StudyMed医師国家試験

「保健」と「保険」の一字違い―保健所の守備範囲を地域保健法から読み解く

第107回医師国家試験 G問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第30問

保健所の業務でないのはどれか。

  1. a.難病に関する相談
  2. b.障害児の保健相談
  3. c.医療保険に関する審査事務
  4. d.人口動態統計に関する事務
  5. e.建築物や住宅の衛生に関する事務

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、保健所が何をする機関なのかを問う問題だ。ポイントは、保健所の業務がどの法律で決められているか、そして一字違いの「保健」と「保険」をきちんと区別できるか。まずは保健所のイメージから聞いてみようか。
医学生医学生
公衆衛生の講義では、感染症が出たときに調査に入る機関というイメージが強かったです。新型コロナのときもニュースでよく名前を聞きました。
ドクタードクター
そうだね、感染症対策は保健所の代表的な仕事だ。ただ業務はもっと幅広くて、地域保健法第6条に14項目が並んでいる。統計、栄養・食品衛生、住宅や水道などの環境衛生、医事・薬事、母子・老人保健、歯科保健、精神保健、難病、感染症の予防、衛生上の試験・検査などだ。設置するのは都道府県、政令指定都市、中核市などの自治体だよ。
医学生医学生
けっこう多いですね。じゃあ選択肢を一つずつ当てはめていけばいいんでしょうか。難病の相談は、法律の項目にそのまま入っていそうです。
ドクタードクター
その通り。第6条には「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健」が明記されていて、保健所は難病患者や家族の療養相談、訪問指導などを行っている。患者数が少なく専門性が高い分野だから、広域をカバーする保健所が担うのに向いているんだ。
医学生医学生
障害児の保健相談はどうでしょう。乳幼児健診は市町村がやると習った気がして、少し引っかかります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。一般の乳幼児健診は確かに市町村、つまり市町村保健センターの仕事だ。でも児童福祉法では、身体に障害のある子どもや長期療養が必要な子どもについて、保健所が診査・相談・療育指導を行うと定めている。身近で数の多いサービスは市町村、専門的なものは保健所、という分担なんだ。
医学生医学生
なるほど、同じ子どもの健康でも中身で担当が分かれるんですね。人口動態統計は、出生届や死亡届を出すのは市役所なので、保健所は関係ないように思えます。
ドクタードクター
そこは間違えやすいポイントだ。届出は確かに市区町村に出すけれど、そこで作られた人口動態調査票は保健所に送られ、保健所が審査・集計して都道府県へ、最終的に厚生労働省が全国統計をまとめる。保健所はその経路の中継点なんだ。第6条にも「人口動態統計その他地域保健に係る統計」と書かれている。
医学生医学生
表に出ないけれど、ちゃんと統計の流れに組み込まれているんですね。建築物や住宅の衛生は、建築関係の役所の仕事のように感じますが。
ドクタードクター
建物の構造や安全は建築行政の担当だけど、衛生は別だ。第6条の環境衛生には住宅が含まれるし、建築物衛生法、いわゆるビル管理法では、一定規模以上の特定建築物の空気環境や給排水の管理について、届出の受理や立入検査を保健所が行う。住宅のカビやダニの相談も受けているよ。
医学生医学生
そうすると残るのは医療保険の審査事務ですね。名前に「ほけん」と入っているので、なんとなく保健所っぽく見えてしまいました。
ドクタードクター
まさにそれが出題者の狙いだね。保健所が担うのは住民の健康を守る「保健」で、医療保険という「保険」の制度運営やレセプト審査はしない。医療機関が出した診療報酬明細書の審査・支払は、被用者保険の分は社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険や後期高齢者医療の分は都道府県ごとの国民健康保険団体連合会、いわゆる国保連が行うんだ。
医学生医学生
病院実習で医事課の方が、月初めにレセプトを提出して査定が返ってくると話していました。あの提出先が支払基金や国保連なんですね。
ドクタードクター
そう、臨床に出るとレセプトの査定は身近な話題になるよ。最後に保健所と市町村保健センターの違いを整理しておこう。保健所は所長が原則として医師で、感染症、難病、精神保健、食品衛生・環境衛生の監視指導、病院への立入検査などの医療監視、統計、そして市町村への技術的支援を担う広域的・専門的な拠点だ。市町村保健センターは任意設置で、所長が医師である必要はなく、乳幼児健診や予防接種、健康相談など住民に身近な対人サービスを担う。
医学生医学生
専門的・広域的なら保健所、身近で頻度が高いなら保健センター、と覚えておけば選択肢の判断にも使えそうです。
ドクタードクター
その整理で十分戦えるよ。医師になると、結核や指定された感染症の届出先として保健所と必ず関わることになる。どんな業務をしている機関かを知っておくと、届出や患者支援で連携するときにも役立つはずだ。

まとめ

保健所は地域保健法に基づき都道府県や指定都市などが設置する公衆衛生の拠点で、その業務は同法第6条に、統計、食品衛生、環境衛生、医事・薬事、母子・老人保健、精神保健、難病、感染症予防などとして列挙されています。難病相談、障害児の保健相談、人口動態統計の審査・集計、建築物衛生法に基づく特定建築物の監視などはいずれも保健所の業務です。一方、医療保険のレセプト審査は社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会が担い、保健所の業務ではありません。「保健」と「保険」の区別に加え、広域的・専門的業務は保健所、身近な対人サービスは市町村保健センターという役割分担を押さえておくと、地域保健の仕組みを体系的に理解でき、将来の感染症届出や患者支援での連携にも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

保健所は、地域保健法に基づいて都道府県、政令指定都市、中核市、その他政令で定める市および東京都の特別区が設置する、地域の公衆衛生を担う行政機関である。その業務の範囲は地域保健法第6条に列挙されており、統計、栄養・食品衛生、環境衛生、医事・薬事、母子・老人保健、歯科保健、精神保健、難病、感染症予防、衛生上の試験・検査などが含まれる。さらに、児童福祉法、建築物衛生法、感染症法などの個別の法律によっても保健所の役割が定められている。 本問は「業務でないもの」を選ぶ問題である。ポイントは「保健」と「保険」の区別である。保健所が担うのは住民の健康を守るための公衆衛生(保健)活動であり、医療保険制度の運営や、医療機関が請求する診療報酬の審査といった保険事務は担当しない。診療報酬明細書(レセプト)の審査・支払は、被用者保険では社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険などでは各都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)が行う。したがって「医療保険に関する審査事務」が保健所の業務ではないものとなる。 また、保健所と市町村保健センターの役割分担も押さえておくとよい。乳幼児健診や住民向けの健康診査・保健指導など、身近で頻度の高い対人サービスは主に市町村(市町村保健センター)が担う。保健所は、より広域的・専門的・技術的な業務(難病、精神保健、感染症、食品衛生・環境衛生の監視指導、統計、市町村への技術的支援など)を受け持つ。

選択肢考察

  1. ×a.  難病に関する相談

    地域保健法第6条には「治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健に関する事項」が保健所の業務として挙げられている。保健所は難病患者・家族への療養相談、訪問指導、患者会支援、難病対策地域協議会の運営などを行っており、難病の相談は保健所の業務である。専門性が高く患者数が少ないため、広域的に対応する保健所が担うのに適した分野といえる。

  2. ×b.  障害児の保健相談

    地域保健法第6条の「母性及び乳幼児並びに老人の保健に関する事項」に関連し、また児童福祉法では、保健所が身体に障害のある児童や長期療養が必要な児童について診査・相談・療育の指導を行うことが定められている。一般の乳幼児健診は市町村が行うが、障害や慢性疾患をもつ子どもへの専門的な相談・療育指導は保健所の役割であり、保健所の業務に含まれる。

  3. ○c.  医療保険に関する審査事務

    医療保険の審査事務、すなわち医療機関から提出されたレセプト(診療報酬明細書)の内容を点検し支払額を決める業務は、審査支払機関が行う。被用者保険(健康保険組合、協会けんぽなど)の分は社会保険診療報酬支払基金、国民健康保険や後期高齢者医療の分は各都道府県の国民健康保険団体連合会が担当する。保健所は公衆衛生(保健)を担う機関であり、医療保険(保険)の運営や審査には関わらないため、これが保健所の業務でないものである。「保健」と「保険」の取り違えを狙った選択肢である。

  4. ×d.  人口動態統計に関する事務

    地域保健法第6条には「人口動態統計その他地域保健に係る統計に関する事項」が明記されている。出生・死亡・死産・婚姻・離婚の届出は市区町村に提出され、そこで作成された人口動態調査票が保健所に送られる。保健所は内容を審査・集計して都道府県に送付し、最終的に厚生労働省が全国の統計を作成する。このように保健所は人口動態統計の経路の中継点として事務を担っており、保健所の業務である。

  5. ×e.  建築物や住宅の衛生に関する事務

    地域保健法第6条には「住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生に関する事項」が含まれる。また、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法、いわゆるビル管理法)では、一定規模以上の特定建築物について、空気環境や給排水の管理状況の届出受理や立入検査を保健所が担う。住宅のカビ・ダニなどの衛生相談も行っており、保健所の業務である。

地域保健法第6条に定める保健所の業務(14項目)

1. 地域保健に関する思想の普及及び向上 2. 人口動態統計その他地域保健に係る統計 3. 栄養の改善及び食品衛生 4. 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生 5. 医事及び薬事 6. 保健師に関する事項 7. 公共医療事業の向上及び増進 8. 母性及び乳幼児並びに老人の保健 9. 歯科保健 10. 精神保健 11. 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健 12. エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防 13. 衛生上の試験及び検査 14. その他地域住民の健康の保持及び増進

保健所と市町村保健センターの違い

・保健所:都道府県・指定都市・中核市・政令市・特別区が設置。所長は原則として医師。広域的・専門的・技術的拠点として、感染症対策、難病、精神保健、食品衛生・環境衛生の監視指導、医療監視(病院への立入検査)、統計などを担い、市町村を技術的に支援する。 ・市町村保健センター:市町村が設置できる(任意設置)。所長が医師である必要はない。乳幼児健診、予防接種、健康相談・保健指導など住民に身近な対人保健サービスを担う。

医療保険の審査支払機関

・社会保険診療報酬支払基金:被用者保険分のレセプトを審査・支払 ・国民健康保険団体連合会(国保連):国民健康保険、後期高齢者医療制度分のレセプトを審査・支払

POINT

・保健所の業務は地域保健法第6条に規定されている(統計、食品衛生、環境衛生、医事・薬事、母子・老人保健、歯科保健、精神保健、難病、感染症予防、試験検査など)。 ・医療保険のレセプト審査は保健所ではなく、社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会が行う。 ・「保健」と「保険」の区別に注意する。 ・身近な対人サービスは市町村保健センター、広域的・専門的業務は保健所という役割分担がある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。