StudyMed医師国家試験

「中立の相談窓口」であって裁判所ではない―医療安全支援センターの役割を正しく押さえる

第108回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第108回 C問題 第2問

医療安全支援センターの機能について正しいのはどれか。

  1. a.医師と患者の利害調整
  2. b.医療訴訟の際の証拠保全
  3. c.インシデントレポートの集計
  4. d.患者からの苦情や相談への対応
  5. e.医療過誤に対する民事責任の追及

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療安全に関わる組織の役割を問う問題だ。医療安全の分野には名前の似た機関や制度がいくつもあって、それぞれ何をするところなのかを混同しやすい。ポイントは、医療安全支援センターが「誰のための」「どんな立場の」窓口なのかを押さえることだよ。
医学生医学生
名前からすると、病院の医療事故を調べたり、ヒヤリ・ハットを集めたりする機関のような気がします。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でも実は、医療安全支援センターは医療法に基づいて都道府県や保健所を設置する市、特別区が設置する機関で、中心となる仕事は患者や家族、地域住民から寄せられる医療に関する苦情や相談に応じることなんだ。
医学生医学生
行政が運営する相談窓口ということですね。公衆衛生の講義で保健所の業務を習ったとき、そういえば名前が出てきた気がします。
ドクタードクター
その通り。だから正解は「患者からの苦情や相談への対応」だ。相談員が話を聞いて、助言や情報提供をしたり、必要に応じて医療機関の管理者に情報を伝えたり、適切な相談先を紹介したりする。ここで大事なのが「公正・中立な立場」という点だよ。
医学生医学生
中立ということは、患者さんの味方として病院と交渉してくれるわけではないんですね。
ドクタードクター
そう。そこが他の選択肢を切るカギになる。まず「医師と患者の利害調整」。患者と医療機関が対話で解決できるよう手助けすることはあっても、両者の間に入って仲裁や調停をまとめることはしない。話し合いによる紛争解決には、弁護士会などが運営するADR、つまり裁判外紛争解決手続という別の仕組みがあるんだ。
医学生医学生
なるほど。では「医療訴訟の際の証拠保全」も、センターではなさそうですね。
ドクタードクター
正解。証拠保全は、カルテなどの証拠が改ざん・廃棄されるおそれがあるときに、民事訴訟法に基づいて申立てを受けた裁判所が決定して行う手続だ。行政の相談窓口の仕事ではないね。同じ理由で「医療過誤に対する民事責任の追及」も違う。損害賠償などの責任は示談やADR、民事訴訟で問われるもので、中立の機関が一方の当事者として責任を追及することはない。
医学生医学生
インシデントレポートの集計は迷いました。臨床実習中のオリエンテーションで、ヒヤリ・ハットは必ず報告するように言われたので、どこかで集計されているはずですよね。
ドクタードクター
いい疑問だ。インシデントレポートは、まず各医療機関が院内の医療安全管理体制の一環として集めて分析する。医療法施行規則で、病院の管理者には安全管理の指針の整備や委員会の開催、事故報告に基づく改善策の実施などが求められているんだ。全国規模では、日本医療機能評価機構が医療事故情報収集等事業として集計・分析している。
医学生医学生
院内では医療安全管理室、全国では日本医療機能評価機構、と整理すればいいですね。
ドクタードクター
そういうこと。もう一つ混同しやすいのが「医療事故調査・支援センター」だ。2015年に始まった医療事故調査制度で厚生労働大臣が指定する民間機関で、医療機関から予期せぬ死亡事例の報告を受けて、調査結果を収集・分析し再発防止につなげる。名前はそっくりだけど、医療安全支援センターとはまったく別の組織だよ。
医学生医学生
「支援」と「調査・支援」で役割がこんなに違うんですね。CBTの勉強のときにごちゃごちゃになっていた理由がわかりました。
ドクタードクター
ほかにも医療安全支援センターは、医療安全推進協議会の開催、医療機関の職員向けの研修、相談事例の収集・分析と情報提供、住民への普及・啓発なども担っている。相談を受けるだけでなく、そこで得た情報を地域の医療安全に還元するのが役割なんだ。
医学生医学生
臨床に出てから患者さんに「どこに相談すればいいのか」と聞かれたら、こうした窓口があることを伝えられるといいですね。
ドクタードクター
その姿勢は大切だね。患者さんの不満や不安は、早い段階で中立的な場所で受け止められることで、こじれずに済むことも多い。医療者側にとっても、相談事例から学べることは多いんだ。

まとめ

医療安全支援センターは医療法に基づき都道府県・保健所設置市・特別区が設置する機関で、患者・家族や住民からの医療に関する苦情や相談に公正・中立な立場で対応することが中核的な機能です。助言や情報提供、医療機関への情報伝達、相談先の紹介、相談事例の分析と還元、研修や啓発なども担いますが、利害調整や仲裁、証拠保全、民事責任の追及といった紛争解決機関としての役割は持ちません。インシデントレポートは各医療機関と日本医療機能評価機構が集計し、予期せぬ死亡事例の調査は医療事故調査・支援センターが扱うなど、似た名前の組織の役割分担を整理しておくことが重要です。医療安全の仕組みを理解しておくことは、患者からの相談に適切に応じ、安全な医療を実践するための基礎になります。

解答・解説

正解はdです

医療安全支援センターは、医療法(第6条の13)に基づいて都道府県、保健所を設置する市および特別区が設置する機関である。2006年の医療法改正で法律上の位置づけが与えられ、現在は全国の都道府県・保健所設置市などに置かれている。 中心となる役割は、患者・家族や地域住民から寄せられる医療に関する苦情や相談に、公正・中立な立場で対応することである。相談内容に応じて助言や情報提供を行い、必要があれば医療機関の管理者に情報を伝えたり、適切な相談先を紹介したりする。あわせて、相談事例を集めて分析し、医療機関や住民に医療安全に役立つ情報を提供することも業務に含まれる。 一方で、同センターは裁判所や弁護士のような役割を担うわけではない。どちらかの側に立って責任を追及することや、紛争当事者の間に入って和解・示談をまとめること(仲裁・調停)は行わない。この「中立的な相談窓口であって、紛争解決機関ではない」という性格を押さえておけば、選択肢を絞り込める。

選択肢考察

  1. ×a.  医師と患者の利害調整

    誤り。医療安全支援センターは中立的な立場から相談に応じ、患者と医療機関の双方が対話によって問題を解決できるよう手助けすることはあるが、両者の利害を調整したり、紛争の仲裁・調停に乗り出したりすることはしない。医療紛争の話し合いによる解決には、弁護士会などが運営する裁判外紛争解決手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)などの別の仕組みが用意されている。

  2. ×b.  医療訴訟の際の証拠保全

    誤り。証拠保全とは、訴訟で使う証拠(カルテなど)が改ざん・廃棄されるおそれがある場合に、あらかじめその証拠を確保しておく手続であり、民事訴訟法に基づいて申立てを受けた裁判所が決定し実施する。医療安全支援センターの業務ではない。

  3. ×c.  インシデントレポートの集計

    誤り。インシデントレポート(患者に害が及ばなかった、あるいは軽微であった「ヒヤリ・ハット」事例などの報告)は、まず各医療機関が院内の医療安全管理体制の一環として収集・分析する。医療法施行規則により、病院などの管理者には事故報告など安全確保を目的とした改善のための方策を講じることが求められている。全国規模では、公益財団法人日本医療機能評価機構が医療事故情報収集等事業としてヒヤリ・ハット事例や医療事故事例を集計・分析している。医療安全支援センターが担う業務ではない。

  4. ○d.  患者からの苦情や相談への対応

    正しい。医療法は医療安全支援センターの業務として、患者またはその家族からの医療に関する苦情への対応や相談に応じること、必要に応じて医療機関の管理者に助言することを定めている。センターには相談窓口が設けられ、相談員が中立的な立場で話を聞き、情報提供や助言、他機関の紹介などを行う。これが同センターの中核的な機能である。

  5. ×e.  医療過誤に対する民事責任の追及

    誤り。医療過誤に対する損害賠償などの民事責任は、当事者間の示談、ADR、民事訴訟(裁判)によって問われるものである。中立の立場をとる医療安全支援センターが、一方の当事者として医療機関の責任を追及することはない。

医療安全支援センターの主な業務

・患者・家族・住民からの苦情への対応や相談(相談窓口の設置) ・医療安全推進協議会の開催(相談窓口の運営方針や地域の医療安全対策の検討) ・医療機関の管理者・従業者、住民に対する医療安全に関する助言・情報提供 ・医療機関の職員を対象とした研修の実施 ・相談事例の収集・分析と情報提供 ・関係機関・団体との連絡調整 ・医療安全施策の普及・啓発

紛らわしい組織・制度の整理

・医療安全支援センター:都道府県・保健所設置市・特別区が設置。患者・住民の苦情・相談窓口。 ・医療事故調査・支援センター:2015年に始まった医療事故調査制度において厚生労働大臣が指定する民間機関(一般社団法人日本医療安全調査機構)。医療機関から予期せぬ死亡事例の報告を受け、調査結果を収集・分析して再発防止策を普及する。名称が似ているので混同に注意する。 ・日本医療機能評価機構:医療事故情報収集等事業(ヒヤリ・ハット事例、医療事故事例の全国的な収集・分析)や病院機能評価、産科医療補償制度の運営などを行う。 ・院内の医療安全管理体制:医療安全管理のための指針の整備、医療安全管理委員会の開催、職員研修、事故報告などによる改善策の実施が、医療法施行規則により病院などに義務づけられている。 ・医療紛争の解決:示談、ADR(裁判外紛争解決手続)、民事訴訟。訴訟前の証拠保全は裁判所が行う。

POINT

・医療安全支援センターは医療法に基づき、都道府県・保健所設置市・特別区が設置する。 ・中核業務は、患者・住民からの医療に関する苦情・相談への中立的な対応である。 ・紛争の仲裁・調停、責任追及、証拠保全は行わない。 ・インシデントレポートの集計は各医療機関と日本医療機能評価機構の役割。 ・「医療事故調査・支援センター」(医療事故調査制度)とは別組織である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。