通勤途中のけがも守られる―「使用者の責任を国が肩代わり」で読み解く労災保険
第108回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
労働者災害補償保険について正しいのはどれか。
- a.休業補償給付は含まれない。
- b.通勤中の負傷は補償対象になる。
- c.保険料は労働者が全額負担する。
- d.医療費の自己負担割合は3割である。
- e.業務上の疾病を認定するのは産業医である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
労災保険は、労働基準法が使用者に課す災害補償責任を国が保険として肩代わりする制度であり、この成り立ちから多くの性質が導けます。対象は業務災害に加えて通勤災害も含まれ、保険料は事業主の全額負担、業務災害の療養には自己負担がありません(通勤災害は初回200円の一部負担金のみ)。休業補償給付は休業4日目から給付基礎日額の60%に特別支給金20%が上乗せされ、最初の3日間は事業主が補償します。業務上の疾病かどうかの認定は労働基準監督署長が行い、産業医には認定権限がありません。健康保険や雇用保険との負担の違いも含めて整理しておくと、臨床で労災関連の書類や相談に対応する際の確かな土台になります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
労働者災害補償保険(労災保険)の基本的な仕組み、すなわち「何を対象とし」「誰が費用を負担し」「どんな給付があり」「誰が認定するか」を問う問題である。
労災保険の骨格
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づく政府(厚生労働省)管掌の公的保険である。労働基準法は、業務上の負傷・疾病について使用者に補償責任(災害補償責任)を課しているが、個々の使用者に支払い能力がないと補償が行き届かない。そこで国が保険として運営し、使用者の補償責任を肩代わりする仕組みとして作られた。この成り立ちを押さえると、次の点が自然に導ける。 ・使用者の責任を保険化したものなので、保険料は事業主が全額負担する。 ・対象は業務上の事由による災害(業務災害)に加え、通勤による災害(通勤災害)も保護される。 ・業務災害の療養では労働者の自己負担はない。 ・業務上かどうか(業務起因性)の判断は、保険者である国の機関、すなわち労働基準監督署長が行う。 以上から、通勤中の負傷が補償対象になるとする b が正しい。
選択肢考察
- ×a. 休業補償給付は含まれない。
休業補償給付は労災保険の主要な給付の一つである。業務上の傷病による療養のため働けず、賃金を受けられない場合に、休業4日目から給付基礎日額(おおむね平均賃金に相当)の60%が支給され、さらに社会復帰促進等事業から休業特別支給金として20%が上乗せされる(合計80%)。最初の3日間(待期期間)は、業務災害であれば労働基準法に基づき事業主が平均賃金の60%を休業補償として支払う。通勤災害の場合は同様の給付が「休業給付」という名称で支給される。
- ○b. 通勤中の負傷は補償対象になる。
労災保険は業務災害だけでなく通勤災害も保険給付の対象としている。通勤とは、就業に関して住居と就業場所との間などを合理的な経路・方法で往復することをいう。経路を逸脱・中断した場合は、その間とその後は原則として通勤とされないが、日用品の購入など日常生活上必要な最小限度の行為であれば、合理的な経路に戻った後は再び通勤として扱われる。なお、通勤災害は使用者の労働基準法上の補償責任の対象ではないため、給付名称から「補償」の語が外れ(療養給付・休業給付など)、療養給付では初回に原則200円の一部負担金がある点が業務災害と異なる。
- ×c. 保険料は労働者が全額負担する。
労災保険料は事業主が全額を負担し、労働者の負担はない。これは、業務災害の補償責任が本来使用者にあることに由来する。保険料は賃金総額に事業の種類ごとに定められた労災保険率を掛けて算出され、災害の多い業種ほど率が高い。一定規模以上の事業では、災害発生状況に応じて保険率を増減させるメリット制もある。労働者と事業主が保険料を折半する健康保険・厚生年金保険・雇用保険との違いとして押さえておく。
- ×d. 医療費の自己負担割合は3割である。
業務災害による療養補償給付では労働者の自己負担はない。労災病院や労災保険指定医療機関では治療そのものが無償で提供され(現物給付)、それ以外の医療機関を受診した場合は、いったん立て替えた費用が後から全額支給される(現金給付)。通勤災害の療養給付でも、負担は初回の一部負担金(原則200円)のみである。「3割」は健康保険など医療保険における一般的な自己負担割合であり、そもそも業務上の傷病には健康保険は使えない。
- ×e. 業務上の疾病を認定するのは産業医である。
業務上の疾病かどうかの認定(労災認定)は、労働者等の請求を受けて、事業場を管轄する労働基準監督署長が調査のうえ行う。精神障害や脳・心臓疾患などについては厚生労働省の認定基準が定められている。産業医は、事業場で労働者の健康管理(健康診断結果に基づく措置、職場巡視、面接指導など)について事業者に助言・指導する医師であり、労災認定の権限はない。
労災保険の主な保険給付(業務災害の名称/通勤災害の名称)
・療養(補償)給付:治療費。業務災害は自己負担なし ・休業(補償)給付:休業4日目から給付基礎日額の60%(+休業特別支給金20%) ・傷病(補償)年金:療養開始後1年6か月を経過しても治らず、障害の程度が傷病等級1〜3級に該当する場合 ・障害(補償)給付:治癒(症状固定)後に障害が残った場合。等級に応じて年金または一時金 ・遺族(補償)給付:死亡した場合の遺族への年金または一時金 ・葬祭料(葬祭給付) ・介護(補償)給付:障害・傷病年金の受給者で常時または随時介護を要する場合 ・二次健康診断等給付:事業場の定期健康診断など直近の一次健康診断で、血圧、血糖、血中脂質、腹囲またはBMIのすべてに異常所見がある場合に、脳・心臓疾患の予防を目的として、二次健康診断と医師等による特定保健指導を無料で受けられる
適用
労働者を1人でも使用する事業は原則として強制適用となる(農林水産業の一部の小規模事業などを除く)。雇用形態を問わず、パートタイマーやアルバイトも対象となる。国家公務員・地方公務員は、それぞれ国家公務員災害補償法・地方公務員災害補償法という別の制度で補償される。中小事業主や一人親方などは、労働者ではないが特別加入制度により任意に加入できる。
社会保険の保険料負担の比較
・労災保険:事業主が全額負担 ・雇用保険:労使双方が負担(事業主の負担割合が大きい) ・健康保険・厚生年金保険:原則として労使折半
POINT
・労災保険は業務災害と通勤災害の両方を対象とする。 ・保険料は事業主の全額負担。 ・業務災害の療養は自己負担なし(通勤災害は初回200円の一部負担金のみ)。 ・休業補償給付は休業4日目から給付基礎日額の60%(+特別支給金20%)。最初の3日間は事業主が補償する。 ・労災認定は労働基準監督署長が行う。産業医ではない。
