「怖い治療」はもう昔の話―修正型電気けいれん療法の適応と現在地
第107回医師国家試験 G問題 第31問
国試問題にチャレンジ
電気けいれん療法について正しいのはどれか。
- a.高齢者に行ってはならない。
- b.重症うつ病は適応疾患である。
- c.脳神経外科医の協力が必要である。
- d.最近は行われることがまれである。
- e.患者やその保護者の同意なしに実施できる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
電気けいれん療法は頭皮上の電極から通電して脳内に全般性発作を誘発する治療で、現在は麻酔科医の協力のもと静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いる修正型ECTが標準となり、安全性が大きく向上しています。代表的な適応は重症うつ病で、自殺の危険が切迫している、昏迷や拒食がある、精神病症状を伴う、薬物療法に抵抗性であるといった場合に、速やかな効果と高い寛解率が期待されます。高齢であることは禁忌ではなく、薬物の副作用が問題となる高齢者ではむしろ有用な選択肢となり、現在も多くの施設で実施されています。全身麻酔や記憶障害などのリスクを伴うため、十分な説明と文書による同意が必須です。かつての負のイメージにとらわれず、適応・体制・副作用・同意を正しく理解しておくことは、重症精神疾患の患者さんに適切な治療選択肢を示すうえで欠かせません。
解答・解説
正解はbです
電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)は、頭皮上に置いた電極から脳に短時間通電し、全般性のけいれん発作(脳波上の発作活動)を人工的に誘発することで精神症状の改善を図る治療法である。作用機序は完全には解明されていないが、神経伝達物質系や神経内分泌系の変化、神経可塑性の促進などが関与すると考えられている。 かつては麻酔をかけずに通電し、全身の強直間代けいれんを起こさせる方法(従来型・非修正型ECT)が行われていた。骨折や脱臼などの合併症や、患者の同意を十分に得ないまま実施された歴史があり、「怖い治療」という負のイメージが広まった。現在は、麻酔科医の管理下で静脈麻酔薬により意識を消失させ、筋弛緩薬で筋肉のけいれんを抑えたうえで通電する修正型電気けいれん療法(modified ECT:m-ECT)が標準となっている。刺激装置も、少ない電気量で発作を誘発できる短パルス矩形波装置が主流となり、安全性は大きく向上した。 本問では、ECTの適応、実施体制(どの診療科の協力が必要か)、現在の位置づけ、インフォームド・コンセントの要否を整理して判断する。ECTは重症のうつ病、特に自殺の危険が切迫している例、昏迷や拒食で全身状態が悪化している例、精神病症状を伴う例、薬物療法が無効な例で高い有効性を示す。そのため「重症うつ病は適応疾患である」が正しい。
選択肢考察
- ×a. 高齢者に行ってはならない。
年齢そのものはECTの禁忌ではない。高齢者は抗うつ薬の副作用(抗コリン作用による便秘・尿閉・せん妄、起立性低血圧による転倒、QT延長など)が出やすく、薬物療法が十分に行えないことが多い。そのような場合、ECTは効果の発現が速く比較的安全な選択肢となる。実際、高齢者のうつ病はECTの効果が得られやすいとされている。妊娠中も、胎児への薬物の影響を避けたい場合に選択されることがある。もちろん高齢者では心血管系疾患などの合併症を事前に評価する必要があるが、「行ってはならない」は誤りである。
- ○b. 重症うつ病は適応疾患である。
重症うつ病はECTの代表的な適応である。特に、(1)自殺の危険が差し迫っている、(2)うつ病性昏迷や拒食・拒薬により身体的に危険な状態にある、(3)妄想などの精神病症状を伴う、(4)複数の抗うつ薬を十分量・十分期間使っても改善しない(治療抵抗性)、(5)薬物療法の副作用で薬が使えない、といった状況で検討される。抗うつ薬は効果発現まで数週間かかることが多いのに対し、ECTは比較的速やかに効果が現れ、寛解率も高いことが、急を要する重症例で選ばれる理由である。したがって正しい。
- ×c. 脳神経外科医の協力が必要である。
ECTは開頭などの外科的処置を伴わず、頭皮上の電極から通電するだけの治療であるため、脳神経外科医の関与は不要である。現在の修正型ECTでは、静脈麻酔薬による全身麻酔、筋弛緩薬の投与、マスク換気などの呼吸管理、通電時の血圧・心拍変動への対応が必要になる。このため協力が必要なのは麻酔科医であり、誤りである。
- ×d. 最近は行われることがまれである。
修正型ECTの普及により安全性が高まり、治療抵抗性うつ病や緊急性の高い重症例に対する有効な治療として再評価されている。うつ病の診療ガイドラインでも選択肢の一つに位置づけられており、現在も多くの精神科医療機関で実施されている。「まれにしか行われない」とはいえず、誤りである。
- ×e. 患者やその保護者の同意なしに実施できる。
ECTは全身麻酔を伴い、記憶障害などの副作用もありうる侵襲的な治療である。実施にあたっては、目的、期待される効果、副作用、代替治療などを説明し、原則として患者本人から文書による同意を得る。重度の昏迷などで本人に同意能力がない場合でも、家族等から同意を得る必要がある。過去に同意なしで行われたことが大きな問題となった経緯もあり、同意なしに実施できるとする記述は誤りである。
修正型電気けいれん療法(m-ECT)の実際
・静脈麻酔薬(プロポフォール、チオペンタールなど)で入眠させ、スキサメトニウムなどの筋弛緩薬を投与したうえで、酸素化しながら頭部に通電する。 ・けいれん発作が起こったことは脳波モニタで確認する。 ・通常、週2〜3回、合計6〜12回程度を1クールとして行う。 ・寛解後も再発予防として間隔をあけて続ける維持ECTが行われることがある。
主な適応
・重症うつ病(自殺の危険が切迫、昏迷、拒食、精神病症状を伴う、薬物療法抵抗性) ・双極性障害の躁状態・うつ状態 ・統合失調症(緊張病症状、薬物療法抵抗性の興奮など) ・緊張病(カタトニア) ・悪性症候群
注意を要する状態(相対的禁忌・高リスク)
絶対的な禁忌は定められていないが、以下では危険性が高く慎重に判断する。 ・頭蓋内圧亢進(脳腫瘍などの占拠性病変) ・最近発症した心筋梗塞や脳血管障害 ・脳動脈瘤、大動脈瘤などの血管病変 ・褐色細胞腫 ・重度の呼吸器疾患など麻酔リスクが高い状態
主な副作用
・一過性の記憶障害(治療前後の出来事の健忘)、発作後のもうろう状態・せん妄 ・頭痛、筋肉痛、悪心 ・通電直後の迷走神経刺激による徐脈、続いて交感神経刺激による頻脈・血圧上昇などの循環変動
POINT
・電気けいれん療法の代表的な適応は重症うつ病(自殺の危険、昏迷、拒食、精神病症状、治療抵抗性)である。緊張病や悪性症候群にも有効である。 ・現在は麻酔科医の協力のもと、全身麻酔と筋弛緩薬を用いる修正型ECTが標準である。 ・高齢者や妊婦も年齢・妊娠だけでは禁忌とならず、薬物療法より安全な選択肢となる場合がある。 ・実施には十分な説明と文書による同意が必要である。 ・主な副作用は一過性の記憶障害、頭痛、循環変動である。
