肋骨の「下」には血管が走る―胸部解剖の基本が手技と画像を支える
第107回医師国家試験 G問題 第33問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.ブラは肺底部に好発する。
- b.横隔膜は最大の呼吸筋である。
- c.迷走神経は肺門前方を走行する。
- d.肋間動静脈は肋骨下縁を走行する。
- e.縦隔は壁側胸膜と臓側胸膜との間である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
横隔膜は横隔神経(C3〜C5)支配の最大の吸気筋で、安静吸気の大部分を担います。肋間静脈・動脈・神経は肋骨下縁の肋骨溝を上からV・A・Nの順に走るため、胸腔穿刺やドレーン挿入は肋骨上縁に沿って行い、大動脈縮窄症のrib notchingもこの位置関係で説明できます。ブラ・ブレブは肺底部ではなく肺尖部から上葉に好発し、若年者の自然気胸の原因となります。肺門の前を横隔神経、後ろを迷走神経が下行し、壁側胸膜と臓側胸膜の間は縦隔ではなく胸膜腔であることも混同しやすいポイントです。こうした胸部の基本解剖は、穿刺手技の安全性や画像での病変局在の判断を支える土台となります。
解答・解説
正解はb, dです
胸部の基本解剖(肺・胸膜・縦隔・胸壁・呼吸筋・神経)に関する知識を横断的に問う一般問題である。 各選択肢は次のテーマに対応している。 ・肺の嚢胞性病変(ブラ)の好発部位 ・呼吸筋の中で主役となる筋 ・肺門と迷走神経の位置関係 ・胸壁を走る肋間動静脈・神経の位置 ・縦隔と胸膜腔の定義の区別 いずれも臨床手技や画像診断に直結する知識である。例えば、肋間動静脈が肋骨下縁を走ることは胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入の刺入部位(肋骨上縁)を決める根拠となる。また、ブラが肺尖部に多いことは、若年者の自然気胸の発生部位や胸腔鏡手術での切除部位と結びついている。「縦隔」と「胸膜腔」はどちらも胸膜が関わる空間なので混同しやすいが、縦隔は左右の胸膜腔の間の区画、胸膜腔は胸膜の二枚の葉の間のすき間であり、別物である。 以上を踏まえて各記述を検討すると、横隔膜が最大の呼吸筋であるという記述(b)と、肋間動静脈が肋骨下縁を走るという記述(d)が正しい。
選択肢考察
- ×a. ブラは肺底部に好発する。
誤り。ブラ(bulla、気腫性嚢胞)は肺胞壁が壊れて隣の肺胞と融合し、肺実質内にできた異常な含気腔である。好発部位は肺尖部から上葉であり、肺底部ではない。立位では肺尖部ほど胸腔内圧が陰圧になりやすく、肺胞が引き伸ばされて大きな機械的ストレスがかかることが一因と考えられている。ブラや、臓側胸膜内にできるブレブが破れると自然気胸を起こすため、やせ型で長身の若年男性の自然気胸では肺尖部の嚢胞が原因となることが多い。なお、α1-アンチトリプシン欠乏症による肺気腫は下葉優位(汎小葉性)に生じることが知られているが、これはブラ全般の好発部位とは別の話である。
- ○b. 横隔膜は最大の呼吸筋である。
正しい。横隔膜はドーム状の骨格筋で、胸腔と腹腔を隔てている。収縮するとドームが平らになって下降し、胸腔の上下径が広がって胸腔内圧が下がり、空気が肺へ流入する。安静時の吸気では換気量の大部分(おおむね2/3〜3/4程度とされる)を横隔膜が担っており、面積・仕事量ともに最大の吸気筋である。支配神経は頸神経C3〜C5に由来する横隔神経で、「C3、4、5が横隔膜を生かす」と覚えられる。このため高位頸髄損傷(C3以上)では自発呼吸が保てなくなる。外肋間筋も吸気を補助し、努力呼吸時には胸鎖乳突筋や斜角筋などの呼吸補助筋も動員される。安静時の呼気は主に肺と胸郭の弾性による受動的な過程である。
- ×c. 迷走神経は肺門前方を走行する。
誤り。迷走神経は肺門の後方を下行する。左右の迷走神経は、気管の外側から肺根(肺門部)の後ろを通り、食道の周りに食道神経叢をつくりながら下行し、横隔膜の食道裂孔を通って腹腔に入る。一方、肺門の前方を通るのは横隔神経である。横隔神経は心膜の外側面に沿って肺根の前を下行し、横隔膜に達する。「横隔神経は肺門の前、迷走神経は肺門の後ろ」と対にして覚えるとよい。なお、左迷走神経から分かれた左反回神経は大動脈弓の下をくぐって上行するため、大動脈弓部の病変や左肺門部の肺癌、縦隔リンパ節転移で障害されて嗄声を起こしやすい。
- ○d. 肋間動静脈は肋骨下縁を走行する。
正しい。肋骨の下縁の内側には肋骨溝という浅い溝があり、ここに肋間静脈・肋間動脈・肋間神経が上から順に並んで走行する(上からVein、Artery、NerveでVANと覚える)。このため胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入では、血管や神経の損傷を避ける目的で、肋骨の上縁(下位肋骨のすぐ上)に沿って針やチューブを進めるのが原則である。肋骨下縁に近い位置で穿刺すると肋間動脈を損傷して血胸を起こす危険がある。また、大動脈縮窄症で肋間動脈が側副血行路として拡張・蛇行すると、胸部X線写真で肋骨下縁の侵食像(rib notching)がみられるのも、この位置関係による。
- ×e. 縦隔は壁側胸膜と臓側胸膜との間である。
誤り。壁側胸膜と臓側胸膜の間のすき間は胸膜腔(胸腔)であり、健常時は少量の胸水(胸膜液)で満たされ、呼吸時に肺と胸壁が滑らかに動くための潤滑を担っている。気胸では空気が、胸水貯留では液体がこの胸膜腔にたまる。縦隔は、左右の肺(胸膜腔)に挟まれた胸郭中央部の区画であり、両側から縦隔胸膜(壁側胸膜の一部)に覆われている。上方は胸郭上口、下方は横隔膜、前方は胸骨、後方は胸椎で境される。縦隔には心臓・大血管・気管・食道・胸腺・リンパ節・神経など、肺以外の胸部臓器の多くが含まれる。
胸膜と胸膜腔
胸膜は肺表面を覆う臓側胸膜(肺胸膜)と、胸壁内面・横隔膜上面・縦隔側面を覆う壁側胸膜からなり、両者は肺門部で折り返して連続する。壁側胸膜は覆う部位により肋骨胸膜・横隔胸膜・縦隔胸膜・胸膜頂(頸胸膜)に分けられる。両葉の間が胸膜腔で、ここは常に陰圧に保たれ、肺が膨らんだ状態を維持している。壁側胸膜には体性感覚神経が分布するため胸膜炎では鋭い痛みを生じるが、臓側胸膜には痛覚がほとんどない。
縦隔の区分
縦隔は解剖学的には胸骨角と第4・5胸椎間を結ぶ面で上縦隔と下縦隔に分け、下縦隔をさらに心膜を基準に前・中・後縦隔に分ける。臨床(縦隔腫瘍の画像診断)では、日本の縦隔腫瘍取扱い規約による区分(縦隔上部・前縦隔・中縦隔・後縦隔)や、CT上の構造を基準とした国際的な3区分(血管前区域・臓器区域・椎体傍区域)が用いられる。部位ごとの好発腫瘍として、前縦隔では胸腺腫・胚細胞腫瘍・悪性リンパ腫、中縦隔では気管支原性嚢胞・心膜嚢胞・リンパ節病変、後縦隔では神経原性腫瘍が代表的である。
ブラ・ブレブ・ニューマトセル
・ブラ:肺胞壁の破壊と融合によって肺実質内に生じた含気腔(気腫性嚢胞)。臓側胸膜の弾性板より内側にある。 ・ブレブ:肺胞から漏れた空気が臓側胸膜の層内に入り込んでできた胸膜下の小嚢胞。 ・両者とも肺尖部〜上葉に好発し、破裂すると自然気胸の原因となる。 ・ニューマトセル(肺瘤):肺胞壁の破壊を伴わない一過性の含気腔で、乳幼児の黄色ブドウ球菌肺炎などに続発し、多くは自然に消える。
肺門の構造
肺根は主気管支・肺動脈・肺静脈・気管支動静脈・リンパ管・神経叢からなる。前方を横隔神経が、後方を迷走神経が下行する。左肺門では肺動脈が主気管支の上方に、右肺門では主気管支(上葉枝)が肺動脈の上方に位置する。肺静脈は両側とも最も前下方にある。
呼吸筋のまとめ
・安静吸気:横隔膜(主)、外肋間筋 ・努力吸気:上記に加え胸鎖乳突筋、斜角筋、大胸筋・小胸筋など ・安静呼気:原則として受動的(肺・胸郭の弾性収縮) ・努力呼気:内肋間筋、腹直筋・腹斜筋などの腹筋群
POINT
・ブラ・ブレブは肺尖部〜上葉に好発し、自然気胸の原因となる。 ・横隔膜は最大の吸気筋で、横隔神経(C3〜C5)支配。 ・肺門の前を横隔神経、後ろを迷走神経が下行する。 ・肋間動静脈・神経は肋骨下縁の肋骨溝を上からV・A・Nの順に走る。胸腔穿刺は肋骨上縁から行う。 ・壁側胸膜と臓側胸膜の間は胸膜腔であり、縦隔は左右の縦隔胸膜に挟まれた領域である。
