目の前で倒れた人に、最初の一手は「押す」―C→A→Bで変わった一次救命処置
第107回医師国家試験 F問題 第20問
国試問題にチャレンジ
中年の男性。駅の構内で研修医の目の前で突然倒れた。研修医は周囲の安全を確認後に男性に呼びかけたが,反応がないため大声で駅員を呼び,救急車を要請し,自動体外式除細動器〈AED〉をすぐに持ってくるように指示した。呼吸を確認したが自発呼吸は認められない。 日本蘇生協議会ガイドライン2010に基づいて,この研修医がまず行うべきなのはどれか。
- a.胸骨を叩打する。
- b.胸骨を圧迫する。
- c.回復体位にする。
- d.両下肢を挙上する。
- e.対光反射を観察する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
反応がなく普段どおりの呼吸がない傷病者は心停止とみなし、死戦期呼吸も「呼吸なし」として扱って、ただちに胸骨圧迫を開始します。日本蘇生協議会ガイドライン2010では、成人の心停止に対する手順がA→B→CからC→A→Bへ改められ、気道確保や人工呼吸の準備による胸骨圧迫の遅れを防ぐことが重視されました。胸骨圧迫は胸骨の下半分を約5cmの深さ、100〜120回/分のテンポで、胸壁を元に戻しながら中断を最小限にして行い、AED到着後は速やかに解析と電気ショックにつなげます。回復体位は呼吸がある場合の対応、前胸部叩打や下肢挙上、対光反射の観察は心停止の初期対応として優先されるものではありません。BLSの手順を確実に身につけておくことは、診療科を問わずすべての医師に求められる基本的な能力です。
解答・解説
正解はbです
状況の整理
・中年男性が目の前で突然倒れた(目撃された卒倒)。 ・周囲の安全を確認 → 呼びかけに反応なし → 大声で応援を呼び、119番通報とAED(自動体外式除細動器)の手配を指示 → 呼吸を確認したところ自発呼吸なし。 ここまでの流れは一次救命処置(BLS:basic life support)の手順どおりに進んでいる。
判断のプロセス
BLSでは「反応がなく、普段どおりの呼吸がない」傷病者は心停止とみなす。成人の突然の卒倒による心停止の多くは、心室細動(VF)や無脈性心室頻拍(pulseless VT)といった致死的不整脈が原因である。心停止になると脳や心臓への血流が途絶え、処置が1分遅れるごとに救命率は大きく下がっていく。したがって心停止と判断したら、ただちに胸骨圧迫を開始し、AEDが届いたらすぐに装着して解析・電気ショックにつなげる。
設問の考え方
日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2010では、それまでの「A(気道確保)→B(人工呼吸)→C(胸骨圧迫)」という順序が改められ、成人の心停止では胸骨圧迫から開始する「C→A→B」の順序が採用された。気道確保や人工呼吸の準備に手間取って胸骨圧迫の開始が遅れるのを避けるためである。本例ではすでに反応の確認、応援要請・通報・AED手配、呼吸の確認を終えているので、次に行うべきは胸骨圧迫である。なお、医療従事者は呼吸の確認と同時に頸動脈の脈拍を確認してもよいが、脈の有無の判断に時間をかけて(10秒以上)胸骨圧迫の開始を遅らせてはならない。
選択肢考察
- ×a. 胸骨を叩打する。
前胸部叩打(胸骨を拳で強く叩く処置)は、心電図モニターで監視中に目撃されたVF・無脈性VTで、除細動器がすぐに使えない場合に限って考慮されうる処置であり、効果は乏しいとされる。心電図で調律を確認できない市中の現場で行う処置ではなく、胸骨圧迫の開始を遅らせる理由にもならない。現行のガイドラインでは前胸部叩打はルーチンには推奨されていない。
- ○b. 胸骨を圧迫する。
反応がなく自発呼吸もないため心停止と判断し、ただちに胸骨圧迫を開始する。JRCガイドライン2010では成人の心停止に対し胸骨圧迫から始めること(C→A→B)が推奨された。圧迫部位は胸骨の下半分、深さは少なくとも5cm(現行ガイドラインでは約5cmで6cmを超えない)、テンポは少なくとも100回/分(現行では100〜120回/分)とし、毎回胸壁を元の位置まで戻し、中断を最小限にする。人工呼吸ができる場合は胸骨圧迫30回に対し人工呼吸2回を組み合わせ、AEDが到着したら速やかに使用する。
- ×c. 回復体位にする。
回復体位(側臥位)は、反応はないが普段どおりの呼吸がある傷病者に対し、舌根沈下や吐物の誤嚥による気道閉塞を防ぐ目的でとらせる体位である。呼吸がない心停止の傷病者に行う処置ではなく、胸骨圧迫は硬く平らな面の上で仰臥位で行う必要がある。
- ×d. 両下肢を挙上する。
下肢挙上は、下肢の血液を心臓側へ戻して静脈還流を一時的に増やす目的で、出血などによる循環血液量減少や血管迷走神経反射による失神などの際に行われることがある処置である。心停止ではこれだけで循環は得られず、胸骨圧迫に代わるものではない。まず行うべき処置ではない。
- ×e. 対光反射を観察する。
対光反射は脳幹機能の評価などに用いる神経学的所見であるが、BLSで心停止を判断する要素には含まれない。瞳孔の所見を確認するために胸骨圧迫の開始を遅らせてはならず、神経学的評価は自己心拍が再開して状態が落ち着いてから行う。
成人の一次救命処置(BLS)の流れ
1.周囲の安全を確認する。 2.肩を叩きながら呼びかけ、反応を確認する。 3.反応がなければ大声で応援を呼び、119番通報とAEDの手配を依頼する。 4.呼吸を確認する(10秒以内)。普段どおりの呼吸がない、またはわからない場合は心停止と判断する。しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸(死戦期呼吸)も「呼吸なし」として扱う。 5.ただちに胸骨圧迫を開始する。人工呼吸の技術と意思があれば、胸骨圧迫30回:人工呼吸2回で行う。 6.AEDが到着したら電源を入れ、電極パッドを装着し、心電図解析を行う。ショックが必要なら実施し、実施後はただちに胸骨圧迫から再開する。 7.救急隊に引き継ぐまで、または傷病者が目的のある仕草や普段どおりの呼吸を取り戻すまで続ける。
質の高い胸骨圧迫
・部位:胸骨の下半分 ・深さ:成人で約5cm(2010年版では「少なくとも5cm」、2015年版以降は「約5cmで6cmを超えない」) ・テンポ:2010年版では「少なくとも100回/分」、2015年版以降は「100〜120回/分」 ・毎回の圧迫後に胸壁を完全に元に戻す。 ・中断を最小限にする(人工呼吸やAED解析による中断も短く)。 ・疲労による質の低下を防ぐため、1〜2分ごとに交代する。
ガイドラインの変遷
・2010年版で、成人の心停止に対する手順がA→B→CからC→A→Bへ変更された。 ・「見て・聞いて・感じて」の呼吸確認は簡略化され、普段どおりの呼吸があるかどうかをみることになった。 ・その後の改訂(2015年、2020年)でもC→A→Bの原則は維持されている。
POINT
・反応がなく、普段どおりの呼吸がなければ心停止と判断し、ただちに胸骨圧迫を開始する。 ・JRC蘇生ガイドライン2010以降、成人の心停止ではC(胸骨圧迫)→A(気道確保)→B(人工呼吸)の順。 ・死戦期呼吸は「呼吸なし」とみなす。脈拍確認に時間をかけて胸骨圧迫を遅らせない。 ・回復体位は「反応はないが呼吸はある」場合の対応である。
