StudyMed医師国家試験

ひとつのホルモンで血糖も血圧も上がる―Cushing病に学ぶインスリン拮抗ホルモンの考え方

第108回医師国家試験 A問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第108回 A問題 第7問

糖尿病と高血圧の両方をきたす疾患はどれか。

  1. a.肝硬変
  2. b.慢性膵炎
  3. c.Cushing病
  4. d.グルカゴノーマ
  5. e.Gitelman症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、糖尿病と高血圧の両方を引き起こす疾患を選ぶ問題だ。ポイントは「二次性糖尿病の原因」と「内分泌性高血圧の原因」という2つのリストを思い浮かべ、その両方に入るものを探すこと。まずは二次性糖尿病がどんな機序で起こるか考えてみよう。
医学生医学生
膵臓が壊れてインスリンが出なくなる場合と、インスリンの働きを邪魔するホルモンが増える場合でしょうか。
ドクタードクター
いいね。それに肝臓での糖の取り込み・貯蔵が障害される場合を加えて、大きく3つに分けられる。インスリンと逆の作用をもつインスリン拮抗ホルモンには、コルチゾール、成長ホルモン、カテコールアミン、グルカゴン、甲状腺ホルモンがある。
医学生医学生
生理学の講義で、血糖を下げるのはインスリンだけで、上げるホルモンはたくさんあると習いました。
ドクタードクター
その通り。では内分泌性高血圧の代表は何だろう。
医学生医学生
原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、Cushing症候群……あとは先端巨大症や甲状腺機能亢進症でしょうか。
ドクタードクター
よく挙がったね。2つのリストを重ねると、コルチゾール、成長ホルモン、カテコールアミン、甲状腺ホルモンが共通している。選択肢の中でこれに当てはまるのはコルチゾール過剰をきたすCushing病で、これが正解だ。
医学生医学生
Cushing病は下垂体のACTH産生腺腫でしたよね。コルチゾールで血糖が上がるのはわかるんですが、血圧が上がる理由がいまひとつはっきりしません。
ドクタードクター
大事な疑問だね。糖のほうは、コルチゾールが肝臓の糖新生を促進し、筋や脂肪組織のインスリン感受性を下げることで高血糖になる。血圧のほうは、腎尿細管にはコルチゾールを不活化して鉱質コルチコイド受容体を守る11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型という酵素があるんだけど、大量のコルチゾールはその処理能力を超えてしまう。結果としてアルドステロンのようにNaを貯留させ、体液量が増える。さらにアンジオテンシノーゲン産生の増加や、カテコールアミンへの血管の反応性亢進も関わっている。
医学生医学生
ひとつのホルモン過剰で、糖代謝と血圧の両方が乱れるわけですね。では他の選択肢も見ていきたいです。肝硬変でも糖尿病になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
肝性糖尿病だね。肝臓は食後に門脈から入るブドウ糖をグリコーゲンとして蓄えるけれど、肝硬変ではその能力が落ち、インスリン抵抗性も加わって食後高血糖になる。逆に蓄えが乏しいので空腹時は低血糖を起こしやすい。ただ血圧については、血管拡張物質が増えて全身血管抵抗が下がるので、体血圧はむしろ低めになりやすい。高くなるのは門脈圧であって体血圧ではないんだ。
医学生医学生
門脈圧亢進症と高血圧を混同しないよう注意します。慢性膵炎はインスリン分泌が減る膵性糖尿病ですね。
ドクタードクター
そう。膵島も線維化で壊れてβ細胞が減る。しかもα細胞も失われてグルカゴンも出にくくなるから、インスリン治療中に低血糖を起こしやすく回復しにくい点が臨床上重要だ。でも慢性膵炎そのものに血圧を上げる機序はない。
医学生医学生
グルカゴノーマはインスリン拮抗ホルモンの過剰なので、こちらも迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかる。α細胞由来の神経内分泌腫瘍で、グルカゴンが糖新生とグリコーゲン分解を促進して糖尿病になる。壊死性遊走性紅斑という特徴的な皮疹、体重減少、深部静脈血栓症なども知られている。ただグルカゴンには昇圧作用がほとんどないので、高血圧は特徴ではないんだ。
医学生医学生
Gitelman症候群は腎臓の講義で出てきた尿細管疾患ですよね。低カリウム血症があるので、原発性アルドステロン症と似たイメージを持っていました。
ドクタードクター
そこが落とし穴。Gitelman症候群は遠位曲尿細管のNa-Cl共輸送体の機能喪失で、サイアザイド系利尿薬を飲み続けたような状態になる。Naを失うので体液量が減り、二次的にレニン・アルドステロンが上がるけれど、血圧は正常から低めなんだ。低K血症、代謝性アルカローシス、低Mg血症、低Ca尿症が特徴だよ。
医学生医学生
同じ低K血症でも、高血圧があれば原発性アルドステロン症、正常から低血圧ならGitelmanやBartter症候群を考える、ということですね。
ドクタードクター
その通り。レニンの値も鑑別に役立つ。原発性アルドステロン症ではレニンが抑制され、Gitelman症候群では上がる。発展として、Cushing症候群全体の分類も押さえておこう。下垂体性のCushing病、肺小細胞癌などによる異所性ACTH産生腫瘍、副腎腺腫などのACTH非依存性のもの、そして臨床で最も多いとされるのが糖質コルチコイドの長期投与による医原性だ。
医学生医学生
内科の病棟で、ステロイド治療中の患者さんにインスリンが追加されているのを見ました。あれも同じ機序なんですね。
ドクタードクター
そう、ステロイド糖尿病だね。ステロイド投与中は血糖と血圧のモニタリングが欠かせない。また、若い人の糖尿病と高血圧の合併、コントロールしにくい糖尿病や高血圧、低K血症、満月様顔貌や赤色皮膚線条などの身体所見があれば、二次性の内分泌疾患を疑って検索することが大切だよ。

まとめ

糖尿病と高血圧を同時にきたす疾患は、インスリン拮抗ホルモンの過剰と昇圧作用を併せもつ内分泌疾患であり、Cushing症候群、先端巨大症、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症が代表です。Cushing病では過剰なコルチゾールが糖新生促進とインスリン抵抗性で高血糖を、鉱質コルチコイド受容体刺激によるNa貯留などで高血圧を引き起こします。肝硬変や慢性膵炎による二次性糖尿病、昇圧作用に乏しいグルカゴンを産生するグルカゴノーマでは高血圧は生じにくく、Na喪失性のGitelman症候群では血圧はむしろ正常〜低値となります。「二次性糖尿病の原因」と「内分泌性高血圧の原因」を重ね合わせて考えることで、ホルモンの生理作用から病態を論理的に導けるようになり、治療抵抗性の糖尿病や高血圧に潜む内分泌疾患を見逃さない臨床力にもつながります。

解答・解説

正解はcです

本問は、耐糖能異常(糖尿病)と高血圧という二つの代謝・循環異常を同時に引き起こす疾患を選ぶ問題である。

考え方

二次性に糖尿病をきたす病態は大きく、(1) 膵臓そのものが壊れてインスリン分泌が減るもの(慢性膵炎、膵癌、膵切除後など)、(2) 肝臓での糖の取り込み・貯蔵が障害されるもの(肝硬変による肝性糖尿病)、(3) インスリンと逆の作用をもつホルモン(インスリン拮抗ホルモン)が過剰になるもの、に分けられる。インスリン拮抗ホルモンには、コルチゾール、成長ホルモン、カテコールアミン、グルカゴン、甲状腺ホルモンがある。 一方、内分泌疾患による高血圧(内分泌性高血圧)の代表は、原発性アルドステロン症、Cushing症候群、褐色細胞腫、先端巨大症、甲状腺機能亢進症などである。 この二つのリストの両方に入る疾患、すなわち「インスリン拮抗ホルモンの過剰」と「血圧を上げるホルモン作用」を併せもつ疾患を探せばよい。選択肢の中ではコルチゾール過剰をきたすCushing病がこれに該当する。膵・肝疾患による糖尿病やグルカゴン単独の過剰では、血圧を上げる機序をもたない。Gitelman症候群は逆に正常〜低めの血圧を示す塩類喪失性の尿細管疾患である。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    肝臓は食後に門脈から流入するブドウ糖をグリコーゲンとして蓄える役割を担う。肝硬変ではこの取り込み・貯蔵能が低下し、さらに末梢のインスリン抵抗性も加わるため、食後高血糖を主体とする肝性糖尿病を生じる。逆にグリコーゲンの蓄えが乏しいため、空腹時には低血糖を起こしやすいという特徴もある。一方、肝硬変では末梢血管の拡張(一酸化窒素などの血管拡張物質の増加)により全身血管抵抗が下がり、血圧はむしろ低めになる傾向がある。高血圧となるのは門脈系(門脈圧亢進症)であって体血圧ではない。したがって糖尿病と高血圧の両方をきたす疾患とはいえない。

  2. ×b.  慢性膵炎

    慢性膵炎が進行すると、外分泌組織(腺房細胞)だけでなくLangerhans島(膵島)も線維化で破壊され、β細胞の減少によるインスリン分泌不全から膵性糖尿病を生じる。このときα細胞も同時に失われてグルカゴン分泌も低下するため、インスリン治療中に低血糖を起こしやすく、回復もしにくい点が臨床上重要である。しかし慢性膵炎そのものに血圧を上昇させる機序はなく、高血圧とは直接関係しない。

  3. ○c.  Cushing病

    Cushing病は下垂体のACTH(副腎皮質刺激ホルモン)産生腺腫により副腎皮質が刺激され、コルチゾールが慢性的に過剰となる病態である(Cushing症候群のうち下垂体性のもの)。 糖尿病の機序:コルチゾールは肝臓での糖新生を促進し、筋・脂肪組織でのインスリン感受性を低下させる(インスリン抵抗性)。このため耐糖能異常・糖尿病をきたす。 高血圧の機序:大量のコルチゾールは、腎尿細管で本来コルチゾールを不活化する酵素(11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型)の処理能力を超え、鉱質コルチコイド受容体を刺激してNa貯留・体液量増加を起こす。加えて、肝でのアンジオテンシノーゲン産生増加や、カテコールアミンに対する血管の反応性亢進も血圧上昇に関与する。 このように一つのホルモン過剰で糖代謝と血圧の両方が障害されるため、本問の正解である。そのほか満月様顔貌、中心性肥満、野牛肩(buffalo hump)、赤色皮膚線条、多毛、骨粗鬆症、筋力低下なども特徴的である。

  4. ×d.  グルカゴノーマ

    グルカゴノーマは膵島のα細胞由来の神経内分泌腫瘍で、診断時にはすでに悪性(肝転移など)であることが多い。過剰なグルカゴンが肝の糖新生・グリコーゲン分解を促進するため糖尿病を生じる。そのほか壊死性遊走性紅斑(特徴的な皮疹)、体重減少、貧血、口内炎・舌炎、低アミノ酸血症、深部静脈血栓症などを呈する。しかしグルカゴンに昇圧作用はほとんどなく、高血圧は本症の特徴ではない。

  5. ×e.  Gitelman症候群

    Gitelman症候群は、遠位曲尿細管のサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体(NCC、遺伝子SLC12A3)の機能喪失による常染色体劣性遺伝の尿細管疾患である。NaClの再吸収障害によって体液量が減り、レニン・アルドステロン系が亢進し、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低マグネシウム血症、低カルシウム尿症を呈する。Naを失う病態であるため血圧は正常〜低めで、高血圧にはならない。また糖尿病は本症の典型的な症状ではない(低K・低Mgによる軽度の耐糖能低下が報告されることはある)。

インスリン拮抗ホルモンと血圧への影響

・コルチゾール:糖新生促進・インスリン抵抗性 → 高血糖。鉱質コルチコイド作用などにより高血圧(Cushing症候群) ・成長ホルモン:インスリン抵抗性 → 高血糖。Na貯留などにより高血圧(先端巨大症) ・カテコールアミン:グリコーゲン分解・インスリン分泌抑制 → 高血糖。血管収縮・心拍出量増加により高血圧(褐色細胞腫) ・甲状腺ホルモン:糖吸収・糖新生亢進 → 食後高血糖。心拍出量増加により収縮期高血圧(Basedow病) ・グルカゴン:糖新生・グリコーゲン分解 → 高血糖。昇圧作用は乏しい(グルカゴノーマ) したがって「糖尿病+高血圧」をきたす内分泌疾患としては、Cushing症候群、先端巨大症、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症が代表である。原発性アルドステロン症も低カリウム血症によるインスリン分泌低下から耐糖能異常を伴うことがある。

Cushing症候群の分類

・ACTH依存性:Cushing病(下垂体ACTH産生腺腫、最多の原因の一つ)、異所性ACTH産生腫瘍(肺小細胞癌、カルチノイドなど) ・ACTH非依存性:副腎腺腫、副腎癌、両側副腎皮質大結節性過形成など ・医原性:糖質コルチコイドの長期投与(臨床的には最も多い)

Gitelman症候群とBartter症候群

どちらも正常〜低血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロンを示す。Gitelman症候群は遠位曲尿細管のNCCの異常でサイアザイド系利尿薬を投与したのと同様の状態となり、低Mg血症・低Ca尿症が特徴である。Bartter症候群はHenleループ上行脚のNa-K-2Cl共輸送体(NKCC2)などの異常でループ利尿薬投与と同様の状態となり、尿中Ca排泄は増加する。発症はBartter症候群の方が早く(新生児〜小児期)、Gitelman症候群は学童期以降に見つかることが多い。

POINT

・糖尿病と高血圧を併発する内分泌疾患:Cushing症候群、先端巨大症、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症 ・コルチゾール過剰:糖新生亢進・インスリン抵抗性で高血糖、鉱質コルチコイド作用などで高血圧 ・肝性糖尿病は食後高血糖と空腹時低血糖、膵性糖尿病はグルカゴン分泌低下のため低血糖を起こしやすい ・グルカゴノーマは糖尿病+壊死性遊走性紅斑、高血圧はきたさない ・Gitelman症候群はサイアザイド投与類似の病態で、血圧は正常〜低値

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。