尿は食卓を映す鏡―24時間蓄尿で読み解く「本当の塩分摂取量」
第108回医師国家試験 B問題 第62問
国試問題にチャレンジ
慢性腎臓病の食事・生活指導のため,1日蓄尿検査を行った。尿量2,000 mL,尿中Na 128 mEq/L,尿蛋白70 mg/dL,尿クレアチニン50 mg/dLであった。 1日塩分排泄量から1日食塩摂取量を求めよ。 ただし,NaCl 1 gはNa 17 mEqに相当する。 また,小数点以下の数値が得られた場合には,小数点以下第1位を四捨五入すること(単位:g)。 解答:①② g
対話形式の解説
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ドクターまとめ
体内のNa量が一定に保たれている定常状態では、1日の尿中Na排泄量はほぼ1日のNa摂取量に等しいため、24時間蓄尿から食塩摂取量を推定できます。本問では128 mEq/L×2 L=256 mEqを求め、NaClの式量約58.5に由来する換算係数(NaCl 1 g≒Na 17 mEq)で割ると約15 gとなり、尿蛋白や尿クレアチニンは計算に用いません。CKD患者の食塩摂取目標は1日3 g以上6 g未満であり、15 gは明らかな過剰摂取として減塩指導の対象になります。尿クレアチニンは蓄尿の完全性の確認に、尿蛋白は重症度評価に役立つなど、蓄尿は食事・生活指導の効果を客観的に評価する有用な道具です。単位換算の意味を理解しておくことは、輸液計算など臨床のさまざまな場面の土台になります。
解答・解説
正解は15 gです
考え方
食塩(NaCl)として摂取したNaは消化管からほぼ完全に吸収され、体内のNa量が一定に保たれている定常状態では、摂取した分とほぼ同じ量が尿中に排泄される(汗や便からの喪失はふつう少ない)。そのため、24時間蓄尿で1日の尿中Na排泄量を測定すれば、1日の食塩摂取量を推定できる。本問で必要なのは尿量と尿中Na濃度だけであり、尿蛋白と尿クレアチニンは計算には用いない。
計算過程
1. 1日尿中Na排泄量を求める。 尿量2,000 mL=2 L 128 mEq/L × 2 L = 256 mEq/日 2. 食塩量に換算する。 NaCl 1 gはNa 17 mEqに相当するので、 256 mEq ÷ 17 mEq/g ≒ 15.06 g 3. 小数点以下第1位を四捨五入する。 15.06 → 15 g したがって、1日食塩摂取量は約15 gと推定される。
換算係数の確認
Naの原子量は約23、Clは約35.5で、NaClの式量は約58.5である。NaCl 1 gに含まれるNaは1 ÷ 58.5 ≒ 0.0171 mol = 約17 mmolで、Naは1価の陽イオンなので17 mEqとなる。問題で与えられた「NaCl 1 g=Na 17 mEq」はこの計算に基づく。
結果の解釈
慢性腎臓病(CKD)患者の食塩摂取量の目標は1日3 g以上6 g未満とされており、15 gはその2倍以上の過剰摂取である。減塩指導が必要と判断される。
蓄尿検査からわかるほかの指標(本問のデータを用いた場合)
・1日尿蛋白排泄量:70 mg/dL × 20 dL(=2,000 mL)= 1,400 mg = 1.4 g/日。CKDの重症度分類では、蛋白尿0.50 g/日以上(または0.50 g/gCr以上)が高度蛋白尿(A3区分)にあたる。 ・1日尿クレアチニン排泄量:50 mg/dL × 20 dL = 1,000 mg = 1.0 g/日。クレアチニンは筋肉量に応じてほぼ一定量排泄されるため(成人でおおむね15〜25 mg/kg/日前後)、蓄尿が正しく行われたか(取りこぼしがないか)の確認に使われる。また尿蛋白/クレアチニン比は1.4 g/gCrとなり、随時尿で1日蛋白尿量を推定する際に用いる指標と一致する。 ・蛋白質摂取量の推定:尿中尿素窒素排泄量を用いたMaroniの式(推定蛋白質摂取量(g/日)=[1日尿中尿素窒素排泄量(g)+0.031 × 体重(kg)]× 6.25)で求められる。本問では尿素窒素が与えられていないため計算できない。
食塩摂取量の目標値
・CKD患者:1日3 g以上6 g未満(過度の減塩は脱水や腎機能悪化を招くおそれがあり、下限も設定されている) ・高血圧患者:1日6 g未満 ・日本人の食事摂取基準(2025年版)の目標量:成人男性7.5 g未満、成人女性6.5 g未満 ・日本人の平均摂取量は近年おおむね10 g前後で、目標値を上回っている。
推定の注意点
尿中Na排泄量は摂取量のおよそ9割前後を反映するとされ、大量の発汗や下痢があると実際の摂取量より少なく見積もられる。また1日だけの蓄尿では日ごとの食事内容のばらつきの影響を受ける。随時尿のNa・クレアチニン比から1日食塩摂取量を推定する簡易法もあるが、精度は24時間蓄尿に劣る。
POINT
・定常状態では1日尿中Na排泄量≒1日Na摂取量である。 ・1日尿中Na排泄量(mEq)=尿中Na濃度(mEq/L)×1日尿量(L)。 ・食塩換算:NaCl 1 g ≒ Na 17 mEq(NaClの式量約58.5)。つまり食塩摂取量(g)≒尿中Na排泄量(mEq)÷17。 ・本問:128 × 2 = 256 mEq、256 ÷ 17 ≒ 15.06 → 15 g。 ・CKDの食塩摂取目標は1日3 g以上6 g未満、高血圧では6 g未満。
