重力には勝てるが抵抗には負ける―徒手筋力テスト「3」を見抜く2つの分岐点
第117回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
60歳の男性。右上肢筋力低下を主訴に来院した。徒手筋力テストで,前腕回外位で右肘屈曲させたところ,重力に抗して全可動域の運動が可能であったが,軽い抵抗が加わると不可能であった。 右肘屈曲(上腕二頭筋)の徒手筋力テストの評価はどれか。
- a.1
- b.2
- c.3
- d.4
- e.5
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
徒手筋力テスト(MMT)は筋力を0〜5の6段階で判定し、まず「重力に抗して全可動域を動かせるか」で3以上か2以下かを分け、次に「抵抗に耐えられるか」で細分すると判定しやすくなります。重力に抗して全可動域を動かせるが軽い抵抗で動かせなくなる本例はMMT 3であり、中等度の抵抗に耐えれば4、強い抵抗にも耐えれば5、重力除去下でのみ動かせれば2、収縮のみなら1、収縮もなければ0です。上腕二頭筋は前腕回外位、腕橈骨筋は回内・回外中間位で肘屈曲をみるように、検査肢位によって評価する筋が変わる点も重要です。上腕二頭筋は筋皮神経(C5・C6)支配であり、左右差や代償運動に注意しながら、感覚障害や腱反射と組み合わせることで頸椎症性神経根症などの障害部位推定につなげられます。MMTを正確に判定できることは、神経診察や整形外科診察の基本であり、リハビリテーションの経過評価にも欠かせない技能です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・60歳男性が右上肢の筋力低下を訴えている。 ・前腕を回外位(手のひらを上に向けた状態)にして肘を屈曲させる検査は、上腕二頭筋の筋力を評価する手技である。 ・結果は「重力に逆らって関節の全可動域を動かせるが、検者が軽い抵抗を加えると動かせない」というものであった。
評価の考え方
徒手筋力テスト(manual muscle testing:MMT)は、筋力を0〜5の6段階で判定する方法である。段階を決める際は、次の順に確認すると判定しやすい。 1. 重力に抗して全可動域を動かせるか → 動かせれば3以上、動かせなければ2以下。 2. (3以上の場合)抵抗を加えても全可動域を動かせるか → 軽〜中等度の抵抗に耐えれば4、強い抵抗にも耐えれば5、抵抗に全く耐えられなければ3。 3. (2以下の場合)重力を除いた肢位(水平面での運動など)で全可動域を動かせれば2、筋収縮は触知できるが関節が動かなければ1、収縮も全くなければ0。 本例は手順1で「重力に抗して全可動域の運動が可能」なので3以上であり、手順2で「軽い抵抗で不可能」となるため4には達しない。したがって評価はMMT 3である。 上腕二頭筋は筋皮神経(主にC5・C6髄節)に支配される。高齢男性の一側上肢の筋力低下では、頸椎症性神経根症(C5・C6神経根)や腱板断裂、上腕二頭筋腱断裂なども鑑別に挙がり、他の筋の筋力や感覚障害、腱反射(上腕二頭筋反射)と組み合わせて障害部位を推定することになる。
選択肢考察
- ×a. 1
MMT 1(trace)は、筋の収縮が視診や触診で確認できるものの、関節運動が全く生じない状態である。本例は重力に抗して全可動域を動かせているため、これよりはるかに筋力が保たれている。
- ×b. 2
MMT 2(poor)は、重力の影響を除いた肢位であれば全可動域を動かせるが、重力に逆らうと全可動域を動かせない状態である。本例は重力に抗して全可動域の運動が可能なので、2より上の段階にある。
- ○c. 3
MMT 3(fair)は、重力に抗して全可動域を動かせるが、検者が抵抗を加えると運動を保てない状態である。本例は回外位での肘屈曲を重力に逆らって最後まで行えたものの、軽い抵抗で不可能となっており、まさにこの段階に一致する。重力という負荷には打ち勝てるが、それ以上の負荷には耐えられない筋力と理解するとよい。
- ×d. 4
MMT 4(good)は、重力に抗して全可動域を動かせ、さらに中等度程度の抵抗を加えても運動を保てるが、強い抵抗には負けてしまう状態である。本例は軽い抵抗すら打ち勝てないため4には当たらない。
- ×e. 5
MMT 5(normal)は、重力と検者の強い抵抗に抗して全可動域を動かせる正常筋力である。本例は軽い抵抗で運動できなくなっており、明らかな筋力低下がある。
徒手筋力テスト(MMT)の段階
・5(Normal):強い抵抗を加えても、重力に抗して全可動域を動かせる。 ・4(Good):ある程度(中等度)の抵抗を加えても、重力に抗して全可動域を動かせる。 ・3(Fair):抵抗を加えなければ、重力に抗して全可動域を動かせる。 ・2(Poor):重力を除けば全可動域を動かせる。 ・1(Trace):筋収縮は認めるが、関節運動は起こらない。 ・0(Zero):筋収縮も全く認めない。 ※臨床では「4+」「3−」のように+/−を付けて細かく表現することもある。
肘屈曲に関わる筋と検査肢位
・上腕二頭筋:前腕回外位で肘を屈曲させて評価する。支配神経は筋皮神経(C5・C6)。前腕の回外作用も持つ。 ・上腕筋:前腕の肢位にかかわらず肘を屈曲させる主力筋で、前腕回内位では上腕二頭筋の関与が減るため主に本筋が働く。主に筋皮神経支配。 ・腕橈骨筋:前腕回内・回外中間位(親指を上に向けた肢位)で肘を屈曲させると収縮が目立つ。支配神経は橈骨神経(C5・C6)。 このように前腕の肢位によって主に働く筋が変わるため、上腕二頭筋を評価したいときは回外位で検査することが重要である。
MMT実施時の注意
・判定はまず「重力に抗して全可動域を動かせるか」で3以上か2以下かを分け、次に抵抗の有無・強さ、あるいは重力除去下の運動・筋収縮の有無で細分する。 ・左右差を比較し、代償運動(他の筋による見かけの運動)が入らないよう、肢位と固定に注意する。 ・中枢性の麻痺(脳卒中など)では、痙縮や共同運動の影響で MMT の判定が難しい場合があり、ブルンストロームステージなど別の評価法を併用する。
POINT
・MMTは0〜5の6段階。3は「重力に抗して全可動域を動かせるが、抵抗には耐えられない」。 ・判定の分岐点は「重力に抗して全可動域を動かせるか(3以上か2以下か)」と「抵抗に耐えられるか(4以上か3か)」。 ・上腕二頭筋は前腕回外位、腕橈骨筋は回内・回外中間位で肘屈曲をみる。 ・上腕二頭筋は筋皮神経(C5・C6)支配、腕橈骨筋は橈骨神経(C5・C6)支配。
