言葉が出ても会話はかみ合わない―自閉症の「意思伝達の障害」の本質
第107回医師国家試験 I問題 第4問
国試問題にチャレンジ
自閉症について誤っているのはどれか。
- a.知的能力障害〈精神遅滞〉を伴う。
- b.感覚過敏を伴う。
- c.3歳までにほぼ症状が出そろう。
- d.言葉の出現と共に意思伝達の障害は改善する。
- e.日常の習慣が変更されることに強い抵抗を示す。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
自閉症(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーション・対人相互反応の障害と、限局された反復的な行動・興味(こだわり、同一性保持、感覚の過敏・鈍麻を含む)を中核とする神経発達症で、症状は多くの場合3歳頃までの発達早期に明らかになります。そのコミュニケーション障害の本質は発語の有無ではなく、言葉や身ぶりをやりとりに使う語用の障害であり、言葉が出てもオウム返しや一方的な会話、比喩の字義的理解などの困難が残りやすいため、「言葉の出現と共に意思伝達の障害は改善する」は誤りです。知的能力障害は必発ではないものの代表的な合併症で、てんかんやADHDなどの合併にも注意が必要です。支援は療育や構造化などの環境調整が中心で、易刺激性にはリスペリドンなどが使われることがあります。「話せるか」ではなく「やりとりできるか」という視点は、診断だけでなく家族への説明や支援方針を考える上での土台になります。
解答・解説
正解はdです
本問は自閉症(現在の診断体系では自閉スペクトラム症〈autism spectrum disorder:ASD〉に含まれる)の臨床的特徴を問う問題であり、「誤っているもの」を選ぶ形式である。
自閉症の中核症状
古典的には、Wing(ウィング)の「3つ組」として次の3領域の障害で説明されてきた。 1. 社会的相互交流(対人関係)の障害:視線が合いにくい、他者と関心や喜びを共有しにくい、相手の気持ちを読み取りにくい。 2. コミュニケーションの障害:言葉の遅れ、オウム返し(反響言語)、独特な言い回し、会話のやりとりが続かない。 3. 想像力の障害とこだわり(限局された反復的な行動・興味):同じ手順や習慣への固執、変化への強い抵抗、常同運動、特定の物への強い関心。 現在のDSM-5(米国精神医学会の診断基準)では1と2がまとめられ、「社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の持続的な欠陥」と「限局された反復的な行動・興味・活動」の2領域で診断する。後者には感覚刺激への過敏・鈍麻も含まれる。
解き方の考え方
自閉症におけるコミュニケーションの障害は、単に「言葉が出ない」という発語の問題ではなく、言葉やしぐさを他者とのやりとりの道具として使うこと自体(語用論的な側面)の障害である。したがって、言葉が話せるようになっても、会話の文脈や相手の意図を理解してやりとりすることの困難は持続しやすい。この点を押さえれば、「言葉の出現と共に意思伝達の障害は改善する」という記述が誤りであると判断できる。
選択肢考察
- ×a. 知的能力障害〈精神遅滞〉を伴う。
記述として正しい(誤りを選ぶ本問では正解ではない)。自閉症は知的水準にかかわらず生じ、知的障害を伴わない例(いわゆる高機能自閉症)もあるため「必ず」伴うわけではない。しかし、古典的な自閉症(ICD-10の小児自閉症)では多くの例で知的能力障害を合併するとされてきた。対象をスペクトラム全体に広げた最近の統計でも、ASDの子どもの約3分の1程度に知的障害が合併すると報告されており、知的能力障害は代表的な合併症である。
- ×b. 感覚過敏を伴う。
記述として正しい。聴覚(特定の音を極端に嫌がり耳をふさぐ)、触覚(服のタグや特定の素材を嫌う)、味覚(極端な偏食)などの感覚過敏がしばしばみられ、逆に痛みや温度に鈍感な感覚鈍麻を示すこともある。こうした感覚の偏りはパニックや問題行動のきっかけになりうる。DSM-5では感覚刺激に対する過敏さや鈍感さが「限局された反復的な行動・興味」の症状の一つとして診断基準に組み込まれた。
- ×c. 3歳までにほぼ症状が出そろう。
記述として正しい。ICD-10の小児自閉症では、3歳以前に発達の異常や障害が明らかになることが診断の要件とされていた。対人関係の障害、コミュニケーションの障害、こだわりといった特徴は、多くの場合3歳頃までに認められる。なお、DSM-5では「症状は発達早期に存在していなければならない(ただし社会的要求が能力の限界を超えるまでは完全に明らかにならないこともある)」と表現が改められ、年齢の区切りは明示されなくなった。
- ○d. 言葉の出現と共に意思伝達の障害は改善する。
記述として誤りであり、これが正解である。自閉症の意思伝達の障害の本質は、言葉を相手とのやりとりのために使う能力の障害にある。そのため言葉が出てきても、オウム返し(反響言語)、自分の関心事を一方的に話す、比喩や冗談・皮肉を字義どおりに受け取る、声の抑揚や表情・身ぶりなど非言語的な手がかりを理解・使用しにくい、会話の順番交代ができないなどの困難が残ることが多い。言葉の出現が即座に意思伝達の改善を意味するわけではない。
- ×e. 日常の習慣が変更されることに強い抵抗を示す。
記述として正しい。同一性の保持(同じであることへのこだわり)は自閉症の代表的な症状で、通園路・食事の手順・物の配置などが少しでも変わると強い不安を示し、パニックに至ることもある。想像力の障害(先の見通しを立てにくいこと)が背景にあると考えられ、支援では予定を絵や文字で事前に示す(視覚的構造化)などの工夫が行われる。
疾患概念と名称の変遷
Kanner(カナー)が1943年に報告した早期幼児自閉症に始まり、ICD-10やDSM-IVでは広汎性発達障害の下位分類として小児自閉症(自閉性障害)、アスペルガー症候群などが区別されていた。DSM-5(2013年)およびICD-11ではこれらが統合され、自閉スペクトラム症(ASD)という連続体(スペクトラム)として捉えられるようになった。
疫学
有病率は近年の調査で1〜2%程度と報告され、男児に多い(男女比はおよそ4:1)。遺伝的要因の関与が大きい神経発達症であり、育て方が原因ではない。
合併しやすい状態
知的能力障害、てんかん(思春期にかけて発症が増える)、注意欠如・多動症(ADHD)、不安症、睡眠障害、発達性協調運動症などを合併しやすい。
診断のポイント(DSM-5)
A. 社会的コミュニケーションおよび対人相互反応の持続的な欠陥(対人的・情緒的な相互性、非言語的コミュニケーション、人間関係の発展・維持の3つすべて) B. 限局された反復的な行動・興味・活動(常同的な運動や会話、同一性へのこだわり、限定された強い興味、感覚の過敏・鈍麻のうち2つ以上) C. 症状が発達早期から存在する D. 臨床的に意味のある機能障害を引き起こしている E. 知的能力障害や全般的発達遅延ではうまく説明されない
支援・治療
根本的な治療薬はなく、療育(早期の発達支援)、TEACCH(構造化による環境調整を中心とした支援プログラム)、応用行動分析(ABA)、ソーシャルスキルトレーニングなどが中心となる。易刺激性(かんしゃく、攻撃性、自傷など)に対してはリスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。
POINT
・自閉症の中核は「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」「こだわり(同一性保持・常同行動)」である。 ・コミュニケーションの障害は、言葉が出ても語用(やりとりのための言葉の使い方)の障害として残りやすい。 ・知的能力障害の合併が多いが、知的障害を伴わない例もある。 ・感覚過敏・鈍麻を伴い、DSM-5では診断基準の一項目となっている。 ・症状は発達早期(多くは3歳頃まで)に明らかになる。
