逆血が見えても、まだ半分―末梢静脈路確保の「数mm」に隠れた理屈
第107回医師国家試験 H問題 第17問
国試問題にチャレンジ
静脈留置針による末梢静脈路の確保について正しいのはどれか。
- a.穿刺する部位は前腕の橈側遠位部を第一選択とする。
- b.針の先端をアルコール綿で消毒してから穿刺する。
- c.血液の流出を確認後に内針とカテーテル(外筒)とを数mm進める。
- d.内針を抜去してから駆血帯を外す。
- e.カテーテルを抜去した後は穿刺部位をよく揉む。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
静脈留置針は内針の先端が外筒よりわずかに突出した構造のため、逆血を確認した時点では外筒の先端がまだ血管外にあることが多く、内針と外筒を一体のまま数mm進めてから外筒だけを送り込むのが確実な留置のコツです。消毒するのは皮膚であって滅菌済みの針先ではなく、内針は駆血帯を外し中枢側を圧迫してから抜去し、カテーテル抜去後は揉まずに圧迫止血します。穿刺部位は前腕屈側の太くまっすぐな静脈が基本で、手関節付近の橈側は橈骨神経浅枝損傷のおそれがあるため第一選択にしません。麻痺側やシャント肢、リンパ節郭清後の患側を避けることや、留置後の静脈炎・血管外漏出の観察も重要です。各手順の理由を構造から理解しておくことは、研修医として最初に任される手技を安全に行うための土台になります。
解答・解説
正解はcです
静脈留置針(外筒カテーテルの内腔に金属の内針が通った二重構造の針)を用いた末梢静脈路確保の一連の手技と、その各段階での注意点を問う問題である。
手技の流れ
1. 穿刺部位の選択:前腕の太くまっすぐで弾力のある静脈を選ぶ。関節部や神経損傷の危険が高い部位は避ける。 2. 駆血:穿刺部より中枢側に駆血帯を巻き、静脈を怒張させる。 3. 皮膚消毒:アルコール綿などで穿刺部位の皮膚を消毒し、乾燥を待つ。針そのものは滅菌済みなので触れない。 4. 穿刺:皮膚に対して浅い角度(おおむね15〜20°程度)で刺入する。 5. 逆血確認と進め方:針基部(フラッシュバックチャンバー)に血液が見えたら、角度をさらに寝かせて内針と外筒を一体のまま数mm進め、外筒の先端も確実に血管内に入れる。その後、内針を固定したまま外筒だけを血管内へ送り込む。 6. 駆血解除と内針抜去:駆血帯を外してから、穿刺部の中枢側の静脈を指で圧迫しつつ内針を抜き、輸液ラインを接続する。 7. 固定:透明ドレッシング材などで固定し、刺入部を観察できるようにする。 8. 抜去時:カテーテルを抜いたら穿刺部を揉まずに圧迫して止血する。
考え方
逆血が見えた時点での針の位置関係を理解することが本問の鍵である。留置針では内針の先端が外筒の先端よりわずかに突出しているため、逆血が確認できた瞬間には内針の先だけが血管内にあり、外筒の先端はまだ血管壁の外にある可能性が高い。ここで外筒だけを進めようとすると、外筒が血管壁に引っかかったり血管外へ出たりして失敗する。そのため、逆血確認後にいったん内針と外筒を一緒に数mm進めるという操作が必要になる。
選択肢考察
- ×a. 穿刺する部位は前腕の橈側遠位部を第一選択とする。
誤り。前腕橈側の手関節近く(いわゆる橈側皮静脈の遠位部)は、静脈が表在していて見つけやすく刺しやすいが、すぐ近くを橈骨神経浅枝(手背橈側の感覚を支配する皮神経)が走行している。このため穿刺によって神経損傷を起こし、しびれや疼痛が残ることがある。頻度は高くないものの後遺症が問題となりうるので第一選択にはせず、ほかに適切な静脈があればそちらを優先する。臨床でこの部位に留置されている例をみかけるのは、他に使える血管がなかった場合などである。
- ×b. 針の先端をアルコール綿で消毒してから穿刺する。
誤り。留置針は滅菌された状態で包装されており、針先を消毒する必要はない。むしろアルコール綿で針先を拭くと、綿の線維や非滅菌物に触れることで清潔性が損なわれるうえ、針先を傷める可能性もある。消毒の対象は穿刺部位の皮膚であり、消毒後は乾燥を待ってから穿刺する。
- ○c. 血液の流出を確認後に内針とカテーテル(外筒)とを数mm進める。
正しい。内針の先端は外筒より少し先に出ているため、逆血が見えた時点で血管内に達しているのは内針の先端だけで、外筒の先端はまだ血管外にとどまっていることが多い。そこで針の角度を少し寝かせ、内針と外筒を一体のまま数mm進めて外筒先端まで血管内に入れる。そのうえで内針を動かさずに外筒のみを血管の走行に沿って根元まで進めると、確実に留置できる。
- ×d. 内針を抜去してから駆血帯を外す。
誤り。駆血帯を巻いたままでは静脈圧が高く保たれているため、その状態で内針を抜くと外筒から血液が勢いよく逆流し、周囲を汚染したり血液曝露の危険を生じたりする。先に駆血帯を外して静脈圧を下げ、さらに外筒先端付近の中枢側の静脈を指で圧迫しながら内針を抜去し、すばやく輸液ラインを接続するのが正しい順序である。
- ×e. カテーテルを抜去した後は穿刺部位をよく揉む。
誤り。抜去後に穿刺部を揉むと、血管壁の穿刺孔にできかけた血栓がはがれて再出血し、皮下出血(血腫)の原因となる。抜去後は清潔な綿やガーゼで穿刺部を数分間しっかり圧迫して止血する。抗凝固薬や抗血小板薬を使用中の患者では圧迫時間を長めにとる。
静脈留置針の構造
金属製の内針の外側に、柔らかい樹脂製のカテーテル(外筒)がかぶさった構造である。内針は外筒の先端よりわずかに突出しており、穿刺後に内針を抜いて外筒だけを血管内に残す。基部には逆血を確認するためのフラッシュバックチャンバーがある。最近は針刺し事故防止のため、内針抜去時に針先が自動的に覆われる安全機構付きの製品が広く使われる。
穿刺部位の選び方
・前腕屈側の太くまっすぐで、関節をまたがない静脈が基本となる。 ・手関節付近の橈側(橈骨神経浅枝)、肘窩の内側(正中神経・上腕動脈が近い)などは神経や動脈の損傷に注意が必要である。 ・肘窩の肘正中皮静脈は太く穿刺しやすいが、肘を曲げると滴下が止まったりカテーテルが折れたりするため、通常の持続点滴には用いにくい。一方、心肺蘇生時など迅速な確保が優先される場面では、太い静脈として第一選択になる。 ・麻痺側、シャント肢、リンパ節郭清後の患側上肢、感染や熱傷のある部位は避ける。 ・下肢の静脈は血栓性静脈炎のリスクが高いため、原則として避ける。
主な合併症
血腫、静脈炎、血管外漏出、感染(カテーテル関連血流感染)、神経損傷、空気塞栓など。刺入部は定期的に観察し、発赤・腫脹・疼痛があれば抜去を検討する。
POINT
・逆血確認時は内針先端のみが血管内にあるので、内針と外筒を一体で数mm進めてから外筒だけを進める。 ・駆血帯を外してから(中枢側を圧迫しつつ)内針を抜く。 ・消毒するのは皮膚であり、滅菌された針先は消毒しない。 ・手関節付近の橈側は橈骨神経浅枝損傷の危険があり第一選択にしない。 ・抜去後は揉まずに圧迫止血する。
