「早く寝なきゃ」が不眠をつくる―朝の光から整える睡眠指導
第107回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
不眠症の対処として最も適切なのはどれか。
- a.早寝早起きを心掛ける。
- b.眠くなくても寝床に入る。
- c.目が覚めたら日光を浴びる。
- d.睡眠薬代わりに寝る前に酒を飲む。
- e.昼寝も含めて1日8時間は睡眠をとる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
睡眠は、覚醒時間とともに眠気がたまる睡眠恒常性と、視交叉上核の生体時計による概日リズムの2つで調節されており、朝の日光は生体時計をリセットして夜のメラトニン分泌と自然な眠気を導く最も強力な因子です。そのため不眠症の生活指導では、毎朝一定の時刻に起きて日光を浴び、日中に活動して睡眠圧をためることが基本となります。逆に、眠くないのに早く寝床に入ることは睡眠効率を下げて「寝床=眠れない場所」という条件づけを生み、寝酒は睡眠後半の質低下や耐性・依存を招き、一律の8時間睡眠や長い昼寝へのこだわりも不眠を悪化させます。慢性不眠症には刺激制御法や睡眠制限法を含む認知行動療法が第一選択の非薬物療法で、薬物療法はその上に考慮します。「眠らせる」より「起き方を整える」という発想は、日常診療で患者さんに具体的な助言をするうえで欠かせない視点です。
解答・解説
正解はcです
本問は、不眠症に対する生活指導(睡眠衛生指導)の基本原則を問う問題である。
睡眠を決める2つの仕組み
ヒトの睡眠は、主に次の2つの仕組みで調節されている。 1. 睡眠恒常性(ホメオスタシス):起きている時間が長くなるほど睡眠を求める圧力(睡眠圧)が蓄積し、眠くなる仕組みである。アデノシンなどの睡眠物質の蓄積が関与するとされる。 2. 概日リズム(サーカディアンリズム):視床下部の視交叉上核にある生体時計が約24時間周期のリズムを刻み、眠気と覚醒の時間帯を決める仕組みである。生体時計の周期は24時間よりわずかに長い人が多く、毎朝の光刺激によってリセット(同調)される。
不眠症への生活指導の考え方
不眠に悩む人ほど「早く寝床に入って長く眠ろう」としがちだが、眠れないまま寝床で過ごす時間が長くなると、寝床と「眠れない苦痛」とが結びつき(条件づけ)、不眠がかえって固定化する。したがって指導の中心は「いかに眠らせるか」ではなく、 ・毎朝決まった時刻に起き、光を浴びて生体時計を整える(概日リズムへの働きかけ) ・日中に活動し、長い昼寝を避けて夜に十分な睡眠圧をためる(睡眠恒常性への働きかけ) ・眠くなってから寝床に入り、眠れなければいったん寝床を離れる(寝床と入眠との結びつけ直し) という、起床側・日中側からのアプローチである。 この原則に照らすと、起床後に日光を浴びて生体時計をリセットする行動が最も適切な対処となる。
選択肢考察
- ×a. 早寝早起きを心掛ける。
早起き(毎朝一定の時刻に起きること)は概日リズムを整えるうえで有用である。しかし「早寝」を目標にすると、まだ眠気がないうちに寝床に入ることになり、寝つけない時間が延びて不眠への不安や焦りを強める。就床時刻にこだわらず、眠くなってから寝床に入るのが原則であり、「早寝」を勧める点で不適切である。
- ×b. 眠くなくても寝床に入る。
眠気がないまま寝床に入ると、寝床で覚醒して過ごす時間が長くなり、睡眠効率(実際に眠っていた時間÷寝床にいた時間)が低下する。さらに「寝床=眠れずに悩む場所」という条件づけが形成され、不眠が慢性化しやすい。不眠の認知行動療法でも、眠くなってから寝床に入り、眠れないときは寝床を出る(刺激制御法)ことが推奨されている。
- ○c. 目が覚めたら日光を浴びる。
朝の強い光(日光)は網膜から視交叉上核に伝わり、生体時計をリセットして概日リズムを24時間に同調させる最も強力な因子である。朝に光を浴びると、夜間に睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が止まり、およそ14〜16時間後に再び分泌が高まって自然な眠気が訪れる。そのため、毎朝一定の時刻に起きて日光を浴びることは、夜の入眠を整える基本的かつ有効な生活指導である。時差ぼけ(時差障害)の対策としても、現地時間の朝に光を浴びることが勧められる。
- ×d. 睡眠薬代わりに寝る前に酒を飲む。
アルコールは一時的に寝つきを良くするが、分解されるにつれて交感神経が興奮し、睡眠の後半が浅くなって中途覚醒や早朝覚醒が増える(アルコールの利尿作用による夜間の排尿も加わる)。また、上気道の筋肉を弛緩させて閉塞性睡眠時無呼吸やいびきを悪化させる。連用すると耐性がついて量が増え、やめたときに反跳性の不眠を生じ、アルコール依存症へ進むおそれもある。眠るための飲酒(寝酒)は避けるよう指導すべきであり、明らかに不適切な選択肢である。
- ×e. 昼寝も含めて1日8時間は睡眠をとる。
必要な睡眠時間には個人差が大きく、年齢とともに短くなる。一律に「8時間」を目標にすると、眠れない自分に焦りを感じて不眠を悪化させやすく、また寝床にいる時間を無理に延ばすことにつながる。疫学的にも、成人では7時間前後の睡眠の人で死亡リスクが最も低く、それより長くても短くてもリスクが高まる傾向が報告されている。さらに、長い昼寝は夜までに蓄積すべき睡眠圧を減らし、夜の入眠を妨げる。昼寝をするなら午後早い時間帯に短時間(30分以内が目安)にとどめるのがよい。
不眠症とは
入眠困難(寝つけない)、中途覚醒(夜中に何度も目が覚める)、早朝覚醒(予定より早く目が覚めてしまう)、熟眠障害(ぐっすり眠った感じがない)などの睡眠の問題があり、十分な睡眠の機会があるにもかかわらずそれが続き、日中の倦怠感・集中力低下・気分の不調など生活上の支障を伴う状態をいう。わが国の調査では、成人のおよそ5人に1人が睡眠に関する何らかの悩みを抱えているとされる。
主な睡眠衛生指導(生活習慣の工夫)
・毎朝同じ時刻に起床し、起床後は日光を浴びる。 ・就床時刻にこだわらず、眠くなってから寝床に入る。 ・眠れないときは寝床から出て、眠気が来たら戻る。 ・日中に適度な運動をする(就寝直前の激しい運動は避ける)。 ・昼寝は午後早めの時間に短時間にとどめる。 ・就寝前のカフェイン(コーヒー、緑茶、エナジードリンクなど)、喫煙(ニコチンは覚醒作用がある)、寝酒を避ける。 ・就寝前は強い光やスマートフォンなどの画面を避け、リラックスできる環境を作る。 ・睡眠時間にこだわりすぎず、日中の眠気で困らなければ十分と考える。
不眠の認知行動療法(CBT-I)
慢性不眠症に対する第一選択の非薬物療法として位置づけられている。刺激制御法(寝床は眠るときだけ使う)、睡眠制限法(寝床にいる時間を実際の睡眠時間に近づけて睡眠効率を高める)、睡眠衛生教育、リラクセーション、睡眠についての誤った思い込みの修正などを組み合わせる。
薬物療法
生活指導で改善しない場合に考慮する。従来のベンゾジアゼピン受容体作動薬に加え、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサントなど)が用いられる。アルコールを睡眠薬の代わりに用いることはすべきでない。
POINT
・不眠症の生活指導は「眠らせる」ことより「朝の起床と光」「日中の活動」から睡眠リズムを整えることが基本である。 ・朝の光は視交叉上核の生体時計をリセットし、夜のメラトニン分泌と自然な眠気を導く。 ・眠くなってから寝床に入り、眠れなければ寝床を離れる(刺激制御法)。 ・寝酒は睡眠を浅くし中途覚醒・耐性・依存を招くため避ける。 ・必要な睡眠時間には個人差があり、一律の時間を目標にしない。長い昼寝は避ける。
