StudyMed医師国家試験

丸い赤ら顔と食欲亢進―コルチゾール過剰が皮膚に刻む赤紫の線

第107回医師国家試験 I問題 第68問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第68問

25歳の女性。高血圧の精査のため来院した。6か月前に胃腸炎症状で自宅近くの診療所を受診し高血圧を指摘された。3か月前から食欲が亢進し体重が4 kg増加した。身長154 cm,体重64 kg。脈拍76/分,整。血圧156/100 mmHg。顔面は赤ら顔で丸く,痤瘡を認める。尿所見:糖1+。  所見として予想されるのはどれか。

  1. a.脱毛
  2. b.筋肥大
  3. c.過多月経
  4. d.発汗過多
  5. e.伸展性皮膚線条

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い女性の高血圧から背景にある内分泌疾患を見抜き、その病気で「ほかに何が見えるはずか」を予想する問題だ。年齢、体重の増え方、顔つき、尿糖という手がかりがどう一本につながるかに注目しよう。
医学生医学生
25歳で高血圧というのは、本態性にしては若すぎますよね。二次性高血圧を考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
その通り。若年の高血圧はまず二次性を疑うのが基本だ。そこに短期間の体重増加、丸く赤い顔、痤瘡、耐糖能異常が重なっている。何を思い浮かべる?
医学生医学生
食欲が増えているので最初は甲状腺機能亢進症かと思いましたが、それなら体重は減るはずですし、脈も速くなりそうです。
ドクタードクター
いい推論だね。甲状腺機能亢進症は食欲が増えても体重が減り、頻脈や発汗を伴いやすい。今回は体重が増えて脈も正常だから合わない。むしろ満月様顔貌、肥満、痤瘡、高血圧、耐糖能異常という組み合わせは、コルチゾールが慢性的に過剰になるCushing症候群の典型像なんだ。
医学生医学生
内分泌の講義で「満月様顔貌と中心性肥満」はセットで習いました。でも、所見をどう予想すればいいか、丸暗記になってしまっていて…。
ドクタードクター
そこで役立つのが、コルチゾールを「飢餓やストレスのときに血糖を保つホルモン」ととらえる見方だ。糖新生を進め、その材料を得るために筋蛋白を分解し、コラーゲン合成を抑え、脂肪を体幹や顔に再分布させる。この作用から各所見を導けるよ。では正解から。伸展性皮膚線条はなぜ起こると思う?
医学生医学生
コラーゲンが作られにくくなって皮膚が薄くなるところに、急に太って皮膚が引き伸ばされるからでしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。真皮の結合組織が裂けて薄くなり、下の血管が透けて赤紫色の線として見える。腹部、大腿、殿部などに多く、Cushing症候群では幅が広く色が濃いのが特徴だ。これが今回予想される所見になる。
医学生医学生
でも皮膚線条って、妊娠線や普通の肥満でもできますよね。
ドクタードクター
鋭いね。皮膚線条そのものは疾患特異的ではない。ただ単純性肥満の線条は細く色が淡いことが多く、幅広い赤紫色の線条はCushing症候群を疑う手がかりになる。次に筋肥大はどうだろう。
医学生医学生
筋蛋白を分解するなら、逆に筋肉は痩せるはずですね。
ドクタードクター
その通り。特に大腿など近位筋が萎縮し、しゃがみ立ちや階段昇りがつらくなるステロイドミオパチーを起こす。体幹は太るのに手足は細い、というのがCushing症候群の体型だ。
医学生医学生
脱毛も逆で、むしろ毛が濃くなるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。多毛がみられ、特にACTHが高いCushing病や異所性ACTH症候群では副腎アンドロゲンも増えるので、女性で男性型の多毛が出ることがある。脱毛は甲状腺機能低下症や全身性エリテマトーデス、鉄欠乏などで問題になる所見だね。
医学生医学生
月経はどうなりますか。婦人科を回ったとき、過多月経は子宮筋腫の患者さんで多く見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。コルチゾール過剰は視床下部・下垂体に作用してLHやFSHの分泌を抑えるので、月経不順や稀発月経、無月経になりやすい。過多月経とは方向が逆なんだ。発汗過多も、Cushing症候群では特徴的ではない。
医学生医学生
発汗過多は甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、先端巨大症のように、熱産生や交感神経が亢進する病気で出る所見ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床で押さえておきたい点をまとめよう。確定診断にはデキサメタゾン抑制試験で翌朝のコルチゾールが抑制されないこと、深夜のコルチゾールが高いままであることなどを確認し、そのうえでACTHの値から原因を探る。下垂体腺腫によるCushing病、副腎腺腫、異所性ACTH産生腫瘍などがあるが、臨床で最も多いのはステロイド薬の長期投与による医原性だ。
医学生医学生
膠原病内科で、プレドニゾロンを長く飲んでいる患者さんが満月様顔貌になっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその実例だね。ほかにも野牛肩、皮膚の菲薄化と皮下出血、骨粗鬆症による椎体骨折、易感染性、うつや不眠などの精神症状、低カリウム血症も起こりうる。所見を暗記するより、コルチゾールの作用から逆算できるようにしておくと応用が利くよ。

まとめ

若年の高血圧に短期間の体重増加、満月様顔貌、痤瘡、耐糖能異常が重なれば、コルチゾールが慢性的に過剰となるCushing症候群を疑います。コルチゾールはコラーゲン合成を抑え、体幹への脂肪沈着で皮膚が急に引き伸ばされるため、幅広く赤紫色の伸展性皮膚線条が生じ、これが代表的な所見です。一方、筋蛋白の分解による近位筋萎縮、ゴナドトロピン抑制による月経不順・無月経、多毛がみられるため、筋肥大・過多月経・脱毛は逆の所見であり、発汗過多は甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫を考える所見です。確定にはデキサメタゾン抑制試験や深夜コルチゾール測定を行い、ACTH値から病型を探りますが、臨床で最も多いのはステロイド薬による医原性です。コルチゾールの生理作用から所見を導く考え方を身につければ、暗記に頼らずに副作用管理や鑑別診断にも応用できます。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・25歳女性。6か月前に高血圧を指摘された。若い年齢での高血圧であり、原因となる病気がある二次性高血圧をまず考える。 ・3か月前から食欲が増え、体重が4kg増加した。 ・身長154cm、体重64kgで、BMIは64÷1.54²≒27.0と肥満(日本の基準でBMI 25以上)である。 ・脈拍76/分で頻脈はない。血圧156/100mmHgと高い。 ・顔は赤く丸い(満月様顔貌)、痤瘡(にきび)がある。 ・尿糖が陽性で、耐糖能異常が疑われる。

診断へのプロセス

食欲亢進をきたす病気には、甲状腺機能亢進症、Cushing症候群、インスリノーマ、ある種の薬剤(抗精神病薬、抗うつ薬など)がある。甲状腺機能亢進症では食欲が増えても体重は減り、頻脈や発汗過多を伴うことが多いので、体重増加と正常な脈拍がある本例には合わない。 一方、若年の高血圧、短期間の体重増加(肥満)、満月様顔貌、年齢のわりに目立つ痤瘡、耐糖能異常の組み合わせは、コルチゾールが慢性的に過剰となるCushing症候群(Cushing徴候)に典型的である。確定には、デキサメタゾン抑制試験で翌朝のコルチゾールが抑制されないこと、深夜の血中・唾液中コルチゾールが高いままであることなどを確認し、その後ACTHの値から原因(下垂体腺腫によるCushing病、副腎腺腫、異所性ACTH産生腫瘍など)を調べる。

設問の考え方

Cushing症候群で「みられる所見」を選ぶ問題である。コルチゾール過剰によって起こる変化(蛋白の分解、脂肪の再分布、性腺機能の抑制など)を理解しておけば、各選択肢が合うかどうかを判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    Cushing症候群では脱毛ではなく多毛がみられる。うぶ毛が濃くなるほか、特にACTHが高いCushing病や異所性ACTH症候群では副腎アンドロゲンも増えるため、女性で男性型の多毛(顔や体幹の硬い毛の増加)がみられることがある。脱毛は甲状腺機能低下症、全身性エリテマトーデス、鉄欠乏などでみられる所見である。

  2. ×b.  筋肥大

    コルチゾールは筋肉の蛋白を分解(異化)してアミノ酸を肝臓に送り、糖新生の材料にする。そのため過剰になると骨格筋、特に大腿など近位筋が萎縮し、しゃがみ立ちや階段の昇りがつらくなる近位筋の筋力低下(ステロイドミオパチー)を起こす。体幹は太る一方で手足は細くなるのが特徴で、筋肥大とは逆である。

  3. ×c.  過多月経

    コルチゾールの過剰は視床下部・下垂体に作用し、黄体形成ホルモン(LH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を抑える。さらにアンドロゲン過剰も加わることがあり、排卵が障害されるため、月経不順や稀発月経、無月経になりやすい。過多月経は子宮筋腫や子宮腺筋症、甲状腺機能低下症、凝固異常などで問題になる所見である。

  4. ×d.  発汗過多

    Cushing症候群では熱の産生は増えず、発汗過多は特徴的な所見ではない。発汗過多は、代謝や熱産生が高まる甲状腺機能亢進症、カテコラミンが過剰になる褐色細胞腫、成長ホルモンが過剰になる先端巨大症などでみられる。

  5. ○e.  伸展性皮膚線条

    コルチゾールは線維芽細胞のコラーゲン合成を抑えるため、皮膚が薄く伸びにくくなる。そこに短期間での体幹の脂肪増加による皮膚の伸展が加わると、真皮の結合組織が裂けて薄くなり、下にある血管が透けて赤紫色の線条(赤色皮膚線条)として見える。腹部、大腿、殿部、腋窩付近に多い。Cushing症候群では幅が広く(1cm以上とされることが多い)色が濃いのが特徴で、Cushing徴候の代表である。なお皮膚線条自体は単純性肥満や妊娠(妊娠線)でもみられ、疾患特異的ではないが、本例で予想される所見として最も適切である。

Cushing症候群の主な徴候

・特徴的な身体所見:満月様顔貌、中心性肥満(体幹の肥満と細い手足)、野牛肩(buffalo hump:後頸部から肩の脂肪沈着)、赤色皮膚線条、皮膚の菲薄化、皮下出血(あざができやすい)、痤瘡、多毛 ・筋骨格系:近位筋の萎縮・筋力低下、骨粗鬆症(椎体骨折) ・代謝・循環:高血圧、耐糖能異常・糖尿病、脂質異常症、低カリウム血症(特にコルチゾールが非常に多い異所性ACTH症候群) ・その他:月経異常、易感染性、精神症状(うつ、不眠、多幸感)、白血球増多(好中球増加、好酸球・リンパ球の減少)

徴候の成り立ち

コルチゾールは、もともと飢餓などのストレスのときに血糖を保つ働きをもつホルモンと考えると理解しやすい。 ・肝臓での糖新生を促進 → 血糖上昇、耐糖能異常 ・糖新生の材料を得るため筋蛋白を分解 → 筋萎縮、近位筋の筋力低下 ・コラーゲン合成の抑制 → 皮膚の菲薄化、皮膚線条、皮下出血、骨粗鬆症 ・脂肪の再分布(四肢では分解、体幹・顔・後頸部では蓄積) → 中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩 ・食欲中枢の刺激 → 食欲亢進、体重増加 ・LH・FSHの分泌抑制 → 月経不順、無月経 ・免疫の抑制 → 易感染性 ・鉱質コルチコイド様作用や血管の昇圧物質への反応性の増強 → 高血圧

Cushing症候群の原因(病型)

・ACTH依存性:下垂体のACTH産生腺腫(Cushing病)、異所性ACTH産生腫瘍(肺小細胞癌、カルチノイドなど) ・ACTH非依存性:副腎腺腫、副腎癌、両側副腎の結節性病変 ・医原性:ステロイド薬の長期投与(臨床的には最も多い)

鑑別に役立つ所見

単純性肥満でも皮膚線条はできるが、細く色が淡いことが多い。筋力低下、皮膚の菲薄化、皮下出血、幅の広い赤紫色の線条はCushing症候群を疑う手がかりになる。

POINT

・若年の高血圧+急速な体重増加+満月様顔貌+痤瘡+耐糖能異常 → Cushing症候群を疑う。 ・Cushing症候群では、赤色(伸展性)皮膚線条、多毛、筋萎縮(近位筋の筋力低下)、月経不順・無月経がみられる。 ・脱毛、筋肥大、過多月経、発汗過多はいずれもCushing症候群の所見と逆か、無関係である。 ・発汗過多は甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・先端巨大症を考える所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。