StudyMed医師国家試験

税金で支える医療はどの法律に?―公費負担医療の根拠法を「目的」から読み解く

第107回医師国家試験 G問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第32問

公費医療について規定されているのはどれか。2つ選べ。

  1. a.健康増進法
  2. b.生活保護法
  3. c.母体保護法
  4. d.労働安全衛生法
  5. e.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律〈感染症法〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療費を誰が払うのかという制度の問題だ。日本の医療費は原則として医療保険と患者の窓口負担で賄われるけれど、国や自治体が税金で医療費を肩代わりする仕組みもある。これを公費負担医療、略して公費医療という。ポイントは、公費医療はそれぞれ個別の法律に根拠をもつということ。選択肢の法律のうち、どれが医療費の公費負担を定めているかを見極めよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で法律がたくさん出てきて、どれが何を決めているのか混乱しがちでした。
ドクタードクター
法律名だけを丸暗記しようとすると混乱するよね。だから「なぜ税金で払う必要があるのか」という目的で整理するといい。大きく分けると、感染症の蔓延を防ぐ社会防衛、生活に困っている人の救済、障害者や子どもを支える福祉、そして難病対策や国家補償の4つだ。
医学生医学生
社会防衛というと、感染症の患者さんに入院してもらう場合でしょうか。
ドクタードクター
その通り。感染症法では、一類・二類感染症などの患者に入院勧告や入院措置を行うことがある。社会を守るために入院を求める以上、その医療費を公的に支える規定が置かれているんだ。まず医療保険を適用して、残りの自己負担分を公費で補う「保険優先」の方式で、所得に応じて自己負担が生じることもある。新感染症の入院は原則全額公費だよ。
医学生医学生
臨床実習で呼吸器内科を回ったとき、結核の患者さんは費用面の手続きも特別だと聞きました。
ドクタードクター
結核は二類感染症で、入院医療に加えて通院での適正医療にも公費負担がある。通院医療では保険と公費で95%を賄い、患者負担は5%になる。確実に治療を完遂してもらうための制度設計なんだ。
医学生医学生
もう一つの正解は生活保護法ですね。生活に困っている人の救済にあたると思います。
ドクタードクター
正解。生活保護法には生活扶助や住宅扶助など8種類の扶助があって、その一つが医療扶助だ。指定医療機関で診察や薬、入院を現物給付として受けられ、医療費は原則として全額公費で賄われる。受給者は原則として国民健康保険の被保険者から外れるから、医療扶助がそのまま医療費の受け皿になる。医療扶助は生活保護費の中でも大きな割合を占めているよ。
医学生医学生
健康増進法はどうでしょう。健診やがん検診にお金が出ているイメージがありますが。
ドクタードクター
いい引っかかりどころだね。健康増進法は国民健康・栄養調査、市町村の健康増進事業、受動喫煙の防止などを定める健康づくりの法律だ。病気になった人の医療費を公費で負担する規定はない。「予防・健康づくり」と「治療費の負担」は別物と考えよう。
医学生医学生
母体保護法は、母子保健の公費負担と関係ありそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
そこは混同しやすい。母体保護法は不妊手術と人工妊娠中絶について、指定医師や要件、時期などを定める法律だ。人工妊娠中絶は原則として医療保険の対象外で、公費負担の規定もない。母子に関わる公費医療、例えば低出生体重児の養育医療は母子保健法に規定されているんだ。
医学生医学生
労働安全衛生法は健康診断を定めていますけど、あれは会社が払うんでしたよね。
ドクタードクター
そう。一般健康診断や特殊健康診断、ストレスチェック、産業医の選任などを定めていて、健診費用は事業者の負担だ。仕事中のけがや病気の治療は労災保険が担うけれど、これは事業主の保険料を財源とする保険給付で、根拠も労働者災害補償保険法。どちらも公費医療ではないよ。
医学生医学生
財源が税金なのか、保険料なのか、事業者なのかを区別するのが大事なんですね。
ドクタードクター
その視点が身につけば応用が利く。ほかの公費医療も押さえておこう。精神保健福祉法の措置入院、障害者総合支援法の自立支援医療、難病法の特定医療費、児童福祉法の小児慢性特定疾病医療費、母子保健法の養育医療、さらに被爆者援護法や予防接種法の健康被害救済などがある。
医学生医学生
精神科の実習で措置入院の患者さんを見たので、あれも社会防衛的な側面があるとつながりました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だね。臨床では、患者さんがどの公費制度を使えるかで受診や治療継続のしやすさが大きく変わる。医療ソーシャルワーカーと連携して制度につなぐのも医師の大切な役割だ。指定難病や自立支援医療の申請には医師の診断書や意見書が必要になることも多いから、書類を書く立場になる意識をもっておこう。

まとめ

公費負担医療とは、医療保険とは別に国や地方公共団体が税金などで医療費の全部または一部を負担する制度で、それぞれ個別の法律に根拠をもちます。代表例が生活保護法の医療扶助(原則全額公費の現物給付)と、感染症法による一類・二類感染症等の入院医療や結核の適正医療(保険優先で自己負担分を公費で補い、結核の通院医療は自己負担5%)です。健康増進法は健康づくり、母体保護法は不妊手術と人工妊娠中絶、労働安全衛生法は職場の安全衛生を定める法律で、医療費の公費負担の規定はもちません。ほかにも精神保健福祉法の措置入院、障害者総合支援法の自立支援医療、難病法、児童福祉法、母子保健法の養育医療などがあり、社会防衛・救済・福祉・国家補償という目的で整理すると覚えやすくなります。患者を適切な制度につなぐことは、治療の継続を支える臨床医の重要な役割でもあります。

解答・解説

正解はb, eです

日本の医療費は、原則として医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療など)からの給付と、患者の一部負担金によって支払われる。これに対して、国や地方公共団体が税金などの公費で医療費の全部または一部を負担する仕組みを公費負担医療(公費医療)という。公費負担医療は、それぞれ個別の法律に根拠をもつ点が特徴であり、主に次のような目的で設けられている。 ・社会防衛:感染症の蔓延を防ぐため、確実に治療を受けさせる(感染症法、精神保健福祉法の措置入院など) ・生活困窮者の救済:経済的理由で医療を受けられない人を支える(生活保護法の医療扶助) ・社会福祉・健全育成:障害者や子どもの医療費負担を軽くする(障害者総合支援法の自立支援医療、児童福祉法の小児慢性特定疾病医療費、母子保健法の養育医療など) ・難病対策・国家補償:難病法の特定医療費、原爆被爆者援護法、予防接種法の健康被害救済など 本問では、選択肢の法律のうち、公費による医療費負担を規定しているものを2つ選ぶ。生活保護法(医療扶助)と感染症法(入院医療・結核医療の公費負担)が該当する。健康増進法、母体保護法、労働安全衛生法は、それぞれ健康づくり、不妊手術・人工妊娠中絶、職場の安全衛生を定める法律であり、医療費の公費負担に関する規定はもたない。

選択肢考察

  1. ×a.  健康増進法

    健康増進法は、国民の健康の増進を総合的に推進するための法律である。国民健康・栄養調査の実施、市町村による健康増進事業(健康診査、がん検診、健康教育、健康相談など)、受動喫煙の防止、特別用途食品の表示許可などを定めている。国民の健康づくりの基盤となる法律であり、疾病にかかった人の医療費を公費で負担する規定はない。したがって誤りである。

  2. ○b.  生活保護法

    生活保護法は、生活に困窮する国民に対して、その程度に応じた保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに自立を助けることを目的とする法律である。保護は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助の8種類からなる。このうち医療扶助は、指定医療機関で診察・薬剤・入院などを現物給付として受けられる制度で、医療費は原則として全額公費で賄われる。生活保護の受給者は原則として国民健康保険の被保険者から外れるため、医療費は医療扶助で負担される。医療扶助は生活保護費の中で大きな割合を占めている。公費医療を規定した法律であり、正しい。

  3. ×c.  母体保護法

    母体保護法は、不妊手術と人工妊娠中絶に関する事項を定めることで、母性の生命・健康を保護することを目的とする法律である。人工妊娠中絶を行える医師(都道府県医師会が指定する指定医師)、中絶を行える要件と時期、不妊手術の要件、受胎調節実地指導員などが規定されている。人工妊娠中絶は原則として医療保険の対象外であり、公費で負担する規定もない。したがって誤りである。なお、低出生体重児の養育医療など母子に関する公費負担は母子保健法に規定されており、母体保護法と混同しないよう注意する。

  4. ×d.  労働安全衛生法

    労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進するための法律である。事業者による一般健康診断・特殊健康診断の実施、ストレスチェック、産業医・衛生管理者の選任、作業環境測定などを定めている。健康診断の費用は事業者の負担であり、公費負担医療ではない。また、業務上の傷病に対する療養の給付は労働者災害補償保険法(労災保険)によるもので、これは事業主の保険料を財源とする保険給付であり、労働安全衛生法の規定ではない。したがって誤りである。

  5. ○e.  感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律〈感染症法〉

    感染症法は、感染症の発生予防と蔓延防止を目的に、感染症を類型に分けて対応を定めている。社会防衛のために患者に入院などを求める以上、その医療費を公的に負担する規定が設けられている。一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症の患者が入院勧告・入院措置によって入院した場合、医療保険を優先して適用し、残りの自己負担分を公費で負担する(所得に応じた自己負担が生じる場合がある)。新感染症の入院医療は原則として全額公費負担である。結核(二類感染症)については、入院勧告による入院医療に加え、通院による適正医療についても医療費の95%を保険と公費で賄い、患者の自己負担は5%となる。公費医療を規定した法律であり、正しい。

主な公費負担医療と根拠法

・医療扶助:生活保護法 ・感染症の入院医療・結核の適正医療:感染症法 ・措置入院:精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律) ・自立支援医療(精神通院医療、更生医療、育成医療):障害者総合支援法(旧障害者自立支援法) ・特定医療費(指定難病):難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法、2015年施行。それ以前は予算事業である特定疾患治療研究事業として行われていた) ・小児慢性特定疾病医療費:児童福祉法(2015年から法律に基づく制度になった) ・養育医療:母子保健法(出生体重2,000g以下の乳児や、生活力が特に弱い未熟児が指定医療機関に入院する場合) ・被爆者の医療:原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律 ・予防接種による健康被害の救済:予防接種法 ・公害による健康被害の補償:公害健康被害の補償等に関する法律 ・石綿による健康被害の救済:石綿による健康被害の救済に関する法律 ・戦傷病者の医療:戦傷病者特別援護法

公費負担の方式

・全額公費:医療保険を使わず、医療費の全額を公費で負担する(生活保護の医療扶助、新感染症の入院など)。 ・保険優先:まず医療保険を適用し、患者の自己負担部分の全部または一部を公費で補う(感染症法の一類・二類感染症の入院、結核の適正医療、自立支援医療、難病医療など)。

感染症法の類型(概略)

・一類:エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱など ・二類:結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1・H7N9)、急性灰白髄炎など ・三類〜五類:コレラ、腸管出血性大腸菌感染症、A型肝炎、マラリア、インフルエンザ(季節性)など ・新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症

POINT

・公費負担医療は個別の法律に根拠をもつ。代表例は生活保護法(医療扶助)と感染症法(一類・二類感染症等の入院、結核医療)である。 ・生活保護の医療扶助は原則全額公費の現物給付である。 ・感染症法では新感染症は全額公費、一類・二類感染症の入院や結核の適正医療は保険優先で自己負担分を公費で補う。結核の通院医療は自己負担5%である。 ・健康増進法、母体保護法、労働安全衛生法には医療費の公費負担の規定はない。 ・その他の公費医療として、精神保健福祉法(措置入院)、障害者総合支援法(自立支援医療)、難病法、児童福祉法(小児慢性特定疾病)、母子保健法(養育医療)なども押さえておく。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。