StudyMed医師国家試験

風上に立つな―無菌室で医師がいちばん「汚い」存在になる場所

第107回医師国家試験 H問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第107回 H問題 第16問

造血幹細胞移植で使用する陽圧に保たれた無菌室の模式図を別に示す。一般病室とは扉Ⅰと扉Ⅱとで隔てられており,ベッドの頭側の壁には空気清浄器の供給口が設置されている。ベッドと扉Ⅱとの間には透明なビニールカーテンがあり,カーテン越しに患者の観察や会話が可能である。  感染防御の点から,医師が立つ位置として好ましくないのはどれか。

第107回 H問題 第16問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、造血幹細胞移植で使う陽圧無菌室の中で、医師がどこに立つべきかを問う問題だ。病気の知識というより、部屋の空気がどこから来てどこへ流れるか、という発想がカギになる。まず、なぜ移植患者は無菌室に入る必要があるのか、そこから確認しよう。
医学生医学生
移植前処置で大量化学療法や全身放射線照射をして、生着するまで好中球がほとんどいなくなるからですよね。
ドクタードクター
その通り。好中球がゼロに近い時期は、健康な人なら何ともない空気中の真菌、特にアスペルギルスの胞子や細菌でも命に関わる感染症を起こしうる。だから空気そのものをきれいにした部屋で管理するんだ。では、図の部屋では空気はどう流れていると思う?
医学生医学生
ベッドの頭側の壁に供給口があるので、そこから扉のほうへ流れていく感じでしょうか。
ドクタードクター
いいね。頭側の壁からHEPAフィルターで濾過した清浄な空気が吹き出し、足側・扉側へ向かって一方向に流れる。これを層流方式というよ。さらに部屋は陽圧に保たれているから、空気は室内から外へ押し出され、外の汚れた空気は入り込みにくい。つまり、患者の顔、いちばん大事な呼吸域が常に最も清浄な空気にさらされる設計なんだ。
医学生医学生
なるほど。でも医師はガウンもマスクもしているので、どこに立っても大差ない気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが盲点だね。どれだけ身支度をしても、人の皮膚、毛髪、衣服、呼気からは微生物や塵埃が出続けている。無菌室の中では、医療者こそが主要な汚染源なんだ。だから立ち位置は「風上か、風下か」で評価する。
医学生医学生
供給口と患者の頭の間に立つと、自分に当たった空気がそのまま患者の顔に流れてしまう、ということですか。
ドクタードクター
まさにそれ。供給口とベッド頭側の間は患者の真の風上で、清浄な空気がまず医師の体に当たり、医師由来の粒子を拾って患者の口や鼻へ直行する。せっかくの気流設計を台無しにする位置だから、これが感染防御の点で好ましくない位置、つまり正解だ。
医学生医学生
ベッドの横に立つのはどうでしょう。診察するときはどうしても近づきますよね。
ドクタードクター
ベッドの側方なら、供給口と顔の間には入っていない。頭側から足側への気流に対して横にいるので、医師から出た粒子は足側・扉側へ流され、顔の方向へは向かいにくい。聴診や処置で近づく位置として問題ないよ。
医学生医学生
足側はさらに風下なので、もっと安全ですね。
ドクタードクター
そう。患者より下流にいれば、自分の粒子は扉側へ運ばれていく。そしてビニールカーテンの外側の2か所は、気流の下流側にあるうえ物理的にも仕切られているから、頭側寄りであっても供給口と患者の間に割り込んでいない限り問題ない。カーテン越しに観察したり会話したりするための位置だね。
医学生医学生
臨床実習で血液内科を回ったとき、無菌室の患者さんとカーテン越しに話していたのはそういう理由だったんですね。
ドクタードクター
そうだね。ここで関連知識を整理しておこう。HEPAフィルターは0.3μmの粒子を99.97%以上捕集できる高性能フィルターだ。清浄度は1立方フィートあたりの0.5μm以上の粒子数で表し、移植で使われるクラス100は100個以下という非常に高い清浄度になる。
医学生医学生
陽圧室と陰圧室って、CBTのときによく混同していました。
ドクタードクター
目的が正反対だから整理しよう。陽圧室は防護環境で、易感染性の患者を外から守る部屋。陰圧室は空気感染隔離室で、結核、麻疹、水痘のように空気感染する患者から病原体が外へ漏れないようにする部屋だ。誰を守るのか、を考えれば迷わない。
医学生医学生
守りたいのが中の人なら陽圧、外の人なら陰圧、ですね。
ドクタードクター
その覚え方でいい。最後に臨床での注意点。入室前の手指衛生、必要に応じたマスクやガウンの着用に加えて、供給口と患者の間には立たないだけでなく物も置かない。大きな動作や不要な出入りで気流を乱さないこと、持ち込む物品は必要最小限で清拭・消毒したものにすること。小さな配慮の積み重ねが、好中球減少期の患者を守るんだ。

まとめ

造血幹細胞移植の患者は、前処置後の好中球減少期にアスペルギルスなどの空気中の微生物による重篤な感染症を起こしやすいため、陽圧の無菌室で管理されます。無菌室ではHEPAフィルターで濾過した清浄な空気がベッド頭側から扉側へ一方向に流れ(層流方式)、患者の呼吸域が最も清浄になるよう設計されています。医療者自身が皮膚・衣服・呼気から粒子を出す汚染源となるため、供給口と患者の間、すなわち風上に立つことは避け、ベッドの側方や足側、カーテンの外側など風下・側方に位置するのが原則です。あわせて、易感染患者を守る陽圧室と、空気感染症患者を隔離する陰圧室の違いも押さえておきましょう。気流という目に見えない要素を意識する習慣は、移植医療に限らず感染対策全般の基本になります。

解答・解説

正解はaです

前提:なぜ無菌室が必要か

造血幹細胞移植では、移植前処置(大量化学療法や全身放射線照射)によって骨髄の造血能が失われ、生着までの期間は好中球が著しく減少する。この時期は、健常者なら問題にならない空気中の真菌(特にアスペルギルスなど)や細菌でも重篤な感染症を起こしうる。そのため、患者の周囲の空気をきわめて清浄に保つ無菌室(バイオクリーンルーム)で管理する。

図の読み取り

・ベッド頭側の壁に気流供給口があり、HEPAフィルター(高性能微粒子除去フィルター)で濾過された清浄な空気がここから吹き出す。 ・空気は頭側の壁から足側・扉側へ向かって一方向に流れる(層流)。部屋は陽圧に保たれ、空気は室内から一般病室側へ押し出されるため、外の汚染空気は流入しにくい。 ・①は気流供給口とベッド頭側(患者の顔)の間、②はベッドの右側、③はベッドの足側、④・⑤はビニールカーテンの外側(扉Ⅱ側)に位置する。

考え方

一方向の気流がある部屋では、人の立ち位置は「風上か風下か」で評価する。医療者の体・衣服・呼気には微生物や塵埃(ちりやほこり)が付着・含有されており、医療者は室内における主要な汚染源である。気流供給口と患者との間(風上)に立つと、清浄な空気がまず医療者の体に当たり、医療者由来の粒子を含んだ空気が患者の顔(口・鼻)へ直接運ばれてしまう。これに対し、患者より風下や気流の側方に立てば、医療者由来の粒子は患者から遠ざかる方向へ流れるため、ベッド上の清浄度は保たれる。 したがって、風上にあたる①が感染防御の点から最も好ましくない位置である。

選択肢考察

  1. ○a.  ①

    ①は気流供給口とベッド頭側の間、すなわち患者の真の風上に位置する。HEPAフィルターを通った清浄な空気が医師の体に当たった後、医師の皮膚・毛髪・衣服・呼気に由来する微生物や粒子を含んだ状態で患者の顔面へ流れ込むため、患者は汚染された空気を直接吸い込むことになる。無菌室の気流設計の意味を失わせる位置であり、好ましくない位置として正しい。

  2. ×b.  ②

    ②はベッドの側方に位置し、気流供給口と患者の顔との間には入っていない。頭側から足側へ流れる気流に対して医師は患者の横にいるため、医師由来の粒子は気流に乗って足側・扉側へ運ばれ、患者の顔の方向へは向かいにくい。診察や処置で患者に近づく場合の位置として問題はない。

  3. ×c.  ③

    ③はベッドの足側で、患者より風下にあたる。医師から出た粒子は気流によってさらに下流の扉側へ流されるため、患者の周囲の空気は汚染されにくい。感染防御の観点から適切な位置である。

  4. ×d.  ④

    ④はビニールカーテンの外側(扉Ⅱ側)にあり、患者の風下に位置する。カーテンで物理的にも隔てられているため、医師由来の粒子が患者側へ流れ込むことはほとんどない。カーテン越しに観察や会話を行う位置として適切である。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤はビニールカーテンの外側で、頭側寄りに位置するが、気流供給口と患者の間には入っていない。カーテンで区切られており、気流も頭側から扉側へ一方向に流れるため、医師由来の粒子が患者の顔へ運ばれることはない。カーテン越しの観察・会話に用いてよい位置である。

無菌室(バイオクリーンルーム)の仕組み

・層流方式(LAF: laminar air flow):HEPAフィルターで濾過した空気を、一方の壁(または天井)から反対側へ向けて一定方向に層状に流す方式である。空気がかき混ぜられず一方向に流れるため、室内で発生した粒子は速やかに下流へ運ばれ排出される。本問のように、ベッドの頭側から空気を送り出す設計が一般的で、患者の顔(呼吸域)が常に最も清浄な空気にさらされるようになっている。 ・HEPAフィルター:粒径0.3 μmの粒子を99.97%以上捕集できる高性能フィルターで、真菌胞子や細菌を効率よく除去する。 ・陽圧管理:室内の気圧を周囲より高く保ち、扉の開閉時などにも外部の汚染空気が入り込まないようにする。扉Ⅰと扉Ⅱの二重扉(前室)も、外気の流入を防ぐための構造である。 ・清浄度の指標:1立方フィート(ft3)あたりの粒径0.5 μm以上の粒子数で表す。クラス100は100個/ft3以下を意味し、造血幹細胞移植などで用いられる高い清浄度である。晴天時の屋外の空気はおよそクラス100万程度とされる。施設によっては病棟全体をクラス1万程度の清浄区域として管理している。移動可能な簡易型の装置(ベッドアイソレーター)を一般病室に設置し、ベッド頭側から清浄空気を送る方法もある。

陽圧室と陰圧室の違い

・陽圧室(防護環境):易感染性の患者を外部の微生物から守るための部屋。造血幹細胞移植患者、高度の好中球減少患者などが対象。 ・陰圧室(空気感染隔離室):結核・麻疹・水痘など空気感染する疾患の患者から周囲へ病原体が漏れないようにする部屋。室内の空気は外へ漏れないよう吸引され、HEPAフィルターを通して排気される。 目的が正反対であることに注意する。

無菌室での医療者の注意点

・入室前の手指衛生、必要に応じたマスク・ガウン等の着用 ・気流供給口と患者の間(風上)に立たない、物を置かない ・気流を乱す大きな動作や不必要な出入りを避ける ・持ち込む物品は必要最小限とし、清拭・消毒したものとする

POINT

・無菌室(層流方式)ではHEPAフィルターを通した清浄空気が一方向に流れ、患者の顔(呼吸域)が最も清浄になるよう設計されている ・医療者は汚染源になりうるため、気流供給口と患者の間(風上)に立ってはならない ・患者より風下や側方、カーテンの外側に立てばベッド上の清浄度は保たれる ・易感染患者の保護には陽圧室、空気感染症患者の隔離には陰圧室を用いる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。