その医療費、誰が払う?―「公費」と「労災」を分ける財源の視点
第108回医師国家試験 B問題 第2問
国試問題にチャレンジ
公費医療の対象とならないのはどれか。
- a.生活保護法による医療扶助
- b.労働基準法による業務上疾病の治療
- c.麻薬及び向精神薬取締法による措置入院
- d.精神保健及び精神障害者福祉に関する法律による措置入院
- e.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による結核患者の入院
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
公費負担医療とは、国や地方公共団体が税金を財源として医療費を負担する制度で、感染症の入院や措置入院といった社会防衛目的のものと、生活保護の医療扶助や難病・障害者医療といった福祉目的のものに大別されます。一方、業務上の疾病は労働基準法で使用者が補償責任を負い、事業主が全額負担する保険料を財源とする労災保険から給付されるため、公費医療には当たりません。また、業務上の疾病には健康保険が使えない点や、結核の医療が現在は感染症法に基づく点も押さえておきましょう。「誰がどの財源で払うのか」という視点で整理すると、医療費制度の問題は暗記に頼らず解けるようになり、臨床現場での保険の取り扱いの理解にもつながります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
日本の医療費の支払いは、大きく①医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度など)、②労働者災害補償保険(労災保険)、③公費負担医療、④自己負担に分けられる。公費負担医療(公費医療)とは、国や地方公共団体が税金を財源として医療費の全部または一部を負担する制度である。
公費医療が行われる主な理由
・社会防衛:感染症の蔓延防止や、自傷他害のおそれのある精神障害者・麻薬中毒者の強制的な入院など、本人の意思にかかわらず公的な権限で医療を行う場合(措置・勧告による入院)は、その費用を公が負担する。 ・福祉・生活保障:生活に困窮する人(生活保護)、障害者・難病患者・小児の慢性疾患、原爆被爆者、戦傷病者など、社会的に支援が必要な人の医療。
正解を導く考え方
選択肢のうち、生活保護の医療扶助、麻薬中毒者の措置入院、精神障害者の措置入院、結核患者の入院は、いずれも法律に基づいて公費が医療費を負担する。一方、業務上の疾病(業務に起因する病気やけが)の治療費は、労働基準法で使用者(事業主)が負担すべきものとされ、その責任を保険化した労災保険から給付される。労災保険の財源は事業主が納める保険料であり、税を財源とする公費医療ではない。したがって公費医療の対象とならないのはbである。
選択肢考察
- ×a. 生活保護法による医療扶助
生活保護法に基づく8種類の扶助(生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭)の一つであり、公費医療の代表である。生活保護の受給者は原則として国民健康保険や後期高齢者医療制度の対象から外れるため、医療費は医療扶助として公費で賄われ、原則として自己負担はない(被用者保険に加入している場合は保険給付が優先される)。医療扶助は現物給付で行われ、生活保護費全体の約半分を占める。費用は国が4分の3、地方公共団体が4分の1を負担する。
- ○b. 労働基準法による業務上疾病の治療
労働基準法は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合に、使用者がその費用で必要な療養を行い、または療養の費用を負担しなければならないと定めている(療養補償)。この使用者の補償責任を確実に果たすため、事業主が保険料を全額負担する労働者災害補償保険(労災保険)が設けられており、業務上疾病の治療費は労災保険の療養補償給付として支払われる。労災保険は社会保険の一種であり、税金を財源とする公費医療には当たらない。なお業務上の疾病には健康保険は使えない(健康保険は業務外の疾病・負傷を対象とする)点も押さえておきたい。
- ×c. 麻薬及び向精神薬取締法による措置入院
麻薬中毒者(麻薬・大麻・あへんの慢性中毒者)で、そのまま放置すると麻薬の使用を繰り返すおそれが著しい者について、都道府県知事は精神保健指定医の診察の結果に基づき、麻薬中毒者医療施設へ強制的に入院させることができる(措置入院)。本人の意思によらず社会防衛の観点から行う入院であるため、その費用は公費で負担される。
- ×d. 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律による措置入院
精神障害のために自身を傷つけ、または他人に害を及ぼすおそれ(自傷他害のおそれ)がある者について、2人以上の精神保健指定医の診察が一致した場合に、都道府県知事の権限で行われる強制入院である。行政処分としての入院であるため、医療費は公費負担の対象となる(医療保険が適用される部分は保険で給付し、自己負担分を公費で負担する。本人・扶養義務者の所得に応じて費用の一部を徴収されることがある)。なお、精神疾患の通院医療費の自己負担を軽減する制度(精神通院医療)も公費医療であり、現在は障害者総合支援法の自立支援医療に位置付けられている。
- ×e. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律による結核患者の入院
結核は感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)で二類感染症に分類される。感染性の高い肺結核患者などは、都道府県知事の勧告(従わない場合は措置)により感染症指定医療機関などへ入院させる。この入院にかかる医療費は公費負担の対象であり、医療保険を適用したうえで自己負担分を公費が負担する(所得に応じて一部自己負担がある)。また、入院を要しない結核患者の通院治療(適正医療)についても、医療費の一部が公費で負担される。結核の医療はかつて結核予防法で定められていたが、同法は2007年に廃止され、感染症法に統合された。一類感染症・新感染症などの入院医療費も同様に公費負担である。
医療費の負担の仕組み
・医療保険:被保険者・事業主の保険料と公費を財源とし、業務外の疾病・負傷を対象とする。 ・労災保険:事業主が全額負担する保険料を財源とし、業務上および通勤による疾病・負傷・障害・死亡を対象とする。療養補償給付(通勤災害では療養給付)では原則として自己負担はない。 ・公費負担医療:税金を財源とする。全額公費のものと、医療保険を優先適用して自己負担分を公費で補うもの(保険優先)がある。
主な公費負担医療(根拠法)
・生活保護法:医療扶助 ・感染症法:一類・二類感染症、新感染症などの入院医療、結核の入院および通院医療 ・精神保健福祉法:措置入院、緊急措置入院 ・麻薬及び向精神薬取締法:麻薬中毒者の措置入院 ・障害者総合支援法:自立支援医療(精神通院医療、更生医療=18歳以上の身体障害者、育成医療=18歳未満の身体障害児) ・難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法):指定難病の特定医療費 ・児童福祉法:小児慢性特定疾病医療費、療育の給付(結核児童) ・母子保健法:未熟児の養育医療 ・原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律:認定疾病医療、一般疾病医療 ・戦傷病者特別援護法:療養の給付、更生医療 ・医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律):入院・通院医療 ・その他:公害健康被害の補償、予防接種による健康被害の救済、肝炎治療の医療費助成など
制度の変遷
・結核予防法は2007年に廃止され、感染症法に統合された。 ・育成医療・更生医療・精神通院医療は、2006年から自立支援医療(当初は障害者自立支援法、現在は障害者総合支援法)に一本化された。 ・特定疾患治療研究事業は、2015年の難病法施行により指定難病の医療費助成に移行し、小児慢性特定疾患治療研究事業も同年に児童福祉法に基づく小児慢性特定疾病医療費助成として法制化された。
POINT
・公費医療=税金を財源として国・地方公共団体が医療費を負担する制度。 ・社会防衛(措置入院、感染症の入院)や福祉(生活保護、障害者、難病、小児慢性疾病など)を目的とする。 ・業務上の疾病は労働基準法で使用者が補償し、労災保険(財源は事業主の保険料)から給付される → 公費医療ではない。 ・業務上の疾病には健康保険は使えない。 ・結核の医療は現在は感染症法に基づく(結核予防法は2007年に廃止)。
