同じ「拡大した弱い心臓」をどう分けるか―拡張型心筋症と虚血性心筋症の決め手は冠動脈
第107回医師国家試験 I問題 第7問
国試問題にチャレンジ
拡張型心筋症と虚血性心筋症の鑑別に最も有用な検査はどれか。
- a.冠動脈造影
- b.心エコー検査
- c.Holter心電図
- d.安静時心筋血流SPECT
- e.血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉測定
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
拡張型心筋症と虚血性心筋症は、どちらも左室拡大・収縮能低下・心不全を示すため、心エコー、BNP、Holter心電図などでは区別が困難です。両者を分ける本質は「心機能障害を説明できる有意な冠動脈病変の有無」であり、冠動脈内腔を直接評価する冠動脈造影が鑑別に最も有用で、冠動脈CTも非侵襲的な除外手段として用いられます。安静時心筋血流SPECTは虚血の範囲や心筋バイアビリティの評価に役立ちますが、冠動脈病変の有無を確定する検査ではありません。虚血性心筋症は血行再建で心機能が改善しうるため、拡張型心筋症という除外診断に至る前に冠動脈疾患を確実に除外することは、治療方針を左右する重要なステップです。
解答・解説
正解はaです
拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)は、左室の拡大と、びまん性の収縮能低下を特徴とする心筋疾患である。原因となる明らかな病態(冠動脈疾患、弁膜症、高血圧、アルコール、薬剤、代謝・内分泌疾患など)が見当たらないときに診断される。一方、虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy)は、多枝の冠動脈病変や繰り返す心筋梗塞によって心筋が広い範囲で傷み、結果として左室が拡大して収縮能が落ちた状態を指す。 両者は、心不全症状、左室拡大、左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)の低下、BNP上昇、不整脈など、表に出る所見がよく似ている。見た目の形態や機能の異常だけでは区別しにくいのである。 両者を分ける本質的な違いは「原因となる有意な冠動脈狭窄や閉塞があるかどうか」である。したがって、冠動脈そのものの内腔を直接描き出す検査が鑑別の決め手になる。DCMの診断は二次性心筋症を除外したうえで成り立つ除外診断であり、とくに冠動脈疾患の除外は必須の手順である。この観点から、最も有用な検査を選ぶことになる。
選択肢考察
- ○a. 冠動脈造影
冠動脈造影(coronary angiography:CAG)は、カテーテルを冠動脈の入口部に挿入し、造影剤を注入して冠動脈の内腔をX線で映し出す検査である。冠動脈狭窄の有無・部位・程度を評価する標準的検査(ゴールドスタンダード)とされる。左室の拡大と収縮低下をみる患者でCAGを行い、心機能障害を説明できるだけの有意狭窄や閉塞が見つかれば虚血性心筋症と考える。逆に冠動脈に有意病変がなければ、虚血性は否定的となり、DCMの可能性が高まる。両者を分ける病態上の違いそのものを直接評価できるため、鑑別に最も有用である。なお、近年は冠動脈CT(CTA)も、非侵襲的に冠動脈病変を除外する手段として用いられる。
- ×b. 心エコー検査
心エコー検査は、左室の拡大、壁の厚さ、LVEF、弁逆流などを評価する基本的な検査であり、心筋症の診断や重症度評価には欠かせない。しかし、DCMと虚血性心筋症はどちらも左室の拡大と壁運動低下を示す。冠動脈の支配領域に一致した局所的な壁運動異常や、梗塞部位の壁の菲薄化があれば虚血性を疑う手がかりにはなる。それでも、虚血性心筋症が進行して全体的に動きが落ちると、DCMとほとんど区別がつかない(DCMに似た像を示す)ことが多い。冠動脈を直接評価できないため、鑑別の決め手にはならない。受験者が誤って選びやすい選択肢である。
- ×c. Holter心電図
Holter心電図は、携帯型の記録器で通常24時間の心電図を連続して記録する検査である。主な目的は、動悸や失神の原因となる不整脈(心室期外収縮、非持続性心室頻拍、心房細動など)を検出することである。ST変化を記録できるため、冠攣縮性狭心症(安静時・夜間から早朝に出やすい)の診断に役立つこともある。しかし、心室性不整脈はDCMにも虚血性心筋症にも高い頻度でみられ、両者を区別する情報は得られない。
- ×d. 安静時心筋血流SPECT
心筋血流SPECT(single photon emission computed tomography:単一光子放射断層撮影)は、タリウムやテクネチウム製剤などの放射性薬剤が心筋の血流に応じて取り込まれる様子を画像化する核医学検査である。負荷時と安静時の像を比べると、可逆的な虚血と、梗塞などによる固定性欠損を区別できる。安静時像は、心筋がまだ生きているか(心筋バイアビリティ)を評価するうえで重要であり、血行再建で機能回復が見込めるかを判断する材料になる。ただし、これは虚血性心疾患と分かったうえで、その範囲や治療方針を考える場面で役立つ検査である。DCMでも心筋の線維化によって斑状の取り込み低下がみられることがあり、安静時像だけでは冠動脈病変の有無を確定できない。そのため、鑑別に最も有用とはいえない。
- ×e. 血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉測定
BNP(brain natriuretic peptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)は、主に心室の筋細胞から、壁への負担(壁応力)や左室拡張末期圧の上昇に反応して分泌されるホルモンである。心不全の診断、重症度の判定、治療効果のモニタリングに広く用いられ、NT-proBNPも同様に使われる。しかし、原因を問わず心臓に負荷がかかれば上昇する非特異的なマーカーである。急性冠症候群、肺血栓塞栓症、腎機能障害などでも上がる。DCMと虚血性心筋症はどちらも心不全を起こしうるため、BNPの値で両者を区別することはできない。
拡張型心筋症(DCM)の概要
・左室(ときに両心室)の拡大と、びまん性の収縮障害を特徴とする。 ・一部は遺伝性(家族性)であり、心筋の構造タンパクなどの遺伝子変異が関与する。 ・症状は心不全(労作時の息切れ、浮腫など)、不整脈(心室頻拍、心房細動)、血栓塞栓症である。心室性不整脈による突然死の危険もある。 ・診断は除外診断であり、冠動脈疾患、弁膜症、高血圧性心疾患、心筋炎後、アルコール性、薬剤性(アントラサイクリン系抗癌薬など)、サルコイドーシスなどの二次性心筋疾患を除外する必要がある。
虚血性心筋症の概要
・冠動脈疾患(陳旧性心筋梗塞、多枝病変)によって広い範囲の心筋が障害され、左室が拡大して収縮能が低下した状態である。 ・生きているが収縮が低下した心筋(冬眠心筋など)が残っていれば、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)といった血行再建で心機能が改善する可能性がある。そのため、DCMと区別する臨床的な意義は大きい。
鑑別に用いる検査の位置づけ
・冠動脈造影・冠動脈CT:冠動脈の狭窄や閉塞を直接評価する。虚血性かどうかを判定する中心となる。 ・心エコー:形態と機能を評価する。局所壁運動異常は虚血性を示唆する手がかりにとどまる。 ・心臓MRI(遅延造影):虚血性では、心内膜側から広がる、冠動脈の支配領域に一致した造影パターンを示す。DCMでは心筋の中層に線状の造影をみることがあり、補助的な鑑別に役立つ。 ・心筋血流SPECT:虚血の範囲やバイアビリティを評価し、治療方針を決める材料になる。 ・心筋生検:DCMの確定診断に必須ではないが、心筋炎やサルコイドーシスなど二次性心筋症の除外に用いられることがある。 ・BNP・Holter心電図:心不全の重症度評価や不整脈の検出には有用だが、原因の鑑別には役立たない。
POINT
・DCMと虚血性心筋症は、どちらも左室拡大・収縮低下・心不全を示すため、心エコーやBNPでは区別できない。 ・両者を分けるのは「有意な冠動脈病変の有無」であり、冠動脈造影が鑑別に最も有用である。 ・DCMは除外診断であり、冠動脈疾患の除外が必須である。 ・虚血性心筋症は血行再建で改善しうるため、区別することに治療上の意義がある。
