StudyMed医師国家試験

食べることが肝臓を育てる―肝切除後の再生を支える「門脈ルート」

第108回医師国家試験 A問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第108回 A問題 第15問

肝細胞癌に対する肝切除後に残存肝の再生を促すのはどれか。

  1. a.下剤
  2. b.輸血
  3. c.抗菌薬
  4. d.経口栄養
  5. e.抗悪性腫瘍薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝臓の高い再生能力と、それを術後管理でどう後押しするかを問う問題だ。肝臓が再生するには何が必要か、そしてそれがどの経路で肝臓に届くのかに注目してみよう。
医学生医学生
肝臓は一部を切っても元に戻る、というのは生理学の講義で聞きました。
ドクタードクター
そうだね。普段の肝細胞はほとんど分裂しない休止期、G0期にいるけれど、切除を受けると一斉に細胞周期に入って増殖する。ヒトでも術後数週から数か月で残った肝臓の容積がかなり回復するんだ。
医学生医学生
その再生を促すのが何か、ですね。輸血で血液を補えば肝臓に酸素が届いて再生しやすくなる気がしますが……。
ドクタードクター
直感としてはわかるけれど、輸血は出血や高度貧血に対して循環血液量と酸素運搬能を保つための治療で、肝再生そのものを促すわけではない。むしろ輸血後肝炎などの感染症や鉄過剰で肝障害を起こしうるし、周術期の同種血輸血が肝細胞癌の再発を増やす可能性も指摘されている。だから肝切除では出血を減らして輸血を避けることが重視されるんだ。
医学生医学生
では、肝再生には具体的に何が必要なんでしょうか。
ドクタードクター
大きく3つある。1つ目は再生のスイッチとなるIL-6やTNF-α、HGFなどのサイトカイン・増殖因子。2つ目は細胞を作る材料とエネルギー、つまりアミノ酸や糖、ビタミン。3つ目はそれらを運ぶ門脈血流と、膵臓から門脈に分泌されるインスリンやグルカゴンなどの肝栄養因子だ。
医学生医学生
門脈……解剖実習で、腸と膵臓からの血液が集まって肝臓に入る太い血管でした。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。口から食べると、吸収された栄養素とインスリンなどのホルモンが門脈を通って直接肝臓に届く。だから全身状態が許せば早期に経口栄養を再開することが、肝再生にとって最も生理的な管理になるんだ。これが正解だよ。
医学生医学生
点滴の中心静脈栄養でも栄養は入るのに、口からのほうがいいのは門脈を通るからなんですね。
ドクタードクター
その通り。さらに消化管を使うことで腸粘膜のバリア機能が保たれ、腸内細菌が血中に移行するbacterial translocationを防げる。長期絶食は腸粘膜の萎縮や低アルブミン血症を招くから、漫然とした絶食や中心静脈栄養は避けたい。
医学生医学生
下剤はどうでしょう。肝性脳症のときにラクツロースを使うと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ラクツロースは便通を整えて腸内のアンモニア産生・吸収を減らすために使うけれど、肝細胞の増殖を促す作用はない。下痢が過度になると脱水や低カリウム血症を招き、かえって肝性脳症を悪化させることもある。
医学生医学生
抗菌薬は術後感染を防ぐ意味では大事ですよね。
ドクタードクター
感染対策としては必要だけれど、再生を促すわけではないし、肝臓で代謝される薬も多く薬剤性肝障害の原因にもなりうる。必要な種類と期間に絞って使うのが原則だ。抗悪性腫瘍薬はどうかな。
医学生医学生
細胞増殖を抑える薬なので、正常の肝細胞の分裂まで止めてしまいそうです。
ドクタードクター
その理解で正しい。肝障害の原因にもなるから、術直後の残肝再生を促す目的で使うものではない。
医学生医学生
そもそも肝細胞癌の患者さんは肝硬変があることが多いので、再生にも限界がありそうです。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。だから切除範囲はChild-Pugh分類やICG15分停滞率、腹水やビリルビン値などで肝予備能を評価して決める。大きく切る必要があるときは、術前に門脈塞栓術を行って残す側の肝臓を肥大させておく方法もあるよ。術後は高ビリルビン血症やPT延長、腹水、肝性脳症といった術後肝不全のサインに注意しよう。
医学生医学生
消化器外科の実習で、術後早めに食事を始めていた理由がやっと腑に落ちました。
ドクタードクター
「食べること」は回復を待つだけの受け身の行為ではなく、治療そのものなんだ。肝臓に限らず、腸を使える時期には腸を使う、という原則を覚えておこう。

まとめ

肝臓は再生能力の高い臓器で、部分切除後には休止期の肝細胞が一斉に増殖して残存肝の容積が回復します。肝再生にはIL-6やHGFなどの増殖因子に加え、アミノ酸や糖などの材料と、門脈経由で届くインスリンなどの肝栄養因子が必要であり、術後早期の経口(経腸)栄養が最も生理的に再生を後押しします。経口摂取は腸粘膜のバリア機能を保ち、bacterial translocationや低アルブミン血症を防ぐ点でも有利です。一方、輸血・抗菌薬・抗悪性腫瘍薬は肝障害や再発のリスク因子となりうるものが多く、下剤も肝性脳症対策であって再生を促すものではありません。肝予備能の評価に基づく切除範囲の決定と術後栄養管理を一体として理解することが、肝切除の安全な周術期管理につながります。

解答・解説

正解はdです

肝臓は再生能力の高い臓器であり、部分切除を受けても残った肝細胞が増殖して、数週~数か月で機能的な肝容積がかなり回復する。本問は、この肝再生を後押しする術後管理はどれかを問うている。 肝再生には、①再生のきっかけとなるサイトカイン・増殖因子(インターロイキン6〈IL-6〉、腫瘍壊死因子α〈TNF-α〉、肝細胞増殖因子〈HGF〉など)、②増殖を支える材料とエネルギー(アミノ酸・糖・ビタミン・微量元素)、③それらを肝臓へ運ぶ門脈血流と、膵臓から門脈へ分泌されるインスリン・グルカゴンなどの肝栄養因子(hepatotrophic factor)が必要である。 消化管から栄養を摂取すると、吸収された栄養素とこれらのホルモンが門脈を通って直接肝臓に届く。そのため、全身状態が許せば早期に経口(経腸)栄養を再開することが、肝再生にとって最も生理的で有利な管理となる。一方、下剤・輸血・抗菌薬・抗悪性腫瘍薬は、それぞれ別の目的で使われることはあっても、肝再生を促す作用はもたない。むしろ肝臓への負担や肝障害の原因となりうるものが多い。

選択肢考察

  1. ×a.  下剤

    誤り。ラクツロースなどの下剤は、肝不全や肝性脳症のときに便通を整え、腸内でのアンモニア産生・吸収を減らす目的で使われる。しかし肝細胞の増殖を促す作用はない。過度の下痢は脱水や電解質異常(低カリウム血症など)を招き、かえって肝性脳症や全身状態の悪化につながることもある。

  2. ×b.  輸血

    誤り。輸血は出血や高度の貧血に対して循環血液量と酸素運搬能を保つための治療であり、肝再生そのものを促すことはない。むしろ、輸血後移植片対宿主病(GVHD)、輸血後肝炎などの感染症、頻回輸血による鉄過剰(ヘモジデローシス)などで肝障害を起こしうる。さらに、周術期の同種血輸血は免疫抑制を通じて肝細胞癌の術後再発を増やす可能性が指摘されており、肝切除では出血を減らし輸血を避けることが重視される。

  3. ×c.  抗菌薬

    誤り。抗菌薬は術後感染の予防や治療に用いるが、肝細胞の増殖を促す作用はない。肝臓で代謝される薬剤が多く、薬剤性肝障害の原因にもなりうる。必要な期間・種類に絞って使うべき薬である。

  4. ○d.  経口栄養

    正しい。消化管から吸収されたアミノ酸・糖などの栄養素と、インスリンなどの肝栄養因子は門脈を通って肝臓へ直接届き、肝細胞が増殖するための材料とシグナルになる。消化管を使うことで腸粘膜のバリア機能も保たれ、腸内細菌が血中へ移行するbacterial translocation(腸管内細菌の体内移行)や、それによる感染・肝障害を防げる。長期絶食は低アルブミン血症や腸粘膜萎縮を招くため、肝切除後は可能な限り早く経口摂取を再開し、良質な蛋白質やビタミン・ミネラルを含むバランスのよい食事をとることが原則である。

  5. ×e.  抗悪性腫瘍薬

    誤り。抗悪性腫瘍薬は細胞増殖を抑える薬であり、正常な肝細胞の分裂・再生も抑えてしまう。また肝臓で代謝されるものが多く、肝障害を起こしうる。術直後の残肝再生を促す目的で使うものではない。

肝再生の概要

肝細胞は通常ほとんど分裂しない休止期(G0期)にあるが、肝切除を受けると一斉に細胞周期に入り増殖する。ラットでは70%切除後およそ1~2週で元の肝重量近くまで回復することが知られ、ヒトでも術後数週~数か月で残肝の容積が大きく増加する。

肝再生にかかわる因子

・開始因子:IL-6、TNF-αなど(Kupffer細胞〈肝臓のマクロファージ〉などから産生) ・増殖因子:HGF、上皮成長因子(EGF)、形質転換増殖因子α(TGF-α)など ・補助因子:インスリン、グルカゴン、ノルアドレナリンなど。膵臓由来のホルモンは門脈経由で肝臓に高濃度で届く ・材料:アミノ酸、糖、ビタミン、微量元素

肝切除後の管理の要点

・術後肝不全(高ビリルビン血症、PT延長、腹水、肝性脳症など)に注意する ・早期の経口・経腸栄養を再開し、長期絶食や漫然とした中心静脈栄養を避ける ・肝障害をきたしうる薬剤の使用は最小限にする ・出血量を減らし、不要な輸血を避ける

残肝機能と切除範囲

肝細胞癌は慢性肝炎や肝硬変を背景に生じることが多く、肝予備能が低下している。切除範囲は、Child-Pugh分類、ICG(インドシアニングリーン)15分停滞率、腹水・血清ビリルビン値などをもとにした基準(幕内基準など)で決定される。切除範囲が大きい場合は、術前に門脈塞栓術を行って残す側の肝を肥大させておく方法もある。

POINT

・肝臓は再生能力が高く、部分切除後に残存肝が増殖して機能を回復する。 ・肝再生には門脈から届く栄養素とインスリンなどの肝栄養因子が重要であり、術後早期の経口(経腸)栄養が再生を助ける。 ・長期絶食は低アルブミン血症や腸粘膜萎縮、bacterial translocationを招く。 ・輸血、抗菌薬、抗悪性腫瘍薬はむしろ肝障害や再発リスクの要因となりうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。