血糖302、HbA1c 7.8%―「もう診断はついている」患者に糖負荷はいらない
第107回医師国家試験 I問題 第69問
国試問題にチャレンジ
58歳の女性。健康診断で尿糖を指摘され精査のため来院した。母親と姉とが糖尿病で加療中である。身長146 cm,体重44 kg。尿所見:蛋白(±),糖3+,ケトン体2+。血液生化学所見:随時血糖302 mg/dL,HbA1c(NGSP)7.8%(基準4.6~6.2)。 現時点での検査として適切でないのはどれか。
- a.眼底検査
- b.尿中アルブミン測定
- c.尿中Cペプチド測定
- d.膵島関連自己抗体測定
- e.経口グルコース負荷試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
随時血糖200mg/dL以上とHbA1c 6.5%以上が同じ採血で確認されれば、1回の検査で糖尿病と診断できます。すでに診断がついた患者に診断目的の75g経口グルコース負荷試験は不要であり、著しい高血糖やケトーシスのある患者ではむしろ病態を悪化させるおそれがあるため行いません。初診時には次に病型診断を行い、非肥満・ケトン体陽性の中高年では緩徐進行1型糖尿病も念頭に膵島関連自己抗体と尿中Cペプチドでインスリン分泌能を評価します。さらに2型糖尿病は発見時に合併症が進んでいることがあるため、眼底検査や尿中アルブミン測定で網膜症・早期腎症を評価します。「診断→病型→合併症」という流れで検査を整理する考え方は、糖尿病診療の初期対応の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・58歳女性。健康診断で尿糖を指摘された。 ・母と姉が糖尿病(家族歴あり)。 ・身長146cm、体重44kgで、BMIは44÷1.46²≒20.6と肥満はない。 ・尿糖3+、尿ケトン体2+、尿蛋白(±)。 ・随時血糖302mg/dL、HbA1c(NGSP値)7.8%。
糖尿病の診断
わが国の糖尿病診断基準では、血糖値(空腹時126mg/dL以上、75g経口グルコース負荷試験2時間値200mg/dL以上、または随時血糖200mg/dL以上のいずれか)とHbA1c 6.5%以上が同じ採血で同時に確認されれば、1回の検査だけで糖尿病と診断できる。本例は随時血糖302mg/dLとHbA1c 7.8%を同時に満たしており、すでに糖尿病と診断できる。
病型の見きわめ
家族歴があり、健診で見つかった経過からは2型糖尿病が最も考えやすい。しかし、肥満がなく、尿ケトン体が陽性であることから、インスリン分泌が低下している可能性や、1型糖尿病(中高年で発症してゆっくり進行する緩徐進行1型糖尿病を含む)も否定できない。したがって、インスリン分泌能の評価と膵島関連自己抗体の測定で病型を確認する必要がある。なお尿ケトン体は、2型糖尿病でも清涼飲料水の多飲による高血糖(ペットボトル症候群)や極端な食事制限で陽性になることがある。
設問の考え方
糖尿病の初診時には、1)糖尿病の診断、2)病型の診断(1型か2型か、その他の原因か)、3)合併症の評価(網膜症・腎症・神経障害・大血管障害)の順に進める。本例は1)がすでに終わっているので、2)と3)のための検査が「現時点で適切な検査」であり、1)のための検査は不要である。
選択肢考察
- ×a. 眼底検査
糖尿病網膜症は自覚症状がないまま進むことが多く、2型糖尿病は発見時にすでに何年も経過していることがある。そのため診断した時点で眼科受診を勧め、眼底検査で網膜症の有無と病期を評価する。現時点で行うべき適切な検査である。
- ×b. 尿中アルブミン測定
糖尿病性腎症(糖尿病関連腎臓病)の早期には、通常の試験紙による尿蛋白ではまだはっきりしない微量のアルブミン尿が出る。随時尿の尿中アルブミン/クレアチニン比が30mg/gCr以上であれば早期腎症の目安となる。本例でも尿蛋白(±)であり、腎症の評価として現時点で行うべき検査である。
- ×c. 尿中Cペプチド測定
Cペプチドはプロインスリンが分解されるときにインスリンと同じ量だけ作られる物質で、患者自身の膵β細胞からのインスリン分泌量を示す。24時間蓄尿で尿中Cペプチドを測ると、1日のインスリン分泌量を推定でき、明らかに低い場合(一般に20μg/日未満)はインスリン依存状態を示唆する。肥満がなくケトン体が陽性の本例では、インスリン分泌能を評価して治療方針を決めるために必要な検査である。
- ×d. 膵島関連自己抗体測定
抗GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体、ZnT8抗体などの膵島関連自己抗体は、自己免疫性の1型糖尿病で陽性になる。本例は非肥満でケトン体陽性であり、中高年に発症して数年かけてインスリン分泌が低下していく緩徐進行1型糖尿病も考えられる。陽性であれば早めのインスリン治療を検討するため、病型診断として測定すべきである。
- ○e. 経口グルコース負荷試験
75g経口グルコース負荷試験(OGTT)は、血糖値やHbA1cだけでは糖尿病かどうか判断できない「境界型」の疑いがある場合に行う診断のための検査である。本例は随時血糖302mg/dLとHbA1c 7.8%ですでに糖尿病と診断できるので、行う必要がない。それどころか、高血糖があり尿ケトン体も陽性の患者に75gのブドウ糖を飲ませると、さらに著しい高血糖やケトーシスの悪化を招くおそれがあり、危険である。したがって現時点での検査として適切でない。
糖尿病の診断基準(日本糖尿病学会)
・糖尿病型: 血糖値:空腹時126mg/dL以上、75gOGTT 2時間値200mg/dL以上、随時200mg/dL以上のいずれか HbA1c:6.5%以上 ・診断: 1)血糖値とHbA1cがともに糖尿病型 → 1回で糖尿病と診断 2)血糖値が糖尿病型で、口渇・多飲・多尿・体重減少など典型的な症状がある、または確実な糖尿病網膜症がある → 1回で糖尿病と診断 3)別の日の再検査で再び糖尿病型(少なくとも一方は血糖値)であれば糖尿病と診断 HbA1cのみの反復では診断できない。
75gOGTTの適応と注意
・適応:空腹時血糖110~125mg/dL、随時血糖140~199mg/dL、HbA1c 6.0~6.4%など、糖尿病の疑いが否定できない場合。 ・すでに糖尿病と診断されている患者や、著しい高血糖・ケトーシスのある患者には行わない。
糖尿病の病型
・1型:膵β細胞の破壊によるインスリン欠乏。多くは自己免疫性で、膵島関連自己抗体が陽性となる。発症の仕方により急性発症、緩徐進行、劇症に分けられる。 ・2型:インスリン分泌低下とインスリン抵抗性が組み合わさって起こる。家族歴や肥満、生活習慣との関連が強い。日本人は欧米人に比べてインスリン分泌能が低く、肥満がなくても発症しやすい。 ・その他の特定の機序・疾患によるもの(遺伝子異常、膵疾患、内分泌疾患、薬剤など)、妊娠糖尿病。
インスリン分泌能の指標
・血中Cペプチド(空腹時)、24時間尿中Cペプチド、グルカゴン負荷試験でのCペプチド上昇量などで評価する。 ・インスリン治療中の患者では、注射したインスリンと区別できないため、血中インスリン値ではなくCペプチドで評価する。
初診時の合併症評価
・細小血管症:網膜症(眼底検査)、腎症(尿中アルブミン、血清クレアチニン・eGFR)、神経障害(アキレス腱反射、振動覚、自覚症状) ・大血管症:冠動脈疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患(心電図、足関節上腕血圧比など)
POINT
・随時血糖200mg/dL以上とHbA1c 6.5%以上が同時にそろえば、1回の検査で糖尿病と診断できる。 ・すでに糖尿病と診断できる患者に75gOGTTは不要であり、高血糖・ケトーシスを悪化させるおそれがあるので行わない。 ・糖尿病の初診時は、診断 → 病型診断(自己抗体、Cペプチド) → 合併症評価(眼底、尿中アルブミンなど)の順に進める。 ・非肥満・ケトン体陽性の中高年では、緩徐進行1型糖尿病も念頭に膵島関連自己抗体を測る。
