StudyMed医師国家試験

かゆくて眼をこする―アトピー性皮膚炎の網膜剝離は「穴」から始まる

第108回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第108回 A問題 第14問

アトピー性皮膚炎に伴う網膜剝離の種類はどれか。

  1. a.出血性
  2. b.牽引性
  3. c.漿液性
  4. d.滲出性
  5. e.裂孔原性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は眼科の知識問題で、網膜剝離の分類とアトピー性皮膚炎の眼合併症を結びつけられるかがポイントだ。まずは網膜剝離がどういう仕組みで起こるのか、基本から整理していこう。
医学生医学生
網膜が眼球の壁から剝がれる病気、というくらいのイメージです。
ドクタードクター
もう少し正確に言うと、網膜の神経層(感覚網膜)が外側の網膜色素上皮から離れる状態だ。両者は発生学的に眼杯の内板と外板に由来していて、もともと強くくっついていない。だから間に液体が入り込むと剝がれやすいんだ。
医学生医学生
発生学の講義で眼杯の図を描かされたのを思い出しました。あの2枚の層の間が剝がれるんですね。
ドクタードクター
その通り。そして剝がれ方、つまり機序で3つに分類する。網膜に穴が開いて液化した硝子体が流れ込む裂孔原性、増殖膜が縮んで網膜を引っ張り上げる牽引性、血管から漏れた液体が網膜下にたまる滲出性だ。漿液性は滲出性の一種と考えてよい。
医学生医学生
アトピーの人は皮膚が弱いので、眼の血管も漏れやすくなって滲出性になる……ということはないでしょうか。
ドクタードクター
面白い推論だけど、ここで思い出してほしいのはアトピー性皮膚炎の患者さんの行動なんだ。顔がかゆいと、眼の周りをこすったり、叩いたりするよね。
医学生医学生
皮膚科の実習で、目の周りをずっと叩いてしまう若い患者さんがいました。まさか、その外力で網膜に穴が開くんですか。
ドクタードクター
そうなんだ。慢性的な機械的外力が眼球に加わり続けることで、網膜の最周辺部、鋸状縁付近や毛様体扁平部に裂孔ができる。そこから液化硝子体が網膜下に入り込むから、裂孔原性網膜剝離になる。若年者に多く、両眼性のことも少なくない。表皮も網膜も外胚葉由来で、眼組織の脆弱性も背景にあると考えられているよ。
医学生医学生
では牽引性はどういう場面で起こるんでしょうか。
ドクタードクター
代表は増殖糖尿病網膜症だ。虚血によって新生血管と線維血管性の増殖膜ができ、それが収縮して網膜を引っ張る。未熟児網膜症や増殖硝子体網膜症でもみられる。虚血と増殖膜が前提だから、アトピーで典型的に起こるものではない。
医学生医学生
漿液性というと、中心性漿液性脈絡網膜症が浮かびます。CBTの問題集で「中年男性・ストレス・ステロイド」とセットで覚えました。
ドクタードクター
いい覚え方だね。網膜色素上皮のバリアが傷んで黄斑部に漿液がたまる病気だ。滲出性全体でみると、Vogt-小柳-原田病などのぶどう膜炎、脈絡膜腫瘍、Coats病、妊娠高血圧症候群などが原因になる。体位によって網膜下液が移動するのが特徴だよ。
医学生医学生
出血性という分類は聞いたことがありません。
ドクタードクター
標準的な3分類には入らないね。ポリープ状脈絡膜血管症などで大量の網膜下出血が網膜を持ち上げることはあるけれど、アトピー性皮膚炎とは関係しない。だから答えは裂孔原性だ。
医学生医学生
アトピーの眼合併症では白内障も有名ですよね。
ドクタードクター
そう、アトピー性白内障は若年で進行しやすく、網膜剝離と合併することも多い。白内障手術の前後で網膜剝離が見つかることもあるから、術前後の眼底チェックは欠かせない。ほかにも眼瞼炎、アトピー性角結膜炎、円錐角膜がある。いずれもこする・叩くという刺激が関わるから、顔面のかゆみをコントロールすることが眼の合併症予防にもつながるんだ。
医学生医学生
裂孔原性網膜剝離の症状は、飛蚊症や光視症が前触れでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。剝離が進むとカーテンがかかったような視野欠損が出て、黄斑に及ぶと視力が急に落ちる。剝離前の裂孔だけなら網膜光凝固術、剝離していれば強膜内陥術や硝子体手術で裂孔を閉じる。若いアトピーの患者さんが「黒いものが飛ぶ」「視野が欠ける」と言ったら、すぐ眼科に紹介する意識を持っておこう。

まとめ

網膜剝離は機序により、裂孔から液化硝子体が流入する裂孔原性、増殖膜の収縮による牽引性、血管からの滲出液が貯留する滲出性(漿液性を含む)に分類されます。アトピー性皮膚炎では、かゆみで眼をこする・叩く慢性的な外力により網膜周辺部の鋸状縁付近や毛様体扁平部に裂孔が生じ、若年・両眼性の裂孔原性網膜剝離を起こしやすくなります。牽引性の代表は増殖糖尿病網膜症、漿液性・滲出性の代表は中心性漿液性脈絡網膜症やVogt-小柳-原田病であり、アトピーとは機序が異なります。アトピー性白内障や角結膜炎などの眼合併症も同じ機械的刺激が関与するため、皮膚症状のコントロールと飛蚊症・視野欠損などの初期症状への注意が、視機能を守る臨床判断につながります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

網膜剝離とは、網膜の神経層(感覚網膜)が、その外側にある網膜色素上皮から離れてしまう状態である。両者はもともと胎生期の眼杯の内板と外板に由来し、強固には接着していないため、何らかの原因で間に液体が入り込むと剝がれる。網膜剝離は発生機序によって大きく3つに分類される。 (1)裂孔原性網膜剝離:網膜に穴(裂孔)が開き、そこから液化した硝子体が網膜下へ流れ込んで剝がれる。最も頻度が高い。 (2)牽引性網膜剝離:裂孔はなく、硝子体や網膜表面にできた増殖膜(線維血管膜)が収縮して網膜を引っ張り上げる。 (3)滲出性(漿液性)網膜剝離:裂孔も牽引もなく、脈絡膜や網膜の血管から漏れ出た液体(滲出液)が網膜下にたまって剝がれる。

アトピー性皮膚炎と網膜剝離

アトピー性皮膚炎の患者では、顔面のかゆみのために眼の周囲をこすったり叩いたりする行為が慢性的に繰り返される。この機械的な外力が眼球に加わり続けることで、網膜の最周辺部(鋸状縁付近)や毛様体扁平部に裂孔・裂隙が生じ、裂孔原性網膜剝離が起こる。若年者に多く、両眼性のことも少なくない。アトピー性皮膚炎の患者では皮膚と同様に眼組織が脆弱であることも背景にあると考えられている(皮膚の表皮も網膜も外胚葉由来である)。同じ機序でアトピー性白内障も合併しやすく、白内障手術の前後で網膜剝離が見つかることもある。以上から、アトピー性皮膚炎に伴う網膜剝離は裂孔原性である。

選択肢考察

  1. ×a.  出血性

    出血性は網膜剝離の標準的な分類(裂孔原性・牽引性・滲出性)には含まれない。硝子体出血そのものが網膜を剝がすわけではなく、ポリープ状脈絡膜血管症などで大量の網膜下出血が起こり網膜が持ち上げられる状態を出血性の網膜剝離と呼ぶことはあるが、アトピー性皮膚炎とは関係しない。

  2. ×b.  牽引性

    牽引性網膜剝離は、裂孔がないまま増殖膜の収縮によって網膜が引き上げられる病態で、代表は増殖糖尿病網膜症である。ほかに未熟児網膜症、増殖硝子体網膜症、網膜静脈閉塞症後の増殖性変化などでみられる。虚血により新生血管と増殖膜が形成されることが前提であり、アトピー性皮膚炎で典型的にみられるものではない。

  3. ×c.  漿液性

    漿液性網膜剝離は、裂孔や牽引がなく、網膜下に漿液がたまって生じるもので、広い意味では滲出性網膜剝離に含まれる。代表疾患は中心性漿液性脈絡網膜症(網膜色素上皮のバリア障害で黄斑部に漿液がたまる。中年男性に多く、ストレスやステロイド使用が誘因)で、加齢黄斑変性やVogt-小柳-原田病でもみられる。アトピー性皮膚炎に伴うものではない。

  4. ×d.  滲出性

    滲出性網膜剝離は、脈絡膜や網膜の血管透過性亢進や循環障害によって滲出液が網膜下にたまるもので、裂孔はみられない。原因として、Vogt-小柳-原田病などのぶどう膜炎、後部強膜炎、脈絡膜悪性黒色腫や転移性脈絡膜腫瘍などの眼内腫瘍、Coats病、妊娠高血圧症候群や悪性高血圧などがある。体位によって網膜下液が移動するのが特徴である。アトピー性皮膚炎に伴うものではない。

  5. ○e.  裂孔原性

    アトピー性皮膚炎では、かゆみによって眼をこする・叩く行為が繰り返され、眼球に加わる慢性的な外力(および眼組織の脆弱性)によって網膜周辺部の鋸状縁付近や毛様体扁平部に裂孔が生じる。この裂孔から液化硝子体が網膜下に入り込み、裂孔原性網膜剝離となる。若年で両眼性に起こりやすく、アトピー性白内障を合併することも多い。治療は裂孔を閉鎖する手術(強膜内陥術や硝子体手術)である。

網膜剝離の分類と代表疾患

・裂孔原性:網膜裂孔から液化硝子体が網膜下に流入。後部硝子体剝離に伴う網膜の牽引(中高年、近視眼)、網膜格子状変性(若年者)、外傷、アトピー性皮膚炎、白内障術後などが原因。 ・牽引性:増殖膜の収縮による。増殖糖尿病網膜症、未熟児網膜症、増殖硝子体網膜症など。 ・滲出性(漿液性を含む):網膜下への滲出液の貯留。中心性漿液性脈絡網膜症、Vogt-小柳-原田病、後部強膜炎、脈絡膜腫瘍、Coats病、妊娠高血圧症候群など。

裂孔原性網膜剝離の臨床像

前駆症状として飛蚊症(硝子体中の浮遊物が見える)や光視症(網膜が引っ張られて光が走るように見える)があり、剝離が進むと剝離部位に対応した視野欠損(カーテンがかかったような見え方)が生じ、黄斑に及ぶと視力が急激に低下する。眼底検査で剝離した網膜と裂孔を確認する。治療は、裂孔だけで剝離がない段階では網膜光凝固術、剝離がある場合は強膜内陥術(バックリング)や硝子体手術(ガスタンポナーデ併用)を行う。

アトピー性皮膚炎の眼合併症

眼瞼炎、アトピー性角結膜炎(春季カタルに類似)、円錐角膜、アトピー性白内障(前嚢下・後嚢下混濁、若年で進行しやすい)、網膜剝離が代表である。いずれも眼をこする・叩くといった機械的刺激が関与しており、顔面の皮疹・かゆみのコントロールが眼合併症の予防にも重要である。

POINT

・網膜剝離は裂孔原性・牽引性・滲出性(漿液性を含む)の3つに分類される。 ・アトピー性皮膚炎に伴う網膜剝離は裂孔原性で、眼をこする・叩く機械的外力による鋸状縁付近・毛様体扁平部の裂孔が原因となる。若年・両眼性が多い。 ・アトピー性皮膚炎では白内障(アトピー性白内障)も合併しやすい。 ・牽引性の代表は増殖糖尿病網膜症、漿液性の代表は中心性漿液性脈絡網膜症、滲出性の代表はVogt-小柳-原田病や脈絡膜腫瘍である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。