの世帯(いわゆる老老介護)である可能性が高い。 ・夫が訴えているのは「自宅療養にあたっての経済的な不安」である。

問われていること

本問の課題は医学的な治療ではなく、療養生活を支える費用や制度の問題、すなわち社会的・経済的な問題である。このような問題に対しては、利用できる公的制度や社会資源(医療費の負担軽減制度、介護保険サービス、障害者福祉サービスなど)を調べて紹介し、手続きを支援できる職種につなぐのが適切である。病院でその役割を担うのが医療ソーシャルワーカー〈MSW〉である。 退院支援では、医師が医学的な問題だけでなく、患者・家族が抱える生活上・経済上の困りごとを把握し、それぞれの専門職へ適切に橋渡しすること(多職種連携)が求められる。訴えの内容に応じて「誰に相談するのが最も適切か」を判断する視点が大切である。

選択肢考察

  1. ×a.  薬剤師

    薬剤師は調剤、服薬指導、薬物相互作用や副作用の確認、残薬管理などを担う。高齢者では多剤併用(ポリファーマシー)の見直しや、後発医薬品(ジェネリック医薬品)への切り替えで薬剤費を抑える提案もできるが、それは経済的問題のごく一部にすぎない。自宅療養全般の経済的不安に対して制度や社会資源を総合的に案内する立場ではなく、最も適切な相談者とはいえない。

  2. ×b.  管理栄養士

    管理栄養士は、疾患や身体状況に応じた栄養評価、食事療法の指導、給食管理などを担う。本症例では食事は自立しており、夫の訴えも栄養・食事に関するものではない。経済的な不安の相談先としては適切でない。

  3. ×c.  作業療法士

    作業療法士〈OT〉は、食事・更衣・入浴などの日常生活動作や家事などの応用的動作、高次脳機能に対するリハビリテーションを担い、自助具の選定や住環境の調整も助言する。本症例はADLが自立しており、また夫の不安は経済面であるため、最も適切な相談者ではない。

  4. ×d.  理学療法士

    理学療法士〈PT〉は、起居動作・立位・歩行などの基本的動作能力の回復や維持を目的に、運動療法や物理療法を行う。退院後の転倒予防や歩行補助具の相談には適するが、本症例は屋内杖歩行が可能であり、夫の訴えである経済的不安に対応する職種ではない。

  5. ○e.  医療ソーシャルワーカー

    医療ソーシャルワーカー〈MSW〉は、保健医療機関において患者・家族が抱える経済的・心理的・社会的問題の相談に応じ、その解決や調整を支援する専門職である。多くは社会福祉士や精神保健福祉士の資格をもつ。経済的問題に対しては、高額療養費制度などの医療費負担を軽くする制度、介護保険の要介護認定の申請と介護サービスの利用、身体障害者手帳の取得とそれに伴う福祉サービス、生活保護などの公的制度を紹介し、手続きを援助する。さらに退院に向けて、ケアマネジャー(介護支援専門員)や地域包括支援センター、行政と連携して在宅療養の体制を整える。夫の経済的不安の相談者として最も適切である。

医療ソーシャルワーカーの主な業務

厚生労働省の「医療ソーシャルワーカー業務指針」では、主な業務として次が挙げられている。 1. 療養中の心理的・社会的問題の解決・調整援助 2. 退院援助 3. 社会復帰援助 4. 受診・受療援助 5. 経済的問題の解決・調整援助 6. 地域活動

在宅療養で利用しうる主な制度(経済面)

・高額療養費制度:1か月の医療費の自己負担額が所得に応じた上限を超えた場合、超過分が払い戻される。 ・高額介護サービス費、高額医療・高額介護合算療養費制度:介護サービス費や、医療と介護の自己負担の合計が高額になった場合に負担を軽減する。 ・介護保険:65歳以上(第1号被保険者)は原因を問わず、要介護・要支援認定を受ければ訪問介護、通所サービス、福祉用具貸与、住宅改修費の支給などを所得に応じた自己負担で利用できる。 ・身体障害者手帳:脳梗塞後の麻痺など一定以上の障害が固定した場合に交付され、各種の福祉サービスや税の控除などが受けられる。 ・生活保護:生活に困窮する場合の最終的な公的扶助である。

退院支援に関わる主な職種と役割

・医師:医学的評価と方針決定、多職種の調整 ・看護師:療養上の世話・指導、退院後の生活を見据えた看護 ・薬剤師:服薬指導、薬剤管理 ・管理栄養士:栄養評価・食事指導 ・理学療法士:基本動作・歩行の訓練 ・作業療法士:ADL・応用動作の訓練、住環境の助言 ・言語聴覚士:言語・嚥下の訓練 ・医療ソーシャルワーカー:経済的・社会的問題の相談、社会資源の調整 ・介護支援専門員(ケアマネジャー):介護保険のケアプラン作成とサービス調整

POINT

・経済的な不安や社会制度・社会資源の利用に関する相談は、医療ソーシャルワーカー〈MSW〉につなぐ。 ・MSWは医療費負担軽減制度、介護保険、障害者福祉、生活保護などを案内し、退院支援で地域の関係機関と連携する。 ・訴えの内容(身体機能・栄養・薬・経済)に応じて、適切な職種へ橋渡しすることが多職種連携の基本である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。