StudyMed医師国家試験

コロコロ便が語るもの―過敏性腸症候群は「形」は変わっても「中身」は変わらない

第107回医師国家試験 H問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第107回 H問題 第15問

過敏性腸症候群にみられるのはどれか。

  1. a.灰白色便
  2. b.黒色便
  3. c.脂肪便
  4. d.兎糞状便
  5. e.粘血便

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は過敏性腸症候群でみられる便の性状を選ぶ問題だ。ポイントは、この病気が「器質的な異常がない機能性疾患」だという点。そこから、どんな便の変化ならあり得て、どんな変化ならあり得ないかを考えてみよう。
医学生医学生
器質的異常がないということは、出血や炎症が起こらない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。過敏性腸症候群は、腹痛や腹部不快感が排便と関連して慢性的に繰り返し、下痢や便秘を伴うけれど、内視鏡や血液検査では炎症・潰瘍・腫瘍・出血が見つからない病気だ。背景には腸管運動の異常、内臓知覚過敏、脳腸相関の乱れ、心理的ストレスなどが関わると考えられている。
医学生医学生
消化器内科の実習で、試験前になるとお腹を下すという学生さんの話を指導医の先生がしていました。まさにストレスですね。
ドクタードクター
典型的なエピソードだね。だから便の変化は「腸の動き方」の変化、つまり硬さや回数、形の変化に限られる。ここで正解は兎糞状便だ。便秘型では大腸の分節運動、つまりくびれて内容物をとどめる動きが強まり、便が長く停滞して水分が吸われすぎる。その結果、ウサギの糞のようにコロコロした小さく硬い便になるんだ。
医学生医学生
Bristol便形状スケールのタイプ1ですね。下痢型なら泥状便や水様便になるということでしょうか。
ドクタードクター
そう。Bristolスケールをもとに、便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分けるよ。では、ほかの便がなぜ合わないか確認しよう。粘血便はどうかな。
医学生医学生
過敏性腸症候群でも粘液が出ると聞いたことがあって、粘血便も少し迷いました。
ドクタードクター
鋭い迷い方だね。実際、透明な粘液の排出がみられることはある。でも血が混じるのは大腸粘膜にびらんや潰瘍、腫瘍があるときで、潰瘍性大腸炎や赤痢などの感染性腸炎、虚血性大腸炎、大腸癌を考える。血便は過敏性腸症候群では説明できない警告徴候なんだ。
医学生医学生
黒色便は上部消化管出血でしたよね。胃潰瘍の患者さんでタール便を見たことがあります。
ドクタードクター
そう、主にTreitz靱帯より口側からの出血で、ヘモグロビンが胃酸などで変化して黒くなる。胃・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃癌などが原因だ。ただし鉄剤やビスマス製剤の内服でも黒くなるから、問診で薬を確認することも大事だよ。
医学生医学生
灰白色便は、生化学で習ったビリルビン代謝から考えると、胆汁が腸に出ていない状態ですね。
ドクタードクター
その理解で正しい。便の茶色はビリルビンが腸内細菌で代謝されてできるステルコビリンなどによるから、胆汁が流れないと色が抜ける。総胆管結石、膵頭部癌や胆管癌による閉塞性黄疸、乳児の胆道閉鎖症などが代表だ。
医学生医学生
脂肪便は膵臓の病気でしょうか。
ドクタードクター
膵外分泌不全が代表だけど、それだけじゃない。慢性膵炎や膵癌で脂肪を分解できない場合、胆汁酸不足でミセルを作れない場合、セリアック病や回腸切除後のように小腸で吸収できない場合がある。淡い色で悪臭が強く、水に浮きやすいのが特徴だ。どれも消化吸収が保たれている過敏性腸症候群では起こらない。
医学生医学生
兎糞状便以外の4つは、全部「何か器質的な病気がある」というサインなんですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の本質だ。最後に臨床での注意点。過敏性腸症候群はRomeⅣ基準で、最近3か月間に平均して週1日以上の腹痛があり、排便との関連、排便頻度の変化、便形状の変化のうち2つ以上を満たし、6か月以上前から症状があることで診断する。ただし発熱、血便、予期しない体重減少、50歳以上での発症、大腸疾患の既往歴や家族歴、貧血や炎症反応といったアラームサインがあれば、大腸内視鏡などで器質的疾患を除外しなければならない。
医学生医学生
症状が典型的でも、アラームサインがあれば大腸癌などを見逃さないように精査する、ということですね。治療はどうするんですか。
ドクタードクター
まずは規則正しい食事や刺激物を控えるなど生活習慣の改善が基本で、低FODMAP食も選択肢だ。薬はポリカルボフィルカルシウムや消化管運動調整薬、プロバイオティクスに加え、下痢型にはラモセトロン、便秘型にはリナクロチドやルビプロストンを使う。必要に応じて抗うつ薬や心理療法も組み合わせるよ。

まとめ

過敏性腸症候群は、排便に関連した腹痛と便通異常が慢性的に続くものの、器質的異常を認めない機能性消化管疾患です。便の変化は腸管運動の変化による硬さ・回数・形の変化に限られ、便秘型では大腸の分節運動亢進により水分が過剰に吸収され、兎糞状便(Bristolスケールのタイプ1)を呈します。一方、灰白色便は胆汁排泄障害、黒色便は上部消化管出血、脂肪便は消化吸収障害、粘血便は大腸粘膜の炎症や腫瘍を示し、いずれも器質的疾患のサインです。血便や体重減少、50歳以上での発症などのアラームサインがあれば、大腸内視鏡などで器質的疾患を除外する必要があります。便の性状から病態を逆算する考え方は、消化器診療の問診と鑑別の基本となります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)で認められる便の性状を選ぶ問題である。

IBSの本質を押さえる

IBSは、腹痛や腹部不快感が排便と関連して慢性的に繰り返し、便通異常(下痢・便秘、あるいはその交代)を伴うが、内視鏡や血液検査などで器質的な異常(炎症・潰瘍・腫瘍・出血など)が見つからない「機能性消化管疾患」である。背景には腸管運動の異常、内臓知覚過敏、脳と腸の相互作用(脳腸相関)の異常、心理的ストレス、腸内細菌叢の変化などが関与すると考えられている。 したがって、IBSでみられる便の変化は「腸管の動き方の変化」によるもの、すなわち硬さや回数・形の変化に限られる。便秘型では、大腸の分節運動(くびれて内容物をとどめる動き)が強まって便が長く停滞し、水分が過度に吸収されるため、コロコロとした小さく硬い兎糞状便となる。下痢型では泥状便・水様便となる。

他の選択肢の考え方

一方、灰白色便(胆汁の腸管内への排泄障害)、黒色便(上部消化管出血)、脂肪便(脂肪の消化吸収障害)、粘血便(大腸粘膜の炎症・腫瘍)は、いずれも器質的疾患や明らかな病的状態を示す所見であり、器質的異常がないことが前提のIBSには合致しない。むしろ、これらの所見があればIBS以外の疾患を積極的に検索すべきである。

選択肢考察

  1. ×a.  灰白色便

    便の褐色は、胆汁中のビリルビンが腸内細菌で代謝されてできるステルコビリンなどによる。胆汁が腸管に排泄されなくなると便の色が抜け、灰白色(粘土色)便となる。総胆管結石や膵頭部癌・胆管癌による閉塞性黄疸、乳児の胆道閉鎖症などでみられる。胆汁排泄に異常のないIBSでは生じないため誤りである。

  2. ×b.  黒色便

    黒色便(タール便)は、主にTreitz靱帯より口側の上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血で、血液中のヘモグロビンが胃酸や腸内細菌により変化して黒色になったものである。胃・十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃癌などが代表的な原因である。なお、鉄剤やビスマス製剤の内服でも便は黒色となる。IBSでは消化管出血は起こらないため誤りである。

  3. ×c.  脂肪便

    脂肪便は、脂肪の消化や吸収が障害され、未吸収の脂肪が便中に多量に排泄される状態である。淡い色で悪臭が強く、光沢があり水に浮きやすい。膵外分泌機能不全(慢性膵炎、膵癌など)による脂肪分解の障害、閉塞性黄疸などによる胆汁酸不足(脂肪のミセル形成の障害)、小腸の吸収障害(セリアック病、回腸病変・切除後など)が原因となる。消化吸収機能が保たれているIBSではみられないため誤りである。

  4. ○d.  兎糞状便

    兎糞状便は、ウサギの糞のようにコロコロとした小さく硬い便である。IBSの便秘型では、大腸の分節運動が亢進して内容物の通過が遅れ、その間に水分が過剰に吸収されるため、兎糞状便を呈しやすい。Bristol便形状スケールではタイプ1(硬くてコロコロの兎糞状)に相当する。器質的異常を伴わない腸管運動の変化で説明できる便性状であり、IBSでみられる所見として正しい。

  5. ×e.  粘血便

    粘血便は、大腸粘膜の炎症・びらん・潰瘍や腫瘍から、粘液と血液が便に混じって排泄されるものである。潰瘍性大腸炎、細菌性赤痢やアメーバ赤痢などの感染性腸炎、虚血性大腸炎、大腸癌などでみられる。IBSでは透明な粘液の排出がみられることはあるが、粘膜に器質的病変はないため血液は混じらない。血便があればIBS以外の疾患を疑うべき警告徴候となるため誤りである。

過敏性腸症候群(IBS)の概要

・頻度が高く、若年〜中年に多い。心理的ストレスで症状が増悪しやすい。 ・症状:排便によって軽快することが多い腹痛・腹部不快感、便通異常(下痢・便秘・交代)、腹部膨満感、残便感。睡眠中は症状が出にくい。

診断基準(RomeⅣ)の骨子

最近3か月間、平均して週1日以上繰り返す腹痛があり、次の3項目のうち2項目以上を満たす。 (1) 排便に関連する (2) 排便頻度の変化を伴う (3) 便形状(外観)の変化を伴う かつ、6か月以上前から症状があること。

便形状による分類

Bristol便形状スケールを用いて、便秘型(IBS-C)、下痢型(IBS-D)、混合型(IBS-M)、分類不能型(IBS-U)に分ける。便秘型では兎糞状便・硬便、下痢型では泥状便・水様便が主体となる。

警告徴候(アラームサイン)

以下があれば器質的疾患を疑い、大腸内視鏡などで精査する。 発熱、関節痛、血便、6か月以内の予期しない3 kg以上の体重減少、異常な身体所見(腹部腫瘤など)、50歳以上での発症、大腸器質的疾患の既往歴・家族歴、血液検査での貧血や炎症反応など。

治療

生活習慣・食事の改善(規則正しい食事、刺激物や脂肪の多い食事の制限、低FODMAP食など)が基本。薬物療法としては、高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム)、消化管運動調整薬、プロバイオティクス、下痢型に5-HT3受容体拮抗薬(ラモセトロン)、便秘型に粘膜上皮機能変容薬(リナクロチド、ルビプロストン)、腹痛に抗コリン薬などを用いる。必要に応じて抗うつ薬・抗不安薬や心理療法も行う。

便の性状と主な原因の整理

・灰白色便:閉塞性黄疸、胆道閉鎖症 ・黒色便(タール便):上部消化管出血(鉄剤・ビスマスでも黒色) ・脂肪便:膵外分泌不全、胆汁酸不足、小腸吸収不良 ・粘血便:潰瘍性大腸炎、感染性腸炎(赤痢など)、大腸癌 ・鮮血便:下部消化管(特に直腸・肛門)からの出血 ・兎糞状便:便秘型IBS、痙攣性便秘

POINT

・IBSは器質的異常のない機能性疾患であり、便の変化は硬さ・回数・形の変化(兎糞状便、下痢便、交代性)に限られる ・便秘型IBSでは大腸の分節運動亢進により兎糞状便となる ・血便・黒色便・脂肪便・灰白色便は器質的疾患を示唆し、IBSでは説明できない ・発熱、血便、体重減少、50歳以上の発症などのアラームサインがあれば大腸内視鏡などで器質的疾患を除外する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。