StudyMed医師国家試験

ウイルスを抑える薬、ウイルスを目覚めさせる薬―B型慢性肝炎の薬物療法を整理する

第107回医師国家試験 I問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第23問

B型慢性肝炎においてB型肝炎ウイルスの増殖を抑制するのはどれか。

  1. a.ラミブジン
  2. b.リツキシマブ
  3. c.副腎皮質ステロイド
  4. d.分岐鎖アミノ酸製剤
  5. e.ウルソデオキシコール酸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、B型慢性肝炎でウイルスの増殖そのものを抑える薬を選ぶ問題だ。選択肢には肝疾患に関係する薬が並んでいるけれど、「ウイルスに直接効くか」と「肝臓の病態を整えるだけか」を区別できるかがポイントになる。まず、HBVの増え方について覚えていることはあるかな。
医学生医学生
DNAウイルスなのに逆転写酵素を使う、という変わった性質があると微生物学で習いました。
ドクタードクター
その通り。HBVは肝細胞の核内でプレゲノムRNAをつくり、それを鋳型にしてHBVポリメラーゼが逆転写でDNAを合成する。この逆転写のステップを狙い撃ちするのが核酸アナログ製剤だ。選択肢の中でこれに当たる薬はどれだと思う?
医学生医学生
ラミブジンですね。HIVの薬としても名前を聞いたことがあります。
ドクタードクター
正解。ラミブジンは細胞内でリン酸化されて活性型になり、HBVポリメラーゼの逆転写を競合的に阻害するとともに、合成中のDNA鎖に取り込まれて伸長を止める。その結果HBV-DNAが減り、ALTも改善する。もともとHIVの逆転写酵素阻害薬として使われてきたというのも、仕組みを考えれば納得がいくね。
医学生医学生
でも消化器内科の実習では、エンテカビルを飲んでいる患者さんばかりでした。ラミブジンはあまり見なかったです。
ドクタードクター
よく気づいたね。ラミブジンは長期投与でYMDD変異などの耐性ウイルスが高率に出てくるので、今の初回治療では耐性の起こりにくいエンテカビルやテノホビル(TDF、TAF)が第一選択だ。ただし「HBVの増殖を抑える薬」であることに変わりはないから、この問題の答えはラミブジンでいい。では、リツキシマブはどうかな。
医学生医学生
CD20に対する抗体で、B細胞リンパ腫の治療薬ですよね。抗ウイルス作用はなさそうです。
ドクタードクター
そう。むしろ逆で、B細胞を強力に除去して液性免疫を落とすため、HBVの再活性化を起こす代表的な薬なんだ。HBs抗原陽性のキャリアだけでなく、HBs抗原陰性でHBc抗体やHBs抗体が陽性の既往感染者でも、de novo B型肝炎として再活性化しうる。
医学生医学生
一度治った人でも再燃するんですか。HBs抗原が消えていれば大丈夫だと思っていました。
ドクタードクター
そこは大事な誤解だね。肝細胞の核内にはcccDNAという閉環状二本鎖DNAが残っていて、免疫が監視しているから静かにしているだけなんだ。だからリツキシマブや抗癌薬を使う前には、HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体を確認して、必要に応じてHBV-DNAのモニタリングや核酸アナログの予防投与を行う。
医学生医学生
副腎皮質ステロイドも同じ理屈で、免疫を抑えるからウイルスが増えてしまうということですか。
ドクタードクター
その通り。ステロイドは自己免疫性肝炎では第一選択だけれど、B型肝炎ではHBVの複製をかえって促す。さらに減量・中止で免疫が戻ると、増えたウイルスを排除しようと強い肝炎が起こり、劇症化することもある。だからB型慢性肝炎に安易に使ってはいけないんだ。
医学生医学生
残りの分岐鎖アミノ酸製剤は、肝硬変の患者さんに出す薬でしたよね。
ドクタードクター
そう。肝硬変ではBCAAが減って芳香族アミノ酸が増え、Fischer比が下がる。BCAAを補うと骨格筋でのアンモニア処理を助け、アルブミン合成も促すので、非代償性肝硬変の低アルブミン血症や肝性脳症に使う栄養療法だ。ウルソデオキシコール酸は親水性の胆汁酸製剤で、原発性胆汁性胆管炎の第一選択薬。慢性肝炎で補助的に使うこともあるけれど、どちらもウイルスには作用しない。
医学生医学生
ウイルスに効くのはラミブジンだけで、リツキシマブとステロイドは逆にウイルスを起こしてしまう側、残り2つは肝臓の状態を支える薬、という分け方ですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。発展として、HBVの抗ウイルス療法にはもう一つの柱、ペグインターフェロンがある。免疫賦活で効く注射薬で、期間限定の治療で投与終了後も効果が続くことがある一方、発熱や血球減少、うつ症状などの副作用があり、非代償性肝硬変には使えない。
医学生医学生
核酸アナログはcccDNAを消せないから、やめると再燃しやすいんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、だから核酸アナログは長期継続が基本になる。治療の目標はHBV-DNAの持続的な低下、ALTの正常化、HBeセロコンバージョン、そして最終的にはHBs抗原の消失で、それによって肝硬変や肝細胞癌への進展を防ぐことだ。臨床では、どの科にいても免疫抑制療法の前にはHBVのスクリーニングを、と覚えておいてほしい。

まとめ

HBVはDNAウイルスでありながらプレゲノムRNAからの逆転写で複製するため、HBVポリメラーゼを阻害する核酸アナログ製剤(ラミブジン、エンテカビル、テノホビルなど)がウイルス増殖を直接抑えます。ラミブジンは耐性ウイルスが出やすく、現在の初回治療ではエンテカビルやテノホビルが第一選択で、もう一つの柱として免疫賦活作用をもつペグインターフェロンがあります。リツキシマブや副腎皮質ステロイドは逆にHBV再活性化を招く薬剤で、既往感染者でもcccDNAが残るため、投与前のHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体の確認と必要時の予防投与が欠かせません。分岐鎖アミノ酸製剤は肝硬変の栄養療法、ウルソデオキシコール酸は原発性胆汁性胆管炎の第一選択薬で、いずれもウイルスには作用しません。「ウイルスを抑える薬」と「ウイルスを目覚めさせる薬」を対で理解することは、肝臓内科に限らずあらゆる科での安全な薬物療法につながります。

解答・解説

正解はaです

B型慢性肝炎の治療で、ウイルスそのものの複製を抑える薬剤を選ぶ問題である。

B型慢性肝炎の治療の考え方

B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスであるが、複製の途中でプレゲノムRNAを鋳型として逆転写酵素(HBVポリメラーゼ)によりDNAを合成するという特殊な増殖様式をもつ。この逆転写の段階を阻害するのが核酸アナログ製剤(核酸誘導体製剤)であり、HBV-DNA量を強力に低下させる。もう一つの柱はインターフェロン(IFN、特にペグインターフェロン)で、宿主の免疫を賦活して抗ウイルス効果を発揮する。 治療の目標は、ウイルス増殖を抑えて肝炎を鎮静化させ、肝硬変への進展と肝細胞癌の発生を防ぐことである。短期的な指標はHBV-DNAの持続的な低下、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の正常化、HBe抗原の消失とHBe抗体の出現(HBeセロコンバージョン)であり、最終的な目標はHBs抗原の消失である。

解き方

選択肢のうち抗ウイルス作用をもつのは核酸アナログ製剤であるラミブジンだけである。そのほかは、抗腫瘍薬・免疫抑制薬・肝硬変の栄養療法薬・胆汁酸製剤であり、いずれもHBVの複製を直接抑える作用はない。特にリツキシマブと副腎皮質ステロイドは、逆にHBVの再活性化を引き起こしうる薬剤であり、対照的な位置づけとして押さえておくとよい。

選択肢考察

  1. ○a.  ラミブジン

    核酸アナログ製剤の一つである。細胞内でリン酸化されて活性型となり、HBVポリメラーゼの逆転写活性を競合的に阻害するとともに、合成中のDNA鎖に取り込まれて鎖の伸長を止める。これによりHBV-DNAの複製が抑えられ、ALTの改善が得られる。もともとはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の逆転写酵素阻害薬としても用いられる薬剤である。ただし長期投与でYMDD変異などの薬剤耐性ウイルスが高率に出現するため、現在の初回治療ではより耐性が生じにくいエンテカビルやテノホビル(テノホビル ジソプロキシル、テノホビル アラフェナミド)が第一選択とされ、ラミブジンが新規に単独で使われることはほとんどない。それでも「HBVの増殖を抑える薬」であることに変わりはなく、本問の正解である。

  2. ×b.  リツキシマブ

    B細胞表面のCD20抗原に対するヒト・マウスキメラ型モノクローナル抗体で、分子標的治療薬である。CD20陽性のB細胞性非Hodgkinリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫など)の治療に用いられるほか、一部の自己免疫疾患などにも使われる。抗ウイルス作用はない。むしろB細胞を強力に除去して液性免疫を低下させるため、HBVキャリアだけでなくHBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体が陽性の既往感染者でもHBVの再活性化(de novo B型肝炎を含む)を起こしうる代表的薬剤である。投与前にはHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体を確認し、必要に応じてHBV-DNAのモニタリングや核酸アナログの予防投与を行う。

  3. ×c.  副腎皮質ステロイド

    抗炎症作用と免疫抑制作用をもち、自己免疫性肝炎などでは第一選択の治療薬となるが、HBVの増殖を抑える作用はない。免疫を抑えることでHBVの複製はかえって亢進し、ステロイドの減量・中止時に免疫が回復すると、増えたウイルスを排除しようとする反応が強く起こって肝炎が急性増悪し、劇症化することもある。このためB型慢性肝炎にステロイドを安易に用いることは避けるべきであり、免疫抑制療法を行う場合にはHBV再活性化への対策が必要となる。

  4. ×d.  分岐鎖アミノ酸製剤

    分岐鎖アミノ酸(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)を補充する製剤で、非代償性肝硬変の低アルブミン血症や肝性脳症の治療に用いられる。肝硬変では芳香族アミノ酸(AAA)が増えBCAAが減る(Fischer比の低下)。BCAAを補うことで、骨格筋でのアンモニア処理を助け、脳内へのAAAの流入を競合的に減らし、アルブミン合成を促して栄養状態を改善する。肝病態の改善を目的とした栄養療法であり、HBVに対する作用はない。

  5. ×e.  ウルソデオキシコール酸

    親水性の胆汁酸製剤で、利胆作用(胆汁の分泌促進)、疎水性の強い有害な胆汁酸による肝細胞障害の軽減、コレステロール胆石の溶解作用などをもつ。原発性胆汁性胆管炎(PBC、かつての原発性胆汁性肝硬変)の第一選択薬であり、慢性肝炎で肝機能改善を目的に補助的に投与されることもある。しかしウイルスの複製には作用しないため、HBVの増殖は抑制しない。

B型慢性肝炎の抗ウイルス療法

1. 核酸アナログ製剤:ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)、テノホビル アラフェナミド(TAF)。内服薬で、HBV-DNAを強力かつ速やかに低下させ、副作用が少ない。一方で、肝細胞核内のcccDNA(閉環状二本鎖DNA)は排除できないため、中止すると再燃しやすく、長期(多くは無期限)の継続投与が基本となる。初回治療では耐性の生じにくいエンテカビル、TDF、TAFが推奨される。 2. インターフェロン(主にペグインターフェロン):注射薬。免疫賦活作用による抗ウイルス効果をもち、期間を限定した治療で投与終了後も効果が持続する(drug freeが得られる)可能性がある。発熱、血球減少、うつ症状、間質性肺炎などの副作用があり、非代償性肝硬変には用いない。

HBV再活性化に注意すべき薬剤

リツキシマブなどの抗CD20抗体、副腎皮質ステロイド、各種免疫抑制薬、抗癌薬、生物学的製剤(TNF阻害薬など)。HBs抗原陽性例だけでなく、HBs抗原陰性でもHBc抗体またはHBs抗体陽性の既往感染例で再活性化が起こりうる(肝臓内にcccDNAが残存しているため)。

選択肢に登場した薬剤の主な用途の整理

リツキシマブ:CD20陽性B細胞リンパ腫など 副腎皮質ステロイド:自己免疫性肝炎など 分岐鎖アミノ酸製剤:非代償性肝硬変(低アルブミン血症、肝性脳症) ウルソデオキシコール酸:原発性胆汁性胆管炎、胆石溶解など

POINT

・HBVの増殖を直接抑えるのは核酸アナログ製剤とインターフェロンである。 ・核酸アナログはHBVポリメラーゼの逆転写を阻害する。現在の第一選択はエンテカビル、テノホビル(TDF・TAF)で、ラミブジンは耐性ウイルスが出やすい。 ・リツキシマブや副腎皮質ステロイドはHBV再活性化の原因となる薬剤であり、抗ウイルス薬とは正反対の位置づけである。 ・BCAA製剤は肝硬変の栄養療法、ウルソデオキシコール酸はPBCの第一選択薬である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。