母体の凝固を揺さぶるのは誰か―産科DICの基礎疾患を見抜く
第107回医師国家試験 I問題 第1問
国試問題にチャレンジ
産科DICを起こしにくいのはどれか。
- a.子癇
- b.弛緩出血
- c.羊水塞栓症
- d.胎盤機能不全
- e.常位胎盤早期剝離
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠中は凝固因子が増えて生理的に凝固が亢進しており、胎盤・脱落膜・羊水には組織因子が豊富なため、産科的イベントをきっかけにDICが急激に発症しやすくなります。産科DICの原因として最多は常位胎盤早期剝離で、羊水塞栓症、弛緩出血などの大量出血、重症妊娠高血圧症候群・子癇・HELLP症候群、重症感染症、死胎児稽留、急性妊娠脂肪肝も重要な基礎疾患です。一方、胎盤機能不全は主に胎児側への酸素・栄養供給の低下として現れ、それ自体は母体の凝固系を急激に活性化させないためDICの原因にはなりにくい病態です。産科DICは急速に進行しフィブリノゲン低下が著しい一方、基礎疾患を除去すれば改善しやすいため、基礎疾患からDICを予測して早期に補充療法と原因除去を行う姿勢が母体救命につながります。
解答・解説
正解はdです
【テーマ】産科DIC(播種性血管内凝固)の基礎疾患 DIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固)は、何らかの基礎疾患によって全身の血管内で凝固が過剰に活性化し、微小血栓の多発による臓器障害と、凝固因子・血小板の消費による出血傾向とを同時にきたす病態である。 妊娠中の母体は、分娩時の出血に備えてフィブリノゲンなどの凝固因子が増加し、生理的に凝固が亢進した状態にある。さらに胎盤・脱落膜・羊水には組織因子(凝固を強力に開始させる物質)が豊富に含まれる。このため、胎盤の剝離や羊水の母体血中への流入、大量出血などの産科的イベントが起こると、短時間で急激にDICへ進行しやすい。これが産科DICの特徴であり、発症が急激で、線溶亢進を伴いフィブリノゲンが著しく低下しやすい。 産科DICを起こしやすい代表的な基礎疾患は、常位胎盤早期剝離、羊水塞栓症、大量出血による出血性ショック(弛緩出血、前置胎盤、産道損傷など)、重症妊娠高血圧症候群・子癇・HELLP症候群、重症感染症(敗血症、産褥熱など)、死胎児稽留、急性妊娠脂肪肝などである。 本問では、これらのうち「DICを起こしにくい」ものを選ぶ。胎盤機能不全は胎盤を介した酸素・栄養の供給が不十分になる状態であり、主に胎児側に影響が出る病態で、それ自体が母体の凝固系を急激に活性化させるわけではない。
選択肢考察
- ×a. 子癇
子癇は、妊娠20週以降に初めて起こるけいれん発作で、てんかんなど他の原因によらないものをいう。多くは妊娠高血圧症候群を背景に発症する。妊娠高血圧症候群では全身の血管内皮障害が起こり、血小板の活性化や凝固亢進が進んでいるため、重症例や子癇ではDICを合併しやすい。溶血・肝酵素上昇・血小板減少をきたすHELLP症候群を伴うこともある。産科DICの基礎疾患である。
- ×b. 弛緩出血
弛緩出血は、胎盤娩出後に子宮筋の収縮が不十分なために胎盤剝離面の血管が圧迫閉鎖されず、大量出血をきたす状態である。大量出血により凝固因子が失われ(希釈性・喪失性凝固障害)、出血性ショックに伴う組織低灌流が凝固系を活性化させることで、DICに進展しやすい。DICになるとさらに止血しにくくなり出血が増える悪循環に陥る。産科DICの基礎疾患である。
- ×c. 羊水塞栓症
羊水塞栓症は、羊水やその中の胎児成分(胎脂、毛髪、扁平上皮など)が母体血中に流入し、呼吸困難、低酸素血症、血圧低下、心停止などを急激に引き起こす疾患である。羊水には組織因子が多く含まれるため凝固系が強く活性化され、高率にDICを合併する。心肺虚脱を伴わず子宮からの大量出血とDICを主徴とするタイプ(子宮型羊水塞栓症)もあり、母体死亡の主要な原因の一つである。
- ○d. 胎盤機能不全
胎盤機能不全は、胎盤の血流障害などにより胎児への酸素・栄養の供給が不十分になる状態である。妊娠高血圧症候群や過期妊娠などを背景に起こり、胎児発育不全、羊水過少、胎児の低酸素状態(胎児機能不全)、羊水混濁、子宮内胎児死亡などをきたす。影響は主に胎児側に現れ、胎盤機能不全そのものが母体の凝固系を急激に活性化させることはないため、産科DICの原因にはなりにくい。ただし子宮内胎児死亡に至り、死胎児が長期間子宮内にとどまった場合(死胎児稽留)にはDICが起こりうる。
- ×e. 常位胎盤早期剝離
常位胎盤早期剝離は、正常位置に付着した胎盤が胎児娩出前に子宮壁から剝がれる疾患である。胎盤の剝離面にできた血腫(胎盤後血腫)で凝固因子が大量に消費されるうえ、胎盤・脱落膜由来の組織因子が母体血中に流入して凝固系が一気に活性化する。産科DICの原因として最も頻度が高い代表的疾患であり、診断した時点でDICの合併を念頭に置いた管理が必要となる。
産科DICの特徴
・基礎疾患の発症から短時間で急激に進行する ・消費性凝固障害に線溶亢進を伴い、フィブリノゲンの低下が著しい ・大量出血を伴うことが多い ・原因(胎盤・胎児の娩出、止血)を取り除けば比較的速やかに改善することが多い ・検査結果を待たずに治療を開始する必要があるため、臨床症状と基礎疾患を重視した日本独自の産科DICスコアが用いられてきた
産科DICを起こしやすい基礎疾患
1. 常位胎盤早期剝離(最多) 2. 羊水塞栓症 3. 大量出血・出血性ショック(弛緩出血、前置胎盤、癒着胎盤、子宮破裂、産道損傷など) 4. 重症妊娠高血圧症候群、子癇、HELLP症候群 5. 重症感染症(敗血症、産褥熱、感染性流産など) 6. 死胎児稽留症候群 7. 急性妊娠脂肪肝
治療の原則
・基礎疾患の除去(急速遂娩、子宮収縮薬、止血処置、必要に応じて子宮動脈塞栓術や子宮摘出) ・抗ショック療法と補充療法(新鮮凍結血漿、赤血球液、血小板濃厚液、フィブリノゲンの補充) ・抗凝固療法(アンチトロンビン製剤など)
胎盤機能不全の概要
・原因:妊娠高血圧症候群、過期妊娠、母体の糖尿病・腎疾患・膠原病、喫煙など ・胎児への影響:胎児発育不全、羊水過少、胎児心拍数パターンの異常(胎児機能不全)、羊水混濁、子宮内胎児死亡 ・評価:超音波による胎児発育・羊水量の測定、ドプラ血流計測、ノンストレステスト(NST)、BPS(biophysical profile score)など
POINT
・妊娠中は生理的に凝固が亢進し、胎盤・羊水には組織因子が豊富なため、産科DICは急激に発症しやすい ・産科DICの原因として最多は常位胎盤早期剝離 ・羊水塞栓症、大量出血(弛緩出血など)、重症妊娠高血圧症候群・子癇・HELLP症候群、重症感染症、死胎児稽留、急性妊娠脂肪肝も原因となる ・胎盤機能不全は主に胎児側(発育不全、低酸素)に影響し、それ自体はDICの原因になりにくい
