StudyMed医師国家試験

脊髄はどこで終わる?―背中の目印で読む脊髄円錐と腰椎穿刺の安全地帯

第108回医師国家試験 B問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第108回 B問題 第21問

成人男性の背面を別に示す。  脊髄下端の位置に最も近いのはどれか。

第108回 B問題 第21問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、成人男性の背中の体表の目印から脊椎の高さを推定して、脊髄の下端がどこにあるかを答える問題だ。腰椎穿刺や硬膜外麻酔を安全に行うための、臨床に直結する解剖だよ。注目すべき目印は、下位肋骨、腸骨稜、上後腸骨棘、殿裂の4つだね。
医学生医学生
解剖学の実習で、脊髄は脊柱管の中を下まで走っていると思っていたのですが、途中で終わるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、そこが大事なポイントなんだ。脊髄は脊柱よりも短い。胎生期以降、骨である脊柱の伸び方が脊髄の伸び方を上回るので、脊髄の下端は成長とともに相対的に上へずれていく。成人ではL1〜L2椎体の高さで終わっていて、ここを脊髄円錐と呼ぶ。新生児ではもう少し低くてL3付近だ。
医学生医学生
ということは、背中の目印でL1〜L2の高さを探せばいいわけですね。下位肋骨の下端あたりでしょうか。
ドクタードクター
その通り。第12肋骨や肋骨弓の下縁あたりがおおよそL1〜L2の高さに相当する。図の中で下位肋骨の下端付近に示された点が、脊髄下端に最も近い。これが正解だよ。
医学生医学生
腸骨稜の点線の高さにある点は、腰椎穿刺で使う目印ですよね。OSCEの前に動画で見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。両側の腸骨稜の最高点を結ぶ線をJacoby線と呼び、おおよそL4棘突起、あるいはL4/5椎間の高さにあたる。ここでは脊柱管の中に脊髄はもうなくて、馬尾だけが存在する。だから脊髄下端よりも明らかに下なんだ。
医学生医学生
Jacoby線より少し下の点は、仙骨の上のほうですか。
ドクタードクター
そう、おおよそS1の高さで、仙骨の上部だね。脊髄下端からはかなり離れている。その下の、腰の左右のくぼみ、いわゆるヴィーナスのえくぼの高さはどうだろう。
医学生医学生
上後腸骨棘ですね。たしかS2で、何かの下端だったような……脊髄の下端と混同しそうです。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところだ。S2は硬膜嚢、つまりくも膜下腔の下端にあたる高さ。脊髄そのものはL1〜L2で終わるけれど、それを包む硬膜とくも膜の袋はS2まで続いていて、その中を脳脊髄液と馬尾が満たしているんだ。
医学生医学生
脊髄の終わりと袋の終わりは別、ということですね。殿裂の上端近くの点は何になりますか。
ドクタードクター
仙骨の下端、おおよそS5で、仙骨裂孔のあたりだ。ここは仙骨硬膜外ブロック、いわゆる仙骨麻酔の刺入部位として使われる。5つの中で脊髄下端からは最も遠い場所だね。
医学生医学生
脊髄下端がL1〜L2、Jacoby線がL4、上後腸骨棘がS2で硬膜嚢の下端、仙骨裂孔が仙骨の下端。上から順に並べると覚えやすいです。
ドクタードクター
いい整理だ。では、これがなぜ腰椎穿刺で重要かを考えてみよう。脊髄下端より下の脊柱管では、馬尾が脳脊髄液の中に浮いているだけだから、針が触れても神経根はよけやすく、脊髄を損傷する心配が少ない。だからJacoby線を目安にL3/4かL4/5椎間で穿刺するんだ。
医学生医学生
神経内科を回ったとき、患者さんを横向きにして膝を抱えるように丸まってもらっていました。あれは棘突起の間を広げるためですね。
ドクタードクター
その通り。背中を丸めると棘突起の間が開いて針が通りやすくなる。それからもう一つ、臨床で必ず押さえてほしいのが禁忌だ。頭蓋内圧が亢進していて脳ヘルニアのおそれがある場合、穿刺で脳脊髄液を抜くと脳ヘルニアを誘発しかねない。事前に眼底検査や頭部CTで確認するのが原則だよ。
医学生医学生
小児で穿刺するときは、脊髄下端が低い分、より注意が必要ということですね。
ドクタードクター
よく気づいたね。新生児では脊髄下端がL3付近と低いから、穿刺部位はより下位を選ぶのが一般的だ。ほかにも、肩甲骨下角がT7、隆椎がC7といった背部のランドマークをまとめて覚えておくと、身体診察や手技のときに役立つよ。

まとめ

成人の脊髄下端(脊髄円錐)はL1〜L2椎体の高さにあり、背部の体表では下位肋骨の下縁付近に相当します。これは胎生期以降に脊柱の伸長が脊髄の伸長を上回るためで、新生児では脊髄下端はL3付近とより低い位置にあります。両側腸骨稜の最高点を結ぶJacoby線はおおよそL4棘突起(L4/5椎間)、上後腸骨棘はS2で硬膜嚢(くも膜下腔)の下端、殿裂上端付近の仙骨裂孔は仙骨麻酔の刺入部位にあたります。脊髄下端より下の脊柱管には馬尾と脳脊髄液しかないため、腰椎穿刺はJacoby線を目安にL3/4またはL4/5椎間で行い、頭蓋内圧亢進の有無を事前に確認することが重要です。体表ランドマークと脊椎の高さの対応を理解しておくことは、腰椎穿刺や脊髄くも膜下麻酔などの手技を安全に行うための基礎となります。

解答・解説

正解はaです

【テーマ】体表の目印(ランドマーク)から脊椎の高さを推定し、脊髄の下端(脊髄円錐)の位置を答える問題である。腰椎穿刺(ルンバール)や硬膜外麻酔の安全な穿刺部位を理解するための基本的な解剖知識である。

図の読み取り

図は成人男性の背面で、上方に下位肋骨、中ほどに両側腸骨稜の上縁(点線)、下方に殿部(殿裂)が描かれている。 ・①:下位肋骨の下端付近の高さ(おおよそL1〜L2) ・②:両側腸骨稜の頂点を結ぶ線=Jacoby線(ヤコビー線)の高さ(おおよそL4棘突起、またはL4/5椎間) ・③:Jacoby線のやや下(おおよそS1) ・④:上後腸骨棘(腰の左右のくぼみ〈ヴィーナスのえくぼ〉に相当)の高さ(おおよそS2) ・⑤:殿裂の上端近く(仙骨下端、おおよそS5・仙骨裂孔付近)

考え方

脊柱管の中で、脊髄は脊柱よりも短い。胎生期以降、脊柱の伸長が脊髄の伸長を上回るため、脊髄下端は成長とともに相対的に上昇し、成人ではL1〜L2椎体の高さに位置する(新生児ではL3付近)。したがって、背面の目印のうちL1〜L2の高さを示す①が脊髄下端に最も近い。 この知識は腰椎穿刺と直結する。脊髄下端より下の脊柱管内には馬尾(脊髄神経根の束)が脳脊髄液の中に浮いているだけなので、Jacoby線の高さ(L3/4やL4/5椎間)で穿刺すれば、針先が脊髄を傷つける危険が少ない。

選択肢考察

  1. ○a.  ①

    下位肋骨の下縁付近で、おおよそL1〜L2棘突起の高さを示している。成人の脊髄下端(脊髄円錐)はL1〜L2椎体レベルにあるため、5つの点の中で最も近い。

  2. ×b.  ②

    両側腸骨稜の最高点を結ぶJacoby線の高さで、おおよそL4棘突起(またはL4/5椎間)に相当する。腰椎穿刺の部位を決める目印として用いられる高さであり、ここでは脊柱管内に脊髄はなく馬尾のみが存在する。脊髄下端より明らかに下である。

  3. ×c.  ③

    Jacoby線より下で、おおよそS1の高さに相当する。仙骨の上部であり、脊髄下端(L1〜L2)からは大きく離れている。

  4. ×d.  ④

    上後腸骨棘を結ぶ高さで、おおよそS2に相当する。S2付近は硬膜嚢(くも膜下腔)の下端にあたる高さであり、脊髄の下端ではない。脊髄下端とくも膜下腔下端の位置を混同しないことが重要である。

  5. ×e.  ⑤

    殿裂の上端近く、仙骨の下端(おおよそS5)で、仙骨裂孔付近に相当する。仙骨裂孔は仙骨硬膜外ブロック(仙骨麻酔)の刺入部位として用いられる。脊髄下端からは最も遠い。

脊髄と脊柱管の高さの関係

・脊髄下端(脊髄円錐):成人でL1〜L2椎体レベル(新生児ではL3付近) ・脊髄円錐より下:馬尾(腰神経・仙骨神経の根の束)と終糸 ・硬膜嚢(くも膜下腔)の下端:おおよそS2レベル ・終糸は硬膜嚢を貫いて尾骨に付着する

背部の体表ランドマークと椎体の高さ(目安)

・隆椎(最も突出する棘突起):C7 ・肩甲棘内側端:T3 ・肩甲骨下角:T7 ・第12肋骨・肋骨弓下縁付近:L1〜L2 ・Jacoby線(両側腸骨稜の頂点を結ぶ線):L4棘突起またはL4/5椎間 ・上後腸骨棘:S2 ・仙骨裂孔:S4〜S5付近

腰椎穿刺の要点

側臥位で膝を抱えるように背中を丸め、棘突起の間を広げたうえで、Jacoby線を目安にL3/4またはL4/5椎間から穿刺する。脊髄下端より十分下で行うため、脊髄損傷を避けられる。頭蓋内圧亢進(特に脳ヘルニアのおそれ)がある場合は禁忌であり、事前に眼底検査や頭部CTで確認する。

POINT

・成人の脊髄下端はL1〜L2の高さ(新生児ではL3付近)。 ・Jacoby線=両側腸骨稜の頂点を結ぶ線=L4棘突起(L4/5椎間)の高さ。 ・上後腸骨棘=S2=硬膜嚢(くも膜下腔)の下端の高さ。 ・腰椎穿刺はJacoby線を目安にL3/4またはL4/5で行い、脊髄損傷を避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。