StudyMed医師国家試験

重力には勝てるが抵抗には負ける―徒手筋力テスト「3」を見抜く2つの分岐点

第117回医師国家試験 B問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第35問

60歳の男性。右上肢筋力低下を主訴に来院した。徒手筋力テストで,前腕回外位で右肘屈曲させたところ,重力に抗して全可動域の運動が可能であったが,軽い抵抗が加わると不可能であった。  右肘屈曲(上腕二頭筋)の徒手筋力テストの評価はどれか。

  1. a.1
  2. b.2
  3. c.3
  4. d.4
  5. e.5

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、徒手筋力テスト、いわゆるMMTの判定を問う問題だ。0から5までの6段階を丸暗記するより、「重力に抗して全可動域を動かせるか」「抵抗に耐えられるか」という2つの分岐点で考えると迷わなくなる。まずは検査の肢位から確認しよう。前腕を回外位にして肘を曲げてもらうのは、どの筋を見るためかな。
医学生医学生
手のひらを上に向けて肘を曲げるので、上腕二頭筋ですね。でも肘を曲げる筋は他にもあったような気がします。
ドクタードクター
いいところに気付いたね。肘屈曲には上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋が関わる。上腕二頭筋は回外作用も持つから、回外位で最も働きやすい。一方、前腕の回内・回外中間位、つまり親指を上に向けた肢位では腕橈骨筋の収縮が目立つ。調べたい筋に合わせて肢位を選ぶのがポイントなんだ。
医学生医学生
解剖実習で上腕二頭筋の腱が橈骨粗面に付くのを確認したのを思い出しました。だから回外にも働くんですね。
ドクタードクター
その通り。では本題の判定だ。最初の分岐点、重力に抗して全可動域を動かせたかどうか、今回はどうだった?
医学生医学生
重力に抗して最後まで曲げられているので、3以上ですね。ただ、軽い抵抗で負けてしまうなら、筋力はかなり弱いので2くらいかなとも思ってしまいました。
ドクタードクター
そこがよくある勘違いだ。2は「重力を除けば全可動域を動かせるが、重力には抗しきれない」段階。例えば机の上で腕を水平に滑らせるような運動ならできる、というレベルだね。今回は重力に打ち勝って最後まで動かせているから、2より上の段階にあると判断できる。
医学生医学生
なるほど。重力に勝てるかどうかが、3以上か2以下かの境目なんですね。
ドクタードクター
そう。次の分岐点が抵抗だ。3以上と分かったら、検者が抵抗を加えても動かせるかを見る。強い抵抗にも耐えられれば5で正常、中等度の抵抗には耐えるが強い抵抗には負けるなら4、抵抗には全く耐えられないなら3。今回は軽い抵抗すら打ち勝てないから、正解はMMT 3だ。
医学生医学生
重力という負荷にはぎりぎり勝てるけれど、それ以上の負荷はかけられない筋力、というイメージですね。
ドクタードクター
いい表現だね。では残りの段階も整理しておこう。1と0の違いは分かるかな。
医学生医学生
1は筋収縮が見えたり触れたりするけれど関節が動かない状態で、0は収縮すらない状態でしたよね。OSCEの練習で、筋腹を触って収縮を確かめる手技を習いました。
ドクタードクター
完璧だ。2以下の段階では、重力を除いた肢位で全可動域を動かせれば2、収縮だけなら1、何もなければ0と細分していく。臨床では「4+」「3−」のように+や−をつけて細かく記録することもあるよ。
医学生医学生
整形外科の外来で、医師が左右を比べながら「4かな」とつぶやいていたのを思い出しました。判定の時に気をつけることはありますか。
ドクタードクター
大事なのは左右差の比較と、代償運動を見逃さないことだ。肩をすくめたり体幹を傾けたりして、別の筋で動かしたように見せてしまうことがあるから、肢位と固定をしっかり行う。また脳卒中のような中枢性麻痺では、痙縮や共同運動の影響でMMTが当てにならないことがあり、ブルンストロームステージなど別の評価法を併用するんだ。
医学生医学生
この患者さんは60歳で右上肢だけ弱いので、原因も気になります。上腕二頭筋の支配神経は筋皮神経でしたよね。
ドクタードクター
そう、筋皮神経で、主にC5・C6髄節の支配だ。腕橈骨筋は橈骨神経支配だけど、髄節は同じC5・C6。高齢者の一側上肢の筋力低下なら、頸椎症性神経根症や腱板断裂、上腕二頭筋腱断裂なども鑑別に挙がる。どの筋がどれだけ弱いか、感覚障害や上腕二頭筋反射はどうかを組み合わせると、神経根なのか末梢神経なのか、あるいは腱や筋そのものの問題なのかを絞り込めるんだ。MMTの数字は、その推理の出発点になるわけだね。

まとめ

徒手筋力テスト(MMT)は筋力を0〜5の6段階で判定し、まず「重力に抗して全可動域を動かせるか」で3以上か2以下かを分け、次に「抵抗に耐えられるか」で細分すると判定しやすくなります。重力に抗して全可動域を動かせるが軽い抵抗で動かせなくなる本例はMMT 3であり、中等度の抵抗に耐えれば4、強い抵抗にも耐えれば5、重力除去下でのみ動かせれば2、収縮のみなら1、収縮もなければ0です。上腕二頭筋は前腕回外位、腕橈骨筋は回内・回外中間位で肘屈曲をみるように、検査肢位によって評価する筋が変わる点も重要です。上腕二頭筋は筋皮神経(C5・C6)支配であり、左右差や代償運動に注意しながら、感覚障害や腱反射と組み合わせることで頸椎症性神経根症などの障害部位推定につなげられます。MMTを正確に判定できることは、神経診察や整形外科診察の基本であり、リハビリテーションの経過評価にも欠かせない技能です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・60歳男性が右上肢の筋力低下を訴えている。 ・前腕を回外位(手のひらを上に向けた状態)にして肘を屈曲させる検査は、上腕二頭筋の筋力を評価する手技である。 ・結果は「重力に逆らって関節の全可動域を動かせるが、検者が軽い抵抗を加えると動かせない」というものであった。

評価の考え方

徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT)は、筋力を0〜5の6段階で判定する方法である。段階を決める際は、次の順に確認すると判定しやすい。 1. 重力に抗して全可動域を動かせるか → 動かせれば3以上、動かせなければ2以下。 2. (3以上の場合)抵抗を加えても全可動域を動かせるか → 軽〜中等度の抵抗に耐えれば4、強い抵抗にも耐えれば5、抵抗に全く耐えられなければ3。 3. (2以下の場合)重力を除いた肢位(水平面での運動など)で全可動域を動かせれば2、筋収縮は触知できるが関節が動かなければ1、収縮も全くなければ0。 本例は手順1で「重力に抗して全可動域の運動が可能」なので3以上であり、手順2で「軽い抵抗で不可能」となるため4には達しない。したがって評価はMMT 3である。 上腕二頭筋は筋皮神経(主にC5・C6髄節)に支配される。高齢男性の一側上肢の筋力低下では、頸椎症性神経根症(C5・C6神経根)や腱板断裂、上腕二頭筋腱断裂なども鑑別に挙がり、他の筋の筋力や感覚障害、腱反射(上腕二頭筋反射)と組み合わせて障害部位を推定することになる。

選択肢考察

  1. ×a.  1

    MMT 1(trace)は、筋の収縮が視診や触診で確認できるものの、関節運動が全く生じない状態である。本例は重力に抗して全可動域を動かせているため、これよりはるかに筋力が保たれている。

  2. ×b.  2

    MMT 2(poor)は、重力の影響を除いた肢位であれば全可動域を動かせるが、重力に逆らうと全可動域を動かせない状態である。本例は重力に抗して全可動域の運動が可能なので、2より上の段階にある。

  3. ○c.  3

    MMT 3(fair)は、重力に抗して全可動域を動かせるが、検者が抵抗を加えると運動を保てない状態である。本例は回外位での肘屈曲を重力に逆らって最後まで行えたものの、軽い抵抗で不可能となっており、まさにこの段階に一致する。重力という負荷には打ち勝てるが、それ以上の負荷には耐えられない筋力と理解するとよい。

  4. ×d.  4

    MMT 4(good)は、重力に抗して全可動域を動かせ、さらに中等度程度の抵抗を加えても運動を保てるが、強い抵抗には負けてしまう状態である。本例は軽い抵抗すら打ち勝てないため4には当たらない。

  5. ×e.  5

    MMT 5(normal)は、重力と検者の強い抵抗に抗して全可動域を動かせる正常筋力である。本例は軽い抵抗で運動できなくなっており、明らかな筋力低下がある。

徒手筋力テスト(MMT)の段階

・5(Normal):強い抵抗を加えても、重力に抗して全可動域を動かせる。 ・4(Good):ある程度(中等度)の抵抗を加えても、重力に抗して全可動域を動かせる。 ・3(Fair):抵抗を加えなければ、重力に抗して全可動域を動かせる。 ・2(Poor):重力を除けば全可動域を動かせる。 ・1(Trace):筋収縮は認めるが、関節運動は起こらない。 ・0(Zero):筋収縮も全く認めない。 ※臨床では「4+」「3−」のように+/−を付けて細かく表現することもある。

肘屈曲に関わる筋と検査肢位

・上腕二頭筋:前腕回外位で肘を屈曲させて評価する。支配神経は筋皮神経(C5・C6)。前腕の回外作用も持つ。 ・上腕筋:前腕の肢位にかかわらず肘を屈曲させる主力筋で、前腕回内位では上腕二頭筋の関与が減るため主に本筋が働く。主に筋皮神経支配。 ・腕橈骨筋:前腕回内・回外中間位(親指を上に向けた肢位)で肘を屈曲させると収縮が目立つ。支配神経は橈骨神経(C5・C6)。 このように前腕の肢位によって主に働く筋が変わるため、上腕二頭筋を評価したいときは回外位で検査することが重要である。

MMT実施時の注意

・判定はまず「重力に抗して全可動域を動かせるか」で3以上か2以下かを分け、次に抵抗の有無・強さ、あるいは重力除去下の運動・筋収縮の有無で細分する。 ・左右差を比較し、代償運動(他の筋による見かけの運動)が入らないよう、肢位と固定に注意する。 ・中枢性の麻痺(脳卒中など)では、痙縮や共同運動の影響で MMT の判定が難しい場合があり、ブルンストロームステージなど別の評価法を併用する。

POINT

・MMTは0〜5の6段階。3は「重力に抗して全可動域を動かせるが、抵抗には耐えられない」。 ・判定の分岐点は「重力に抗して全可動域を動かせるか(3以上か2以下か)」と「抵抗に耐えられるか(4以上か3か)」。 ・上腕二頭筋は前腕回外位、腕橈骨筋は回内・回外中間位で肘屈曲をみる。 ・上腕二頭筋は筋皮神経(C5・C6)支配、腕橈骨筋は橈骨神経(C5・C6)支配。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。