出血の陰に新生血管あり―黄斑疾患の中から加齢黄斑変性を見抜く
第107回医師国家試験 I問題 第5問
国試問題にチャレンジ
眼底出血をきたすのはどれか。
- a.黄斑円孔
- b.網膜色素変性
- c.加齢黄斑変性
- d.中心性漿液性脈絡網膜症
- e.卵黄状黄斑ジストロフィー
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
眼底出血は、既存の網膜血管の障害か、脆弱な新生血管の破綻によって生じます。加齢黄斑変性(滲出型)は脈絡膜新生血管を本態とし、網膜下出血や網膜色素上皮下出血、滲出をきたすため、黄斑疾患の中で眼底出血を起こす代表例です。一方、黄斑円孔は硝子体牽引による構造的な孔、網膜色素変性と卵黄状黄斑ジストロフィーは視細胞や網膜色素上皮の遺伝性変性、中心性漿液性脈絡網膜症は漿液の漏出による網膜剝離であり、いずれも出血を基本病態としません。加齢黄斑変性の最大の危険因子は喫煙で、治療は抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択です。「出血の陰に新生血管あり」という視点で病態を整理すると、症状が似通う黄斑疾患の鑑別と治療方針の理解がぐっと明快になります。
解答・解説
正解はcです
本問は、黄斑部を中心とする代表的な網膜・脈絡膜疾患のうち、眼底出血を生じるものを選ぶ問題である。
眼底出血が起こる仕組み
眼底出血は、網膜や脈絡膜の血管が破綻したときに生じる。主な機序は次の2つに大別できる。 1. 既存の網膜血管の障害:網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症、高血圧性網膜症、血液疾患(白血病・貧血など)、外傷など。 2. 新生血管からの出血:本来存在しない脆弱な異常血管(新生血管)が生じ、そこから出血する。脈絡膜から生じる脈絡膜新生血管(加齢黄斑変性、強度近視など)と、網膜から硝子体側へ伸びる網膜新生血管(増殖糖尿病網膜症など)がある。
解き方の考え方
選択肢のうち、黄斑円孔は網膜の構造的な孔、網膜色素変性と卵黄状黄斑ジストロフィーは視細胞や網膜色素上皮の遺伝性変性、中心性漿液性脈絡網膜症は漿液(液体成分)の漏出による網膜剝離であり、いずれも血管の破綻や新生血管を基本病態としない。一方、加齢黄斑変性(滲出型)は脈絡膜新生血管を特徴とし、網膜下出血や網膜色素上皮下出血を典型的に生じる。したがって、新生血管の有無に着目すれば正解が導ける。
選択肢考察
- ×a. 黄斑円孔
網膜の中心部である黄斑(中心窩)に全層性の孔が開く疾患である。多くは特発性で、加齢に伴う硝子体の収縮・後部硝子体剝離の過程で硝子体が中心窩を前後方向・接線方向に牽引することで生じる。60歳代の女性に多い。症状は視力低下と、中心部が欠けたりゆがんで見える変視症・中心暗点である。光干渉断層計(OCT)で孔を確認して診断し、治療は硝子体手術(内境界膜剝離とガスタンポナーデ、術後のうつ伏せ姿勢)である。構造的な病変であり、出血は伴わない。
- ×b. 網膜色素変性
視細胞(主に杆体、進行すると錐体も)が進行性に変性・脱落する遺伝性疾患である。遺伝形式は常染色体顕性(優性)・潜性(劣性)・X連鎖性とさまざまである。杆体障害による夜盲で始まり、周辺視野から狭窄が進んで輪状暗点・求心性視野狭窄となり、進行すると中心視力も低下する。眼底では両眼対称性に骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蝋様萎縮がみられ、網膜電図(ERG)の振幅が著しく低下・消失(平坦化)する。視細胞の変性が本態であり、出血は起こさない。
- ○c. 加齢黄斑変性
加齢を背景に黄斑部が障害される疾患で、中高年に多く、喫煙が最大の危険因子である。滲出型と萎縮型に分けられ、滲出型では脈絡膜から網膜色素上皮下・網膜下へ脈絡膜新生血管が侵入する。新生血管は壁が脆く透過性が高いため、網膜下出血、網膜色素上皮下出血、滲出液の貯留(網膜浮腫・漿液性網膜剝離)、硬性白斑を生じる。大量の出血が硝子体へ及べば硝子体出血となることもある。症状は変視症、中心暗点、視力低下である。治療は抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の硝子体内注射が第一選択で、光線力学的療法(PDT)なども用いられる。したがって、眼底出血をきたす疾患として正しい。
- ×d. 中心性漿液性脈絡網膜症
30〜50歳代の働き盛りの男性に好発し、多くは片眼性に黄斑部の漿液性網膜剝離を生じる疾患である。脈絡膜血管の透過性亢進と網膜色素上皮のバリア機能の破綻により、脈絡膜側から網膜下へ漿液が漏れ出す。ストレス、A型行動様式、副腎皮質ステロイドの使用が誘因となる。症状は変視症、小視症、中心暗点、軽度の視力低下である。フルオレセイン蛍光眼底造影で蛍光漏出点(噴出型・円形拡大型)を認める。多くは数か月で自然軽快し、遷延例には漏出点へのレーザー光凝固や光線力学的療法が行われる。漏れるのは漿液であり、出血は生じない(出血を伴う場合は脈絡膜新生血管の合併を疑う)。
- ×e. 卵黄状黄斑ジストロフィー
Best(ベスト)病とも呼ばれる常染色体顕性(優性)遺伝の黄斑ジストロフィーで、原因遺伝子はBEST1(網膜色素上皮に発現する蛋白をコードする)である。小児期から黄斑部に卵の黄身のような黄色で円形の隆起病変が現れ、時間とともに偽蓄膿期・炒り卵期などを経て萎縮・瘢痕化する。網膜色素上皮の機能異常を反映して眼球電図(EOG)の異常(L/D比の低下)がみられる一方、全視野ERGはほぼ正常であることが診断に有用である。基本病態は網膜色素上皮の変性であり、出血は典型的な所見ではない(経過中にまれに脈絡膜新生血管を合併して出血を生じることはある)。
加齢黄斑変性の分類と特徴
・滲出型:脈絡膜新生血管を伴い、出血・滲出・浮腫によって急速に視力が低下する。日本人では、脈絡膜の異常血管網とその先端のポリープ状病巣を特徴とするポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が多く、男性に多い。網膜血管腫状増殖(RAP)という病型もある。 ・萎縮型:網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板が地図状に萎縮し、ゆっくり進行する。わが国では有効な治療が確立していない。 ・前駆病変:ドルーゼン(網膜色素上皮下の老廃物の沈着)がみられる。 ・検査:アムスラーチャートで変視症を確認し、OCTで網膜下液や網膜色素上皮剝離を、フルオレセイン・インドシアニングリーン蛍光眼底造影で新生血管を評価する。OCTアンギオグラフィーも用いられる。 ・予防:禁煙が重要であり、抗酸化サプリメントの有用性も報告されている。
黄斑疾患で「ゆがみ(変視症)」を訴える主な疾患
加齢黄斑変性、中心性漿液性脈絡網膜症、黄斑円孔、黄斑上膜、黄斑浮腫など。症状だけでは鑑別できないため、眼底所見・OCT・造影検査を組み合わせる。
眼底出血をきたす主な疾患
網膜静脈閉塞症(火炎状出血)、糖尿病網膜症(点状・しみ状出血、進行すると網膜新生血管からの硝子体出血)、高血圧性網膜症、加齢黄斑変性・強度近視の脈絡膜新生血管、網膜細動脈瘤、血液疾患(白血病、再生不良性貧血など)、揺さぶられっ子症候群を含む外傷、くも膜下出血に伴うTerson(テルソン)症候群など。
遺伝性網膜疾患と電気生理検査
網膜色素変性:ERGの振幅が低下・消失(平坦化)する。 卵黄状黄斑ジストロフィー:EOGが異常(L/D比低下)で、ERGはほぼ正常。
POINT
・加齢黄斑変性(滲出型)は脈絡膜新生血管から網膜下出血・滲出をきたす。治療の第一選択は抗VEGF薬の硝子体内注射である。 ・新生血管は脆弱で出血しやすい。選択肢の中で新生血管を本態とするのは加齢黄斑変性のみである。 ・黄斑円孔は硝子体の牽引による孔で、治療は硝子体手術。 ・網膜色素変性は夜盲・求心性視野狭窄・骨小体様色素沈着・ERG平坦化。 ・中心性漿液性脈絡網膜症は中年男性・片眼性の漿液性網膜剝離で、ステロイドやストレスが誘因。 ・卵黄状黄斑ジストロフィー(Best病)は常染色体顕性遺伝で、EOG異常・ERGほぼ正常。
