StudyMed医師国家試験

舌の白い痛みの正体は真菌―KOH鏡検が導く口腔カンジダ症の治療

第107回医師国家試験 H問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第107回 H問題 第29問

70歳の女性。舌の疼痛を主訴に来院した。舌に白色病変を認める。病変部から採取した白色物質の苛性カリ〈KOH〉直接鏡検法の写真を別に示す。  治療として適切なのはどれか。

第107回 H問題 第29問の問題画像
  1. a.抗真菌薬を塗布する。
  2. b.抗菌薬を経口投与する。
  3. c.白色病変部の舌を部分切除する。
  4. d.オピオイドで疼痛コントロールを行う。
  5. e.副腎皮質ステロイド含有軟膏を塗布する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、舌の白色病変の正体を見極めて、適切な治療を選ぶ問題だ。カギは、白色物質を苛性カリ、つまりKOHで処理した直接鏡検の所見。舌が白くなる病気はいくつもあるから、まずは鑑別から考えてみよう。
医学生医学生
舌の白い病変というと、白板症や舌癌がまず浮かびます。高齢の方なので悪性も心配です。
ドクタードクター
大事な視点だね。舌の白色病変の主な鑑別は、口腔カンジダ症、白板症、舌癌、口腔扁平苔癬あたりだ。白板症は上皮の角化亢進による白斑で、こすっても剥がれず、通常は痛みがない。舌癌は舌縁に好発し、硬結や潰瘍を伴って痛むことがある。扁平苔癬はレース状の白い線条が特徴だ。
医学生医学生
そうなると、見た目だけで区別するのは難しそうですね。
ドクタードクター
だからこそKOH直接鏡検が決め手になる。KOHは角質や細胞成分を溶かすけれど、キチンを含む真菌の細胞壁は溶かさない。そのため真菌だけが浮かび上がって見えるんだ。今回の鏡検では、糸状に伸びる仮性菌糸と、円形から卵円形の酵母様の分芽胞子が見えている。
医学生医学生
皮膚科の実習で、足白癬の鱗屑をKOHで見たことがあります。菌糸と胞子が両方あるなら、口の中ならカンジダですね。
ドクタードクター
その通り。主にCandida albicansによる口腔カンジダ症と診断できる。カンジダの白苔はガーゼでぬぐうと剥がれて、その下に赤い粘膜が出てくることが多く、灼熱感や痛みを伴いやすい。今回の舌の痛みとも合うね。では治療はどうする?
医学生医学生
原因が真菌なので、抗真菌薬ですね。口の中に限局しているなら塗る薬で良さそうです。
ドクタードクター
正解。限局した口腔カンジダ症では、ミコナゾールの口腔用ゲルなど、抗真菌薬を病変に直接作用させる局所療法が第一選択だ。局所療法で治らない例、病変が広範な例、食道まで及ぶ例、免疫不全がある例では、フルコナゾールやイトラコナゾールの内服を考える。
医学生医学生
抗菌薬の内服はどうでしょう。感染症だから効きそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。抗菌薬は細菌を標的とする薬で、真菌のカンジダには効かない。それどころか口腔内の常在細菌叢を乱して、カンジダが増えやすい菌交代現象を招くから、かえって誘因になりうるんだ。
医学生医学生
ステロイド軟膏は、口内炎に使うイメージがあります。痛みも炎症も抑えられそうですが。
ドクタードクター
ステロイドは局所の免疫防御を弱めるから、真菌感染に塗ると悪化させるおそれがある。実際、吸入ステロイドや口腔用ステロイド軟膏はカンジダ症の代表的な誘因だ。ステロイド軟膏が向いているのは、扁平苔癬やアフタ性口内炎のような感染ではない病変だよ。
医学生医学生
舌の部分切除は、癌だった場合の治療ですよね。
ドクタードクター
そう。舌部分切除は舌癌などの悪性腫瘍に対する手術で、薬で治る感染症に行う理由はない。オピオイドも癌性疼痛などに使う鎮痛薬で、原因を治さずに痛みだけ抑えるのは適切ではない。カンジダの痛みは抗真菌薬で原因を治療すれば軽快するからね。
医学生医学生
ただ、もし抗真菌薬で治らなかったら、白板症や癌が隠れている可能性もありますよね。
ドクタードクター
鋭いね。抗真菌薬で改善しない白色病変や、硬結・潰瘍を伴う病変では、白板症や癌の併存を否定するために生検を考える。カンジダ症の中にも剥がれにくい肥厚性という病型があって、白板症との鑑別が必要になるんだ。
医学生医学生
高齢の方がカンジダ症になる背景には、どんなものがあるんでしょう。
ドクタードクター
乳幼児や高齢者のほか、義歯の装着、口腔乾燥、広域抗菌薬の使用、ステロイドや免疫抑制薬、糖尿病、悪性腫瘍や化学療法中、HIV感染症などが代表的な誘因だ。だから治療では、義歯の清掃や夜間の取り外し、口腔ケア、吸入ステロイド後のうがい、血糖管理といった誘因への対策もセットで行う。病型としては、ぬぐうと剥がれる白苔の偽膜性が最も多く、乳児では鵞口瘡と呼ばれる。粘膜の発赤や舌乳頭の萎縮が主体でヒリヒリ痛む紅斑性もあるよ。

まとめ

舌の白色病変では、口腔カンジダ症、白板症、舌癌、口腔扁平苔癬などを鑑別し、白色物質のKOH直接鏡検で仮性菌糸と分芽胞子を認めれば口腔カンジダ症と診断できます。治療は抗真菌薬で、限局例ではミコナゾール口腔用ゲルなどの局所療法が第一選択、難治例・広範例・免疫不全例では内服を考慮します。抗菌薬はカンジダに無効で菌交代現象により誘因となり、ステロイド外用は感染を増悪させるため避けるべきです。さらに義歯の管理や口腔ケア、吸入ステロイド後のうがいなど誘因への対策も重要で、抗真菌薬で改善しない病変は白板症や癌を疑って生検を検討します。原因に応じた治療を選ぶという原則を、身近な口腔病変を通じて確認できる問題です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・70歳の女性(高齢者) ・主訴は舌の疼痛 ・舌に白色病変がある ・白色物質の苛性カリ(KOH)直接鏡検で、糸状に伸びる菌糸(仮性菌糸)と円形〜卵円形の酵母様細胞(分芽胞子)が確認される

診断へのプロセス

舌の白色病変をみたときの主な鑑別は、口腔カンジダ症、白板症(前癌病変)、舌癌、扁平苔癬などである。白板症は上皮の角化亢進による白斑で、こすっても剥がれず、通常は痛みを伴わない。舌癌は舌縁部に好発し、潰瘍や硬結を伴って疼痛を訴えることがあり、表面が白色を呈する場合もある。口腔扁平苔癬はレース状の白色線条が特徴である。 これらの鑑別を決定づけるのが、病変から採取した白色物質のKOH直接鏡検である。KOH(水酸化カリウム)は角質や細胞成分を溶かす一方、キチンを含む真菌の細胞壁は溶かさないため、真菌要素だけが浮かび上がって見える。本問では菌糸と胞子が確認されるので、カンジダ属(主にCandida albicans)による口腔カンジダ症と診断できる。カンジダ症の白苔はガーゼなどでぬぐうと剥がれ、その下に発赤した粘膜が現れることが多く、灼熱感や疼痛を伴いやすい点も本症例に合う。

設問の考え方

原因は真菌感染であるから、治療の基本は抗真菌薬である。局所に限局した口腔カンジダ症では、抗真菌薬の口腔内局所投与(塗布、含嗽、口腔内で溶かす剤形など)が第一選択となる。同時に、義歯の清掃、口腔乾燥への対処、吸入ステロイド使用後のうがい指導など、発症の誘因への対策も行う。

選択肢考察

  1. ○a.  抗真菌薬を塗布する。

    KOH鏡検で菌糸と胞子が確認されたことから、病変の本態はカンジダ属による粘膜の表在性感染である。病変が口腔粘膜の表層にとどまる限局例では、ミコナゾールの口腔用ゲルなど抗真菌薬を病変部に直接作用させる局所療法が第一選択となる。局所療法で改善しない例、病変が広範な例、食道まで及ぶ例、免疫不全を背景にもつ例などでは、フルコナゾールやイトラコナゾールなどの抗真菌薬の全身投与(内服)を考慮する。

  2. ×b.  抗菌薬を経口投与する。

    抗菌薬(抗細菌薬)は細菌を標的とする薬剤であり、真菌であるカンジダには効果がない。むしろ抗菌薬の投与は口腔内の常在細菌叢を乱し、カンジダが相対的に増殖しやすい環境(菌交代現象)をつくるため、口腔カンジダ症の誘因となりうる。なお、内服治療を行うとしても用いるのは抗真菌薬である。

  3. ×c.  白色病変部の舌を部分切除する。

    舌部分切除は、舌癌(多くは扁平上皮癌)などの悪性腫瘍に対して行われる外科治療である。本症例は鏡検で真菌感染と診断されており、薬物治療で治癒が見込める感染症に対して侵襲的な切除を行う理由はない。ただし、抗真菌薬で改善しない白色病変や、硬結・潰瘍を伴う病変では、白板症や癌の併存を否定するため生検を検討する。

  4. ×d.  オピオイドで疼痛コントロールを行う。

    オピオイドは主に癌性疼痛や強い急性痛に用いる鎮痛薬であり、口腔カンジダ症の疼痛に使う薬剤ではない。本症の痛みは真菌感染に伴う粘膜の炎症によるもので、抗真菌薬で原因を治療すれば軽快する。原因治療をせずに鎮痛だけを行うのは適切でない。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド含有軟膏を塗布する。

    副腎皮質ステロイドは、リンパ球の機能や抗体産生、炎症細胞の局所への集積などを抑えることで局所の免疫防御を弱める。そのため真菌感染症に塗布すると増悪させるおそれがあり、禁忌に近い。実際、ステロイドの吸入薬や口腔用軟膏の使用は口腔カンジダ症の代表的な誘因である。ステロイド軟膏は口腔扁平苔癬やアフタ性口内炎などの非感染性病変に用いるものである。

口腔カンジダ症の概要

口腔の常在真菌であるカンジダ属(主にCandida albicans)が、宿主の抵抗力低下や口腔環境の変化を契機に増殖して起こる日和見感染症である。

主な誘因

・乳幼児、高齢者 ・義歯の装着(義歯床下の粘膜に好発) ・口腔乾燥(シェーグレン症候群、薬剤性、加齢など) ・広域抗菌薬の使用(菌交代現象) ・副腎皮質ステロイド(吸入薬、全身投与、口腔用軟膏)や免疫抑制薬の使用 ・糖尿病、悪性腫瘍、化学療法・放射線治療中、HIV感染症などの免疫不全

病型

・偽膜性(最も多い):ぬぐうと剥がれる白色の偽膜(白苔)が特徴。乳児に生じるものは鵞口瘡と呼ばれる。 ・紅斑性(萎縮性):粘膜の発赤や舌乳頭の萎縮が主体で、ヒリヒリとした痛みを訴えやすい。義歯性口内炎もここに含まれる。 ・肥厚性:剥がれにくい白色の肥厚病変で、白板症との鑑別が必要となる。

診断

病変の擦過物のKOH直接鏡検で仮性菌糸や分芽胞子を確認する。培養で菌種を同定することもある。カンジダは健常人の口腔からも検出されるため、培養陽性だけでなく臨床所見と併せて判断する。

治療

・局所療法:ミコナゾール口腔用ゲル、アムホテリシンBシロップ(含嗽)、ミコナゾール口腔粘膜付着錠など ・全身療法:局所療法無効例、重症例、食道カンジダ症合併例、免疫不全患者などではフルコナゾール、イトラコナゾールの内服を行う ・誘因への対策:義歯の清掃と夜間の取り外し、口腔ケア、吸入ステロイド後のうがい、血糖管理など

鑑別すべき舌の白色病変

・白板症:こすっても剥がれない白斑。無痛性が多い。前癌病変であり生検が重要 ・舌癌:舌縁に好発し、硬結・潰瘍・疼痛を伴う ・口腔扁平苔癬:頬粘膜などに両側性のレース状白色線条

皮膚のカンジダ症

おむつの当たる陰部・殿部などの湿潤した部位にもカンジダ感染が起こり、紅斑や周囲の小膿疱(衛星病変)を生じる。これも抗真菌薬外用が治療の中心である。

POINT

・舌の白色病変+KOH直接鏡検で菌糸・胞子 → 口腔カンジダ症 ・治療は抗真菌薬。限局例は局所投与(塗布・含嗽など)、難治・重症・免疫不全例は内服 ・抗菌薬(抗細菌薬)はカンジダに無効で、菌交代現象により誘因にもなる ・ステロイド外用は真菌感染を増悪させる(吸入ステロイドも誘因) ・偽膜性カンジダ症の白苔はぬぐうと剥がれる。剥がれない白斑は白板症を考え、生検で癌を除外する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。