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しびれは環指の真ん中で止まる―肘部管症候群と尺骨神経の感覚支配

第107回医師国家試験 I問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第17問

手の模式図(①~⑤)を別に示す。  肘部管症候群でみられる代表的な感覚低下部位はどれか。  ただし,斜線部は感覚低下部位を示す。

第107回 I問題 第17問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、手の感覚低下の分布図から、肘部管症候群に合うものを選ぶ問題だ。まず病名を「どの神経の障害か」に翻訳できるかがカギになる。肘部管ではどの神経が圧迫されるかな。
医学生医学生
肘の内側を通る尺骨神経です。机の角に肘をぶつけて小指側がビリッとする、いわゆるファニーボーンのところですよね。
ドクタードクター
その通り。肘部管は上腕骨内側上顆の後方にあるトンネルで、そこで尺骨神経が圧迫されたり引き伸ばされたりして起こる絞扼性神経障害が肘部管症候群だ。だからこの問題は「尺骨神経の手掌側の感覚支配はどこか」を問うているわけだね。では、手掌の感覚支配を整理してみよう。
医学生医学生
解剖実習で習ったのは、母指から環指の橈側半分までが正中神経、小指と環指の尺側半分が尺骨神経、でした。
ドクタードクター
完璧だ。手掌の橈側部は正中神経、小指球を含む尺側部は尺骨神経、そして橈骨神経は手掌側にはほとんど分布せず、主に手背の橈側を支配する。特に大事なのは、環指がちょうど真ん中で正中神経と尺骨神経に分かれていることだよ。
医学生医学生
そうすると、小指全体と環指の尺側半分、それに続く手掌の尺側部に斜線がある図が正解ですね。
ドクタードクター
正解。その分布が尺骨神経の支配領域にぴったり一致する。ほかの図がなぜ違うかも見ておこう。小指の尺側半分と小指球だけに斜線がある図はどうかな。
医学生医学生
尺骨神経っぽい場所ですけど、小指全体ではないので範囲が狭すぎる気がします。
ドクタードクター
そう。尺骨神経は小指を丸ごと支配しているから、小指の橈側や環指の尺側にも感覚低下が及ぶはずなんだ。次に、環指全体と小指に斜線がある図は?
医学生医学生
環指の橈側半分は正中神経なので、尺骨神経だけの障害なら環指全体はしびれない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。これを逆から使うのが臨床のコツで、環指の真ん中で感覚の境界が分かれる、いわゆるring finger splittingがあれば、末梢神経である尺骨神経の障害を強く示唆する。頸椎疾患によるC8神経根障害だと皮膚分節に沿うので、環指全体や前腕尺側にまで広がることが多いんだ。
医学生医学生
整形外科の実習で、頸椎症か肘部管症候群かを鑑別するのに環指をこまめに診察していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしているね。残りの2つ、中指まで斜線が及んでいる図は、中指が正中神経支配だから明らかに広すぎる。尺骨神経の範囲を越えているので外れだ。
医学生医学生
ちなみに、肘部管症候群と手首での尺骨神経障害は、感覚で区別できるんですか。
ドクタードクター
できるよ。尺骨神経の手背枝は手関節より近位で分岐するから、肘部管症候群では手背の尺側もしびれる。一方、手関節部のGuyon管での障害では手背枝が保たれ、手背の感覚は残る。障害部位を推定するうえで大事なポイントだ。
医学生医学生
運動症状についても押さえておきたいです。
ドクタードクター
骨間筋、小指球筋、母指内転筋、環指・小指の深指屈筋などが弱くなり、骨間筋の萎縮が進むと鉤爪指変形を呈する。母指と示指で紙をつまんで引っ張らせると、母指内転筋の筋力低下を正中神経支配の長母指屈筋で代償して母指IP関節が曲がる、これがFroment徴候だ。肘部管でのTinel徴候や肘屈曲テストも診断に役立つ。
医学生医学生
原因で覚えておくべきものはありますか。OSCEの模擬患者さんで、昔の肘の骨折歴を聞かれた設定がありました。
ドクタードクター
まさにそれが重要だ。小児期の上腕骨外顆骨折後に外反肘となり、何十年も経ってから尺骨神経麻痺が出る遅発性尺骨神経麻痺が有名だね。ほかに変形性肘関節症の骨棘、ガングリオン、肘を曲げた姿勢の持続などもある。軽症なら肘の屈曲を避ける保存療法、筋萎縮を伴うような進行例では尺骨神経の前方移行術などの手術を検討する。筋萎縮が進む前に見つけることが大切なんだ。

まとめ

肘部管症候群は、上腕骨内側上顆の後方にある肘部管で尺骨神経が絞扼される疾患で、感覚低下は小指全体と環指の尺側半分、手の尺側部に生じます。環指の中央で感覚の境界が分かれるring finger splittingは、皮膚分節に沿うC8神経根障害ではなく末梢神経障害を示す手がかりとなり、中指や環指橈側に及ぶ場合は正中神経領域を含むため尺骨神経単独の障害とはいえません。手背尺側の感覚障害の有無は肘部管症候群とGuyon管症候群の鑑別に役立ち、運動面では骨間筋萎縮、鉤爪指変形、Froment徴候が特徴です。小児期の上腕骨外顆骨折後の外反肘による遅発性尺骨神経麻痺など原因も多彩で、感覚支配の正確な理解は障害部位の同定と早期治療の土台になります。

解答・解説

正解はbです

肘部管症候群は、肘関節の内側(上腕骨内側上顆の後方)にある肘部管で尺骨神経が圧迫・牽引されて生じる絞扼性神経障害である。したがって、本問は「尺骨神経の手掌側の感覚支配領域はどこか」を問うている。 手掌側の感覚支配は次のように整理できる。 ・正中神経:母指、示指、中指と環指の橈側半分、および手掌の橈側部 ・尺骨神経:小指と環指の尺側半分、および手掌の尺側部(小指球を含む) ・橈骨神経:手掌側にはほとんど分布しない(主に手背の橈側) 環指は中央を境に橈側が正中神経、尺側が尺骨神経の支配となっている点が重要である。模式図のうち、小指全体と環指の尺側半分、それに続く手掌尺側部に斜線がある図が尺骨神経障害の感覚低下部位にあたる。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    誤り。①は小指の尺側半分と、それに連なる手掌尺側縁(小指球)のみに感覚低下がある図である。尺骨神経は小指の全体と環指の尺側半分を支配するため、尺骨神経障害の範囲としては狭すぎる。小指の橈側と環指尺側にも感覚低下が及ぶはずである。

  2. ○b.  ②

    正しい。②は小指全体、環指の尺側半分、およびそれに連続する手掌の尺側部に感覚低下を示しており、尺骨神経の手掌側の感覚支配領域と一致する。環指の中央で感覚低下の境界が分かれている(ring finger splitting)ことが、神経根障害(皮膚分節)ではなく末梢神経である尺骨神経の障害であることを示す手がかりになる。肘部管症候群ではこの領域のしびれ・感覚低下が代表的な症状である。

  3. ×c.  ③

    誤り。③は環指全体と小指、手掌尺側部に感覚低下がある図である。環指の橈側半分は正中神経の支配であるため、尺骨神経単独の障害では環指全体の感覚低下にはならない。

  4. ×d.  ④

    誤り。④は中指の尺側半分から環指・小指、手掌尺側の広い範囲に感覚低下がある図である。中指は正中神経の支配であり、尺骨神経の支配領域を超えている。

  5. ×e.  ⑤

    誤り。⑤は中指全体・環指・小指と手掌の尺側から中央部まで感覚低下が及ぶ図である。中指と環指橈側は正中神経の支配であり、尺骨神経障害の範囲としては広すぎる。

肘部管症候群

尺骨神経が肘部管(内側上顆と肘頭の間を走り、Osborne靱帯などで覆われるトンネル)で障害される。原因として、変形性肘関節症の骨棘、小児期の上腕骨外顆骨折後の外反肘(遅発性尺骨神経麻痺)、ガングリオン、尺骨神経の脱臼、肘を曲げた姿勢の持続などがある。

症状・所見

・感覚障害:小指と環指尺側半分、手掌・手背の尺側部のしびれや感覚低下 ・運動障害:骨間筋、小指球筋、母指内転筋、深指屈筋(環指・小指)などの筋力低下と萎縮。進行すると鉤爪指変形(かぎ爪手)を呈する ・Froment徴候:母指と示指で紙をつまみ引っ張らせると、母指内転筋の筋力低下を長母指屈筋(正中神経支配)で代償し、母指 IP関節が屈曲する ・肘部管部での Tinel徴候、肘屈曲テスト陽性

Guyon管症候群との鑑別

尺骨神経の手背枝は手関節より近位で分岐するため、肘部管症候群では手背尺側にも感覚障害が生じる。一方、手関節部の Guyon管(尺骨神経管)での障害では手背枝が保たれるため、手背の感覚は障害されない。

治療

軽症では肘の屈曲を避けるなどの保存療法を行い、筋萎縮を伴う例や進行例では尺骨神経の前方移行術、単純除圧術、内側上顆切除術などの手術を行う。

POINT

・肘部管症候群=肘部での尺骨神経の絞扼性神経障害 ・尺骨神経の感覚支配:小指全体+環指尺側半分+手の尺側部 ・環指の中央で感覚障害の境界が分かれるのは末梢神経障害の特徴 ・肘部管症候群では手背尺側も障害され、Guyon管症候群では手背は保たれる ・運動症状として骨間筋萎縮、鉤爪指変形、Froment徴候

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。