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同意は誰に求める?―診療情報の第三者提供と「法令に基づく」例外

第108回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第1問

診療情報を第三者に開示する際の個人情報の保護として適切なのはどれか。

  1. a.保険会社の同意が必要である。
  2. b.利用目的の特定は不要である。
  3. c.死者の情報の保護は不要である。
  4. d.特定機能病院では本人の同意は不要である。
  5. e.法に基づく保健所への届出に本人の同意は不要である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、患者さんの診療情報を外部に渡すときの個人情報保護のルールを問う問題だ。考える軸は2つ。「同意を与えるのは誰か」と「どんな場面なら例外的に同意が不要になるか」。まずは基本原則から確認しよう。
医学生医学生
個人情報保護法では、第三者に提供するときは本人の同意が必要、と習いました。
ドクタードクター
その通り。個人データを第三者に提供するには、原則としてあらかじめ本人の同意を得る必要がある。同意の主体はあくまで情報の持ち主である患者本人だ。では、保険会社の同意が必要という選択肢はどうかな。
医学生医学生
臨床実習で、保険会社から診断書や照会の書類が来ていたのを見ました。保険会社が関わるなら、保険会社の同意も要るのかと少し迷います。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。保険会社は情報を受け取る側であって、その同意は提供の要件ではない。実際には、患者本人の同意書や委任状が添えられているかを確認したうえで回答するんだ。
医学生医学生
なるほど、求めてくる側ではなく、情報の持ち主の同意が要るんですね。利用目的の特定が不要という選択肢は、なんとなく違う気がします。
ドクタードクター
感覚は正しい。個人情報取扱事業者は、利用目的をできる限り具体的に特定しなければならないし、その範囲を超えて使うなら本人の同意が必要になる。病院の待合に、診療や会計、他院との連携などの利用目的が掲示されているのを見たことはないかな。
医学生医学生
あります。あれは法律上の義務に基づいていたんですね。死者の情報はどうですか。法律の対象は生きている人だけだったような……。
ドクタードクター
よく知っているね。個人情報保護法の個人情報は生存する個人の情報で、法律上は死者の情報は含まれない。でも、医療・介護分野のガイダンスでは、亡くなった後も生存者と同等の安全管理を求めている。遺族の個人情報にも関わりうるし、医師には刑法上の守秘義務もあるから、保護が不要とはいえないんだ。
医学生医学生
特定機能病院なら本人の同意が不要、というのは聞いたことがありません。
ドクタードクター
その通り、誤りだ。特定機能病院は高度な医療の提供・開発・研修を担う病院として医療法に基づき承認されるものだけれど、病院の種類で第三者提供のルールが変わることはない。診療所でも大学病院でも原則は同じだ。
医学生医学生
残るのは、法に基づく保健所への届出は本人の同意が不要、という選択肢ですね。感染症法の届出がこれにあたりますか。
ドクタードクター
正解。法律は本人の同意なしに提供できる例外を定めていて、その代表が「法令に基づく場合」だ。感染症法では、医師が特定の感染症を診断したら保健所長を経由して都道府県知事に届け出る義務がある。これは公益のために法律で課された義務だから、患者さんの同意の有無に左右されない。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、届出の対象疾患と期限をひたすら覚えた記憶があります。でも同意なしで届け出ると、守秘義務違反にはならないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。刑法の秘密漏示罪は「正当な理由なく」漏らすことを罰するもので、法令に基づく届出は正当な理由にあたるから違反にはならない。ほかの例外も整理しておこう。人の生命・身体の保護に必要で同意を得るのが難しい場合、たとえば意識のない救急患者の情報を搬送先に伝えるとき。公衆衛生や児童の健全育成に特に必要で同意取得が困難な場合、たとえばがん登録や児童虐待の通告。そして国や自治体の法定事務への協力だ。
医学生医学生
食品衛生法の食中毒の届出や、裁判所の令状による差押えも「法令に基づく場合」に入りますね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ臨床で知っておきたいのは、院内で診療に必要な範囲で医療者同士が情報を共有するのは利用目的の範囲内で、第三者提供にはあたらないということ。それと、病歴は要配慮個人情報として、取得の段階から原則本人の同意が必要になるなど、一般の個人情報より厳しく扱われる点も押さえておこう。
医学生医学生
原則は本人同意、例外は法令や生命保護など限られた場面、と整理して覚えます。

まとめ

診療情報を第三者に提供する際は、原則として情報の主体である患者本人の同意が必要であり、保険会社のような受け取る側の同意や、特定機能病院などの病院の種類によってこの原則が変わることはありません。例外として、法令に基づく場合、生命・身体の保護のため必要で同意取得が困難な場合、公衆衛生や児童の健全育成のため特に必要な場合、国や自治体の法定事務への協力の場合には、本人の同意なしに提供できます。感染症法に基づく保健所への届出はこの「法令に基づく場合」の典型で、刑法上の守秘義務違反にもあたりません。また、利用目的の特定は必須であり、死者の情報も医療分野のガイダンスでは生存者と同等の安全管理が求められます。原則と例外を区別して理解しておくことは、日常診療で書類照会や届出に迷わず対応するための基本となります。

解答・解説

正解はeです

本問は、医療機関がもつ患者の個人情報(診療情報)を第三者に渡す場面での取扱いのルールを問うものである。

基本原則

個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)では、個人データを第三者へ提供するには、原則として「本人」の同意をあらかじめ得なければならない。同意を与える主体はあくまで情報の持ち主である患者本人であり、情報を求めてくる側(保険会社など)や、情報を持つ医療機関の種類によってこの原則が変わることはない。

同意が不要となる例外

法は、次のような場合に限り、本人の同意なしでの第三者提供を認めている。 1)法令に基づく場合(感染症法による届出、裁判所の令状による捜索・差押え、文書提出命令など) 2)人の生命・身体・財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合(意識障害の患者の情報を救急搬送先に伝える等) 3)公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合(がん登録・児童虐待事例の情報共有等) 4)国の機関や地方公共団体などが法令の定める事務を行うことに協力する必要があり、同意を得るとその事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合

考え方

選択肢を読む際は「同意を与えるのは誰か」「どの場面なら例外として同意が不要か」の2点を軸に判断するとよい。法律に届出義務が定められている保健所への届出は、上記1)の「法令に基づく場合」の典型例である。

選択肢考察

  1. ×a.  保険会社の同意が必要である。

    誤り。第三者提供に必要なのは情報の主体である患者本人の同意である。生命保険・医療保険の請求や加入審査の際、保険会社から診断書や診療内容の照会を受けることは多いが、情報を受け取る側である保険会社の同意は提供の要件ではない。保険会社への回答にあたっては、患者本人の同意書(委任状)があることを確認する必要がある。

  2. ×b.  利用目的の特定は不要である。

    誤り。個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うにあたって利用目的をできる限り具体的に特定しなければならない。さらに、特定した目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱う場合には本人の同意が必要となる。医療機関では、診療・会計・他院との連携などの利用目的を院内掲示やホームページで公表するのが一般的である。

  3. ×c.  死者の情報の保護は不要である。

    誤り。個人情報保護法が対象とする「個人情報」は生存する個人に関する情報であり、法律上は死者の情報は含まれない。しかし、厚生労働省などが示す医療・介護関係事業者向けのガイダンスでは、患者が亡くなった後も、その情報を生存者の情報と同等に安全に管理するよう求めている。また、死者の情報は遺族の個人情報にも関わりうるうえ、医師には刑法上の守秘義務もあるため、死亡後であっても保護が不要になるわけではない。遺族への診療情報の提供は、厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」に沿って行う。

  4. ×d.  特定機能病院では本人の同意は不要である。

    誤り。特定機能病院は、高度な医療の提供・開発・研修を担う病院として医療法に基づき厚生労働大臣が承認するものである。病院の機能区分(特定機能病院、地域医療支援病院、一般の病院、診療所など)によって第三者提供の要件が変わることはなく、どの医療機関でも原則として本人の同意が必要である。

  5. ○e.  法に基づく保健所への届出に本人の同意は不要である。

    正しい。法令に基づく場合は、本人の同意を得ずに第三者提供ができる例外として法律に明記されている。例えば感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、医師が特定の感染症を診断した際、最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出ることが義務づけられている。この届出は公益上の必要から法律で課された義務であり、患者の同意の有無に左右されない。食品衛生法による食中毒の届出なども同様である。

個人情報保護法の主な義務(医療機関に関係の深いもの)

・利用目的の特定と、目的外利用の制限 ・取得時の利用目的の通知または公表 ・安全管理措置(漏えい・滅失・毀損の防止)、従業者や委託先の監督 ・第三者提供の制限(原則として本人の同意が必要) ・本人からの開示・訂正・利用停止の請求への対応 なお、病歴などは「要配慮個人情報」に位置づけられ、取得の段階から原則として本人の同意が必要とされるなど、一般の個人情報より厳格に扱われる。

守秘義務との関係

医師には刑法第134条による秘密漏示罪の規定があり、正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らすことは処罰の対象となる。法令に基づく届出は「正当な理由」にあたるため、守秘義務違反にはならない。

本人同意が不要となる具体例

・感染症法に基づく感染症の届出 ・食品衛生法に基づく食中毒の届出 ・麻薬及び向精神薬取締法に基づく麻薬中毒者の届出 ・裁判所の令状による捜索・差押え、文書提出命令 ・児童虐待防止法に基づく児童相談所等への通告 ・意識のない救急患者の情報を搬送先医療機関へ伝える場合(生命保護のため)

院内での共有

患者への医療の提供に必要な範囲で院内の医療従事者間で情報を共有することは、利用目的の範囲内の利用であり第三者提供にはあたらない。

POINT

・診療情報の第三者提供には、原則として患者本人の同意が必要である(保険会社などの受領側の同意ではない)。 ・例外は「法令に基づく場合」「生命・身体・財産の保護のため必要で同意取得が困難な場合」「公衆衛生・児童の健全育成のため特に必要で同意取得が困難な場合」「国や自治体の法定事務への協力」の4つ。 ・感染症法などに基づく保健所への届出は本人の同意なしに行える。 ・利用目的の特定は必須。 ・死者の情報は法律上の対象外だが、医療分野のガイダンスでは生存者と同等の安全管理が求められる。 ・病院の種類によって同意の要否は変わらない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。